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米国とNATOは、戦争を始めることで
制裁を受けたことはない。なぜなのか?

ロシアのウクライナ攻撃への反応は、
どう考えても
欧米のダブルスタンダードを露呈

The US and NATO have never been sanctioned for starting wars. Why?
The reaction to Russia’s attack on Ukraine, no matter what you think
about it, has exposed the West’s double standards

Op-Ed RT  2 March 2022

翻訳:池田こみち(環境総合研究所顧問)
独立系メディア E-wave Tokyo 2022年3月3日
 

写真キャプション:NATOの旗と兵士
© Getty Images / Kay Nietfeld

<筆者>Robert Bridge
ロバート・ブリッジはアメリカの作家、ジャーナリスト。著書に「Midnight in
the American Empire, How Corporations and Their Political Servants are
Destroying the American Dream」(『アメリカ帝国の夜明け』)がある。


本文

 ウクライナへの侵攻をめぐり、欧米諸国はロシアに対して極端な姿勢をとっている。この反応は、米国が主導した海外での戦争が、それに値する懲罰的な反応を受けたことがないことを考えると、高度な偽善を露呈している。

 ウクライナでの出来事が何かを証明したとすれば、それは、米国とその大西洋を越えたパートナーが、アフガニスタン、イラク、リビア、シリアなど、ホットスポットのいくつかを挙げると、ほとんど完全に無傷で、精神的に疲れ切った(戦争神経症にかかった)地球上を蹂躙することができるということである。一方、ロシアとプーチンは、ウクライナでの行動を理由に、ほぼすべての主要メディアでナチス・ドイツの再来として描かれている。

 まず、はっきりさせておきたいことがある。偽善とダブルスタンダードだけでは、どの国も敵対行為の開始を正当化することはできない。言い換えれば、NATO諸国が2001年以来、深刻な結果を招くことなく世界中で無謀な破壊の道を切り開いてきたからと言って、ロシアやいかなる国も同様の行動をとる道徳的ライセンスを与えるものではない。一国が武力行使を認め、「正義の戦争」に身を投じるには、納得のいく理由がなければならない。そこで質問である。今日のロシアの行動は「正義」といえるのか、少なくとも理解できるものなのか。その答えは読者の判断に委ねるが、いくつかの重要な点を考慮しないのは怠慢であろう。

 モスクワが10年以上にわたってNATOの拡張について警告してきたことは、ファストフード的な主要メディアばかり見ている読者にとっては、驚きに値することだろう。2007年のミュンヘン安全保障会議での有名な演説で、ウラジーミル・プーチンは、集まった世界の権力者たちに「なぜこの(NATO)拡張の際に国境に軍事インフラを置く必要があるのか」と単刀直入に尋ねた。「誰かこの質問に答えてくれませんか?」と。この後、プーチンは、ロシア国境まで軍事施設を拡張することは、「個々の国家の民主的選択とは全く関係がない。」と述べている。

 ロシアの指導者の懸念は、耳をつんざくようなコオロギの音の中で予想通り無視されただけでなく、NATOはその日以来、さらに4カ国(アルバニア、クロアチア、モンテネグロ、北マケドニア)を加盟させるに至ったのだ。例えば、モスクワが南米に軍事ブロックを構築し続けたとしたら、ワシントンはどのような反応を示すか、おバカさんでもできる思考実験をしてみよう。

 しかし、モスクワが本当に警戒したのは、米国とNATOが軍事ブロックへの加盟を求め、隣国のウクライナに目もくらむばかりの高性能兵器を投入し始めたときであった。いったい何が問題なのだろう。ウクライナはロシアにとっての存亡の危機をもたらし始めていたのだ。

 12月、我慢の限界に達したモスクワは、米国とNATOに条約案を提出し、ウクライナや他の国の加盟を含む東方へのさらなる軍拡を停止するよう要求した。その中には、NATOが「ウクライナや東欧、南コーカサス、中央アジアの国々の領土でいかなる軍事活動も行わない」という明文化が含まれていた。ロシアの提案は、またしても西側諸国の指導者たちから傲慢と無関心で迎えられた。

 モスクワが次にとった衝撃的な行動については、人によってさまざまな意見があるだろうが、誰も警告を受けていなかったとは言えない。結局のところ、ロシアが2月24日に目を覚まして、突然ウクライナの領土で軍事作戦を開始する素晴らしい日だと決めたわけではないのだ。そう、ロシアには自国の安全保障に対する懸念があり、それが行動を正当化する理由であったという議論は可能である。しかし、米国とNATO諸国の過去20年間の好戦的な行動について、同じことを言うのはもっと難しいかもしれない。

 最も悪名高い例として、2003年のイラク侵攻を考えてみよう。この悲惨な戦争は、西側メディアのハッカーたちが不幸にも「情報の失敗」として片付けてしまったが、最近の記憶では最も酷いいわれのない侵略行為の一つである。あまり泥臭い詳細を掘り下げなくても、9・11の攻撃を受けたばかりのアメリカは、イラクのサダム・フセインが大量破壊兵器を保有していると非難した。しかし、米国は、イラクに駐在してその検証を行っていた国連兵器査察団と緊密に連携することなく、英国、オーストラリア、ポーランドとともに、2003年3月19日にイラクに対する「衝撃と畏怖」の空爆作戦を開始したのである。この明白な国際法違反によって、罪のない100万人以上のイラク人が一瞬にして死傷し、移住させられたのである。

