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公共工事の諸問題

その11(2)
建設業者過剰供給構造の改革
~『建設産業政策2007』を読んで~


阿部 賢一

2007年11月10日


5. 公共工事の生産システム(入札制度)の規制と改革について
建設業界に対する公的規制・保護の存在は、競争を制限するための法律が数多く制定されてる。それらは、建設業界のすべての企業がつつがなく生存し続けるためのシステムである。規制改革の必要性があっても、一旦手に入れた既得権を誰も手放さない。我が国得意の内輪の「和」のシステムを維持するためである。規制・保護に伴う許認可権限によって所轄官庁の権限が強化される。そのための人員の配置が必然的に生じて、官庁組織の肥大化を招く。役人が多すぎるとの批判を受けて派生して公益法人が乱立され、官僚の天下り先の確保となる。

許認可を得た業者は「安定」を得ることで「安住」体制に浸る。その結果、所轄官庁と業界の利益は守られるが、当初、意図されたかもしれない国民の利益は、いつの間にか失われ、国民の損失となる。グローバリゼーションによって、我が国力は国際的な競争力を失い、低下を招き、国家衰亡に道を辿る。

我が国では規制改革と言っても、先進諸国で言う規制撤廃(Deregulation)を、規制緩和と意訳*して、緩和という漠然としたニュアンスを蔓延させ、実際には遅々として進まない。

英文和訳に注意------必ず原文(英文)に当たる
deregulate----to remove national or local government controls or rules form (esp. business activity) Cambridge International Dictionary of English
remove:撤廃する、排除する
英和辞書でもderegulationを「規制撤廃、規制緩和」としているが、撤廃と緩和が区別されていないことはおかしい。

我が国の官庁用語におけるこれまでの意訳の一端の代表例を挙げれば、Structural Impediment Initiative(SII)(構造障壁協議)を日米構造協議、外貨のhighly significant decrease(極めて大幅削減)を「十分に意味ある黒字削減」などと当局者達は意訳した。規制緩和なども典型的な意訳を行っている。
 日米防衛指針(ガイドライン)では、joint(共同)が最終的にbilateral(双務的)に変更されたのに、日本文では「共同」のままであったり、ensure(保証する)を「確保する」、logistic support(兵站)を「後方支援」、リア・エリア・サポートrear area support(軍隊などの最後尾)を後方地域支援などと、関係者は日本語訳文作成に当たり、相当なエネルギーを使って邦訳(意訳)に苦労していることを見抜く必要がある。


1) 中央建設業審議会
中央建設業審議会は建設省の審議会として、昭和24年設立。
その目的は『「建設業法」、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」等に基づき、(1)経営事項審査の項目と基準について、(2)建設工事の標準請負契約約款について、(3)公共工事の入札・契約に関する「適正化指針」について、審議を行う』である。

審議にもとづいて、入札改革についての「建議」を行い、国土交通省(旧建設省)はこの「建議」に基づく入札制度の改革を進めてきた。-------[図-8]

[図-8] 中央建設審議会「建議」の主要項目
(1) 昭和62年8月、中央建設業審議会建議
「共同企業体の在り方について」

(2) 平成5年12月、中央建設業審議会建議 
「公共工事に関する入札・契約制度の改革について」
*******
大型工事には一般競争入札、中小工事は透明性の高い公募型指名競争入札の導入等が提案され、これを受けて国においては、平成六年度より一般競争入札及び公募型指名競争入札等が行われている。

(3) 平成10年2月、中央建設業審議会建議
「建設市場の構造変化に対応した今後の建設業の目指すべき方向について」
主な内容
◆多様な入札・契約方式の導入~技術力による競争の促進~
① 入札時VE
② 契約後VE
③ 技術提案総合評価方式
④ 設計・施工一括発注方式
◆ 入札・契約手続の透明性の一層の向上策
① 経営事項審査の結果の公表
② 資格審査・格付けの結果の公表
③ 予定価格の事後公表
*******
一般競争入札が価格のみの競争から、多様な入札・契約方式の導入により、技術力の競争を促進するため、入札時・契約後のVE(Value Engineering)や、総合評価方式、設計・施行一括発注方式などにつての試行が開始された。
さらに透明性を高めるため、発注者側情報の公開の促進が図られた。


