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長野県の審議会事情(5)
〜県裁量でゾンビのごとく
復活する浅川ダム〜


青山貞一

2007年12月22日



 (2007年12月21日、長野県庁3階の特別会議室で公共事業評価監視委員会の今年第3回目の委員会が開かれた。

 委員会では、「脱」ダム宣言のきっかけとなった長野市の浅川ダム建設を県が現在の公共事業評価監視委員会に一切、諮らず、いわば勝手に国土交通省に認可申請したことをめぐり大揺れに揺れた。

 以下はそれを報ずる朝日新聞記事。何と、地元新聞の信濃毎日新聞や中日新聞にはまともな記事掲載はない。

浅川ダム不審議の「理由あいまい」と紛糾
朝日新聞 2007年12月22日

 ムダな公共事業の見直しを審議する県公共事業評価監視委員会(福田志乃委員長)の今年度3回目の会合が21日開かれ、県が浅川(長野市)に建設を計画している穴あきダムについて、前回の委員会で「審議事項としない」と決めたことをめぐり、「理由があいまい」などと一部の委員から疑義が出て紛糾した。

 梶山正三委員は「ダムに頼らなくても河川改修などで洪水は防げるという判断が突然変わり、穴あきダムになった。その理由と変更のプロセスがまだ十分情報開示されていない」として、「審議しないとする根拠があいまいだ」と批判した。

 青山貞一委員は、穴あきダムがかつての多目的ダム計画と場所がまったく同じこと、県が「計画廃止」を国に正式に報告していないことなどをあげ、「旧計画が完全に消えていない痕跡がいくつもある」とし、「行政側の裁量で委員会に諮るかどうかを決めているのでは、委員会が形骸(けい・がい)化されてしまう」と述べた。

 保母武彦委員も「根拠があいまいなまま審議から外す前例を作るのは問題を残す」と話した。

 県は田中康夫前知事の「脱ダム」宣言で多目的ダム建設計画がいったん中止されたことを根拠に、村井仁知事が決定した穴あきダム計画を「完全な新規事業」と位置づけ、同委員会の審議事項ではないと主張。前回委員会ではこれを受け入れる形で「提言をまとめる」ことを決めた。

 この点にも「(委員会の正式な審議ではない提言が)県のホームページへの全文掲載など、社会的に公開されるのか」「昨年度の提言は県の判断で非公開になった」と危惧(き・ぐ)する声が相次ぎ、県側は「全文を公開するのにやぶさかではない」と約束した。(伊藤景子)

 他方、昨日(2007年12月21日)地元各紙の朝刊には以下のように、浅川ダム関連で2億5000万円の予算が付き、「脱」ダムは終わったとする大きな見出しの記事を掲載している。

 たとえば以下は中日新聞の記事である。

 同日、県庁で公共事業を評価監視する委員会で長野県土木部の”横暴”を議論しているのに、メディアは一部(朝日)の除き、委員会の取材もせず、国の補助金が付いたことを”礼賛”する記事を書いている。メディアも地に落ちたものである。最低限、知事コメントともに、公共事業を評価監視委員会委員のコメントを載せるべきではないのか?

“脱ダム予算”4年で終わる 浅川に2億5000万円
中日新聞 2007年12月21日

 20日に内示された2008年度予算の財務省原案で、県内の治水ダム事業としては5年ぶりに、浅川ダム(長野市)に事業費2億5000万円(うち国費は半分の1億2500万円)が盛り込まれた。田中康夫・前知事の県政運営の象徴だった「脱ダム宣言」による“脱ダム予算”は4年で終わった。また、道路建設や公園整備については全国枠での予算が示されたが、公共事業を全体で3%削減する緊縮財政の波の中で、県内の取り分について注目が集まる。

