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映画『ダーウィンの悪夢』
について考える(6)


阿部 賢一

2007年4月7日


12. タンザニア ムワンザ

tanzaniamap.bmp - 352214 Bytes

出典:http://www.angelfire.com/bug/fisheries/

上図はタンザニア全図である。右端がインド洋、そこに、商都(旧首都)ダルエスサラーム(人口2497,940)、中心部のドドマ(Dodoma) が現在の首都(人口1698,996)、そして、図の上部にあるのが、映画『ダーウィンの悪夢』の舞台、ヴィクトリア湖畔のムワンザ(Mwanza)(人口2942,148)、タンザニア第二の人口である。図の右上、ケニアとの国境にあるのがアフリカ大陸最高峰キリマンジャロ(5,895m)である。

( )内の人口は駐日タンザニア大使館の数字*である。2002年統計資料で、それぞれのRegion()の人口と推察される。現地紙によれば、ムワンザ市の人口は約50万である。

* http://www.tanzaniaembassy.or.jp/

タンザニアの2006年推定総人口は37,445,392人である。この国におけるエイズによる死亡が極めて多いことに留意しなければならない。その結果として、寿命が短く、幼児死亡率および全体の死亡率も高い。そのため、人口増加利率は低く、年齢や性別による人口構成に変化(不均衡)をきたしている。

成人のエイズ罹病率8.8(2003年推定)、エイズ患者数160万人(2003年推定)、エイズ死亡者数16万人(2003年推定)、と、エイズの影響はきわめて深刻である*

出典:World Factbook 2007 

https://www.cia.gov/cia/publications/factbook/geos/tz.html#People

一人当たりの国民総所得(GNI)330米ドル(2005年:世銀資料)、一日1ドルにも満たない最貧国のひとつである。周辺諸国も同様な状況におかれている。なぜ最貧国なのかはグローバリゼーションのせいばかりではないだろう。

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筆者はタンザニアには行ったことがない。一昨年の世界一周航海の途上、2005227日早朝、隣国ケニアのモンバサ港に到着。上陸して、オプショナル・ツアーに参加、国道1号線をナイロビに向かってドライブ、150km地点でTsavo National Park-Westに入り、ゲームドライブを楽しんで50km奥に入り、夕方近くKilaguni Safari Lodgeに到着、壮麗なキリマンジャロの陰に沈む美しい夕日を眺めることができた。ホテル支配人は「キリマンジャロが眺望できるロッジはここだけで、しかもめったにその全姿を見ることはできないので、幸運に恵まれましたね」と、観光客を喜ばせるのが上手だった。翌朝、キリマンジャロには雲がかかってその雄姿を残念ながら見ることができなかった。

キリマンジャロから想像するのは、山頂付近の氷河の後退と、美味しいコーヒーであるが、ケニアを数百キロドライブした経験からみて、タンザニアもケニア同様の大地溝帯の自然地形・条件であるに違いない。

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下の図画がムワンザとヴィクトリア湖岸である。

出典:http://encarta.msn.com/map_701514910/Mwanza.html

そして、ムワンザ市中心街のラウンドアバウト(日本ではロータリーという)である。英国植民地はどこへ行ってもこのラウンドアバウトが多い。その名残である。

http://www.darwinsnightmare.net/

(2) ムワンザの水産加工業者

 ムワンザの水産加工業の成長に伴う経済の活性化について、現地紙の特集記事*があるので、それを下記に抄訳した。

現在、ムワンザで操業している水産加工会社は4*(Mwanza Community サイトでは9社となっている。大手輸出関連会社ということであろう)。そのすべてはケニアのビジネスマンの所有であるが、もともとは当地に移住してきたアジア人(インド系、印僑)で現在は三代目である。

* Omega Fish, Mwanza Fish, Nile Perch, Vicky Fish, Tanzania Fish Processing Limited.