国所管の公共工事については、[図-8]に要約した「建議」項目に対して、国土交通省(旧建設省)はさまざまな試行措置を講じたり、情報公開に努めてきた。

EUでは、欧州公共調達規則/指令[EU Public Sector Procurement Rules/Directives]、米国では、連邦政府調達規則(Federal Acquisition Regulation: FAR)(各州はそれに付加する形での州調達規則)が、国のみならず地方公共団体に至るまでの公共調達規則として、公共事業の調達に適用されている。
我が国では、中央官庁の公共事業調達は財務省所管の「会計法」、地方公共団体の公共事業調達は総務省所管の「地方公共団体法」にもとづいて行われており、二本立てである。

「会計法」は戦前の会計法を基本的に継承して現在に至っている。「まさに古色蒼然たる」といつも枕詞がつくものである。それを関係法令の「拡大解釈」で提言や実態との辻褄合わせをおこなってきた。
会計法では「一般競争」が原則である。その例外規定を適用していつの間にか常態化したのが「指名競争」入札である。

また平成12年成立の「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(入札契約適正化法)、平成17年成立の「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(公共工事品確法)などにより、国土交通省は「中建審建議」に応えるべく、財務省と相談しながら、世の中の要請や実態にあわすべく多様な入札方式の試行を続けてきている。
「会計法」自体が実態とは乖離していることを如実に示すものである。

「指名競争」入札の弊害が世間で指摘され、最近では「一般競争」入札にもどってってきているが、会計法の原則に戻ったに過ぎないのであり、改革でも何でもない。

筆者は十数年来、欧州公共調達規則や米国連邦政府調達規則(多様な入札方式が規定されている)のように、現在及び将来を展望した我が国の多様な公共調達の選択肢を広げ、明快かつ透明性を高めるような公共物品・工事・業務(EUではSupplies、 Works、 Servicesについての公共契約指令がある)についての総合的な法体系をつくるべきだと提案してきた。我が国の建設業界も関係識者も同様である。しかし、財務省や総務省はいまだに古色蒼然たる「会計法」「地方自治法」をいじくりまわしている。
それゆえ、指名競争入札、随意契約、予定価格、低入札価格調査制度(国)や最低制限価格制度(地方公共団体)などがいつまでも問題になるのである。

2) 「行政改革委員会」最終意見
平成6年11月成立(同年12月施行、平成9年12月失効)の「行政改革委員会設置法」*に基き設置された規制緩和・官民の役割分担の見直し等を審議した「行政改革委員会」最終意見(平成9年12月12日)では、公共工事に関しての七項目[図-9]についての検討がなされた。

*役人たちの行政改革嫌いを反映してか、わずか三年間の時限法であった。テロ対策法期限切れでおたおたしている政治家や役人たちは、既得権益の絡む法律の時限化、期限切れを嫌がるが、法律はすべて、本来、期限を明確に設定し、延長する場合の条件設定も厳密にすべきである。

[図-9] 公共工事における規制の検討七項目
今後の対応
ア 自動落札方式による入札・契約制度についての見直し

国の場合には会計法、地方公共団体の場合には地方自治法に、それぞれ基づき、最低の価格で申込みをした者を落札者として契約の相手方とする「自動落札方式」を原則としている。このため、欧米諸国で主流になっている、技術力や品質を加味した「総合評価方式」は例外的な場合に限定されている。
地方自治法及び同法施行令には、落札者の決定に当たり価格以外の要素を考慮に入れることができる規定がないため、地方公共団体においては、公共工事の入札において総合評価方式を導入できる仕組みがない。地方公共団体の実態は多様であり、中には総合評価方式を行えるだけの十分な体制にないものもあるとの意見があるが、審査に当たって技術的能力を有する民間事業者等を活用するなどの方策により対応は可能である。