 浅川ダム関連は設計・調査費として盛られた。8月に国土交通省に認可された整備計画によると、千曲川との合流点から14キロ上流の予定地に、高さ53メートル、上辺の長さ165メートルのダムを築く。総貯水量は約110万立方メートルだが、通常は下部に穴が開いて水を通し、増水時だけ水をためる「穴あきダム」方式を採用。県はダムの本体工事だけで事業費約100億円を見積もっている。

 また、国直轄で伊那市で進められている「三峰川総合開発事業」には、概算要求通り5億8600万円が示された。堆積(たいせき)する砂対策の調査などを実施する予定。

 一方、事業の見直し検討中で「当面は事業促進が見込めない」とした下諏訪ダム(下諏訪町)、角間ダム(山ノ内町)、蓼科ダム(茅野市)、清川ダム(飯山市)の4事業については予算計上を見送った。

 財務省は「必要な見直しなどを行った上で、事業再評価を厳格に実施し、対応方針を決定後に補助金交付について継続か中止するか選択する」と付け加えた。

 ◇

 道路整備は全国枠で約1兆4800億円が盛られた。07年度予算と比べて3・8%の減額となり、公共事業費の縮減に連動した格好。中部横断自動車道(佐久市−静岡市)、三遠南信自動車道(飯田市−浜松市)など、県内で進められている道路整備費について個別の配分は年度末までに決まる。

 関東地方整備局長野国道事務所によると、夏の時点で約220億円の概算要求をしており、国道18号のバイパス建設と、中部横断自動車道では佐久JCT−佐久南IC間7・8キロの建設、佐久南IC−八千穂IC間14・6キロの用地買収を進める予定。

 中部地方整備局飯田国道事務所管内では、三遠南信自動車道の飯喬道路第1工区の飯田山本IC−天龍峡IC間7・2キロが来年3月に開通する見通し。08年度も引き続き、天龍峡IC以東の用地買収を進めていく予定。伊南バイパスは、15日に開通した駒ケ根工区より南側の飯島町内の4・0キロの用地買収を継続する。

 ◇

 国営アルプスあづみの公園は、都市公園事業の全国枠として1047億9000万円が盛られた。財務省の担当者によると、全体の概算要求に対して切り詰めた額の内示で、07年度予算比でも5・0%の減額と厳しい数字という。

 同公園のうち、開園しているのは南側の堀金・穂高地区の一部27ヘクタール。08年度は大町・松川地区に計画されている8ゾーンのうち、保全ゾーンと林間レクリエーションゾーンについて、開園に向けて整備したい考え。

 (栗山真寛)

◆知事「評価したい」

 来年度予算の財務省原案に関する村井仁知事のコメントは次の通り。

 「道路整備・維持管理に必要な道路特定財源の暫定税率の維持が盛り込まれたこと、医師確保対策の充実が図られたことなどを評価したい。浅川ダム建設に要する国費1億2500万円が内示され、事業を本格的に開始できる見込みがつき、流域住民の生命・財産を守ることができるものと考えている」


 国、県が巨額の累積債務を抱えるなか、ダム、道路などで国庫補助などの予算がつくことだけを報道するのが今の亡国メディアの実態ではなかろうか!

 現状追認、利権を誘導しているのは、政官業だけでない。まさにメディアや御用学者もその一員であることを立証している。利権と現状追認の「政官業学報」である。

 すでに本連載ブログの第3回目のブログで書いたように、もともと公共事業評価監視委員会の一委員だった金子慶応大学教授は、県土木部の一方的な辞任要請に嫌気をさし、今年8月下旬に委員を辞任している。これについては以下のブログを参照して欲しい。

 ◆青山貞一:長野県の審議会事情(3)〜公共事業評価監視委員会騒動〜

 本年度第3回目の委員会には途中からの出席を含め以下の委員が出席した。

 青山貞一  武藏工業大学環境情報学部教授
 石澤 孝   信州大学教育学部教授
 内山卓郎  フリーライター
 梶山正三  弁護士
 塩原 俊   環境会議・諏訪会長
 高木直樹  信州大学工学部准教授
 田口康夫  渓流保護ネットワーク代表
 中村 靖   信州新町町長
 平松晋也  信州大学農学部教授
 福田志乃  地域政策プランニング代表
 保母武彦  島根大学名誉教授
 松岡康正  長野工業高等専門学校教授
 三木正夫  須坂市長
 柳澤吉保  長野工業高等専門学校教授

