エントランスへはここをクリック       池田こみち冒頭解説

この不平等な世界、億万長者による
宇宙開発競争は必要ない。ベゾスとブランソン
を月への片道切符で送りたい

 RT Op-ed 2021年7月5日
Our unequal world does not need a billionaire space race. I’d send
Bezos & Branson on a one-way ticket to the Moon

RT Op-ed 5 July 2021

翻訳:池田こみち (環境総合研究所顧問)
 独立系メディア E-wave Tokyo 2021年7月8日
 

<写真キャプション:ベソス・宇宙・ブランソン>
(左):ジェフ・ベソス 写真© REUTERS/Clodagh Kilcoyne;
(中):写真 © Pixabay/Arek Socha
(右):リチャード・ブランソン 写真© REUTERS/Simon Dawson

<著者紹介>

リサ・マッケンジー(Dr Lisa McKenzie)
リサ・マッケンジー博士は、労働者階級の学者である。彼女はノッティンガムシャー州の炭鉱町で育ち、1984年の炭鉱労働者のストライキを家族と一緒に経験したことで政治的関心を持つようになった。31歳でノッティンガム大学に入学し、社会学の学士号を取得した。マッケンジー博士は、ダラム大学で社会学を講義しており、著書に「Getting By: Estates, Class and Culture in Austerity Britain」(切り抜ける:緊縮財政下の英国における財産、階級、文化)がある。政治活動家、作家、思想家として活躍している。ツイッターは @redrumlisa。


本文

 宇宙旅行は大いに結構。しかし、新型コロナウィルスによって荒廃した世界で、何十億もの人々が食料や医療のために苦しんでいる中で、企業家の虚栄心を満たすプロジェクトに莫大な金額が費やされていることは驚くべきことだ。

 こんなことを指摘しなければならないのは、私にとってもショックなことである。しかし、世界がコロナによって壊滅的な打撃を受け、豊かな国でも貧しい国でも数え切れないほどの数十億の人々が貧困にあえぎ、世界の人口のほとんどが良質で安全な無料の医療を受けられない状況にあるとき、なぜ二人の猥褻な金持ちが宇宙開発競争をやっているのか?

 一方では、Amazonの創業者であり、世界で最も裕福な個人と言われているジェフ・ベゾスが、環境に優しくない、無駄の多い、雇用率の低い会社の責任者として活躍している。一方、リチャード・ブランソン卿は、ヴァージン社のすべてを統括する企業家であり、NHSを訴えて英国の公的医療制度から数百万ドルを巻き上げたVirgin Care社※もその一つである(パンデミックの最前線で16カ月間苦闘したNHSに、女王が創立73周年のジョージ・クロス勲章を授与したことは、特に注目に値する)。

※Virgin Care社 設立2010年3月
公的資金による地域医療および社会福祉サービスの民間プロバイダーであり、2010年からイギリスのNHS(イギリス国民保険サービスおよび自治体から委託されている。

 先週、ブランソンはヴァージン・ギャラクティック社という新しいおもちゃを手に入れ、ニューメキシコ州にある同社の宇宙港から離陸して、宇宙への有人テスト飛行を行う許可を得た。この飛行では、「宇宙飛行士個人体験」の一環として、宇宙空間のキャビンで「座席の快適さ、無重力体験、地球の眺めを評価する」ことを目的としている。ブランソン氏自身も搭乗する。

 確かに、朝の通勤時に家畜のような電車に押し込まれた経験のある私としては、さすがに目を丸くする。ブランソン、ベゾス、イーロン・マスクなど、マスコミが「エキセントリックな億万長者の起業家」と遠慮無く表現する企業が、宇宙旅行を「人々」に届けようとしているからだ。あるいは、少なくとも「彼らの仲間」に。

 ブランソンは、自分の新しい宇宙事業が7月11日に離陸する予定であることを発表し、ライバルのベゾスよりも9日早く軌道外宇宙に進出することができると大喜びしている。彼の会社では現在、1枚25万ドル(17万5,000ポンド=約2,762万円)の将来の旅行の予約が約600件入っている。

