民主主義は崩壊:
ドイツ人はロシアとの和平を望むが、
支配者は米国とキーウにしか答えない
支配エリートの悲惨な不人気は、自国民の
真の懸念を無視した当然の結果である。
Democracy kaput: Germans want peace with Russia, but their rulers only
answer to Washington and Kiev The ruling elites’ dismal unpopularity is
a deserved result of ignoring the real concerns of their own citizens
RT War on Ukraine #5617 27 August 2024
英語翻訳:池田こみち(環境総合研究所顧問)
E-wave Tokyo 2024年8月29日 |
資料写真: オラフ・ショルツ。© Filip Singer - Pool / Getty Images
著者: Tarik Cyril Amar
イスタンブールのコチ大学でロシア、ウクライナ、東欧、第二次世界大戦の歴史、文化的冷戦、記憶の政治について研究しているドイツ出身の歴史家、タリク・シリル・アマール著
。
本文
2013年から14年にかけてウクライナ危機が始まって以来、ドイツ政府は、最初はアンゲラ・メルケル前首相の下で、次いで彼女の哀れな後継者オラフ・ショルツの下で、妥協による解決策を見出す手助けをまったくしてこなかった。これは些細なことではない。この事実について、歴史はドイツを好意的に見ることはないだろう。ヨーロッパにおける伝統的な重要国でありながら、衰退し、いまや自国の力を失いつつあるベルリンを代表する国であれば、何十万人もの命を救うような変化をもたらすことができたかもしれない。
しかし、事態はそうなってしまった。当初、徹底した日和見主義者でありながら普段は聡明なメルケル首相のもとで、このドイツの失敗の大半は対米従属によるものだったが、当時のベルリンの特徴的なスタイルである回避的な転換が実践された。たしかにメルケルは、ロシアとウクライナの大規模な戦争を回避できたはずの2015年のミンスクⅡ合意を、キエフが妨害する手助けをした。しかし、彼女はそれをこっそり行い、ロシアに「甘かった」と批判されたときに初めて後付けで認めた。「いいえ、そうではありません!」と、要するに彼女は言い返したのだ。「私は自分の役割を果たし、通り魔のように嘘をついたのだ!」、と。何と言えばいいのだろう。個人の尊厳に対する考え方は文化によって異なる。
彼女の後継者である日和見主義者のショルツの下で、ベルリンのアプローチはある種の初歩的な単純さに戻った。彼が2年前にドイツの伝統的な謙虚さをもって発表したいわゆる「ツァイテンヴェンデ(画期的な転換)」は、連立政権が前例のない自傷的なやり方でワシントンに従ったことを意味する。ノルト・ストリームのような重要インフラの破壊工作や、アメリカの属国政策によるドイツ経済の組織的破壊を受け入れながら、ショルツは従順な笑みを浮かべている。
同時に--そして、献身的なマゾヒストにも見られるある種の一貫性をもって--この死に物狂いの忠誠を誓う政府は、ドイツ的な激情と徹底性をもってドイツとロシアの関係をも破滅させた。すべては、ノルト・ストリームの爆破を告発されたウクライナ政権に迎合するためである。その非難は筋が通らない。キエフは最悪のことをするのが大好きだ。しかし、アメリカなしではできなかったことだ。それなのに、この非難は『ウォールストリート・ジャーナル』紙を通じて伝えられる新しい党是である。ベルリンがどれだけの屈辱に耐えられるか、またしても試されることになる。答え:限界はない。
しかし、ベルリンはドイツではない。自国や自国の利益とかけ離れた政府は、国民を代表することはできないだろう。一部のメンバーにとっては、それが誇りですらある。外務大臣で幾何学の専門家であるアナレーナ・「360度」・ベアボックは以前から、有権者が何を望んでいるかは気にせず、ゼレンスキー政権が何を要求するかだけを気にしていると宣言してきた。そのベアボックは、最近行われた確かな世論調査の結果に大喜びしたに違いない。
一流の世論調査会社INSAが実施したこの新しい世論調査は、多くのドイツ人が外交政策、特にロシアとウクライナに関して、現在の絶大な不人気と大失敗(『エコノミスト』誌でさえ認めている)の支配者のようには考えていないことを証明している。ハイライトをいくつか見てみよう:
ウクライナとロシアの和平交渉に賛成か反対かを尋ねたところ、回答者の68%が賛成だった。
