フョードル・ルキヤノフ:
EUが直面する終末論的なトランプの選択
米国なしでは、ウクライナ戦略は瓦解する
Fyodor Lukyanov: Here’s the apocalyptic Trump choice facing the EU. Without the US, the blocs Ukraine strategy will fall apart
RT 英語翻訳・池田こみち(環境総合研究所顧問)
独立系メデア E-wave Tokyo 2025年3月5日(JST)

2025年3月1日、英国ロンドンにて、英国首相サー・キア・スターマー(左)がウクライナのウラジーミル・ゼレンスキー大統領をダウニング街10番地(首相官邸)に迎える。 © Peter Nicholls / Getty Images
2025年3月4日 - 19:25
著者;フィヨドール・ルキャノフ(Fyodor Lukyanov)
ロシア・イン・グローバル・アフェアーズ編集長、外交・国防政策
評議会幹事会会長、バルダイ国際討論クラブ研究部長)による寄稿
本文
ウクライナのウラジーミル・ゼレンスキーをめぐるホワイトハウスでの金曜夜の劇的な出来事は、西ヨーロッパを非常に難しい立場に立たせることになった。この地域の指導者の多くは、ドナルド・トランプ米大統領に対しては穏健派から強硬な懐疑派まで様々であるが、それでも伝統的な大西洋同盟を維持しようとしてきた。彼らは、欧州の利益に沿った形でウクライナ紛争の解決策を見出すようワシントンに働きかけてきた。しかし、今やゼレンスキー氏とトランプ大統領の間の亀裂が公になったことで、その機会は失われた。
意図的か偶発的かはさておき、ゼレンスキー氏は米国にその立場を明確にするよう迫った。ワシントンは戦闘者ではなく調停者であり、その優先事項はエスカレートを終わらせること、つまりどちらかの味方になることではない。これは、ウクライナを守るために米国が西側連合を率いてロシアと対峙していたこれまでの立場とは、はっきりと一線を画すものである。そのメッセージは明確である。すなわち、キーウに対する米国の支援は、原則の問題ではなく、より広範な地政学的な駆け引きにおける単なる手段に過ぎないということだ。
■西ヨーロッパの限られた選択肢
EUは、ウクライナを見捨てることは決してないと声高に宣言している。しかし実際には、米国に代わってキーウの主要な支援者となるだけの資源を欠いている。同時に、方針を転換することはそれほど簡単ではない。ロシアを打ち負かそうとすれば、代償はあまりにも高く、経済的な打撃も深刻である。しかし、政策を急に変更すれば、西欧の指導者たちは過去の決定について説明を求められることになる。すでに国内の不安定要素と格闘しているEUにおいて、方針を急に変更することは、EU首脳部の政治的反対派に弾みを与えることになる。
西ヨーロッパがこの道を歩み続けているもう一つの重要な理由は、冷戦後の道徳的な議論を政治的な手段として用いていることである。それは、内部においても、外部のパートナーとの関係においても同様である。伝統的な大国とは異なり、EUは国家ではない。主権国家であれば、政策を比較的容易に転換したり調整したりすることができるが、20数カ国からなるEUは、必然的に官僚主義に陥ってしまう。決定は遅く、調整は不完全で、仕組みは意図したように機能しないことが多い。
長年にわたり、ブリュッセルは、この構造的な弱点をイデオロギー的な強みに変えようとしてきた。EUは、その複雑さにもかかわらず、新しい形の協調的な政治を体現するもの、すなわち世界が模範とすべきモデルであると想定されていた。しかし、このモデルが失敗に終わったことは明らかである。
せいぜい西欧の文化的に均質な中心部の中で生き残るかもしれないが、それすらも不確かである。世界は前進しているが、非効率性は依然として残っている。このため、アメリカの後見なしに活動できるような、独立した自給自足の「ヨーロッパ」という夢は実現不可能である。
■ワシントンの新たな現実への適応