イ 入札方式等についての見直し
工事着工前の資格審査の強化、ボンド制度等の適切な活用、工事着工後の施工過程での的確な監督その他の事後的なチェック、不良工事に対するペナルティ、総合評価方式の円滑な実施等、不良不適格業者の排除と品質確保のための方策及びその事務量の軽減方策など、行政コストを抑える体制・方策を整備することにより、一般競争入札方式の採用の対象範囲の拡大は可能である。

ウ 予定価格制度についての見直し
現実には、(予定価格を)業者が公表されている積算基準に従って積算しているため、多くの業者の予定価格の予想に大差が生じない場合が多いことは考えられるが、競争が働くなら価格が高止まりすることは考えにくい。談合の存在こそが予定価格直下での落札が多いことの根本原因である。積算基準の公表等により、予定価格はかなりの精度で類推可能であり、事後的にも予定価格を秘密にしておくことのメリットは小さい。
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落札の実態を公にして第三者による監視を容易にし、不自然な入札を行いにくくするという考え方は十分考慮に値する。
また、予定価格の事後公表には、発注者がコスト縮減努力をしているか、コスト縮減に反することをしていないかについて、納税者等が関心を持ち、監視することを可能とする条件を整えるというメリットがある。公共工事の発注においては、事業の効率的執行の要請の一方、例えば地元業者の優遇というような効率性とは別の要請が強く働くことがしばしばである。公共工事の発注者がこのような立場に置かれていることを考えると、競争性の確保には透明性の一層の向上が不可欠であり、予定価格の事後公表はそのための有力な手段である。
なお、予定価格を事後に公表する場合には、予定価格に関する情報が入札以前に漏洩することのないよう、情報管理の徹底に万全を期するとともに、談合その他の不正行為の監視・取締体制の抜本的な強化を図るべきである。また、予定価格が事前に公表されれば、事後公表とは異なり、談合による価格つり上げを助長するとともに、業者の積算努力を損なうとの意見があるが、予定価格の事前公表を行う場合には、予定価格を探るための社会的に無駄なコスト、あるいは不正な活動を防止できるという効果が期待できる。
なお、予定価格は、本来発注者の経費見積りであり、かつ予算上の制約からくる契約価格の上限にすぎないものであるにもかかわらず、予定価格に現状のように重大かつ硬直的な役割を負わせる結果、たとえば、予定価格と落札価格に差が生じることは、予定価格作成がずさんであった証しだと批判されたり、予算を使い残したとして次期の予算査定において減額の根拠とされるというイメージが定着して、経費節減の誘因を発注者から奪っている点にも注意を要する。

-----(下線追加は筆者)

エ 低入札価格調査制度及び最低制限価格制度についての見直し
低入札価格調査制度に関しては、中長期的には、総合評価方式の導入、資格審査の強化、履行保証市場の活性化等を漸次実現していく過程において、その在り方を見直していくべきである。
当面は、地方公共団体における審査体制の整備等の条件整備を進め、最低制限価格制度から低入札価格調査制度に移行すべきである。最低制限価格制度については、地方公共団体における審査体制の整備等の条件整備及び低入札価格調査制度への移行の状況を踏まえつつ、廃止の方向で検討すべきである。また、低入札価格調査制度を採用する場合には、調査の結果を公表すべきである。

オ ランク制及び経営事項審査制度についての見直し
中長期的には、競争性を高める観点から、工事の技術的難易度の適切な反映、多段階に分かれているランクの統合等、ランク制の在り方について見直しを行うべきである。

