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WSJとブルームバーグ報道は、安定した
中国・インドの国境緊張を煽る意図あり

胡西鈞 環球時報 2021年7月3日
WSJ and Bloomberg reports intend to stir tension
on stable China-India border

By Hu Xijina Global Times

翻訳:青山貞一 (東京都市大学名誉教授)
 独立系メディア E-wave Tokyo 2021年7月11日

 

中国-インド

解説:中印国境紛争の場所と経緯はこちら


本文

 金曜日のウォール・ストリート・ジャーナルは、「中国とインドは、紛争中の国境に数万人の兵士と高度な軍事機器を送り込んでおり、この地域での部隊配備は数十年ぶりの高水準に達している」と伝えた。

 1週間も前にブルームバーグは、インドが 「少なくとも5万人の追加兵力を国境に振り向けた」とし、中国に対する「攻撃的防衛」を実施しており、これによりインド軍は「中国を攻撃して領土を奪うための選択肢が増える」と述べていた。

 しかし、私の理解では、中国とインドの国境地帯の全体的な状況は安定している。最近、双方ともに現状を打破するような特別な軍事行動はとっていない。双方とも軍隊の移動や訓練・演習を行っているが、いずれも数回の交渉を経て形成された国境地域の一時的な管理の枠組みに影響を与えていない。


 中国側では、軍事展開は比較的安定した段階に入っており、中国は強さに基づく戦略的・戦術的イニシアチブを取るための確固たる足場を持っていると確信している。

 中国はこの地域で軍事的な動きをしているが、それはどちらかというと、前線から後方への兵力のローテーションである。このようなローテーションは、前線の部隊の戦闘力を維持するだけでなく、より多くの中国軍を演習させることになり、中国の全体的な軍事建設に資するものである。

 1年以上の交戦期間を経て、中国はインドの挑発行為に対抗し、その衝動をより抑制することで成熟してきた。インド側は、人民解放軍の強さと、中国の領土防衛の意志を認めている。これまで、インド側はしばしばわが国の軍隊の能力を過小評価し、中国は挑発されても武力行使ができない、恐れている、したくないと思い込んでいたが、その評価はこれ以上ないほど間違っていた。

 中国は、中国とインドの国境地帯が長く安定することを望んでいる。インドに攻撃を仕掛けるつもりはない。インドが冷静さを保ち、中国を積極的に挑発しない限り、平和は保証されるだろう。

 ブルームバーグやウォール・ストリート・ジャーナルの報道を見て、彼らの誇張した表現は、中国とインドの国境地帯の緊張を煽り、紛争を引き起こすことを意図しているのではないかと思う。

 今、アメリカが最も望んでいるのは、中国とインドの対立を引き起こし、2つの大国がお互いに消費し合い、自分たちアメリカ人がその恩恵を受けられるようにすることなのである。

 しかし、インド過激派が叫んでいるにもかかわらず、インドは国家として、中国と国境地帯で長期にわたる激しい対立をする余裕がないことを理解していると思う。侵食ルートの失敗後は、平和で安定した中印国境を必要としている。これにより、インドの過激派に乗っ取られてしまうのだろうか。乞うご期待である。



解説:中印国境紛争の場所と経緯

 青山貞一

 
以下は主に中国とインドが接する中印地域を示す。赤色が中国、濃い緑色がインドである。


中印国境:Source:Wikimedia Commons CC 表示-継承 3.0, リンクによる

中印国境紛争は、主にカシミールとその東部地域のアクサイチンおよびラダック・ザンスカール・バルティスターンとブータンの東側東北辺境地区(後のアルナーチャル・プラデーシュ州)で激しい戦闘となっていた。


中印国境紛争が起きている(起きていた)主な場所・地域
出典:グーグルマップより青山が作成

経緯と現在

2003年にアタル・ビハーリー・ヴァージペーイー首相は中国を訪問、中国はシッキムをインドの領土と承認する代わりに、インドはチベットを中国領と承認することで、江沢民国家主席と合意。シッキム(上記地図参照)はネパールとブータンの間の山岳地域。