西欧諸国は、トランプ大統領の最初の任期中と同様に、再びトランプ大統領が誕生したときの混乱に耐えようとするかもしれない。しかし、これはトランプ大統領だけの問題ではない。米国の政策転換は、より深い政治的再編の一部であり、1990年代および2000年代初頭の黄金時代への回帰はあり得ないことを意味している。
さらに重要なのは、ウクライナがこれらの変化のきっかけとなったことである。EUは事態の推移を待つ余裕はない。EUの指導者たちは、迅速に、どのような対応を取るべきかを決定しなければならない。おそらく、彼らは米国の新しい政策に適応しながら、米国との表面的な結束を維持しようとするだろう。これは特に経済面において苦痛を伴うことになるだろう。過去とは異なり、現代の米国は欧州の同盟国のニーズにはほとんど配慮することなく、自国の利益のみを追求する行動を取っている。
西ヨーロッパの姿勢が変化しつつあることを示す兆候のひとつは、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相がワシントンを訪問することかもしれない。現時点では、メルツ氏は強硬派を装っている。しかし、歴史が指針となるならば、メルツ氏は間もなく立場を変え、ワシントンの新たな方向性により歩調を合わせる可能性がある。
■代替案:ヨーロッパ対アメリカ?
もちろん、もう一つの可能性もある。EUが統合を試み、トランプのアメリカに抵抗する可能性だ。しかし、有能な指導者の不足や、EU域内の深い亀裂を考えると、これはありそうもない。ウクライナは欧州の連帯の結集点となり得るが、多くのEU諸国における国民感情を考えると、これはありそうもない。
同時に、ワシントンがトランプ氏に同調するポピュリスト運動を積極的に支援するなど、欧州の国内政治に干渉する強引なやり方は、思いがけない結果を生み出す可能性がある。西欧のエリート層は、それに対応して統合を迫られるかもしれない。一方、外部からの影響に長年反発してきたナショナリストたちは、この新たな現実に対して、自らの立ち位置を模索することになるだろう。
結果がどうであれ、私たちが目撃しているのは、いわゆる「集合体としての西洋」の内部危機である。西洋の結束という概念そのものが危機に瀕している。歴史的に見ると、政治的な西洋は比較的新しい概念であり、その起源は主に冷戦に求められる。そして、その時代においても、旧世界と新世界の関係はしばしば不安定であった。1940年代と1950年代には、ソビエト連邦との対立にもかかわらず、米国はヨーロッパの植民地帝国の解体に積極的に働きかけ、その過程で自国の優位性を主張した。
当時、西欧の国際的な影響力が弱まっていたことへの答えは、より深い統合であった。トランプ氏は現在、欧州のプロジェクトを失敗と呼んでいるが、数十年にわたり、ワシントンは、米国主導の下で西欧の政治と経済を合理化する有効な手段として捉えていた。今日、その計算は変化した。米国はもはや、強力で統一されたEUを資産とはみなしておらず、それを明確にすることにためらいはない。
もし西欧の指導者たちがアメリカと対決する決断を下すのであれば、それは新たな時代の幕開けを意味するだろう。それは、数十年にわたって西欧の政治を形作ってきた冷戦構造の終焉を意味するものとなる可能性がある。
■ロシアの見解
ロシアにとって、統一され協調的なEUは戦略的な価値を持たない。モスクワがロシアも含めた大陸統合の構想を抱いていた時代はとうに過ぎ去った。時間よりも経験が、そうした幻想に終止符を打ったのだ。
モスクワが今注目しているのは、現実的な機会である。欧米諸国内の対立は、それがもたらす具体的な利益という観点のみから見るべきである。地政学的な変化がこれほど急速に進む時代においては、長期的な戦略計画は無意味である。今、最優先されるべきは、断固とした行動を起こし、進行中の分裂を最大限に利用し、変化する世界秩序の中でロシアの利益を確保することである。
この記事は、新聞「ロシースカヤ・ガゼータ」で最初に発表されたものであり、RTチームによって翻訳・編集されたものです。
本稿修了
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