カ 官公需施策、共同企業体制度その他の中小建設業対策についての見直し
行き過ぎた中小企業者向け発注を誘発することで、真面目に働く中小企業者の受注機会を奪うことのないよう、中小建設業を含めた中小企業の高度化、効率化等の観点に立った、より合理的な官公需施策、共同企業体制度等の在り方を、今後の長期的な検討課題とすべきである。
 ----
当面は、官公需施策に関しては、官公需法の本来の趣旨を再徹底するため、同法の運用面で改善を図っていくべきである。具体的には、公共工事の効率的な実施を常に念頭に置きつつ同法を運用していくことを宣言するべきである。また、たとえば、各発注機関は、分離・分割発注を行う場合にはコスト増加とならないことを前提とすること等の厳正な方針を契約方針に掲げるとともに、契約方針において、地方公共団体に対し、中小企業者の受注機会の増大の名の下に行き過ぎた施策がとられないよう要請すべきである。また、共同企業体制度の運用に関して、制度の本来の趣旨を周知徹底し、入札・契約の手続の透明性を確保していくべきである。さらに、地元中小建設業者への受注配分の弊害のあらわれのひとつとして、いわゆる上請け・丸投げがある。上請け・丸投げの排除を図るため、実態調査の実施、発注者支援データベースの活用等による入札・契約手続の早い段階からの配置予定技術者の確認、施工体制台帳の活用やその情報公開の検討、その他実効ある排除措置の検討等の措置を講じるべきである。
*******
この他に履行保証制度については、これらの前段の(1) 現行制度の現状と問題点において、工事完成人制度の廃止に伴い、銀行等の金融機関による金銭保証、履行保証保険、履行ボンドがある。履行ボンドについては損害保険会社以外についてもみとめるべきであること、一般競争入札への不良的各業者の参入を排除する方策として、応札者の実質的な事前審査の役割を果たす入札ボンド制度の導入を十分検討する必要がある、と述べている。

出典;行政改革委員会最終意見(平成9年12月12日)


ながながと行政改革委員会最終意見を引用したが、それまでの報告書・提言とは一味違った価値ある最終意見であった。
政府はその前後に以下のような施策を実行している。
「公共工事の入札・契約手続の改善に関する行動計画」(平成6年1月)
「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」(平成9年4月) (平成9年度~平成11年度の三年間)
「公共工事コスト縮減対策に関する新行動指針」(平成12年9月)
 (目標期間:平成12年度から「行政コスト削減に関する取組方針」の最終年度である平成20年度末)

3) 公正取引委員会「公共調達と競争政策に関する研究会」報告書
公正取引委員会は「公共調達と競争政策に関する研究会」(以下、公取研究会という)を平成15年6月に設けて、公共調達の入札・契約制度等に関する課題を抽出し、公共調達における競争性の徹底を目指して、その改善のための方策について検討を行ってきた。そして、同年11月、最終報告書『公共調達における競争性の徹底を目指して』(以下、公取研究会報告という)*を公表した。
* http://www.jftc.go.jp/pressrelease/03.november/03111801.pdf

最終報告書第三部(22~36p)の項目・要旨は[図-10]の通りである。
[図-10] 公共調達における競争性の徹底を目指して
     第三部 公共調達における競争性の徹底を目指して(提言)


1 基本的な視点
(1) 競争性の確保の必要性
(2) 現状の問題点
ア 入札・契約における競争の実効性確保
(ア)会計法令等の関係から、原則として価格を評価要素として契約者が選定されている。
  高度な技術力を要する案件等では、価格のみを評価要素として契約者を選定することは困難である。
(イ)地域振興・中小企業対策その他の政策目的、小規模市町村等における発注者の体制が不十分で、発注者側において工協調達における競争性を徹底できない場合がある。
  イ 入札談合に対する発注者としての厳正な対処
    入札談合に対する発注者の対応に差異があると共に適切な対応のノウハウがあるかという問題がある
 (3)「競争」の在り方の見直し