 Center for Public Integrityによると、ブッシュ政権は、差し迫った大虐殺に対する国民の支持を高めるために、2001年から2003年の間に、米国とその同盟国に対するイラクの脅威について900以上の虚偽の声明を発表したとのことである。しかし、西側メディアは、軍事的侵略のための最も熱狂的な宣伝者となったが、どういうわけか、戦争のための議論にいかなる欠陥も見出すことができなかった。

※注)Center for Public Integrity(CPI)
アメリカ合衆国の非営利の調査報道団体である。CPIの使命は「力のある公的機関や私的組織による権力の濫用や汚職や義務に対する怠慢を暴き、誠実かつ高潔で説明責任を備えた公益第一の運営がなされるようにする」事である。CPIには50人以上のスタッフがおり、アメリカ合衆国の無党派・非営利の調査センターの中では最大の組織の1つである。CPIは自らを「党派に属さない、擁護活動をしない」組織と表現しており、進歩主義や無党派性、独立性、自由主義グループを特徴としてきた。
CPIはウェブサイトで発表した記事を、全米や世界中のメディア・アウトレットに配信している。2004年にはCPIの書籍「The Buying of the President」(買収される大統領)がニューヨーク・タイムズで3ヶ月間ベストセラーになった。CPIの日本語訳は定まっておらず、センター・フォー・パブリック・インテグリティや公益擁護センター、公共性保全センター、社会健全センターなど様々な表現がなされている。また調査報道NPOと呼ばれることもある。(Wikipedia)

 
 もっと完璧な世界であれば、アメリカとその同盟国は、罪のない人々に対するこの8年間の長引く「過ち」をきっかけに、厳しい制裁を受けることが予想されたかもしれない。実際、制裁は行われたが、米国に対しては行われなかった。皮肉なことに、この狂った軍事的冒険から生じた唯一の制裁は、ドイツとともにイラクの大虐殺への参加を断ったNATO加盟国であるフランスに対するものであった。世界的な超大国は、このような拒絶、特に友人と称する人々からの拒絶に慣れていない。

 アメリカの政治家たちは、自分たちは神であるかのような特別な存在であると自負しており、フランス政府がイラク戦争に「恩知らずな」反対をしたために、フランスのワインやボトルウォーターをボイコットするよう要求した。また、「フレンチフライ」と呼ばれる人気メニューを「フリーダムフライ」という名前で代用せよと主張する戦争煽動家もいて、不真面目さを露呈したた。つまり、フレンチボルドーの不足とレストランのメニューの面倒な作り直しが、アメリカとNATOが何百万人もの命を無差別に破壊することで被る唯一の本当の不都合であったようである。

 この米国と同盟国に対する生ぬるいアプローチを、ウクライナの現状と比較してみよう。ここでは、NATOの進出に脅威を感じているというロシア側の不当とは言えない警告にもかかわらず、正義の天秤は明らかにロシアに重くのしかかっている。ロシアとウクライナの紛争についてどう思おうと、ロシアを長年にわたって非難してきた人々の偽善と二重基準は、予測可能であると同時に衝撃的であることは否定できない。しかし、今日の違いは、爆弾が爆発していることだ。

 ロシア人個人とロシア経済に対する厳しい制裁はもちろんのこと、おそらくフランス経済相が自国は「ロシアに対する完全な経済・金融戦争」を行うことを約束したと述べたことが最もよく表しているように、ロシアの情報源からのニュースや情報を黙らせようとする極めて不穏な取り組みが行われているのだ。3月1日(火)、YouTubeはヨーロッパのすべてのユーザーに対してRTとSputnikのチャンネルをブロックすることを決定し、それによって西側世界が世界の物語の別の塊を強権を持って差し押さえることを可能にした。

 ロシアが「嘘の帝国」と中傷されてきたことを考えれば、ウラジミール・プーチンが政治的動機のある迫害者の土地をつっついたとき、ロシアが現在受けているような絶え間ない脅しに値する国だ(自業自得)と思う人もいるかもしれない。

 しかし、実際はそうではない。このような世界的な大言壮語は、自由資本主義社会で流行しているある種の心ない美徳シグナリング運動ようなもので、すでに不安定な状況を不必要に悪化させる以外のなにものでもなく、ロシアが完全に間違っていると決め込んでいるとしか言えない。

注)Virtue-signalling(美徳シグナリング)
 道徳的価値観の顕著な表現を表す蔑称的な語である。チャリティー・リボンを身につけたり、SNSで特定の人物へのサポートを表明するためにプロフィールを更新したりすることによって、自分は正しい政治的観念を持っていると主張すること。

 この極めて複雑な状況下にあって、議論の余地もなく、ロシアの側を見る余地もないような、このような無謀なアプローチは、本格的な世界戦争とまではいかなくても、さらに先のにらみ合いを保証するだけである。

 西側諸国が積極的に第三次世界大戦の勃発を望んでいるのでなければ、ロシアに対する醜い偽善や二重基準を止め、ロシアの意見や出来事について(外国メディアが紹介したものであっても)に辛抱強く耳を傾けることが望ましいだろう。一部の人々が信じたいと思うほど、信じがたいことではないのだ。