| 英新首相 トラスが暴露する、 西側民主主義国家の現在の不安定さ 現在の英国政治の混乱は、悲惨な結果を招きかねない それはまた、より広い西洋の現状を映し出すものでもある Truss exposes the current instability of Western democracies The current turmoil in British politics can lead to disastrous consequences. It also mirrors the current state of the wider West RT Op-ed War in Ukraine #1616 3 Oct 2022 翻訳・池田こみち（独立系メディア共同代表） 独立系メディア E-wave Tokyo 2022年10月4日 |
 リズ・トラス © GEOFF CADDICK/AFP 筆者；グラハム・ライス（Graham Hryce) オーストラリア人ジャーナリスト、元メディア関連弁護士。The Australian、Sydney Morning Herald、the Age、the Sunday Mail、the Spectator、Quadrantなどに寄稿。 本文 先週、英国の新首相に就任したリズ・トラスが引き起こした異常な経済・政治危機に、西欧民主主義の安定を熱烈に信じていた人々でさえ、その信仰を揺るがされたことは確かだろう。 9月23日に首相が指名したクワシー・クワルテン首相が「ミニ予算」を発表してからの一週間で、英ポンドの暴落、国債市場の急落、金利と住宅ローンの上昇、一部の住宅ローン市場の閉鎖、イングランド銀行の大手年金基金の破綻を防ぐための極めて異例の財政介入、IMFによる、通常は借金まみれのバナナ共和国の指導者にしかできない形でのトラス批判が起こったのである。 ※注）バナナ共和国（英: banana republic） バナナ共和国とは、バナナなどの第一次産品の輸出に 頼り、主にアメリカ合衆国などの外国資本によってコント ロールされる政情不安定な小国を指す政治学上の用語。 特に、大多数の貧困労働者層と政治・経済・軍部を包括 する少数の支配者層という社会の階層化による格差を 拡大させる[1]。この政治経済学的な寡頭政治体制はそ の国の第一次産業を支配するため、その国の経済を搾 取することになると指摘される。出典：Wikipedia こうした事態の世界的な重要性と、それが引き起こすであろう経済的・政治的混乱を過小評価してはならない。トニー・ブレアの元首席補佐官で政治評論家のアラスター・キャンベルは、先週を "the week that everything changed" と的確に表現している。 何が英国経済危機を招いたのか？ 端的に言えば、トラス政権のミニ予算が、何十億ポンドもの財源もコストもない減税、それも最も挑発的な最高税率45％の引き下げを行ったため、金融市場はトラス政権に重大な不信任票を投じ、それに伴うあらゆる結果がもたらされたのである。 ちなみに、先週の出来事は、欧米の実権がどこにあるのか、それは政治家ではないことを物語っている。 トラスのミニ予算は、もちろん、彼女が熱狂的に信じている粗野な新自由主義経済思想の産物であり、ほんの数週間前にトラスを首相に任命した8万人ほどのサッチャー崇拝者の党員を引きつける上で決定的なものとなった。 首相としての最初の行動の一つが財務省のトップをクビにすることだった。 先週末、彼女はBBCの地方局との悲惨なラジオインタビューに臨んだが、そこではトラスは「トリクルダウン経済」の恩恵をロボット的に宣伝し続け、経済危機をすべてロシアのプーチン大統領とウクライナ紛争のせいにしようとした（失敗した）。 当然のことながら、英国では大多数のコメンテーターが、所属政党に関係なく、トラス氏のミニ予算と首相自身を強く批判している。デイリー・テレグラフのコラムニスト、アンブローズ・エヴァンス・プリチャードでさえ、トラスは "狂気の沙汰に踏み出した" と非難している。 しかし、トラス首相の強権的な姿勢は、現在の経済危機がさらに深刻化することを意味し、住宅市場の暴落は英国を飲み込む次の最も可能性の高い大惨事であると予測されている。 先週は英国の鉄道ストライキが激化し、11月下旬にはトラスとクワテングがミニ予算減税の財源となる膨大な歳出削減の概要を説明するため、さらなる経済混乱が起こるのは間違いないだろう。 新自由主義的な経済政策によって、英国経済を苦しめる根深い問題（数十年にわたる賃金停滞、労働者階級と中間層の継続的な貧困化、ますます広がる貧富の差、劇的に上昇するエネルギーと食料価格、住宅取得の危機など）を改善しようとするトラスの試みは、見事に失敗している。 なぜなら、西側民主主義諸国を支配するグローバル・エリートのかなりの部分が、トラスやクワルテングが厳格に受け入れている、強欲に基づく粗野な新自由主義経済理論の強固な信奉者であり続けているからである。これらのエリートはnoblesse obligeを信じず、アトリーからサッチャー当選まで英国で優勢だった社会民主主義のコンセンサスを覆すことに全力を傾けている。 