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映画『ダーウィンの悪夢』
について考える(9)


阿部 賢一

2007年4月17日


16      テレビ朝日の番組

 テレビ朝日の『素敵な宇宙船地球号』第427回放送*(2006430)で、ヴィクトリア湖が紹介された。

*「外来魚は警告する Vol.1」〜巨大魚が食べ尽くした湖〜

[427] 2006430 23002330 放送http://www.tv-asahi.co.jp/earth/index.html

残念ながら、筆者はこの番組を観ていない。

上記サイトの番組紹介を読むと、外来種ナイル・パーチのヴィクトリア湖への放流による湖畔の人々の生活の光と影、湖畔周辺への人口集中による湖畔背後地の自然破壊、下水等の遅れに伴う湖の水質悪化などの環境問題を追った番組のようである。

この撮影クルーを現地でフォローした根本利通氏の報告が下記のサイトにある。

"Darwin's Nightmare" ダルエスサラーム通信第49(200651)

 ダーウィンの悪夢 根本 利通(ねもととしみち)http://jatatours.intafrica.com/habari49.html

以前は毎週夕方欠かさず観ていた『素敵な宇宙船地球号』番組もここ数年夜の11時台の番組となってからは全く観ていない。限られた日数と費用で効率化を図るのか、最近の番組にはどうも迫力を感じない。

TV撮影クルーと現地関係者の間を取り持った根本氏も、ザウパーの映画『ダーウィンの悪夢』後遺症で、現地でのクルーとの打ち合わせ、現地側関係者との折衝に相当に苦労したようである。

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まだ海外旅行もあまり一般化していなかった時代に牛山純一の「美しい世界旅行」シリーズというドキュメンタリー番組があった。海外志向だった筆者は毎週楽しみにして観ていた。

その再放送をしばらく前にNHKBS番組でやっていた。毎回、牛山純一氏の解説・回想があり、撮影エピソードなども紹介されていた。カメラマン等スタッフの地域専任とその長期担当、現地への長期滞在、現地住民との交流の密度を深めてゆく姿勢や意気込みは素晴らしかった。最近はこのような丁寧なドキュメンタリーはすっかりなくなってしまった。

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17 タンザニア政府のザウパーへの公開状

すでに、映画『ダーウィンの悪夢』について考える(2)の中の【5.貨物機は何を積んでくるのか?】の文中に、キクウェテ・タンザニア大統領が、2006731日、ムワンザの会議で演説して、ザウパーの映画『ダーウィンの悪夢』を批判したこと、そして、2006813日に、タンザニアの外務大臣の映画『ダーウィンの悪夢』を批判したこと、などについて現地紙の記事を紹介した。

タンザニア政府は、映画『ダーウィンの悪夢』で示された悪いイメージを払拭するのに懸命である。

タンザニア政府が、映画制作者ザウパーに対して、公開(質問状)を出したことがわかった。

そのタンザニア政府資源観光省の公開(質問)状が2006819日のPREWEB*に掲載された。

* The Truth On Hubert Sauper’s "Darwin’s Nightmare" Filmhttp://www.prweb.com/releases/2006/8/prweb426136.htm

多分これは、現地紙[Citizen]9頁に掲載されたものと同じものと推察される*

* The Sea Around Us Project Newsletter, Issue 36 ? July/August 2006

フランス駐在のタンザニア大使館のHPにも同様の内容がアップされている。

これらは、ザウパーがパリ在住のジャーナリストであること、フランスにおいて、2005年に映画『ダーウィンの悪夢』の上映開始後、一時期、ナイル・パーチ不買運動が起こったので、その悪いイメージを払拭するために取った対外公館活動の一端を示すものである。

日本駐在タンザニア大使も上映映画会社に申し入れを行ったことはすでに述べた通りである。

その公開(質問)状を邦訳した。

筆者がこのような政府の公開(質問)状を邦訳するのは初めての経験であり、用語の選び方や訳し方に間違ったところがあるかもしれない。その点は御了承いただきたい。

ザウパー氏への公開(質問)

ザウパー氏が製作した『ダーウィンの悪夢』は、一見の価値があるとして注目を集めた。

非常に悲しいことだが、この映画の被写体となっている人々およびこの映画によってその生活に計り知れないほどの影響を受けた人々は、自分たちの考えを表明することは出来なかった。

