GT調査報道: グアンタナモ湾から地方刑務所まで、 米国の刑務所制度には 人権侵害が蔓延 GT investigates: From Guantanamo Bay to local prisons, human rights violations are pervasive in US jail system By GT staff reporters May 13, 2022 翻訳:池田こみち(E-wave Tokyo共同代表) 独立系メディア E-wave Tokyo 2022年4月26日 |
<写真キャプション> グアンタナモ湾米海軍基地の収容施設 Photo: VCG 本文 悪名高いグアンタナモ湾刑務所は、世界の「闇の監獄」の代名詞となっているが、それは米国の刑務所制度が法律や人権を踏みにじっていることの氷山の一角を反映しているにすぎない。陰の舞台裏には暴力、虐待、性的暴行、汚職、その他多くの非道な行為があるのだ。 アメリカの刑事司法制度は現在、1,833の州刑務所、110の連邦刑務所、1,772の少年矯正施設、3,134の地方刑務所、218の移民収容施設、80のインディアン居住地(インディアン居留地の範囲内のすべての土地)の刑務所、さらに軍の刑務所、市民収容所、州の精神病院、米国領の刑務所に約230万人を収容していると、Prison Policy Initiative※ウェブサイトの公式統計を引用して2020年に報告されている。 ※注)Prison Policy Initiative(刑務所政策イニシアチブ) マサチューセッツ州イーストハンプトンに本拠を置く、刑事 司法志向のアメリカの公共政策シンクタンク。IRS(アメリカ 合衆国内国歳入庁)によって501(c)(3) に指定された非営利 団体で設立は2001年。(英文Wikipedia) それに伴い、米国の刑務所は巨大な利益を生むビジネスとなり、その背後にいる経営者は政界と密接な関係を維持している。 地元メディアである程度報道されるかもしれないが、中核的な利害関係に触れると、当局は反対意見を黙らせるために介入する、と南西政治科学法大学の人権法教授である朱英(Zhu Ying)は環球時報に語った。 「米国の同盟国もまた、彼らの共通の利益のためにその行動を引き受けているだろう。」と彼は言った。 ■数々の犯罪 「彼らの虐待に対してハンガーストライキをしていた時、彼らは椅子に縛り付け、時には1日1回、時には1日2回、潤滑剤の入っていない硬いチューブを鼻に無理やり押し込んだ。」、とイエメン出身のマンソール・アダイフィ氏は、2001年から2016年まで14年間グアンタナモ湾収容所に収容されていた拘禁者がこの「この世の地獄」で受けた拷問・虐待を、『環球時報紙』のインタビューに応じて振り返った。 「グアンタナモ刑務所は完全に法の外にある。法的根拠は全くなく、そもそも存在してはならない。」と彼は述べた。 2002年以来、グアンタナモ湾の米軍刑務所に約780人の被拘束者が収容されてきた。現在、38人が残っている、と3月にニューヨーク・タイムズ紙が報じた。アフガニスタンでは、1700人がパルワン収容施設に収容されていた。CIAはポーランドとルーマニアでも闇サイトを運営している。 グアンタナモ湾収容所に最初の収容者が到着してから20周年となる2022年1月10日、国連の専門家は同施設を「比類なき悪名高き場所」と非難した。 人権理事会が任命した独立専門家は、「拷問や虐待を伴う裁判なしの恣意的な拘束を20年間実践してきたことは、いかなる政府、特に人権保護を表明している政府としては、断じて容認できない」と述べている。 <写真キャプション> 2006年12月5日、グアンタナモ湾の収容施設で、毎日の外出時間に柵の中に一人 で座っている被収容者。写真/VCG しかし、投獄が一般的になっているこの国では、刑務所で行われている悪事が アメリカの政治家やメディアによって無視されることが多い。 このような目に見えない場所では、囚人同士だけでなく、拘束された者に対し て刑務官が殴る蹴る、あるいは電気バトンのような武器を使用するなどの暴力が 日常的に行われているのだ。この暴力によって、多くの受刑者が傷つき、あるい は死亡している。 米司法統計局が2018年に発表したデータによると、米国の州刑務所で120人が 殺人の被害に遭い、311人が自殺した。 ロイターの報道では、2019年末には、これらの監獄での死亡率が3年間で8%、 10年間で35%跳ね上がり、一方で「問題の監獄は、秘密の連邦報告制度と地方、 州、連邦機関のお粗末な監督のために、覆い隠されている」と示唆されている。 さらに、アメリカでは毎年20万人もの人々が刑務所や拘置所で性的虐待を受け ていることが、2020年にフォックスの報告書で指摘されている。 米国における囚人の拷問と虐待は、囚人の扱いに関する基本的なガイドライン を定めた国際条約、条約、宣言とは対照的であると、米国フレンズ奉仕委員会 (AFSC)の報告書は述べている。 国際条約、条約、宣言は、囚人の扱いに関する基本的なガイドラインを提供し ている。これらのガイドラインは、米国の刑事司法制度によってしばしば無視さ れている。一方で、米国は囚人の人権を侵害する他国を批判し続けている、と報 告書は指摘している。 <写真キャプション>2016年8月16日、カリフォルニア州サンクェンティンのサンクェンティン州立刑務所で、列をなして歩く受刑者たち。写真/VCG COVID-19のパンデミックの際、アメリカでは60万人近くの囚人が感染し、3000 人以上が死亡した、とUCLAのデータで発表されている。ジョージタウン大学法学 部教授のション・ホップウッド(Shon Hopwood)氏は、「彼らは、死ななくても よかったはずの人々を刑務所で死なせてしまった」と、ガーディアン紙に語って いる。 