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【視点】 


原発再開をめぐり、社会との

相互理解を模索することを

余儀なくされる日本政府

Sputnik 日本
 
 War in Ukraine #2991  11 March
2023

独立系メディア E-wave Tokyo 2023年3月132日

2023年3月11日, 18:25 (更新: 2023年3月11日, 19:11) 原子力発電所反対デモ - Sputnik 日本, 1920, 11.03.2023 © AP Photo / Hiro Komae

 著者:リュドミラ サーキャン
1975年、モスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学日本語学科を卒業。出版社「プログレス」や「産経新聞」モスクワ支局などで働く。1993年、ラジオ局「ロシアの声」に入局。1985年、国際科学技術博覧会 つくば万博で働く。2005年、プーチン大統領が日本を訪問した際に記者団の一員として同行。2012年、ウラジオストクAPEC首脳会議で記者として働く。現在は露日関係を専門としており、特に両国の文化交流関連の話題に熱意をもって取り組んでいる。

本文

 2011年3月11日、東北地方太平洋沿岸部で、マグニチュード9(震度7)の地震が発生し、巨大津波が発生、福島第一原発の事故を引き起こした。この事故は原子力施設事故の指標として国際的に用いられているINES評価で、最上位となる7に区分された。当時、福島第一原発の事故の様子は生中継で報じられ、文字通り、世界中が恐怖とともにこれを見守った。2013年12月、原発は正式に閉鎖されたが、今なお、敷地内では、災害処理作業が行われている。

 発電所のオペレータである東京電力は、施設が安全な状態に戻るのには40年以上かかると評価している。また避難を余儀なくされた住民への賠償金を含め、災害処理に関するすべての費用には21兆5千億円がかかると見られている。

 世界でも類を見ない災害の処理が行われてきたこの数年の間には、さまざまな情報が流され、社会はそれに一義的でない反応を見せた。流される情報も、当初は地域の除染、住民の避難、補償金の支払い、健康被害などに関するものが多かったが、現在は、発電所を危険な状態から安全な状態に移行させることに大きな注意が向けられている。災害処理作業の進捗と共に、汚染水の漏洩や汚染水処理システムのフィルターの破損など、さまざまな問題が明らかになった。とりわけ大きな反響を呼んだのが、汚染水を海洋放出するという政府の決定であった。この提案については、IAEA(国際原子力機関)も世界的な基準に合致するとして、支持を表明したが、多くの近隣諸国がこれに懸念を示した。

福島第1原子力発電所 - Sputnik 日本, 1920, 13.12.2022 

【視点】汚染土にはもう「害はない」のか? 2022年12月13日, 17:20

 そして近年、日本政府は、火力発電所の老朽化とエネルギー資源の高騰によって、原子力発電所をより厳しい新たな安全基準で、再稼働させる必要があるとの考えを明らかにしている。日本の原子力産業は今後どのなっていくのか?「スプートニク」は、ロシア科学アカデミー中国・現代アジア研究所、日本研究センターの上級研究員で、日本のエネルギー政策に詳しいコンスタンチン・コルネーエフ氏にお話を伺った。

 コルネーエフ氏:日本の原子力発電は活動停止状態にありますが、その問題は、技術的なものであるだけでなく、政治的なものでもあります。もちろん、日本では、『福島』の厳しい経験を踏まえ、これまでに例を見ない、おそらく世界でもっとも厳しい原発の安全基準が採択されました。政府は、『原子力への依存を最大限に低下させる(2021年の戦略的エネルギー計画)』としたり、逆に原子力エネルギーは地球温暖化対策の中で、カーボンニュートラルを達成するためにもっとも重要な要素の一つであると発言したりしています。

 しかしいずれにせよ、多かれ少なかれ、日本政府が原子力発電所を維持しようとしていることは十分に理解できることです。現在、日本が原発の稼働を完全に停止すれば、エネルギー資源の安定した供給に大きな問題を抱えるリスクを孕んでいます。日本は依然ロシアからガスの供給を受けているものの、ロシア産の石油および石炭の輸入を停止しました。世界市場におけるエネルギー資源の価格は不安定で、競争も大きなものになっています。しかも原子力エネルギーは、化学工業や金属工業、その他の多くの産業と結びついた分野です。原発の廃止というのは、あまりにも巨大な費用がかかり、またあまりに長いプロセスを必要とするものです。

 スプートニク:日本は脱炭素化に向けた路線をとると宣言し、その中で、2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにするため努力するとしています。再生可能エネルギーは日本の電力需要を満たすことはできるのでしょうか?

 コルネーエフ氏:実際、それ以外のエネルギーが優先的なものであり続けるでしょう。水素を含めた再生可能エネルギー分野も成長していますが、まだ国の経済が必要としているほどの規模とは言えません。2030年までに、再生可能エネルギーをエネルギーバランスの30%にするという目標が立てられていますが、現在はわずか18%にすぎません。再生可能エネルギーの発展には費用もかかり、土地も必要です。

 日本には中国やモンゴルのように、太陽光・太陽熱発電施設を簡単に作れるような場所がありません。風力発電所であれば、北海道あるいは十分な風がある山岳地帯に設置することができますが、ネットワークインフラを構築するには莫大な費用がかかります。加えて、原子力発電所にはない太陽光やその他の再生可能エネルギーの大きな欠点は、生産される電力量が天候によって左右されるという点です。


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【解説】米オハイオ列車脱線事故 ほぼ2週間にわたる政府の不対応と水俣の教訓
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 スプートニク:もしその他のエネルギーを発展させることが社会で歓迎されるのであれば、政府は、総じて原発に対する不信感を持つ市民に対し、原発再開への理解を求めていくことになるのでしょうか?

 コルネーエフ氏:そうですね。国民に対し、原発への信頼を回復させるという課題があります。というのも、世論がすぐに変わるということは期待できそうにはないからです。あのような事故が繰り返されることへの不安や恐怖はまだまだ強く、最近、トルコで起きた大地震の後ではなおさらです。

 日本はプレートの衝突部にあり、地震が多発しています。しかもそのような災害を事前に予測できるような機器もまだありません。特にこれが海底で起こった場合、ほとんどの津波の原因になります。さらに、福島原発事故で犠牲となったすべての人が賠償金を受け取ったわけではなく、多くの人々が不満を訴えています。ですから、日本政府は社会との相互理解を模索することになるでしょう。