映画は、その題名が示しているように、巷に広く行きわたっているストーリーであり、それも毎日のごとく増幅されているものである。そしてまた、今日も、ソマリア、スーダン、シエラレオネ、ニジェール・デルタ、コンゴ民主共和国(旧ザイール)などについて、同じことを書かれているアフリカについてのお定まりの情報のイメージにぴったりである。

しかし、アフリカには別の顔がある。前進し、自らを信頼し、人々の生活を良くしようと欲しているアフリカ人がいる。「ダーウィンの悪夢」(粗雑にドラマ化された)が語ろうとさえしなかったまったくほんとうのストーリーがある。

そのストーリーとは、ヴィクトリア湖周辺の漁業および水産加工産業である。

タンザニアでも、東アフリカでも、この映画が間違って描いているイメージに憂慮しており、ヴィクトリア湖地域の住民に対して持つであろう、その否定的なイメージを憂慮している。

それゆえ、我々は、ザウパー氏及び世界の人々には以下のような経済的社会的な見方をして頂きたい。

まず、第一に、

タンザニアのヴィクトリア湖畔における漁獲量は、年間、約475,400トン、そのうちナイル・パーチは約125,000トン、水産加工場では、そのうち輸出用に80,000トンを加工する。残りの45,000トンと他の魚類350,400トン、合計395,400トン(総漁獲量の83)は国内で消費されている。

ナイル・パーチ以外の主要な魚類としては、ナイル・ティラピア、20,500トン、イワシ228,200トン、ハプロクロミス(シクリッド)100,300トンである。

タンザニア政府は、国内の魚類蛋白源を確保するため、ナイル・パーチ以外の魚類の輸出を許可していない。

輸出向けのナイル・パーチ以外はすべて国内消費用に回されている。したがって、国内消費向けの魚が不足(欠乏)しているとの映画の主張は、まったく真実ではない。

第二に、

ナイル・パーチはナイル河下流から持ち込まれた一つの種であり、1990年代初期にヴィクトリア湖において優勢となった。それ以前、漁民は約30,000人であった。しかし、水産加工が始まって、漁民は約100,000人に増え、それにパートタイムの漁民、300,000人、水産加工業に従事する者が、4,000人となった。

水産加工産業は乗数効果をもたらし、全体で約二百万人の雇用を生み出した。それらは、漁船の建造や修理、魚網巻上げ装置その他機器類の製造や修理、食べ物売り、飲料水、魚類の陸上輸送、鉄道や空港従業員など広い範囲に及ぶさまざまなビジネス活動などをすることによって人々の暮らしが成り立つようになっている。

第三に、

ナイル・パーチ加工工場にナイル・パーチを売る漁民の日常の浜先売渡価格は約1.4米ドル/kg、ティラピアは0.5米ドル/kg、イワシは0.2米ドル/kgである。

漁民は全体としてナイル・パーチを売ることで12,764万米ドル、その他の魚類を売ることで17,986万米ドルの収入を得ている。

タンザニアは、ナイル・パーチの輸出で年間、1億米ドルの外貨を稼いでおり、政府は、集落レベルから都会にいたるまでさまざまな税収入を得ている。これらの資料を見れば、地元漁民たちの方が輸出業者よりも多くの収入を得ていることは明白である。

第四に、

タンザニアは、ヴィクトリア湖のほかに多くの水資源に豊かさに恵まれている。タンガニーカ湖、ニアサ湖(マラウィ湖)、その他多くの小さな湖沼群、河川、淡水湿地帯、そしてインド洋等。それらの水域からも年間10万トンもの漁獲高がある。

第五に、

タンザニアでは、かなり多くの畜産が営まれており、牛その他の家畜類約1,000万頭、その多くはヴィクトリア湖及びそれを取り囲む盆地で飼育されている。

漁業が行われていて、魚類を食べている湖岸や海岸から離れた地方の町や村では、家畜類は長い間、伝統的な動物蛋白源となってきた。

これまで述べてきたような事実をふまえて、ザウパー氏や世界のメディアには、アフリカに対する肯定的かつ現実的なイメージを持ってもらいたい。

(1)   ヴィクトリア湖地域及び我が国全域における食糧として国内で取引されている魚の量は、他の発展途上国の標準よりも多い。それゆえ、ナイル・パーチ貿易が食糧危機をもたらしているという主張は、現実に合ってはいない。

