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日本の大メディアが報じない

ソウルの「FTA」

大規模デモ!


青山貞一
掲載日:2007年11月12日
無断転載禁

 このところ、毎年1から2回韓国のソウルに仕事や研究などででかけるが、行くたびに遭遇することがある。それは、韓国の国民、ソウル市民のデモである。毎回、多くの農民、労働者、学生らが参加している。


ソウル市内ではあちこちでこの種の
FTA反対の意思表示がある。鐘路3街にて


 かつて、私が見たデモの多くはFTA(自由貿易協定)に反対するものだったが、来月に大統領選を控えた韓国の首都、ソウル特別市では、11月11日、当局の許可が得られないなか、大規模デモが敢行された。

 ソウル特別市で計画されたこのデモには、主催者発表で約5万人の参加を見込んでいたというが、聯合通信によると、警察は韓国各地の農業従事者のソウル入りを現地で阻止したとのことだ。

 この大規模デモは、韓米FTA阻止・非正規職撤廃・反戦のための汎国民行動の日組織委員会が2007年11月11日の日曜日に、ソウル市庁前の大広場で総決起大会を全国に呼びかけていたものである。


2万人を超す全国から集まったデモ隊

 デモの内容は、@従来からの米国との自由貿易協定(FTA)への抗議、Aアフガニスタンなどで米軍主導の多国籍軍活動に参加する韓国軍への抗議、B派遣社員の待遇向上、非正規職員の正規雇用化など総じて格差社会への国民、市民の抗議など、多様なものであった。

 デモ隊への参加人数は、警察発表で約2万人。独立系メディアの取材により、そのなかには、JR総連から60〜70名など、日本からも参加していることが分かった。


取材現場に向かう青山(左)、池田(右)。ソウル光化門・市庁前、徳寿宮
の壁沿いにて。この後、機動隊の警備が急速に厳しくなる。
本写真は鷹取敦が撮影。

 上述のように、韓国と米国との間でのFTA(自由貿易協定)をめぐっては従来から農業団体や労組などがソウル特別市で抗議活動を何度も繰り返しており、、私がソウルに出かけたときはいつも、規模に差こそあれFTA反対のでデモが起きていた。

 こうしたFTA反対活動に対する国民の反応は、メディアによる世論調査によると、国民の大多数がFTA反対の意思を示しているという。

 AFPによれば、「韓国は米国にとって第7番目の貿易相手国で、2国間の貿易額は780億ドル(8兆6000億円)に上るり、自由貿易協定が発効すると200億ドル(2兆2000億円)増える」とする研究があるが、同時に「FTAにより韓国と米国の軍事協定が強化される」との見方もあるという。

 上記のFTAをめぐっては、韓米両国で交渉が難航した末、6月に合意が締結したが、発行に向けた進展はほとんどなく、民主党が多数を占める米国議会は、貿易自由化で業績悪化を懸念する米自動車メーカーや食肉業者への配慮から、否決する可能性もでている。

 ところで、11月11日当日だが、大規模デモが予定、実施されたソウル市庁前以外にも、東大門運動場などソウルの各地及び全国各地で大小数々の集会とデモが予定されていた。

 私たちが現場に到着したときは、16車線の道路一帯にデモ隊が押しかけ広がり、全国から集められた2万人以上の警察、機動隊員と対峙していた。その後、デモ隊の一部は木の棒や石などで機動隊のバスの窓を破壊、機動隊は警棒や盾、放水車で応酬し、警察当局は数十人を拘束したと発表したが、今のところ重傷者は報告されていない。

 最終的な警察発表では、約100名の参加者が逮捕され、10名以上の警官が負傷したという。デモの主催者側によると参加者のうち50名以上が負傷したという。

 ところで、信じられないことだが、いつものように日本の隣国、韓国で起きたこれほど大規模な国民、市民のデモについて、大手新聞は以下にある日経新聞の小さな記事以外、報じていない。

ソウル中心部でデモ、衝突・FTA反対の労組員ら

 【ソウル11日共同】韓国のソウル中心部で11日、計約2万人の労働組合員や農民が米韓自由貿易協定(FTA)反対や非正規職雇用撤廃などを求める集会を行い、参加者と警官隊が数カ所で衝突した。韓国メディアによると、100人以上が連行され、約50人が負傷した。左派系のナショナルセンター、民主労働組合総連盟(民主労総)などが呼び掛けた。警察は全国で約6万4000人の機動隊を動員したが、労組員らは各地方で集会を強行した。

 日経新聞


 韓国はアジアでも有数の抗議する国民、たたかう市民が依然として健在な国として有名である。

 韓国メディアの多くは、テレビが政権側、新聞が非政権側の論調となっているが、報じ方は別とし、韓国の新聞、テレビメディアがこぞって報道したこの大規模デモが、日本では上の日経新聞記事だけ、ITメディアのIBTimesが報じているものの、大メディアが報じていないのは異常である。

 周知のように、日本社会ではこの種の大きなデモや集会が、トント開催されていないが、そのひとつの大きな理由は、日本の大新聞、テレビなど大メディアが、政府・与党から流される情報をそのまま垂れ流し、野党や国民、市民側からの情報をほとんど扱わなくなっている実態がある。

 政府の広報と化しているメディアは、何も大新聞とNHKだけでない。民放までもが政府広報紙的役割を積極的に担っていると思える。これこそ大問題である。

 だが、本質的に問題なことは、そのような情報操作による世論誘導の状況が永年続いたため、国民、市民が憲法で保障された自分たちの表現の自由を表明する手段としてのデモや集会の存在をすっかり忘れてしまったことである。

 日本のメディアが、隣国韓国での大規模デモや集会をほとんど報じないこともその一部であると思える。その結果、日本国民はすっかり牙を抜かれ、ヒツジの群れと化してしまっている。まさに観客民主主義の極みである。

 21世紀、大きな課題を抱えている点で、日本と韓国はそれほど違いないと思える。しかし、こと為政者に対する国民、市民の対応は、両国で大きく異なると思われる。その原因の多くは、メディアのあり方にあると思う。


 以下は2007年11月11日(日)昼に撮影したソウルの大規模でもの写真。撮影はいずれも青山貞一、使用したカメラはニコン、クールピックス S10。


2万人を超すひとびとがソウルの中心部に全国から集まった



デモ隊の先頭部分。



ソウル市の徳寿宮前で待機する機動隊員



警備に当たる機動隊員



警備に当たる機動隊員を写真取材する池田こみち(独立系メディア)



片側8車線、全16車線のソウル一の目抜き道路を封鎖する
機動隊の装甲バス。清渓川再生事業の始点近くにて。



ソウル市役所前は機動隊側のバリケードに使う装甲車でいっぱい
動員された機動隊の装甲車は400台とも。



装甲車から出る機動隊員



モ隊の上空を低空飛行で威嚇?する公安警察側のヘリ。
2機が何度となくサイレンを鳴らし急降下してきた。
万一、このヘリがデモ隊のなかに落下したら大惨事になるだろう!