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ドイツの厳しい経済覚醒
フォルクスワーゲンやインテルなど大企業に関する
一連の悪報道を受け、ドイツの雰囲気は暗くなっている

Germany’s rude economic awakening. After a spate of bad news involving giants like Volkswagen and Intel, the mood in Germany has turned gloomy

Politico War on Ukraine #5825 20 September 2024

英語訳・池田こみち(環境総合研究所顧問)
E-wave Tokyo 2024年9月20日

オラフ・ショルツ財務相の連立政権は内紛に悩まされており、何をすべきかアイデアが尽きたようだ。 | ショーン・ギャラップ/ゲッティイメージズ

筆者:2024年9月19日 午前4時01分(中央ヨーロッパ標準時)
   マシュー ・カーニチュニグ

本文

 ベルリン — ドイツはようやく経済的悲しみの第一段階である否認から抜け出している。

 ドイツ国民は、世界が明らかに見ている事実に何年も目をつぶってきたが、経済的終末の四騎士、すなわち主要産業の国外流出、急速に悪化する人口構成、崩壊しつつあるインフラ、そしてイノベーションの欠如が明らかになるにつれ、自分たちが深刻な問題に直面しているという現実を徐々に受け入れつつある。

 近年、ドイツ国民は移民問題やウクライナ戦争に頭を悩ませているが、経済はひそかに崩壊しつつある。経済の停滞により、ドイツが政治的にさらに極端な方向に傾くのではないかという懸念が高まっている。オラフ・ショルツ首相率いる連立政権は、憲法上の支出制限により政府が野心的な経済刺激策を実施することがほぼ不可能となり、内紛に悩まされており、何をすべきかアイデアが尽きたようだ。

 経済の苦境はしばらくドイツ国民の心の片隅にあったが、フォルクスワーゲンやインテルなど一流企業のドイツ国内工場に関する一連の暗い経済ニュースを受けて、突如として前面に出てきた。最近の公共テレビの調査では、国の「最も重要な問題」を順位付けするよう求められ、ドイツ国民は移民問題に次いで経済問題を2番目に挙げた。

 これはショルツ首相と苦境に立たされている3党連立政権にとって悪いニュースだ。最近の経済危機以前から、ショルツ首相の支持率はドイツ首相史上最低を記録していた。ショルツ首相の業績に満足しているドイツ国民はわずか18%だ。比較すると、アンゲラ・メルケル首相の16年間の在任期間中の支持率は40%が最低だった。前任のゲアハルト・シュレーダー首相の支持率は24%が最低だった。

 ショルツ氏にとって、今週日曜日に東部の地方選挙で再び極右が勝利する可能性があり、今度は彼の故郷であるブランデンブルク州でさらなる屈辱が迫っている。ドイツ再統一以来、ショルツ氏の中道左派社会民主党(SPD)がブランデンブルク州を支配してきた。しかし、世論調査では極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が同州でリードしていることが示されている。今月初めのテューリンゲン州でのように、東部でも極右が勝利すれば、ショルツ氏のリーダーシップが再び否定されることになり、弱体化した彼の連立政権は1年後に予定されている次の連邦選挙まで続かないだろうという憶測が高まることになる。

 最新の経済指標がショルツ氏の勝利の可能性を高めることはまずないだろう。
ドイツはすでにG7の中で最も弱い経済国だ。

◆「メイド・イン・ジャーマニー」の魔法が薄れつつある

 わずか15年前、西側諸国の多くが金融危機から立ち直れずにいた頃、ドイツは永続的な繁栄の秘訣を解明したかのようだった。ドイツは、資本財の需要が依然として強い中国への輸出を増やすことで、米国と欧州の弱さを補うことができた。
しかし、もうそうはいかない。

 化学や機械など19世紀の技術に根ざした産業基盤と、膨大なデジタル不足を抱えるドイツは、ますます競争が難しくなっている。かつてはBMWからアディダスまで、世界有数の企業の本拠地だったドイツも、ますます後進国になりつつある。例えば、世界で最も価値のある企業トップ100のうち、ドイツの企業はソフトウェア開発会社のSAPだけである。

 ドイツの名高いエンジニアリング部門にとっては非常に残念なことに、中国は追い上げを見せ、「メイド・イン・ジャーマニー」の衰えつつある魔法に頼らなくなっている。一方、アメリカの積極的な産業政策と創意工夫の決定的な結合により、ドイツはアメリカでますます不利な立場に立たされている。かつてドイツの自動車メーカー幹部が鼻で笑っていたテスラの時価総額は、今やドイツの自動車業界全体の4倍以上である。さらに、中国の消費者支出は低迷している。

 ドイツに破滅をもたらす最新の一撃は、月曜日遅くに米国の半導体大手インテルが300億ユーロ規模のドイツ拡張計画を凍結すると発表したことだ。3,000人の雇用を創出すると約束されたこの投資は、ドイツ史上最大の外国企業による投資となるはずだった。インテルはプロジェクトが「約2年間」延期されると述べた
が、実現するかどうかは保証されていない。

 ビルト紙が「チップ・フロップ」と名付けたインテルのこの動きは、今月初めにフォルクスワーゲンが87年の歴史で初めてドイツ国内の工場閉鎖を検討しているというニュースに続くものだ。この自動車大手は、かつては名声を博したドイツの他の自動車産業と同様、電気自動車への投資が遅く、米国のライバルであるテスラや中国のBYDなどに追いつくのに苦労してきた。そして今、その代償を払わされている。


