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家庭ゴミ焼却は
今や英国で最も
汚い発電方法

Burning rubbish now UK’s dirtiest form of power
BBC News 16 October 2024


英語翻訳:池田こみち(環境総合研究所顧問)
E-wave Tokyo 2024年10月17日


廃棄物焼却施設のバンカー内、ごみクレーンの様子 BBC News

著者:Esme Stallard, Matt McGrath, Patrick Clahane & Paul Lynch 
BBC News
:
本文


 家庭ゴミを巨大な焼却炉で燃やして発電することは、現在、英国で最も汚い発電方法であることがBBCの分析で明らかになった。

 プラスチックの量が増えていることも含め、英国の家庭から排出されるゴミのほぼ半分が現在焼却されている。科学者たちは「気候にとっての災害」と警告しており、一部では新たな焼却炉の建設禁止を求める声も上がっている。

 BBCは全国の5年間のデータを調査し、ゴミの焼却は、先月英国が廃止した石炭発電と同量の温室効果ガスをエネルギー単位あたりで発生させることを発見した。

 廃棄物処理業者を代表する環境サービス協会は、私たちの調査結果に異議を唱え、廃棄物処理による排出量は「回避が難しい」と述べた。

 15年近く前、政府は家庭ゴミを埋め立て地に廃棄することによって発生するガスと、それが気候変動に与える影響について深刻な懸念を抱くようになった。これを受けて、政府は廃棄物の埋め立てにかかる地方自治体の税金を引き上げた。

 多額の請求に直面した地方自治体は、廃棄物焼却発電施設に目を向けた。これは、廃棄物を燃やして発電を行う焼却炉の一種である。焼却炉の数は急増し、過去5年間でイングランドだけでも38基から52基に増加した。英国のエネルギーの約3.1%は廃棄物焼却発電によるものである。

・デボン州議会は「廃棄物の大半」を焼却

・政府はポートランド廃棄物焼却炉を承認


英国におけるごみ焼却ネットワークの拡大

 図の各点は英国の廃棄物焼却発電施設を表し、稼働開始年(下記年表参照)に赤丸が表示されている。

 
図1 イギリス国内の廃棄物焼却施設の設置状況

 1970年代にはわずか2箇所だった焼却施設が1990年代以降増加の一途をたどり、2000年以降急増している様子がわかる。

 これらの焼却炉は、廃棄物処理業界では埋め立てに代わる環境にやさしい方法と説明されてきた。

 これは、燃やした場合により有害性の低い温室効果ガスを発生させる食品廃棄物については確かにその通りだが、プラスチック廃棄物については該当しない。プラスチックは化石燃料から作られており、埋め立て地に埋めるのではなく燃やすと、大量の温室効果ガスが発生する。

 ここ数年は、プラスチックが焼却炉に送られることが増え、食品廃棄物が焼却炉に送られることは減っている。現在、自治体は食品廃棄物を嫌気性消化装置または堆肥化装置に送っている。しかし、政府自身の計算では、2017年当時と同じ割合でゴミが排出されていると想定しており、問題の規模を過小評価している可能性がある。

 BBCの5年間の分析では、焼却炉の運営者が記録した実際の汚染レベルのデータを使用し、エネルギー回収施設が現在、石炭を燃焼した場合と同じ量の温室効果ガスを発電量単位あたりで排出していることが判明した。


図2 2023年のキロワット時あたりの平均二酸化炭素換算排出量

   -石炭   730 (gCO2e/kWh)
   -焼却炉  720
   -ガス    400
   -太陽光  40
   -原子力  12
   -風力   11


 出典;IPCC 及び BBC
 注:数値は各燃料源のグローバル平均を表す。焼却は英国のみ。
   *英国では石炭による発電は行われていない。

 ※注:上記の石炭火力、焼却炉、LNG、太陽光、原発、風力発電をCO2
     排出量で比較するのは、英国らしいが、余りにも乱暴である。
     有害化学物質排出、事故時損害、建設費、燃料費など深刻な問
     題が評価の対象外となっていない。
訳者

 過去30年間、英国では石炭の使用を減らしてきたが、それは石炭がどれほど汚染物質を排出する燃料であるかによるものであり、先月には最後の石炭発電所も閉鎖された。政府は、2030年までに発電による二酸化炭素排出量をゼロにするという目標の達成に役立つことを期待している。

 これにより、英国で最も汚染度の高い発電方法として、廃棄物焼却が残ることになった。BBCの分析によると、廃棄物から生産されるエネルギーは、英国の平均的な発電量と比較して5倍も汚染度が高いいう。

