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見ざる・言わざる・訊かざる
の第3次岸内閣の成立だ


田中康夫

掲載日2006年9月28日



「私は特定の団体、特定の既得権を持った人達、或いは又、特定の考え方を持つ人達の為の政治を行う心算は有りません。

 毎日、額に汗して働き、家族を愛し、地域を良くしたいと願っている、そして、日本の未来を信じたい、そう考えている普通の人達、全ての国民の皆様の為の政治をしっかりと行って参ります」。

忠実なる家臣としての奮闘振りが功を奏し、前任の暴君から“禅譲”を受けた第90代内閣総理大臣として最初の会見(926日)に於ける安倍晋三氏の発言です。

おいおい、本当かよ、と驚愕しました。何故って、「信じられる日本へ。」を掲げる田中康夫が喋ったのかと思わず見紛う科白だったからです。

「私達が学び、働き、暮らす社会は、一部の予め守られた既得権益者の為に存在するのではありません。

 私は、政治こそは生活そのものであり、その生活を共にする人々を結び付けるのは言葉であり、即ち私は、政治こそは言葉そのものであると。その思いを抱き、この
6年間を過ごして参りました」。(831日)

「『再チャレンジ』とは一体、国民の中の誰を想定しているのでしょう? 堀江貴文、村上世彰といったコンピュータの画面上で巨額の不労所得を追い求める中で自業自得とも言える自爆に陥った面々の『再チャレンジ』を意味するなら、それこそは『勝ち組』だけに優しい『格差社会』の更なる拡大に他ならず、額に汗して働き、暮らす人々は相も変わらず蚊帳の外であります」。(9月20日)

 手前味噌ながら、信州・長野県知事を退任する際に参集下さった3000人近い人々の前で語った科白が前者。後者は、自民党総裁選の日に新党日本代表として会見で語った科白です。

「改革無くして成長無し」と前首相が“高言”した「構造改革」は、僅か5年間で10万人もの国民が自ら命を絶つ異常な「格差社会」を生み出しました。同じく5年間で250兆円も「財政赤字」は増大し、総計1000兆円と世界一の借金財政国家に陥らせたのが、小泉純一郎氏だったのです。

「活力とチャンスと優しさに満ち溢れた国にして参ります」と会見の冒頭で大見得を切った安倍氏は、「小泉内閣の構造改革を引継ぎ、寧ろ加速させ補強したい」とも明言しました。

 「額に汗して働き、家族を愛し、地域を良くしたいと願っている普通の人達」にとっては、「格差社会」からの脱却は望むべくもないのです。

 広報に長けた人物と称揚される参議院議員の世耕弘成氏が首相補佐官として差配した最初の会見の最初の質問は、「日本をどういう国にしたいのか、その為に何をして、国民の生活がどうなるのか、美しい国を造るという具体的なイメージが国民の間にも湧きにくい」であり、続いての質問は、「美しい国づくり内閣と仰いましたが、自民党内に於いて今回の人事は論功行賞という声も上がっています」でした。

 言論の自由を奪いかねぬ「共謀罪」の成立を目指す安倍氏を支える陣容は、世代交代を装った先祖返りに過ぎません。党三役もスネに傷持つ強面“酒豪”軍団そのものではありませんか。

 珍しく初回から辛辣な質問が飛んだ会見は、「時間も超過しました」と事務方が制止し、僅か5人の質問、僅か25分で終了しました。「見ざる・言わざる・訊かざる」を国民に強いる、第三次岸信介内閣の成立です。