近年、ドイツ人は移民問題とウクライナ戦争に気をとられているが、経済は静かに崩壊しつつある。 | キリル・クドリャフツェフ/ゲッティイメージズ

 フォルクスワーゲンの経営陣が、大規模な削減は避けられないだろうと明らかにしたことで、ドイツは集団的無気力から目覚めた。ドイツの経済データはしばらく前から最適とは言えず、2020年に始まった長期の停滞期に入っているが、雇用が堅調に推移していたため、深刻な不況は実感されなかった。

 しかし、そう長くは続かないかもしれない。経済見通しはますます暗くなるばかりだ。ミュンヘンに本拠を置き、高く評価されているIfo経済研究所は最近、「ドイツ経済は危機に陥っている」と述べた。

◆失業率上昇の脅威

 ドイツは、急速な高齢化や労働力の生産性の低さなど、根深い課題に直面しているほか、中国の景気減速や国内の個人消費の落ち込みなど、景気循環的な要因にも大きな打撃を受けている。

 とはいえ、景気の遅行指標である失業率は、これまでのところ比較的落ち着いている。8月には6.1%となり、前年比0.3%上昇した。しかし、VWなどの大手企業が人員削減に着手すれば、雇用情勢は急速に変化する可能性がある。

 こうした懸念は自動車業界に限ったことではない。2022年にロシアがウクライナに全面侵攻し、ドイツ産業界が安価なロシア産ガスにアクセスできなくなったことでドイツのエネルギー価格はショックから安定しているが、企業は依然としてエネルギーコストの高さを競争上の不利な点として挙げており、ドイツの伝統的産業に対する環境基準がますます厳しくなっていることも状況を悪化させている。

 欧州最大の製鉄工場があるデュースブルクでは、労働者が大幅な人員削減を覚悟している。かつて国内鉄鋼最大手だったティッセンクルップは、二酸化炭素を排出する生産からの「転換」を容易にするために約20億ユーロの政府補助金を約束されているにもかかわらず、競争力維持に苦戦している。

 政府の目標は、石炭火力の製鉄炉を水素で動く新しい炉に置き換え、デュイスブルクを「グリーン」鉄鋼の中心地にすることだ。「グリーン水素」、つまり再生可能エネルギーで生産される水素を作るには、大量の風力と電気が必要で、コストが高く、ロジスティクスも難しいことを考えると、これが現実的な目標かどうかは議論の余地がある。

 ドイツ議会の社会民主党議長でデュースブルク出身のベルベル・バス氏は今週、鉄鋼業界を取り巻く危機について議論するため「鉄鋼サミット」に出席するため故郷を訪れた。数万人の雇用が危機にさらされていることを念頭に置き、バス氏は「デュースブルクの鉄鋼産業の中心地には将来があるはずだ」と主張した。

 「国内の鉄鋼生産もドイツにとって不可欠だ」と彼女は付け加えた。「ドイツはこの重要な原材料を他国に依存すべきではない」

 しかし、問題は、需要の低迷という新たな課題に直面した鉄鋼業界が、どのように生き残っていくかだ。ドイツの鉄鋼業界は約8万人の労働者を雇用しているが、ドイツの自動車・機械部門の弱さに端を発した供給過剰の拡大により、ほとんどのメーカーが生産量を減らしている。ティッセンクルップの株価は過去1年で60%近く下落している。先月、ティッセンクルップの鉄鋼子会社では、経営戦略をめぐる論争の中で、元社会民主党党首で経済大臣のジグマール・ガブリエル氏を含む取締役数名が辞任した。

◆社会民主党の中心地でのトラブル

 数か月前、SPDにとって事態はこれ以上悪くなることはまずないと思われていた。6月の欧州議会選挙では、同党は1世紀以上ぶりの国政選挙で最悪の結果を喫した。そして今月初めのドイツ東部の州議会選挙では、ドイツSPD主導の連立政権を構成する各党が大きな敗北を喫した。

 現在、経済難は、ドイツ西部の鉄鋼産地からフォルクスワーゲンの拠点であるニーダーザクセン州に至るまで、SPDの伝統的な製造業拠点が残っている地域で特に大きな打撃を与えている。


ドイツ経済を立て直すという課題は、中道右派の野党とフリードリヒ・メルツに課せられる可能性が高い。 | マヤ・ヒティジ/ゲッティイメージズ

 つまり、ドイツ経済を立て直すという課題は、中道右派の野党と、現在世論調査で他のすべての政党を大きくリードしているキリスト教民主同盟(CDU)のフリードリヒ・メルツ党首に課される可能性が高いということだ。ドイツのビジネス界と密接なつながりを持つ元企業弁護士のメルツ氏は今週、保守党の筆頭候補として出馬すると発表した。これにより、次期首相の有力候補となる見込みだ。

 メルツ氏は、内燃機関の保存や生産性の向上などを通じて、ドイツ経済の古き良き時代を取り戻すことを公約に掲げて選挙戦を戦っている。

 「我々は工業国であり続けたいし、そうあり続けなければならない」と彼は最近ベルリンで語った。

 しかし、ドイツ経済が直面している構造的な問題を考えると、近い将来に産業の回復を促進できる政党はそう多くないだろう。

 言い換えれば、ドイツ国民は、かつての偉大だった経済に対する悲しみの次の段階、つまり受け入れに進むべき時が来ているのだ。

本稿終了