 1890年、ウィリアム・モリスが未来を舞台にしたユートピア本「News FromNowhere(ユートピア便り)」を出版したとき、彼は社会主義、職人の技術を尊重する社会を描き、環境を破壊するテクノロジーに対して、時間をもとに戻そうと提案した。だが今我々が生きている2021年を見ると、現在の「サイエンスフィクション」はまったく逆の様相となっている。億万長者は世界や環境にダメージを与えてお金を稼ぎ、人々はできるからという理由でスターウォーズを遊び、誰もその責任を問わないように見える。なぜ誰も、私有財産や私財の多さに疑問を持たないのだろうか。これほどまでに不平等な世界において、それが大多数の人々にとってどれほど破壊的で有害であるかに関わらず、これに異議を唱えることができないのは間違っているのではないだろうか?

 私は実利主義者(ペリシテ人)ではない。宇宙で何が起こっているのかを知りたいという、研究者にとっての正当な理由があることを理解している。知ることができないものを知りたい、想像することしかできないと言われているものを見てみたいと思うのは、人間として当然だと思う。私はノッティンガムシャー州の炭鉱地域で育った労働者階級の子供で、16歳になるまでロンドンを見たことも、列車に乗ったこともなかった。しかし、その両方を実現することをずっと夢見ていた。

 また、宇宙旅行が地球上の私たちに役立つことも知っている。例えば、ノッティンガム大学とエクセター大学の科学者たちが参加しているプロジェクトでは、筋肉の衰えについての理解を深め、それを防ぐ方法を探るために、何千匹もの小さなミミズが宇宙に打ち上げられた。宇宙飛行は極端な環境であり、さまざまな体のシステムにおける老化、運動不足、特定の臨床症状の理解を深めるための優れたモデルと考えられている。宇宙飛行で起こる筋肉の変化を研究することで、加齢に伴う筋肉の減少や、宇宙飛行士が6ヶ月間の宇宙滞在で最大40%の筋肉を失うなど、体に起こる多くのマイナスの変化に対して、より効果的な治療法や新しい治療法が生まれる可能性がある。

 とはいえ、このような極端な環境に入るというコストのかかる特権が、世界で最も裕福な人々が束の間の「この世のものとは思えない」体験をするために使われる、深く贅沢な富の誇示のような段階に達してしまったのだ。

 誤解を恐れずに言えば、これはほんの始まりに過ぎない。このような企業家は、かつての植民地主義者にも等しく、常に新しい土地や新しい市場を求めている。しかし違うのは、これがアメリカ、イギリス、ヨーロッパ、アフリカなど、世界の特定の地域の問題ではなく、世界規模の問題であるということだ。

 というのも、正直なところ、人類の歴史を振り返ってみると、その証拠は歴然としているからだ。成功への渇望を持った起業家が新しい市場を開拓しようとするとき、その目標が倫理観などによって妨げられることはほとんどない。だからこそ、世界中の政府や専門機関は、この億万長者の宇宙開発競争が本当に誰のためのものなのかを問うために、何が起こっているのかを注意深く見守るべきである。単に「できるからといって、そうしなければならないのか」という疑問が、権力の回廊で問われていることを願っている。

たとえ政府やリーダーと呼ばれる人たちが見て見ぬふりをしていたとしても、私たち凡人がそうすべきだということにはならない。貧しく不平等なこの世界では、お金の使い方がスキャンダラスであることは、詩人、ミュージシャン、社会学者であるギル・スコット・ヘロンが1970年に発表した詩「Whitey On The Moon」によく表れている。「ネズミが妹のネルを噛んで、ホワイティは月に行ってしまった。医者の診察代が払えなくても、ホワイティは月にいる」。50年以上経った今でも、この歌詞に込められた思いは変わらず受け継がれている。