与野党逆転ではじまる 日本の民主政治の夜明けG 〜国政調査権の徹底活用〜 青山貞一 掲載日:2007.8.19 |
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◆国政調査権とは 参議院選挙で野党側が大勝したことに関連し、自民・公明の与党がもっとも恐れているのは、参議院での国政調査権の発動ではないかと思う。 国政調査権は、憲法第62条に根拠をおき、「両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる」という明文規定である。 しかもこの国政調査権は、衆議院と参議院が別個に独立して行使する権利である。さらに、日本では、それらの権利の行使が委員会中心主義との関連で、各議院の委員会を通じて行使されることになる。
◆国政調査権の発動 いうまでもなく、外交委員会、防衛委員会、総務委員会、法務委員会、国土交通委員会、環境委員会などの国会における委員会は、委員長を誰が行うか、また委員の数で議案の採決が決まる。 この運営を行う議院運営委員会、通称、「議運」の委員長、理事を誰行うかも重要である。 周知のように、衆議院はもとより、参議院にあっても、委員会の委員長、理事は自民・公明の与党がとっており、各委員会の委員の数も与党が多数を占めていた。 したがって、重要な法案や国会議員がからむ不祥事との関連で、国民の立場からあるいは野党の立場から証人の出頭、証言、記録の提出などを要求する必要があっても、与党が委員会で採決し、証人出頭、証言そして記録や資料の提出の必要がないと判断すれば、それらは実現しなかった。 これらは思い起こすだけでも枚挙にいとまがない。 逆に野党議員が絡む不祥事では、与党は出頭、証言、記録の提出など採決し、結果として議員辞職に追い込まれることもあった。 私見では、国政調査権の発動は、委員会だけでなく、党派を超え、各院の本会議でも採決できる。 しかし、日本ではあくまで各委員会の専権事項となっており、米国の連邦議会とまったく異なり、政党が所属議員の投票行動を厳しく拘束するのが通例となっている。 したがって、委員会採決と本会議採決は圧倒的多くの法案、事案で同じ結果となっている。 ところで、今回参議院選挙で野党系が大勝利したため、その国政調査権は、憲法にあるように、衆議院と参議院が別個に独立して行使する権利をもつことから、こと参議院では、おそらくすべての委員会で野党系が委員長をつとめ、各委員会の委員の数も野党系が多くなる。さらに議院運営委員会の理事も野党系が多くなることは間違いない。 そうなると、今までのように、自民・公明両党による与党が衆議院、参議院の両院で、自分たちの都合で出頭、証言、記録の提出を判断することができなくなる。 仮に衆議院である事案についての出頭、証言、記録の提出などを拒否しても、参議院では、それらが認められることになるのである。 その意味で、すなわち民主主義をまっとうに機能させるため、また審議する法案に関連する資料、情報、データを霞ヶ関などから出させるために、また各種の疑惑解明にとって、この参議院での野党系が大勝した意味はきわめて大きいのである。 たとえば、参議院選挙前、安倍内閣の閣僚が次々に政治とカネ問題で遡上に上がった。故松岡元農水大臣や赤城前農水大臣は、記者会見でいい加減な言説を繰り返したが、これについても農水委員会で国政調査権の「証人喚問」として出頭、証言、記録の提出を発動を議決すれば、大臣は非常に厳しい尋問に立たされることになる。 ◆国政調査権の具体的内容 国政調査権は、具体的には、以下の3つがある。 (1)議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律(議院証言法) これは上述の国会で行われる証人喚問について規定するものであり、野党がこの証人喚問を用いて与党及び与党議員に係わる疑惑を徹底追求することが可能となる。 (2)国会法に基づく官公署等に対する報告・記録請求 これは国会法104条に基づいて、各議院・委員会は、内閣、官公署その他に対し、必要な報告・記録の提出を求めることができる。本連載の前号で日本では与野党で霞ヶ関から提供される情報に大きな格差があると述べた。まさに与党と野党では得られる各種資料、情報に大きな差がある。そこで国政調査権を行使することで野党であっても与党並みの情報を得ることが法的に可能となる。 (3)参考人招致 衆議院規則・参議院規則に基づき認められるものであり、いくどとなく行われてきたが、以下に示す議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律による拘束、規制を受けないため、仮に招致された参考人が虚偽の報告をしても、偽証罪に問われないという大きな問題がある。 ◆証人喚問に関連する法・規制 今まで自民党が半世紀以上にわたり実質的に国会を独占支配してきたで、数々の疑義、疑惑が、野党やマスコミなどで提起されたにもかかわらず、証人喚問はほとんど行われてこなかった。 与党が証人喚問に応じない主たる理由は、以下の議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律にあるように、非常に厳しい規定があるからである。さらに証人喚問で虚偽の証言をした場合には、刑法の偽証罪が適用されることになっている。
なお、国会の議院か委員会に証人喚問された証人が虚偽の陳述したときには3月以上10年以下の懲役に処せられ(第6条)、証人が正当の理由なくして出頭等を拒んだときには1年以下の禁固または10万円以下の罰金に処せられる(第7条)。 <参考:刑法の偽証罪> 偽証の罪は、法律により宣誓した証人が虚偽の陳述(供述)をする罪(偽証罪)。法律により宣誓した鑑定人、通訳人又は翻訳人が虚偽の鑑定、通訳又は翻訳をする罪も含む(虚偽鑑定等の罪)であり、刑法の偽証罪では、法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処せられる(169条)、と非常に厳しい法的規定がある。 ただし刑法にいう偽証罪の対象は、上述の国会証言法による証言や法廷証言のように「法律により宣誓した証人」に限られるため、書証として提出される陳述書の偽証(虚偽記載)は、もとから偽証罪の対象とはならないとされている。 ...... 参院での与野党大逆転により、野党系から国政調査権を具体的に行使することが可能になった。ぜひ、民主など野党は憲法に規定されていながら、与党の都合で行使されてこなかったこの権利を徹底的に行使すべきだ! つづく |