2 競争に付すべき案件についての入札方式の在り方
(1) 競争性の高い一般競争入札の適用範囲の拡大と適切な参加資格の決定
(2) 指名競争入札の対象範囲の限定と用件の明確化

3 中小企業の受注機会拡大・地域振興のための発注方法等と競争性の確保
(1) 競争性の確保の必要性
(2) 中小企業の受注機会拡大・地域振興のための個別の方策と競争性の確保
ア 地域要件の設定
イ 共同企業他
ウ 分割発注、ランク制
エ 地方公共団体による公共調達における地元業者の下請使用や地元産品利用の要請

4 複数年度継続案件に対する国及び地方公共団体の債務負担行為の活用

5 随意契約の取扱い

6 価格以外の要素も含めた多様な評価基準に基づく契約者選定方式の必要

(1) 競争入札における総合評価方式の活用の促進
(2) 会計法令における現在の枠組
現行会計法第29条の6第2項*において、価格以外の条件についても競争の要素とすることができるとされている。
----総合評価方式については、当初技術評価点を入札価格で除算する方式、いわゆる除算方式によって行われていたが、技術評価が全体の評価に十分反映されず質の高い調達が行えないとの指摘があり、情報システムにかかわる政府調達制度においては、技術評点と価格評点とを1:1で加算した総合評価点が高いものを落札者とする、いわゆる加算方式による評価を行うこととされている。
*会計法と予決令の該当規定
(会計法)
第29条の6 (略)
② 国の所有に属する財産と国以外の者の所有する財産との交換に関する契約その他その性質又は目的から前項の規定により難い契約については、同項の規定にかかわらず、政令の定めるところにより、価格及びその他の条件が国にとって最も有利なもの(同項ただし書きの場合にあっては、次ぎに有利なもの)をもって申し込みをした者を契約の相手方とすることができる。
(予算決算及び会計令)
第91条 (略)
② 契約担当官等は、会計法第29条の6第2項の規定により、その性質又は目的から同条第1項の規定により難い契約で前項に規定するもの以外のものについては、各省各庁の長が財務大臣に協議して定めるところにより、価格その他の条件が国にとって最も有利なものをもって申し込みをした者を落札者とすることができる。


(3) 今後の対応
今後一層総合評価方式の採用を進めていくことが必要
イ ①価格と品質の比重の数値化、②品質の考慮要素及びそのウェイト付けの適切な評価方法を確立し、標準的な調達対象についてガイドライン等を定めて透明性の確保が必要である。
 ウ 現行会計法下において、価格以外の条件も競争の要素とすることは、原則的な落札方式の補完という位置づけである。将来的には、価格以外の要素も含めた多様な評価基準による契約者選定方式を価格による選定方式と同等に位置づけ、発注者が案件の内容等に応じて契約者選定方式を採用できるよう検討がなされる必要がある。
(4) 競争的交渉方式の導入の検討
発注機関の技術的ノウハウの不足により、あらかじめ詳細な使用を明らかにして入札に付することが困難な案件や、事業者の発意による技術提案を極力活用することが適当な案件については、複数の事業者を選んで提案を行わせ、発注者がそれぞれの事業者と個別に交渉を行うにより最適契約者を選定することがVFMを得られると考えられるので、その導入を検討する必要がある。そのため会計法において明確に位置づけることの検討を行う必要がある。

7 民間の技術力の活用
(1) 設計段階からの事業者の関与の明確化
(2) 入札段階・施行段階における事業者からの技術提案の受付

8 不服申立制度の整備・拡充
(1) 不服申立制度の整備・検討の必要
(2) 今後の対応
入札監視委員会等独立性の高い第三者機関の充実。会計検査院が苦情処理に当たることは適切である。

