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米国はなぜ、20世紀最大の対ロシア専門家のNATO拡大に関する助言に耳を傾けないのか?
 「NATOを拡大することは、冷戦後の全時代において、米国政策における最も致命的な誤りとなるだろう」ジョージ・ケナンはこう語った

Why isn’t America listening to the advice
on NATO expansion of its foremost 20th century
expert on Russia? “Expanding NATO would be
the most fateful error of American policy
in the entire post-Cold War era,”George Kennan said

RT 
22 Feb, 2022

翻訳:池田こみち(環境総合研究所顧問)
独立系メディア E-wave Tokyo 2022年2月25日
 

ファイルの写真。ジョージ・ケナン© ゲッティ・イメージズ / ベットマン
資料写真. George Kennan. © Getty Images / Bettmann

著者:ロバート・ブリッジ
 アメリカの作家、ジャーナリストである。著書に『真夜中のアメリカ帝国 企業とその政治的下僕はいかにしてアメリカンドリームを破壊しているか』がある。@Robert_Bridge


本文

 スターリン政権下のソ連を鋭く観察した米国の外交官ジョージ・ケナンは、後年、NATOの拡張問題に関して、次のような見解を示している。現代の悲劇は、その見解が無視されつつあることだ。

 かつてウィンストン・チャーチルは、「アメリカ人は、他のすべての可能性が尽き果てた後になって、やっと正しいことをするのだ。」と辛辣に皮肉った。

 この辛口のユーモアは、現在のウクライナ危機の核心を突いている。この危機には、近隣諸国のかなりの部分を崩壊させるに十分な地政学的なダイナマイトが搭載されている。しかし、もし西側諸国がロシアへの無謀な軍拡に関して、一流の政治家一人の忠告を聞いていたならば、今日の世界はもっと平和で予測可能なものとなっていただろう。

 ジョージ・ケナンは、1946年2月22日にモスクワのアメリカ大使館からワシントンへ送られた5400語の電報「長電報」を作成したアメリカの外交官、歴史家として最もよく知られている人物だろう。

 ヘンリー・キッシンジャーが「彼の時代の外交ドクトリン」と賞賛したこの分析的な一撃は、最終的に「トルーマン・ドクトリン」に明記された、ヨシフ・スターリン率いるソ連と取り組むための知的基盤を提供するものであった。

 しかし、1949年、病弱なジョージ・マーシャルに代わって、よりタカ派のディーン・アチソンが国務長官を務めていた権力中枢では、ケナンと資本主義の宿敵に対する彼の穏健な考え方は、すでに賞味期限切れになっていたのである。

 このように、運命とは気まぐれなもので、世界の舞台でたった一人の新しい役者が登場するだけで、歴史の流れが一変してしまう。こうしてトルーマン政権で影響力を失ったケナンは、やがて高等研究所で教鞭をとるようになり、2005年に亡くなるまでその任にあった。しかし、ケナンが国務省を離れたからと言って、彼が肉食獣を苛立たせることをやめたわけではない。

 1997年、中部ヨーロッパ諸国、特にかつてソ連時代のワルシャワ条約機構の中核をなしていた国々のNATO加盟に向け、ワシントンの妖精たちが懸命に動いていた時、ケナンは警鐘を鳴らしたのだ。ケナンは『ニューヨーク・タイムズ』紙に寄稿し、NATOのロシアへの拡大について「冷戦後、アメリカの政策において最も致命的な誤りであろう」と警告した。

 この元外交官にとって特に不可解だったのは、共産主義の廃墟の上で資本主義の激しい産みの苦しみを味わっていたロシアが、自分以外の誰にも脅威を与えない時期に、アメリカとその同盟国が軍事ブロックを拡大していたことである。
 
 ケナンは、「ロシアが、その行政権が極めて不確実で、ほとんど麻痺状態にあるときに、このような挑戦に直面するのは、......不幸なことである」と書いて
いる。

 「冷戦の終結がもたらした希望に満ちた可能性」にもかかわらず、東西の関係は「起こりそうもない将来の軍事衝突」の際に、「誰が誰と同盟を結ぶか」という問題を前提になりつつある」と彼は不満を表明しているのである。

 つまり、西側の夢想家が自然に物事を解決させていれば、ロシアと西側は比較的調和した形で共存する意志と方法を見出していたはずである。

 そのような相互協力の一例が、モスクワとベルリンの二国間プロジェクトであるNord Stream 2パイプラインであり、何よりも信頼と好意が重要なのである。資本主義がエリート主義者の略奪のための十分な機会を国内に提供しているのに、誰が戦利品を求めて世界中を旅する必要があるのだろうか。

 しかし、米国は、長い間、権力そのものとして鼻息を荒くしてきたので、ロシア人とヨーロッパ人が仲良く遊んでいる光景に満足することはないだろう。

 ロシアはといえば、NATOの拡張主義を「軍事的共犯関係」として受け入れざるを得なくなり、「自分たちの安全で希望に満ちた未来の保証」を他所に求めざるを得なくなる、とケナンは続ける。

 ケナンの警告が聞き入れられなかったのは言うまでもない。1999年3月12日、地政学の権威で究極のロシア嫌いであるブレジンスキーの信奉者であるオルブライト米国務長官(当時)は、旧ワルシャワ条約機構のポーランド、ハンガリー、チェコを正式にNATOに迎え入れたのだ。

 1949年以来、NATOは当初の12カ国から30カ国に増え、そのうちロシアと国境を接するエストニアとラトビアの2カ国は、過去に大規模なNATO軍事演習の場となったことがある。

 米国がケナンの忠告を守っていたら、ロシアと西側諸国の関係はどうなっていたかは分からないが、モスクワとNATOの対立の中心となっているウクライナをめぐる地域紛争の崖っぷちに立たされていないことは確かだろう。

 NATOの軍備が国境に向かって容赦なく移動しているため、ロシアは、より危険を感じている(安全とは感じていない)のは間違いない。15年前のミュンヘン安全保障会議では、プーチンが出席者にこう語っている。「NATOの拡大は、同盟自体の近代化やヨーロッパの安全保障とは何の関係もないことは明らかだろう。それどころか、相互信頼のレベルを低下させる深刻な挑発行為である。そして、この拡張は誰に対するものなのか、問う権利がある。」と

 現在、キエフはウクライナのNATO加盟を積極的に推進していることもあり、西側諸国は12月にワシントンとNATOに送られた2つの条約草案に示されたモスクワの宣言した「レッドライン」を頑なに拒絶しているため、状況は厳しいと思われる。

 しかし、西側諸国が理解しなければならないのは、ロシアはもはやほんの20年前のような貧しく困窮した国ではないということである。ロシアは、外交面であれ何であれ、自国の脅威を認識し、それに対処する能力を持っている。NATOのヨーロッパでの無謀な拡張を見習い、ロシアが南米やカリブ海で軍事同盟を構築するという話もある。

 先月、ラブロフ外相は、プーチン大統領がキューバ、ベネズエラ、ニカラグアの指導者と会談し、軍事面を含むさまざまな分野で協力関係を強化することを報告した。

 (ワシントンが)ケナンの地域協力に関するより現実的なビジョンを受け入れていれば、今日のような危険な岐路に世界は立たなかったであろうことは、日を追うごとに明らかになりつつある。幸いなことに、もしワシントンが本当に平和を望んでいるのであれば、米国の優秀な外交官の助言を再考する時間はまだ残っている。