(2)   タンザニア経済においては、単独で漁業や水産加工産業があるわけでなく、ナイル・パーチ貿易をみるように、きわめて短期間に、巨大な雇用機会を創造し、社会の最底辺の人々に至るまで所得配分をもたらした。これらの事実は、貿易が貧困をもたらしたという主張を全面的に否定するものである。

(3) 国家として、タンザニアは売春行為を非難する。しかし、売春行為は、タンザニアに限ったことではなく、社会的な悪徳であり、世界中どこでも見られることである。

(4) HIV/AIDSの流行は、ナイル・パーチ貿易がまだ始まる十年以上も前にヴィクトリア湖の西側の地域で当初猛威を振るったが、現在では国全体に広がっている。

そして政府はHIV/AIDSの拡大を食い止めようと懸命に闘っている。それゆえ、HIV/AIDSはナイル・パーチ貿易となんら関係がないことであり、ザウパー氏が個人的な金稼ぎのために、このような切迫した国家的かつ世界的な社会疾病を利用することは、まったく社会的倫理に反することである。

(5) ナイル・パーチの肉身部分を切り取った残りの部分(頭部と骨)を人々が食べるという否定的な見方は、明らかに、アフリカについての否定的なイメージを長く続けさせようとするザウパー氏の意図的な悪意である。

ちっと才覚のある男なら、三十分もすれば、切り身を取ったナイル・パーチの残りの大部分は、燻製などにしないで、近隣諸国への地域間貿易商品となることを学ぶことが出来るだろう。

(6) ナイル・パーチの切り身の空輸と武器の密輸の連鎖もまた、ザウパー氏の悪意のある意図を立証するものである。ザウパー氏は、ナイル・パーチ貿易が始まる前、近隣諸国の政治情勢の不安定が長い間つづいたことを良く知っている。加工された魚の大部分が先進諸国の市場へ速やかに配送するために航空便で輸出されていた。

これらの航空機をチャーターするは、ベルギーのオステンドに本拠のあるチャプマン・フリーボーン社など信望のある会社である。タンザニアの加工業者は、魚を海外に輸送する航空機をどれにするのかの選択権はない。航空機はヨーロッパの会社が契約を結ぶ。魚を空輸するその同じ航空機がアフリカ各国間の一般航空貨物の輸送や、パキスタン、スーダンのダルフールなどのような国々の戦争や災害の犠牲者向けの救援物資の輸送にも使われる。

(7) ザウパー氏は、貧困とホームレスの人々は、漁業資源を輸出した直接の結果生じたものであると、それとなく示している。このような人間的悲劇は、ヨーロッパの都市なども含めて、この地球上のほとんどの場所でみられること、そして、たとえあったとしても、何か特定の産業と関連付けられることは極めてまれであることは多くの人々にとっては明らかなことである。映画は、魚のヨーロッパへの輸出とアフリカへの武器の輸入の間には密接なつながりがある、別の言い方をすれば、ヨーロッパは、戦争をだらだらと続けさせて、アフリカの漁業資源その他の資源を奪っているという、間違った方向に観客を導く。

(8) 最後に、映画には、ヴィクトリア湖を取り囲む多くの漁業を生業としているコミュニティーのシーンもなく、それらにも触れていないが、それらのコミュニティーは、盛んになった漁業や魚の輸出のおかげで人々の生活が改善されていることが見て取れる。漁業を生業としているほとんどの集落は、映画において描かれたシーンよりもはるかによい状況である。しかし、小さなグループに的を絞れば、その彼らの生活環境はひどい状態であり、到底受け入れがたいものであることも我々は認める。

ザウパー氏は、ヴィクトリア湖の漁業や水産加工業が数十万の人々にもたらした多くの利益、地域における貧困との闘いの中でなされた改善への前進、そして、外国からの援助にその一部を依存していた我が国の経済にもたらした大きな利益などについては、意地悪く観客の眼をふさぐ。