移民の人権に関する国連特別報告者であるフェリペ・ゴンサレス・モラレス氏 は2020年4月、米ワシントン州タコマにある民営のノースウェスト処理センター で、1500人の被収容者が不衛生で適切な医療を受けていない、という報告を国連 の人権専門家が繰り返し受けてきたと述べた。 「我々は、被拘束者の保護措置が欠如していること、推奨される物理的距離を 保つことが不可能であること、新しく到着した者が医療観察のために隔離されて いない、という話を聞いている。」と述べた。 ■金のための子供たち 1984年、テネシー州のハミルトン郡刑場は、公営からCorrections Corporation of Americaによる民営に移行し、民間刑務所の台頭の歴史的なスター ト地点となった。 ACLU(アメリカ自由人権協会)によると、民間刑務所の受刑者数は1990年から 2009年の間に約1,600%増加した。 司法統計局によると、2019年、民間運営施設に収容されている囚人は約11万6 千人で、州管理の囚人の約7%、連邦管理の囚人の約16%に相当する。 現在、アメリカの民間刑務所業界では、コアシビック(CoreCivic:旧コレク ションズ・コーポレーション・オブ・アメリカ)とゲオ・グループが2大巨頭と なっている。 刑務所経営が儲かるビジネスになると、民間刑務所会社にとって受刑者はもは や命ではなく、商品であり、"ドル箱商品(キャッシュカウ) "である。米国の 民間刑務所会社は、政府との契約のもと、1日に収容する受刑者の数に応じて一 定の金額を受け取っているのだ。 米国のNGO RepresentUs(米国の政治腐敗を終わらせることに焦点を当てた無 党派の非営利団体)によると、私立刑務所会社は州政府と連邦政府の両方に大量 のロビイストを雇い、選挙寄付を通じて議員に影響を与え、私立刑務所の収容人 数を常に維持するための法律を制定しているという。長年にわたり、私立刑務所 会社はアメリカの「腐敗した政治システム」を悪用して、より高い投獄率と利潤 を実現してきた。 RepresentUsによると、1989年以来、大手民間刑務所会社2社だけで、州や地方 の役人に対するロビー活動や選挙寄付のために3500万ドルを費やしてきたという。 また、各社は政治家と密接な関係を保ってきた。例えば、GEOグループは2013 年から2014年にかけて、マルコ・ルビオの大統領選挙キャンペーンに「トップク ラスの献金者」として参加した。 2009年には、「Kids for cash」事件※として知られるペンシルベニア州ルツェ ルン郡の「政商癒着」スキャンダルがメディアで公開された。ルツェルン郡の2 人の判事は、2つの民間少年刑務所建設業者から200万ドル以上の賄賂を受け取っ ていた。その見返りとして、2003年から2008年にかけて、約3000人のティーンエ イジャーを民間刑務所に送り込み、人数を補強したのだ。ニューヨーク・ポスト 紙によると、多くのティーンエイジャーは軽い法律違反で刑務所に送られたとい う。 ※注)Kids for cash事件 「キッズ・フォー・キャッシュ」スキャンダルは、ペンシルバ ニア州ウィルクスバレーのルツェルン郡裁判所の2人の 裁判官へのキックバックが中心となっている。2008年、 マイケル・コナハンとマーク・チアバレラは、営利目的の収 容所であるPAチャイルドケアの稼働率を上げるため、少 年に厳しい判決を下す見返りとして金銭を受け取った罪 で有罪判決を受けた。(英文Wikipedia) 囚人が多いということは、1日1ドル以下の安い労働力が多いということである。 民間刑務所では、受刑者は病気や障害でない限り働くことが義務づけられている。 民間刑務所の人件費は微々たるものなので、多くの企業や施設が積極的に協力し ようとする。 「刑事司法制度は機能していないと言われることがある。(しかし)私は全く 逆の考えを持っている。それは、経済的、政治的な政策の問題として、奴隷制度 がそうであったように、(むしろ)完璧に機能していると考えるようになった。」 と、大学寮で働く反人種差別活動家のボニー・カーネスさんは言う。 「国が経済的に無価値とし、就職や進学の見込みもない15歳のニューアークの 一人の少年が、刑事司法制度の中に閉じ込められると、突然年間2万ドルから3万 ドルの収入を得ることができるのはなぜでしょうか?」と彼女は疑問を呈した。 中国外交学院国際関係研究所のLi Haidong(李海東)教授は環球時報に、「米 国では、民間刑務所はもはや犯罪者を罰したり更生させたりする場所ではなく、 収容者の経済価値を最大化するための場所であり、『国家統治のブラックホール』 になっている。」、と指摘した。 <パネル図解キャプション> 闇の刑務所:米国の民間刑務所内部の「奴隷」取引。 ■光の下の闇 自らを「人権の旗手」と称することの多いアメリカにとって、刑務所は、人種 や性別などに基づくアメリカの暴力と、いわゆる「自由」や「人権」の偽善を集 約した「光の下の闇」の場である。 アメリカの刑務所は、しばしば貧困層、マイノリティ、未成年者、移民など、 社会から疎外された人たちを「狩る」ことが多い。貧しい人々の場合、保釈金を 払えないために拘束される可能性が高く、結局は強要されて有罪を認めざるを得 ず、罰金や保護観察に付された厳しい条件を守れないことも多い。 ACLUはそのウェブサイトで、「処罰の文化と人種や階級に基づく反感が相まっ て、米国は世界のどの国よりも投獄に依存するようになってしまった」と結論付 けている。 アメリカの社会運営は、経済振興と利益支配に依存しているが、同じ原理で刑 務所を運営すると、多くの悲劇を引き起こすだけだ、と李氏は言う。「これは米 国の制度的な人権問題の存在を反映しているだけでなく、社会倫理と道徳の退化 を反映している。」と。 |