ムワンザの水産加工業による魚類の輸出で年間1億ドルの売り上げをあげている。そして、ムワンザ市の人口50万人の中で、直接雇用4,000人、間接雇用10万人の雇用を生み出している。ムワンザには漁業免許を持つ漁民が10万人いる。

ムワンザに水産加工業があるお陰で、建設業、燃料関係ビジネス、不動産業など他の経済活動も発展してきた。

2006PPF(公的基金)がキセケ(Kiseke)に住宅286戸を建設、さらに1,140戸の住宅建設が計画されている。

PPFが急激に成長するムワンザ市中の事務所スペースの不足を解消すべく9階建のオフィス・ビルを建設中*で、2006年末までには完成するほか数ヶ所でビルが建設中である。ホテルその他観光関連施設も多くなってきており、ムワンザ地域は、ダルエスサラーム、タンガ、アルシャ・キリマンジャロ地域に次ぐ第4番目の納税額で国家財政に貢献している。

* Daily News August 26, 2006

タンザニア人に嫌われている脂っこいアカメ近隣種ナイル・パーチ(現地語でsangara)*は、海外では需要が多く、タンザニア政府はこの魚を海外市場向け、国内市場向けにはティラピアやイワシなど他の魚種を当てる方針を取っている。

* 全長193cm、体重200kgの記録がある大型魚。

アフリカ熱帯域の塩湖、汽水域に分布する。

  出典:ウィキペディア

水産加工産業者は、ヴィクトリア湖で獲ったナイル・パーチを切り身にする。そして、残ったアラ(頭と骨部“mapanki”)は水産加工業者にとっては、当初、廃棄物でしかなかった。ヨーロッパ市場では切り身は売れるがアラは売れないからである。

マパンキの干し場














http://www.dailynews-tsn.com/page.php?id=3000

水産加工業者がアラをゴミとして、当初、郊外に捨てていたが、腐敗したアラの悪臭がゴミ捨て場の環境破壊をもたらした。魚のエラは現地に生息する鳥ハゲコウの好物である。(ザウパーの映画で、アラ乾し場で狙っていたあの鳥であろう。)

しかしながらニャモンゴロ(Nyamongolo)(骨場)の起業家が、この厄介モノのマパンキの活用法を見出し、アラ(残魚肉)に脂肪質があることに目をつけ、それらを乾物にしてフライにするビジネスを始めた。そして骨部分については魚粉原材料として、養鶏飼料への需要があることが分かり、マパンキの加工場がつくられた。

厄介者の廃棄物は、このようにして、魚の燻製化、ナイル・パーチ脂肪油を材料にした魚のフライ、そして骨部分は魚粉飼料となった。

* Mwanza fish industry creates over 100,000 jobs

http://www.dailynews-tsn.com/page.php?id=3000

Daily News; Thursday,August 24, 2006

(3) アルファ・グループ/アルファ・中東会社*

* http://www.alphamiddleeast.com/index.htm

 現在ドバイに本社のあるアルファ・グループは、1906年、印度からケニアに移住してきたクルジ一族(Kurji family)の初代カリム・クルジ(Karim Kurji)がケニアのナイロビに会社をつくって事業を始めた。現在では、その三世代目がオーナーとなりグループを経営しており、水産物の購入と販売で年間9千万米ドルの売上高をあげる。

ナイル・パーチの加工・輸出の他に、インド洋で獲れる海老、ロブスター、イカ、タコその他様々な海産物の加工・輸出も手がけており、スリランカにも進出している総合水産物大手業者である。ナイル・パーチの最大手の加工業者のひとつである。(これらの海産物は日本にも輸出していると同社HPに書かれているので、同社にとって日本はお得意様であるに違いない)

ムワンザのTanzania Fish Processing Limited.はドバイに本社のあるAlpha Groupの水産加工部門系列で、ケニアのキスムにナイル・パーチ統括部門*がある。

* East African Sea Food Ltd (Kisumu, Kenya) ? Nile Perch Division

同社は、ヴィクトリア湖を取り囲む参加国にナイル・パーチ加工その他の水産加工プラントを展開している。

Tanzania Fish Processors Ltd (Mwanza, Tanzania)

Musoma Fish Processors Ltd (Musoma, Tanzania)

Uganda Fish Packers Ltd (Kampala, Uganda)

Masese Fish Packers Ltd (Jinja, Uganda)

同社は、ヴィクトリア湖におけるナイル・パーチ加工・輸出から、世界的な水産業者に規模を拡大して来たようである。

(つづく)