最後に、我々はこれまで述べてきた情報は、ザウパー氏が彼自らのストーリーを語る権利を、いずれにしても、決して妨害することを意図するものではない。それよりも、これまで述べてきたことが、ほんとうのストーリーであり、我々の思いを伝えたい人々だれでも、自らの目でそれらを確かめることが出来るものである。

もう一つ、ヴィクトリア湖漁業機構とIUCN連名のザウパーへの公開質問状*にアクセスできた。

タンザニア政府の公開(質問)状とほぼ同じ内容の部分もある。ザウパーの取材の一端も垣間見ることが出来るし、漁業とその輸出、それによるコミュニティーに生じた変化を淡々と述べており、ザウパーのアフリカを見る視点を、ヨーロッパ人がアフリカに対して持つステレオタイプなイメージであると批判している。

Lake Victoria Fisheries Organization, PO Box 1625Jinja, Uganda

IUCN Eastern Africa Regional Office, PO Box 68200 Nairobi 00200, Kenyahttp://www.iucn.org/en/news/archive/2005/12/Sauperletter.pdf

ヴィクトリア湖漁業機構とはLake Victoria Fisheries Organization((LVFO)*のことである。
* http://www.lvfo.org/

LVFOはヴィクトリア湖の漁業資源を共同で管理する必要があるということで、東アフリカ共同体を構成する、ケニア、タンザニア、ウガンダの三国が1994年に署名した国際協定にもとづいて組織された研究機構である。

その目的は、ヴィクトリア湖を取り囲む三カ国の盆地からの社会経済的な利益を最適なものとするために、ヴィクトリア湖の生物資源の持続的利用のための調和、開発、自然保護管理策の導入などを目的としている。

ウガンダのエンテベに漁業訓練研究所、タンザニアのムワンザに漁業研究所、ケニアのキスムに先端技術研究所を設置している。

紹介するのは、Mr. Thomas Maembe (LVFO事務局長)Dr. Alice Kaudia(IUCN東アフリカ地域*)の連名でザウパー宛に出された2005118日付の公開状である。

* IUCN Eastern Africa
http://www.iucn.org/places/earo/

親愛なるザウパー様

昨年16の賞も獲得されたことで示された「ダーウィンの悪夢」の成功を、ヴィクトリア湖地域からおめでとうと申し上げます。

この手紙をさし上げるのが遅れたのは、残念ながらこの映画は東アフリカでは観ることができず、映画フィルムを探し回るのに苦労したからです。

さて、貴方の映画が作り出した幾つかの重大な誤認を指摘したいと思いまず。

第一に、

貴方が『国際自然保護連合環境会議(IUCN Ecological Congress) 』と映画『ダーウィンの悪魔』でタイトルをつけた会議は、事実は、ヴィクトリア湖漁業機構(Lake Victoria Fisheries Organization:LVFO)と国際自然保護連合(The World Conservation Union :IUCN)が共催した「ヴィクトリア湖の漁業管理についての住民参加の国際ワークショップ」でした。

貴方はこのワークショップに15分以上居られましたが、ワークショップが、実際には、地域のコミュニティーに漁業管理の責任のいくつかを委任し、それに対して報酬を与える方法を明らかにしようとしているのだということが理解できたでしょう。コミュニティーに権限を委譲することは、それですぐに貧窮軽減につながるものではないのですけれども、コミュニティーの暮らしを改善するための重要な第一歩です。

会議に出席していた政府閣僚、科学者、産業界、コミュニティー代表者たちは、ワークショップの目的、ヴィクトリア湖の漁業がタンザニアの漁民コミュニティーに与えたインパクトについての見解などを、貴方が求めれば、喜んで答えてくれたでしょう。

第二に、

貴方のドキュメンタリーは、ヨーロッパへの魚の輸出がタンザニアに貧困をもたらしていると、映画を観る人々に信じさせるように導いています。

この見方を裏付けた研究が幾つか以前にはありましたが、経済的社会的な実態ははるかに複雑であり、最近におけるより多くの研究では、この反対で、漁業が食糧の安全確保を高めており、貧困が減少してきたと報告されております。漁業のインパクトについてのヨーロッパの観客に対してもっとバランスの取れたストーリーを貴方が描けるように、専門家達はこの科学的な理解をお伝えすることが出来るでしょう。