それはともかく、知的な観察者が最も懸念すべきは、どんなに見当違いで愚かなミニ予算が発表されたとしても、数日のうちに深刻な危機に陥る経済システムの脆弱性が実証されていることである。 残念ながら、トラスが引き起こした政治的危機は、彼女が無思慮に引き起こした経済的危機よりもさらに深刻であろう。 当面の政治的ジレンマは、現在、トーリー党に突きつけられているものである。 この一週間の出来事に対する反応の激しさから、保守党が次の選挙で勝つことは不可能であり、トラスが現実的に長く首相を続けることは不可能であることはすでに明らかである。 先週末の世論調査によると、労働党は現在33ポイントという驚異的な差をつけ、ミニ予算が交付される直前の17ポイントから上昇した。 この一週間で、トラス氏は、過去何十年にもわたって労働党のリーダーがなし得なかったこと、つまり、世論調査で労働党を一見して揺るぎないものにしたのである。トラスはまた、キーア・スターマーと労働組合指導部の間に重要な和解をもたらし、党内を一般的に活性化させたように見える。 トラス氏自身はというと、先週、アラステア・キャンベル氏が述べたように、「彼女は死んだ......破滅だ」。 しかし、現行の党の規則では、トラスは12ヶ月間辞任できない。たとえ辞任できたとしても、新しいリーダーは、トラスを党首として投げ出したのと同じ長く、深い欠陥のあるプロセスで選出されなければならないだろう。 この悲惨な状況を打開する唯一の方法は、トラスが辞任し、党首討論の必要なく後任を決めることだろう。しかし、トラス氏はその地位を手放す気配は全くなく、仮に手放したとしても、その後の党内分裂を考えると、党首討論は避けられないだろう。 もちろん、またもや党首が交代すれば、今以上に選挙に不利になる。 このような状況下では、トラス新自由主義派が分離し、キャメロン派が残るという形で党が分裂する可能性が非常に高いと思う。そのような分裂から、新しい右翼ポピュリスト政党が出現する可能性がある。もしそうなら、近年、他の西側民主主義国の保守政党で起きていることと同じことになる。 しかし、何が起ころうとも、不幸なトラスは、それがどのような正確な形であれ、現代のトーリー党の終焉を主宰したという栄誉を得ることに疑いの余地はない。 日曜日にバーミンガムで始まったトーリー党大会は、当然のことながら、怒りと不満を抱えた多くの党員によってボイコットされたが、実に興味深いイベントとなることが予想される。トラスにとって最悪のスタートとなったのは、著名なトーリー議員マイケル・ゴーブが彼女のミニ予算は「保守的ではない」と非難し、彼と他のトーリー議員が議会でトラス減税に反対票を投じるかもしれないとほのめかしたことだ。このため、トラスはパニックに陥り、所得税の高率減税を撤回し、彼女の信用はさらに失墜した。 現在英国で激化している政治危機は、現在ほとんどの西欧民主主義国で運用されている政治システムに内在する多くの欠陥を浮き彫りにしている。それらは次のようなものである。 第一に、ボリス・ジョンソンのような本物の首相が、わずかな軽犯罪で退陣し、リズ・トラスのような明らかに無能な人物が後任となるような政治システムは、取り返しのつかないほど壊れていることは明らかである。 第二に、悲しいかな、最近の欧米の政治の特徴である急速かつ定期的な指導者の交代を奨励・許容する政治制度は、一般的な政治的不安定さを継続させるだけである。 第三に、党首は党員ではなく、国会議員によって選出さ れるべきである。党員による選挙は、候補者や政策の質を低下させ、しばしば見られるように、選出されたリーダーが国会議員の過半数の支持を得られない状況では、継続的な不安定化と不安定化につながる。ジェレミー・コービン（Jeremy Corbyn）が労働党を率いていた時代がそうであったし、トラス（Truss）がそうであったように、現在では確実にそうなっている。 第四に、政治は、現在よりもはるかに質の高い政治家を集めなければならない。 第五に、保守党が分裂すると、ドイツ、スウェーデン、イタリアなど欧米で最近出現しているようなポピュリズム右翼の新党が結成され、特に危険な事態を招きかねないことである。このような展開は、それぞれの国でそうであったように、政治をさらに不安定にさせるだけである。 以上のような改革が可能なのか、あるいは英国におけるポピュリスト政党の出現を防ぐことができるのかは、非常に未知数な問題であると私は考えている。 トラスが四流の政治家であることは以前から明らかであった。彼女には真の知性も、有権者との共感も、政治的判断力も全く欠けている。しかし、欧米の民主主義国家で最近よく見られる平均的な政治家と比べれば、トラスは決して悪くはない。 トラスが首相として長く生き残れるとは思えないし、政治家としてそれ以上の未来はないように思われる。 彼女の最も大きな政治的功績は、欧米の経済・政治体制を支える本質的・根本的な不安定さを一週間という短期間に劇的に浮き彫りにしたことだろう。 本コラムで述べられた声明、見解、意見は、あくまで筆者のものであり、必ずしもRTのそれを代表するものではありません。 |