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ディーゼル排ガス胎児に影響!?

青山貞一

掲載日: 2006.6.4


 日本では、トラックやバスなどを中心にディーゼル車が多用されている。ディーゼル車には、大別し2種類がある。直噴タイプと副室タイプである。

 下図は、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県など6都府県におけるディーゼル化率の推移を示したデータである。図よりわかるように、バスは98%超がディーゼル車、トラック(貨物車)も約70%がディーゼル車である。

 かくも日本でディーゼル車が増える大きな理由は、ディーゼル車の燃料となる軽油がガソリンに比べ2/3以下と廉価なことがある。


出典:環境総合研究所

 直噴ディーゼル車とよばれる大型ディーゼル車は一台あたり発生する汚染の量が、副室ディーゼル車やガソリン車に比べ格段に大きなことが以前から大きな問題となっている。

 下図は、東京を中心とした首都圏の大気汚染状況(二酸化窒素大気汚染NO2)を示したマップである。図中黒色は完全に基準を超えている地域、次の灰色部分も基準を超えている地域、3番目の凡例及び白色が基準値以下の地域を示している。
 
 図から明らかなように、東京都23区、横浜市、川崎市など神奈川県、千葉市など千葉県、さらに埼玉県南部地域は大幅かつ広範囲にわたり環境基準を超過している。


首都圏の大気汚染の推移  出典:環境総合研究所

 ところで自動車排ガスには、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM2.5、SPM)、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、いおう酸化物(SOx)などが含まれる。その他、ディーゼル排ガス中には、ベンゼン、ベンゾ(a)ピレンを含むPAH(多環芳香族炭化水素)など、欧米で発ガン性などの毒性が確認されている有害な揮発性有機化学物質が含まれていることもわかっている。

 ※日本ではあまり大きな問題になっていないが、欧米では、
   ディーゼル車がもたらすベンゾピレンなどのPAH(多環
   芳香族炭化水素)の発ガン性が大きな問題となっている。


 それら大気汚染物質が人間の健康にどのような影響をもたらすかだが、それぞれの物質について、国は大気汚染防止法の指定物質としており、排出基準や環境基準を設定していることからも健康への影響が懸念される、いやあることは間違いないところだ。


大型トラックのディーゼル排ガス

 数ある大気汚染物質の中でも、ディーゼル車から排出されるPM2.5、SPMなどを含む粒子、黒煙(DEP)には、以前からさまざまな疾病の原因物質ではないかと疑われてきた。にもかかわらず、それが明らかになると現在進行している多くの大気汚染裁判で国、事業者側が不利になるとして、国土交通省、道路公団、事業者そして環境省においてさえ、満足な調査研究が行われてこなかった。

 ※上記、とくに環境省がぜんそくなどの疾病と排ガスとの関係について
   行ってきた調査が不十分であることについては、青山が衆議院環境
   委員会で詳細に証言している。


 つくばにある国立環境研究所の研究員、現在、青森県立保健大学の教授をされている嵯峨井勝氏は、ディーゼル排ガス、とりわけDEPが喘息性気管支炎を発症させる原因物質であること、さらに発ガン性をもっている可能性などについて永年研究している。

(左)正常な空気を
吸わせたラットの肺
 
(右)ディーゼル
排気微粒子
(1mg/m3)を
長期曝露させ
たラットの肺
青森県立保健大学
嵯峨井勝教授提供
出典:東京都

 そんななか、2006年6月4日の毎日新聞は、ディーゼル排ガスが胎児に影響を及ぼす可能性があること、生まれてくる子供が自閉症となる可能性があることについて報じている。

 以下の記事で特に注目すべきは、ディーゼル排ガスの胎児への影響(胎児毒性)であろう。もし、ディーゼル排ガスと子供の自閉症との因果関係が認められることになると、大都市を中心に大きな社会問題化することになると想定される。

 詳細は以下の新聞記事を読んで欲しい。 



<ディーゼル排ガス>胎児に影響、自閉症発症の可能性

 毎日新聞2006.6.4 

 ディーゼル自動車の排ガスを妊娠中のマウスに吸わせると、生まれた子供の小脳にある神経細胞「プルキンエ細胞」が消失して少なくなることが、栃木臨床病理研究所と東京理科大のグループによる研究で分かった。

 自閉症では小脳にプルキンエ細胞の減少が見られるとの報告もある。ディーゼル排ガスが自閉症の発症につながる可能性を示す初めての研究として注目を集めそうだ。16日にカナダのモントリオールで開かれる国際小児神経学会で発表する。

 研究グループは、妊娠中のマウスに、大都市の重汚染地域の2倍の濃度に相当する1立方メートル当たり0.3ミリグラムの濃度のディーゼル排ガスを、1日12時間、約3週間浴びせた後に生まれた子マウスと、きれいな空気の下で生まれた子マウスの小脳をそれぞれ20匹ずつ調べた。

 その結果、細胞を自ら殺す「アポトーシス」と呼ばれる状態になったプルキンエ細胞の割合は、ディーゼル排ガスを浴びた親マウスから生まれた子マウスが57.5%だったのに対し、きれいな空気の下で生まれた子マウスは2.4%だった。

 また、雄は雌に比べ、この割合が高かった。人間の自閉症発症率は男性が女性より高い傾向がある。

 さらに、プルキンエ細胞の数も、排ガスを浴びたマウスから生まれた子マウスに比べ、きれいな空気下で生まれた子マウスは約1.7倍と多かった。

 菅又昌雄・栃木臨床病理研究所長は「プルキンエ細胞の消失などは、精神神経疾患につながる可能性がある。ヒトはマウスに比べ胎盤にある“フィルター”の数が少ないため、ディーゼル排ガスの影響を受けやすいと考えられる。現在、防御方法を研究中だ」と話している。【河内敏康】

▽橋本俊顕・鳴門教育大教授(小児神経学)の話

 最近約10年間で先進国では自閉症が増えているとみられており、海外の研究報告では生まれる前の要因が強く疑われている。その研究報告と今回の研究は一致しており、候補の一つを特定できた点で高く評価できる。今後は、ディーゼル排ガスで動物に自閉症の行動特徴が起こるのか調べる必要がある。

 <自閉症>

 言葉の発達の遅れや対人関係を築きにくいなどの特徴がある一方、特定の分野で大変優れた能力を発揮する人がいる。脳の機能障害があるとされるが、はっきりした原因は分かっていない。典型的な自閉症は日本に約36万人、広汎性発達障害なども含めると約120万人いると推定されている。