 政府の独立諮問機関である英国気候変動委員会は、発電による排出量のうち、焼却によるものが占める割合が増加するだろうと警告している。

 サウサンプトン大学応用環境科学部のイアン・ウィリアムズ博士は「異常な状況だ」と述べた。
 
 「エネルギーを得るために廃棄物を燃やすという現在の慣行や、その目的で焼却炉を次々と増設するというやり方は、温室効果ガス排出量を削減したいという我々の願いとは相容れない。」、と彼は指摘している。

 「その使用を増やすことは、我々の気候にとって悲惨な結果をもたらすだろう。」と博士は語った。


焼却炉のバンカー内でクレーンが稼働中 ©ゲッティイメージズ 英国の家庭ゴミのほぼ半分が現在焼却炉に送られている

 1996年に埋め立て税を導入した保守党の環境大臣ロード・デベン氏はBBCに対し、「焼却炉はすでに多すぎる。これ以上増やすべきではない。焼却炉のせいでリサイクルの能力が損なわれ始めている。」、と語った。

 それにもかかわらず、イングランドでは焼却炉の建設が続いている。英国政府は先月、ドーセット州に1億5000万ポンド(約293億円)を投じて新たな焼却炉を建設することを承認し、地元自治体の反対を覆した。

 ドーセット州議会のニック・アイルランド議長は当時、BBCの取材に対し、2050年までに二酸化炭素排出量を増やさないという「ネットゼロ」目標を達成しようとする同州の取り組みを「骨抜きにする」と述べた。

 ここ数年、ウェールズとスコットランドでは環境への懸念から新たな焼却炉の建設禁止が導入されており、イングランドと北アイルランドでも同様の措置を求める声が有力な学者や環境保護団体から高まっている。

 これには、英国気候変動委員会も含まれ、すべての炭素排出を捕捉する努力をせずに新たな焼却炉を建設すべきではないと提言している。

 現在、英国の58の焼却炉のうち、排出物の捕捉が承認された計画を持つのは4つだけで、稼働中のパイロットプロジェクトは1つだけである。フェリーブリッジ廃棄物発電所(Ferrybridge EfW)のプロジェクトでは、1日あたり1トンの二酸化炭素を回収しているが、この施設では年間50万トン以上のCO2が排出されている。


焼却炉はより汚染がひどく、大型化している

 対策が講じられなければ、英国における焼却炉の利用は今後も増加し、汚染もさらに深刻化すると予想される。

 現在、数十の新しいプラントが計画段階にあり、既存のプラントも処理能力を増強している。BBCの調査によると、英国の焼却炉のほぼ半数が、新たな許可申請(これは公聴会を必要とする)を行わずに、環境庁から処理能力の増強を承認されている。

 地方自治体のデータによると、焼却されている廃棄物の大半はプラスチックである。プラスチックは化石燃料から生産されるため、焼却する廃棄物の中で最も環境に負荷を与えるものである。

 政府の統計によると、プラスチックを焼却すると埋め立て処理に比べて175倍以上の二酸化炭素(CO2)が排出される。

 英国気候変動委員会のメンバーであるキース・ベル教授は、BBCの調査結果を検討した上で次のように述べた。「もし現政権が2030年までにクリーンエ
ネルギーを実現するというのなら、... 廃棄物の焼却だけに頼ることはできない。」、と。


焼却炉の炉の様子©ゲッティイメージズ


増え続けるプラスチック廃棄物により、焼却による汚染が深刻化

 4月には、前保守党政権がイングランドで廃棄物焼却炉の新設許可の一時的な禁止を導入し、廃棄物焼却の役割を見直したが、5月に禁止が失効すると、継続されなかった。

 現政権は、この問題についてまだ立場を決定していないようだ。

 先月、エネルギー安全保障・ネットゼロ省の上級公務員は書簡で、環境・食糧・農村地域省(Defra)が廃棄物焼却による発電に関する政府方針を決定するまでは、ノース・リンカンシャー州の焼却炉建設計画を承認するかどうかを決定できないと述べた。

 ドーセットの焼却炉が住宅・コミュニティ・地方自治省によって承認されたことを考えると、この書簡は、この問題に対する政府のアプローチの一貫性について疑問を投げかけている。

 コメントの要請に応えて、Defraの広報担当者は次のように述べた。「脱炭素化と経済成長を遂げる中で、廃棄物焼却が果たす役割について検討している。」、と。


廃棄物焼却に「縛り付けられた」地方自治体

 地方自治体が廃棄物発電の利用から離れようとしても、長期の契約によりそれができない場合が多いという問題がある。

 BBCは、廃棄物処理を担当する英国の地方自治体すべてに情報公開請求を行い、少なくとも300億ポンド(約5兆8000億円超)相当の焼却炉を含む廃棄物処理業者との契約があり、その一部は20年以上継続していることが明らかになった。