2005年、マンモハン・シン首相と温家宝首相の間で「両国が領有を主張する範囲の中で、人口密集地は争いの範囲外」とする合意がなされ、両国にとって戦略上重要とされるアルナーチャル・プラデーシュ州、特にタワン地区は現状を維持している。

なお現在カシミールの東部地域のアクサイチンアクサイチンは中華人民共和国が実効支配している。日本の学校教育用地図帳では、両国主張の境界線を併記した上で地域は所属未定とする手法がとられている。

2010年9月2日、インド東部のオリッサ州政府は、同国中央政府の国防関係者の談話として、同国が開発した中距離弾道ミサイル「アグニ2」(核弾頭の搭載が可能)の改良型実験に成功したことを発表した。「アグニ2」の射程は2000キロメートルで、改良型の「アグニ2+」は2500キロメートル。

これまでにインド国防部関係者は「アグニ2」や短距離弾道ミサイルを、中国との国境地帯に配備するとしている]。また、インド政府関係者は2010年3月に発表した国防計画に絡み、「2012年までに、中距離弾道弾による防御システムを完成。対象は中国とパキスタン」と発言した。

中国メディアは脅威が高まったとの認識を示し、中国社会科学院・南アジア研究センターの葉海林事務局長は、インドが中国を主たる対象として核ミサイルの開発と整備を進めているとした。

現在、「アグニ2」を中国の経済発展地域に可能な限り届かせるため、国境近くに配備しているが、開発中の「アグニV」の有効射程は5000 - 6000キロメートルとされ、インド国内のどこに配備しても、中国全土を攻撃することが可能で、脅威はさらに高まるという。また、インドとパキスタンは潜在的な敵対関係にあるが、パキスタンを念頭に置くならば、「アグニV」のような射程が長いミサイルを開発する必要はないとも主張した。

2013年4月15日、中国軍は中国側で野営地を設営した。インド軍も中国軍の野営地近くに部隊を派遣しにらみ合いを続けていたが、同年5月5日までに両国が共に部隊を撤収させることで合意し、同日中に両軍とも撤収を始めた。

2017年6月16日、中国軍がドグラム高原道路建設を始めたため、ブータンの防衛を担当するインド軍が出撃する。工事を阻止しようとするインド軍と中国軍はもみ合いになり、インド側の塹壕二つが重機で破壊されている。

以降は工事が停止し、二か月にわたりにらみ合いとなる。同年8月15日インド・カシミール地方パンゴン湖北岸の国境にて中国軍兵士はインド兵士と投石などの小競り合いが起きて両軍兵士達が負傷している。

 注)パンゴン湖
   下図のように、パンゴン湖は、ラダックの南東にある湖
   
   出典:グーグルマップ

その後両軍は陣営に戻り、以降は沈静化した。同年8月28日にはドグラム高原でにらみ合いの続いている両部隊を撤退させることで合意し、両軍とも部隊を引き上げるとインド当局が発表する。しかし中国外交部は撤退するのはインドのみであり、規模は縮小するものの中警備を継続すると発表している。

 注)ドグラム高原
    下図のように、ドグラム高原はカシミール、ラダックの西、
    パキスタン東部、タジキスタン南部にある地域。
   
   出典:グーグルマップ

2020年5月9日、シッキム州の国境付近で中印両軍の殴り合いによる衝突が発生した。インド紙ヒンドゥスタン・タイムズは、中印軍の総勢150名が関与し、中国側7名とインド側4名の計11名が負傷したと報じている。

2020年7月27日、インド、レディフ・オンラインサイトにおいて、モディ首相は中華人民共和国と「戦争はしたくない」との報道をしており、その後、中国の習近平とモディ首相の会談が行われている。

主な出典:Wikipedia