事実、1999年から2000年にかけて、EUに対する(魚の)輸出が禁止となりました。貴方のストーリーによれば、そのためにより多くの食糧がゆきわたり、地方のコミュニティーが豊かになった、と。しかしながら、輸出禁止は地方の漁民たち、そして国民全体にも良いことではないと受け止められました。ナイル・パーチは、地方ではそんなに好かれて食べられておりません。そして、地方のコミュニティーは、それ以上に、輸出によって得られる社会的経済的な利益に頼らざるを得なくなっていました。輸出する市場がなくなったことで、多くの失業者がうまれ、収入がなくなり、地方レベルでは悲惨な状態になりました。

第三に、

地球上の人間は誰でも、自らのストーリーを語る権利があります。貴方が、主な情報源とし、それを映画全体にわたる分析に用いるために出演させた漁業調査研究所の夜警が、地域のコミュニティーにおける国際貿易や漁業などのインパクトを評価するのに、はたして、ふさわしい人物であるかどうかについては、我々は疑問を持ちます。

第四に、

貴方のドキュメンタリーは、ヨーロッパへの魚の輸出とアフリカへの武器の輸入との間に密接な関係がある、いいかえれば、ヨーロッパは、戦争をだらだらと続けさせて、アフリカの魚その他の資源を奪っているという、結論に至るように観客を導いています。

第五に、

貴方は、貧困、売春、AIDS、ホームレスなどは魚の輸出の直接の結果であることを暗示させています。そのような悲劇は、ヨーロッパの都市なども含めて、この地球上の多くの場所で見られることは多くの人々の認識となっています。

第六に、

貴方のストーリーにはヴィクトリア湖周辺の漁業を生業としている多くのコミュニティーのシーンがありませんが、それらの漁村では、漁業と輸出によって彼らの生活が改善していることが見られます。より多くのほとんどの漁村では、貴方が描いたところよりもはるかに良い状態にあるます。

ほんの小さな集落に焦点を当てると、彼らが、ひどい、到底受け入れがたい状況の中で生活しているということについては、その通りではありますが、貴方は、ヴィクトリア湖の漁業が数十万の人々に多くの利益をもたらしていること、そして地域における貧困との闘いにもたらされた多くの利益について、ヨーロッパ人の眼を閉じさせています。

第七に、そして最後に

貴方が、ヴィクトリア湖周辺の漁業管理・研究・コミュニティー開発に携わっている政府研究機関やコミュニティーからの参加者数百人のアフリカ人代表たちのだれひとりとも会話せずに、なぜ、研究アドバイザーとして会議に参加していた、たった6人のヨーロッパの研究者たちとだけ会話すことにしたか、そのなぞを解こうとしました。

その結果、我々は、貴方がヴィクトリア湖漁業についての肯定的なインパクトを無視するようなことを言ってくれそうなアドバイザーや話題を特別に選んだという以外の結論には至りませんでした。

漁業について映画で描くときはバランスの取れた公正なマナーで訴え、漁業の肯定的な面と否定的な面の両面を示す責任があることを強く感じます。

これまで指摘してきた誤りを正す意味でも、「ダーウィンの悪夢」は残念ながら良質のジャーナリズムの基準には合わないものであり、映画の売り込みを良くするために、センセーショナルなストーリーとなっているといわざるを得ません。

さらにいえば、貴方は貧困と悲惨に焦点を絞って描いており、アフリカから貧困をなくすために、ヨーロッパの政府や個人などから支援された数百万のアフリカ人の努力や成功を無視しようとしています。

報告されるべき大きな進展があります、しかし、貴方は、さらに、ストーリーのほんの一部だけを描くことにしたのではないでしょうか。貴方は、アフリカについてのヨーロッパのお決まりのイメージを確認しようと意図したのではないでしょうか。

過去数十年間にわたり開発援助投資がなされましたが、アフリカは依然として未開のままであり、白人が奪い、黒人の男や女が苦しんでいるという無法がまかり通っています。

我々は、貴方が「アフリカ市場のグローバリゼーション化」の欠陥を描こうとしたことはよくわかります。しかしながら、貴方の描いた意図に反して、ヴィクトリア湖の漁業は、決して「この大陸の人々に対する致命的な屈辱」の一例ではありません。