9 品質の確保
(1) ダンピング防止
 ア 現行の低入札価格調査制度や最低制限価格制度を適切に活用することが重要である。
   最低制限価格制度については、最低制限価格の適切な設定と、低入札価格調査制度への移行を進めることが適当である。
 イ 採算を度外視した極端な安値受注が繰り返され、他の事業者の受注機会が得られないなどにより競争事業者の事業活動を困難にさせる恐れがある場合には、独占禁止法上の不当廉売として、公正取引委員会は厳正に対処していく必要がある。
(2) 入札ボンド制度の導入

10 発注担当部局に対するコスト削減のためのインセンティブの付与
(1) インセンティブの付与の必要性
(2) 今後の対応
 ア インセンティブを付与するための具体的な検討の必要性
 イ 事前の目標設定と事後の厳格な評価の実施
 ウ 複数の地方公共団体の公共調達の状況を比較してその情報を公開し、非効率なものがないかチェックできるような仕組みが有効である。
 エ コスト削減に努めた発注担当者への表彰制度の検討

11 入札談合に対する取組
(1) 談合情報に対する発注機関の対応
(2) いわゆる官製談合の防止
(3) 公正取引委員会との連携の強化
(4) 入札談合に対する発注者における適切な対処
  各地方公共団体による指名停止措置のばらつきがある。損害賠償請求が必ずしも積極的に行われているとはいえないので、適切な活用が望まれる。


公取研究会のメンバーは、十四名。学者、建設業界、発注者などが参加しており、オブザーバー四名は、内閣府、経済産業省、国土交通省、大学講師である。

国土交通省所管の中央建設業審議会(中建審)の建議などよりも、検討課題が多岐にわたり、提言も具体的である。これまで公共工事についての中央省庁所管の研究会等の提言は、省庁縦割り行政のためか、検討課題に対する深みも提言も不満足なものが多かったのと対照的である。
会計法の古色蒼然さも、この報告書ではっきりと指摘されている。

平成18年(2006)年1月4日、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律」(改正独占禁止法)が施行された。
同法律は、(1)課徴金算定率の引上げ、(2)課徴金の適用対象範囲の明確化・拡大、(3)課徴金減免制度の導入、(4)犯則調査権限の導入、(5)罰則規定の改正、(6)審判手続等の改正、等を行ったものである。
これにより、繰り返されてきた談合に対する課徴金などの行政制裁措置が強化された。

大手建設業界はこのビジネス環境の変化を敏感に反応した。平成17年(2005年)12月29日、ゼネコン大手4社(鹿島、大成、大林、清水)が、平成18年(2006)年1月4日の改正独占禁止法の施行と同時に法令順守(コンプライアンス)を徹底し、入札談合と決別することを申し合わせていたとの報道があった。
そして、土工協は、平成18年(2006年)3月に設置した「透明性ある入札・契約制度に向けた対策会議」がまとめた「透明性ある入札契約制度に向けて―改革姿勢と提言」を公表した。その中で強調されたのが、入札談合等の「旧来のしきたり」からの訣別宣言である。提言としては、公共工事から談合を誘発する余地をなくすための入札・契約制度改善策として、「調査・計画・設計段階での建設業者の役割の適正化」「JVによる事業実施方式の適切な運用」「複数年にわたる工事の適正な執行」などである。

長年続いてきた公共工事の談合問題も、公正取引委員会の積極姿勢による「課徴金算定率の引上げ」「課徴金の適用対象範囲の明確化・拡大」「課徴金減免制度の導入」で一気に消滅の方向に進んでいる。

4) 大手建設三団体の提言
建設業界側はそれ以前にも、入札契約制度の改革について、各種審議会、発注者側の研究会、協議などで提言を行ってきた。
社団法人日本建設業団体連合会(日建連)、社団法人日本土木工業協会(土工協)、社団法人建築業協会の業界大手三団体は連名で、『公共工事調達制度のあり方に関する提言-「技術力の活用」を通じた「競争性の確保」のための仕組みづくり-』(平成16年9月)を行っている。
その要旨は[図-11]の通りである。