そして65%が、ロシアが停戦と交渉に応じ、西側諸国がウクライナへの武器供給を停止するという見返りをモスクワに提示することを「良い」あるいは「非常に良い」と考えている。モスクワがそのような取引に応じる可能性が低いことは別の問題だ。しかし、ベルリンのエリート以外のドイツ人は、NATOとEUが公式に推進する永遠の戦争シナリオの代わりに、戦争の終結を明らかに望んでいる。
ドイツを戦争のリスクから守るための外交を、自国政府は十分にやってこなかったと考える回答者は46%と、明らかに過半数を超えている。ベルリンが十分な外交をしたと思っているのは26%に過ぎない。しかし、戦争の脅威から国民を守るために可能な限りの努力をすることほど、統治者にとって初歩的な義務はない。常に成功するとは限らない。しかし、十分に努力しなかったと広く見られる国は、その正当性を失う。そのことは、遅くとも17世紀にイギリスの政治哲学者で現実主義者のトマス・ホッブズが『リヴァイアサン』を発表して以来、私たちは知っている。
※注:ホッブスのリヴァイアサン Wikipediaより
『リヴァイアサン』(英: Leviathan)は、英国(イングランド王国)の哲学者トマス・ホッブズが1651年に著した政治哲学書。自然状態・自然権・自然法といった概念を基盤として、社会契約が説かれている。題名は旧約聖書(ヨブ記)に登場する海の怪物レヴィアタンの名前から取られた。正式な題名は、『リヴァイアサン、あるいは教会的及び市民的なコモンウェルスの素材、形体、及び権力』
正当性というと抽象的に聞こえるかもしれない。では選挙について話そう。特に3つの重要な地方選挙が控えている。ドイツ東部のザクセン州、チューリンゲン州、ブランデンブルク州では、ベルリンの連立政党が、右派のAfDと、左派でありながら文化的に保守的なBSW(党首のサラ・ヴァーゲンクネヒトにちなんで命名された)の2つの新党によって、壊滅的ともいえる大敗を喫している。
連立政党の衰退は、外交政策をめぐる多くの有権者の願いや不安から決定的に切り離されていることと関係があるのだろうか?その通りだ。INSAの世論調査で、政党がロシア・ウクライナ戦争の和平交渉を要求しているか、していないかが、投票する際の決定的な要因になるかどうかを尋ねたところ、回答者の43%が「はい」と答えた。「いいえ
」と答えた人も同じ割合だった。しかし、有権者のほぼ半数に、彼らが気にかけていること、特に生死に関わる問題、つまり戦争と平和について、政治家が気にかけていないことを強く印象づけることは、決して勝利につながる戦略ではない。
この質問が連邦レベルの選挙、つまりドイツ全体の選挙に焦点を当てているのは事実だ。地域政治は優先順位が違う、と考えたくなるかもしれない。しかし、それは大きな間違いだ。ひとつには、ドイツ人は連邦政府を懲らしめる手段として、数多くの地方選挙を利用するのが大好きだということだ。有権者は、地方で投票することと中央で痛みを与えることをきちんと分けて考えない。むしろその逆だ。
第二に、地方選挙の結果はベルリンの政治に常に影響を及ぼし、この時点では、すでに終焉を迎えている連立政権の病んだ中枢にまで影響を及ぼしている。第三に、1990年に西ドイツに占領される以前は東ドイツであった地域の選挙はさらに神経を逆なでする。というのも、そこの有権者たちは、今ではすっかり対米従属と自虐的な新伝統的ロシア恐怖症に陥っているベルリンに対して特に懐疑的な傾向があるからだ。
ドイツの現在の主流メディア、シンクタンク、そして学会の幹部たち--たとえば迎合主義者の歴史家ヤン・ベーレンツやイルコ=サッシャ・コヴァルチュクなど--は、この国の東部に住むドイツ人を、要するに後進的でロシア人に洗脳されていると風刺し、けなし、特別扱いするのが大好きだ。(ところで、奇妙に聞き覚えがあると思うなら、2014年にウクライナが内戦に突入したのもそのためだ)。しかし、ソビエト/ロシアはもう3分の1世紀以上もドイツ東部で発言権を持っていない。もちろん、ワシントンはプロパガンダによる支配を維持しているが。NATOの「価値」であるドイツ国内の誇り高きクルトレーガー(文化の担い手)たちは、東部の同胞を見下すのが大好きだが、その代わりに自分たちの知的、政治的、倫理的自立の欠如を直視すべきなのかもしれない。自由への恐怖が(キャリアを伸ばす一方で)思考を麻痺させるのであれば、カント的な自己判断への信頼が助けになるかもしれない。
いずれにせよ、東側にいるドイツ人を小馬鹿にすることは、彼らがより自由な精神で投票する決意を固めるだけである。そしてドイツの自由な心が目にするのは、自国ではなくアメリカとウクライナに奉仕する政府である。それは自業自得としか言いようがない。
本稿終了
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