 これらの契約は、議会を財政的に負担の大きい契約に縛り付けるものとして、下院の決算委員会から批判されている。

 スコットランド政府による焼却に関する独立調査を主導し、その結果として焼却禁止に至ったコリン・チャーチ博士は、「ロックイン(拘束・束縛)は現実の問題です。廃棄物発電業界は決してそうではないと主張しますが、実際にはロックインは存在します。」、と述べた。

 2019年、ダービーシャー州議会とダービー市議会は、建設した焼却炉が初期テストに合格しなかったこと、また住民から臭気と騒音の苦情が寄せられたことを理由に、廃棄物処理会社RRSとの契約を打ち切った。

 その施設は一度も使用されることはなかったが、両議会は契約を早期に打ち切ったことに対する補償金として、RRSの管財人に9,350万ポンド(約181億円超)を支払うよう命じられた。

 BBCの調査によると、数十の地方自治体が、焼却炉に送られる廃棄物の最低量を定める条項を契約に含めており、業界では「Deliver Vs Payment(引き渡しと代金の支払いを相互に条件図家、一方がおこなわれない限り他方もおこなわれないようにすること)」として知られている。

 2010年には、ストーク・オン・トレント市議会が焼却処理するのに十分な量の廃棄物を送らなかったとして、ハンフォード・ウェイスト・サービス社から32万9000ポンドの請求を受けた。

 同市議会は、その請求を支払ったかどうかについてはコメントを避けたが、その条項はその後、運営会社との契約から削除されたと述べた。

・BBC Soundsのポッドキャストでさらに詳しく聞くことができます。
 5 Questions On...Incineration Nation


焼却炉の写真 ©BBC / Jon Parker Lee

 地方自治体は焼却炉に関する300億ポンド以上の契約を結んでおり、その中には20年以上続くものもある。

 しかし、イングランドとウェールズの地方自治体を代表する地方自治体協会(LGA)は、BBCに対し、これらの契約により、契約違反による罰金を恐れて、リサイクルなどより環境にやさしい解決策の活用を模索できない状況にあると懸念を表明した。

 LGAの副会長であり、コッツウォルズ地区議会の議長でもあるジョー・ハリス氏は次のように述べた。「焼却される廃棄物の量を減らすことができ、リサイクル率を向上できるのであれば、そうしたいが、財政的なペナルティを課せられるようなことはできない。

 過去10年間、リサイクル率は伸び悩み、イングランドでは約41%で停滞している。保守党の前の政権は、2035年までに英国の家庭廃棄物の65%をリサイクルするという目標を掲げていたが、ウェールズは唯一、この65%の目標を達成している。

 しかし、廃棄物業界団体である環境サービス協会は、過去10年間、エネルギーを得るためにゴミを燃やすことは「より多くのリサイクルを推進する取り組みを補完するもの」であり、「リサイクル率の停滞はリサイクル政策の失敗を示すものに過ぎない」と述べた。

 環境・食糧・農村地域省(Defra)の広報担当者はBBCに対し、「私たちは廃棄物の削減と循環型経済への移行に尽力しており、それにより、より多くの資源を再利用、削減、リサイクルし、排出量目標の達成に貢献している。」、と述べた。


排出量の算出方法

 イングランドの焼却炉から排出されるエネルギー単位当たりの排出量を算出するためには、これらの施設から排出される排出量と発電出力を入手する必要があった。

 英国の各焼却炉では、年次モニタリング報告書が作成されており、その中には、総排出量を含む施設に関連する主要統計が記録されている。

 しかし、一部のケースでは、排出量が年次モニタリング報告書に記録されていなかったため、政府の公害目録報告書に記録された数値が使用された。

 国連の気候科学機関であるIPCCは、食品などの有機物の燃焼による「生物起源」の排出量は、土地および林業部門の排出量として記録されるため、計算には含めないよう推奨している。

 そのため、焼却された廃棄物の有機物の割合を割り出すことで、生物起源の排出量を総量から除外する必要があった。

 一部の事業者はこの数値を記録していたが、記録していない場合は政府のガイドラインが、環境NGOのWRAPが2017年に実施した調査でバイオマスとして記録された家庭ごみの割合に基づく係数を適用するよう勧めている。

 これにより、BBCは化石燃料による総排出量、つまりプラスチックを含む「化石」廃棄物(または有機物以外の廃棄物)を現場で燃焼することに関連する排出量を算出しました。

 次に、化石燃料の総排出量を発電量で割ることで、各発電所の炭素強度(発電量あたりの炭素排出量)を算出した。

 方法論的なサポートは、エジンバラ・ネピア大学のサステナビリティ科学教授フランチェスコ・ポンポニ氏、ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジの化学工学准教授マッシミリアーノ・マテラッツィ氏、サステナビリティ・コンサルタントのジム・ハート博士から提供された。

・追加取材:ニア・プライス
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