[図-11] 『公共工事調達制度のあり方に関する提言-「技術力の活用」を通じた「競争性の確保」のための仕組みづくり-』(2p)

改善方法の提案
■技術力の活用
【法令の範囲内で改善可能な事項】

①総合評価落札方式の改善(総合評価管理費の適切な計上、技術評価点の配点の増大、加算方式の採用)
②設計・施工一括発注方式の改善と積極的な採用(予定価格算出根拠の明確化、発注者サイドの要求の明確化、総合評価落札方式の併用、リスク分担の明確 化・適正化、技術提案資料作成費の負担区分の見直し等)
③工事の発注規模・単位(年度または工区)の大型化

【法令の改正を要する改善事項】
①総合評価落札方式の改革(予定価格の制約性がない規定の設定、または落札価格を制約しない予備積算的な価格の設定)
②設計・施工一括発注方式の本格的な導入(予定価格の制約性がない規定の設定、または予定価格の設定そのものを行わない基本設計段階からの参画)
③「交渉(確認)方式」の導入

■競争性の確保
【法令の範囲内で改善可能な事項】

①適切な競争入札参加者の選定(技術力重視の企業評価制度の推進ならびに第三者による審査の強化(現行保証制度の見直し、入札ボンドおよび瑕疵保証制度 の導入))
②応札者に対する入札前技術ヒアリングの実施(技術力の確認)

【法令の改正を要する改善事項】
①応札者に対する入札後技術ヒアリングの実施(技術内容の的確性を確認のうえ、最終的な契約者を決定)

■その他の改善事項
①随意契約・VE方式の効果的運用の推進およびCM方式の適切な活用
②地域振興・中小企業受注機会拡大のための施策などの行き過ぎた運用の是正
指名停止措置、損害賠償予定条項等、発注者により異なる基準の統一、その他。

新たな公共工事調達制度に向けて
「技術力の活用」を通じた「競争性の確保」を実現するためには、予定価格制度を前提としない制度の導入、多様な入札・契約方式の本格的な適用を含め、「公共工事調達特別措置法(仮称)」のような新法の制定が必要である。


公取研究会の「最終報告書」と建設業界大手三団体の「提言」はほぼ同じ内容であり、いずれも現行会計法の限界を指摘すると共に、現在、我が国公共調達に求められている「競争」によるVFMの追及と、入札・契約方式の多様化の要請に対して、「会計法」の見直し、公共調達新法の制定を求めている。

5) 財務省財務総合政策研究所「日本経済の効率性と回復策に関する研究会(Ⅱ)報告書
もう一つ財務省財務総合政策研究所の「日本経済の効率性と回復策に関する研究会(Ⅱ)(以下、財務省研究会(Ⅱ)という)の報告書を紹介する。
平成13年6月27日に公表された「日本経済の効率性と回復策-制度依存的経営から挑戦的経営へ-」*である。
* http://www.mof.go.jp/jouhou/soken/kenkyu/zk036a.htm

九十年代に入り我が国経済の成長率が長期的に低下して、経済の構造改革の重要性が指摘された。
日本経済の効率化を妨げている要因について研究を進め、平成12年6月に自動車などの8業種に関する報告書をまとめた。それに引き続き研究会(Ⅱ)では、食品、薬品、医療、建設、住宅、電力の6業種についての効率化、コスト削減を妨げている要因を明らかにして検討をまとめた。
6業種に共通するのは、非効率を形成する要因が人為的な制度にあることに着目して、そのような制度の改革とオープン化への対処の遅れにあるという視点に立って検討をまとめたものである。
建設については、『第4章 建設-国際競争力強化のためのインフラ整備を-(泉田成美 72-88p) 』に報告されている。その項目・要旨は次の通りである。-----[図-12]

[図-12]
『第4章 建設-国際競争力強化のためのインフラ整備を-』
我が国の公共事業において、個々の事業者に対して効率的な事業活動を行うためのインセンティブを付与するという視点が欠けている上に、経済の効率性を高めるためのインフラ整備というよりも、景気対策・雇用対策・中小企業対策・地域活性化を目的とした公共事業が行われている。