 昨日の委員会では、前半ですでに委員会に諮問され現地調査を行っている道路、住宅など4件につき、評価報告のとりまとめの議論を行った。

 そして午後3時から問題となっている「浅川ダム」に議題が移った。

 第2回目委員会(所要で青山、梶山は欠席)では、県側が本委員会にまったく諮らず、いわば裁量で河川整備計画を別途有識者委員会を設置し策定、それを8月時点で国土交通省に認可申請したこととの関連で、本委員会メンバーとして政策提言することを申し合わせていた。そして提言の纏め方が議題となっていた。

 しかし、梶山委員が「ダムに頼らなくても河川改修などで洪水は防げるという判断が突然変わり、穴あきダムになった。その理由と変更のプロセスがまだ十分情報開示されていない」。浅川ダム問題をこの委員会で「審議しないとする根拠があいまいだ」と述べた。

 これに対し新年度から委員会に加わった一部委員から、その問題は前回決着したという趣旨の発言があったが、前回から今回の間に委員からの質問に事務局(長野県土木部)が回答した資料に書かれた内容を巡り、この間、長野県土木部がとってきたことに疑義、質問が集中し、本委員会で「審議しないとする根拠があいまい」なことを究明することとなった。

 青山は、この間、長野県がとった一連の行政手続がきわめて不可思議であることを具体的に質問した。すなわち、長野県はこの間、浅川ダムは以前の公共事業評価監視委員会で中止とされたことを受け、別途(新たに)河川整備計画を公共事業委員会以外の有識者を選任し策定し、それを国土交通省にこの夏に認可申請してきたと言っていた。

 しかし、配布資料を見ると、新たに認可申請した「穴あきダム」はかつての多目的ダム計画と場所がまったく同じこと、違うのは治水ダムとしていることに過ぎないこと。

 しかも配布資料からは浅川ダム関連の国庫補助申請は取り下げておらず、結果的に長野県は「計画取り下げあるいは廃止」を国に正式に報告していないことも分かった。

 すなわち、「旧計画が完全に消えていない痕跡がいくつもある」ことになる。浅川ダム事業が実質的に継続しているのなら、なぜ本件を公共事業評価監視委員会にかけないのか(諮問しないのか)が大問題となるわけだ。

 これに関し、長野県土木部からは、何と「浅川ダム事業は中止ではなく継続している」旨の回答があり、委員の多くは唖然とした。青山は長野県が「行政側の裁量で委員会に諮るかどうかを決めているのでは、委員会が形骸(けい・がい)化されてしまう」と述べた。

 国土交通省が全国都道府県に公共事業評価監視委員会の設置を実施要綱等で義務づけておきながら、自ら判断で何を当該委員会に諮問するかどうかを自治体の裁量にまかせるというダブルスタンダードを容認していることになる。

 要約的に言えば、今回の浅川ダムのように、委員会にかけると中止勧告がでる可能性がある事業案件については、別の有識者による委員会を設置し河川整備計画を策定し、国土交通省に認可申請すれば、事業は継続可能となることになる。

 調べるとこれは何も浅川ダムに限定されたことではなく、どうも川辺川水系などでも行われている国土交通省と都道府県土木部との合作によるダム建設継続のためのシナリオのようにも見える!

 長野県土木部は激しい委員からの突っ込みで立ち往生したものの、上の新聞記事にあるように、しっかり国庫補助予算はとっている。

 日本の土建国家は、利権と現状追認の新手の「政官業学報」によって健在であることが明らかになった一日であった!