『ダーウィンの悪夢』の結論は、貴方がこうあるべきだとヴィクトリア湖の漁業を告発することと同様に映画そのものも正しいものではありません。

肯定的な面と否定的な面を描くバランスの取れた見方を示すことよりも、ヴィクトリア湖の漁業について暗い絵を描くことによって、貴方自身が、貴方のドキュメンタリーのなかでヴィクトリア湖の人々の悲惨さを利用した、そして、アフリカの間違ったイメージを利用した、との結論を出さざるを得ません。

敬具

 この他、タンザニア法律家協会等からも同様の批判がなされている。

LVFOの公開(質問)状で述べられているように、東アフリカでは、2005年に至っても映画『ダーウィンの悪夢』が上映されていないことがわかる。それゆえ、ムワンザなど現地の人々は映画を観ていないであろう。

 20068月、Jennifer Jacquet(フリーランスのライターで環境経済専門、ブリティッシュ・コロンビア大学漁業センターのセミナー・コーディネーターを務めている)がタンザニアを訪れて、レポート*している。

* The Sea Around Us Project Newsletter,

  Issue 36------July/August 2006

 このニュース・レターはカナダのブリティッシュ・コロンビア大学の漁業センターが出している隔月版オンライン・ニュース・レターである。

Publications: Newsletters and miscellaneous

 Fisheries Centre at the University of British Columbia, ancouver, Canada

 カナダの学者が現地訪問してレポートしているのだが、タンザニア政府に対して、チョットシニカルな見方をしている。

タンザニア政府にとって悪夢は映画であり、ナイル・パーチではない

Darwin’s Nightmare:

to the Tanzania government the nightmare is the film, not the Nile perch

(一部分の邦訳)

訪問先の漁業機関、NGO、大学などで会った人々から、映画「ダーウィンの悪夢」に対して、タンザニア政府の公開(質問)状とまったく同じ意見を何回も繰り返し聞かされた。

タンザニア大学の教授からは、あの映画は間違っている、と延々20分も講釈を聞かされたが、最後に、彼はその映画をまだ観ていないのだといった。

政府関係者は、「西欧文明は、現地コミュニティーへのナイル・パーチの利益をまだ認めようとはしていないけれども、改善の実例をひとつ示せば、ムワンザの住民の家の屋根は、以前は草葺であったが、いまでは、トタン板葺きとなっている」といった。

ある大学教授は、「漁村地域の住人には、ナイル・パーチの切り身よりもアラ(魚の頭部)の方が好まれている」といっていた。

タンザニアにおける関心は、不思議なほどにナイル・パーチに集中していて、地域コミュニティーはその恩恵を受けていると主張していた。

タンザニア政府の公開状は、武器の輸入については、ただ関係ないと述べているだけだ。

ザウパーは、映画の公開にあたって、「私は同じような映画をつくることが出来た。シエラレオネでは魚の代わりにダイヤモンド、ホンジュラスではバナナ、リビア、ナイジェリア、アンゴラでは原油だ」といった。

監督は武器取引あるいはグローバリゼーションの影響についての問題を最優先に考え、タンザニアの場合は、なんとかして、脚光を浴びているナイル・パーチとむすびつけようとしたのだ。

しかし、『ダーウィンの悪夢』の情報は、新しいものはなにもない。映画がナイル・パーチ漁業について、声を大にして繰り返し指摘した点は、すでにこれまで十五年間、科学文献となっていくつもある。生態環境の破局については、その社会的な重大さがよく知られていることである。

研究者たちは、著名な科学誌等で、ナイル・パーチを通じての外貨獲得が食糧安全確保に優先し、その結果、ヴィクトリア湖盆地コミュニティーの蛋白性栄養不良を引き起こしていると述べている。研究者たちは、さらに、AIDSの蔓延の原因となった漁民の移入についても議論しているが、映画では、科学研究文献にない論争を引き起こした。

 タンザニア政府は『ダーウィンの悪夢』を大きな転機ととらえた。

政府は、グローバリゼーションによってもたらされた不平等を強調するためにはこの映画を利用するのが良いと考えて、貿易改革を強調し、西欧世界からの援助を要求するだけでなく補助金を削減しようとしているのだ。

そのかわり、映画の出演者を困らせて、監督をけなした。『ダーウィンの悪夢』はタンザニア政府のものになったのである。

 (つづく)