1. 建設業の内外価格差調査の概観
 (1)建設省内外価格差研究会による公共土木工事の内外価格差の比較(1994年12月)
 (2)日建連による民間工事の内外価格調査(1997年3月)
 (3)OECDによる内外価格差、購買力平価調査(1980年-1993年)

2. 生産性と価格上昇率、利潤の関係
  公共土木工事において、公的規制・公的保護の存在や談合によって競争メカニズムが働かず、自由な参入と競争が妨げられているために、高価格と高利益率が容易に維持されうる状況にあると推定される。土木工事業者で利益率が高いのは資本金5、000万円から1億円程度の業者である。この規模の業者の平均的な従業員数は40人程度、地方公共団体発注の公共工事で一番うまみのある規模だといわれる層に対応している。資本金10億円以上の大企業の利益率は高くない。日本の公共土木工事において、大企業はそれほど儲からず、中小業者が儲かるようなシステムが存在していることを示唆している。

3. 土木工事業が非効率である原因
 (1)受注調整(=談合)の常態化
 (2)景気対策・雇用対策・地元中小企業保護対策としての公共事業政策
  官公需法による地方公共団体発注の公共事業における地元企業の優先と分割発注
  指名競争入札におけるランク制の導入がこの傾向に拍車をかけた。
  自治体発注工事では、地元業者保護の名目で、指名競争入札における地域要件の強化が進んだ。過度の分割発注や日本型JV(大手ゼネコンと地元業者を組み合わせるジョイント・ベンチャー)の発生。過度の分割発注によるコスト増。大手への丸投げ。資材の購入を地元業者に限定することによる資材価格の割高。建設作業員の地元住民優先による労務費の押し上げ。
 (3)公共工事発注制度の問題:地方公共団体の能力、監督権限のミスマッチ
  公共工事の発注件数の70%以上、発注金額の60%近くを地方公共団体が占める。
  官の技術的優位性が崩れている。正確な工事図面・仕様書作成や工事費積算に対する地方公共団体の技術者の質量の絶対的不足と受注側の手伝い等による談合の温床化。新技術・新工法に対する発注者の評価能力不足。技術革新へのインセンティブが阻害されている。

4. 公共工事と日本経済の効率性改善に向けて:政策スタンス転換の必要性
 (1)政策スタンスの転換の必要性:日本経済の効率性改善のための公共投資へ
 (2)過度の中小企業・自営業・地元企業保護政策からの脱却
 (3)独占禁止法の運用強化
 (4)社会資本整備の民営化の推進
 (5)ボンド付き一般競争入札制度への移行


 財務省の研究会(Ⅱ)の報告は、グローバリゼーションの荒波にさらされ停滞した我が国の経済の「競争力」を取り戻し高めるためには、公的制度の非効率性改善を強く訴えていることに特色がある。
それに比べると「建設産業政策2007」の内容が検討範囲も政策範囲も狭く、具体性に欠けている。

6) 政策、報告書、提言の比較
国土交通省(二つの「建設産業政策大綱」)[1]及び中央建設業審議会建議[5.1]と、行政改革委員会、公正取引委員会、建設大手三団体、財務省財務総合政策研究所[5. 2)、 3)、 4)、 5)]を比べると、公共工事に対する規制撤廃(緩和)に消極的な国土交通省研究会や中央建設業審議会建議などに比べて、その他の委員会・研究会及び業界大手団体の報告書等は、一様に公共工事についての規制撤廃を求めている。それは、グローバリゼーションに伴う我が国の国際競争力の回復と、規制による非効率化の排除を求めている。しかも、それらの報告書は、省庁縦割り行政の枠組みの中での検討を越えて、できるだけ具体的な現状分析と提言をしている。

(つづく)