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ここ1ヶ月、農薬・殺虫剤などを含んだ事故米問題が日本を席巻している。すでに大臣、事務次官、局長等が辞任したようだが、事故米における農水省の責任は大きい。 それは農水省が事故米を人間が摂取しても「直ちに影響はない」と何度も言ったことだ。専門的には、「直ちに影響がない」=急性毒性、ということを意味する。 だが、直ちに影響がなければ問題ないのかと言えば、そうでない。毒性には、急性毒性以外に亜急性毒性、慢性毒性がある。直ちに影響がないというのが事実だとしても、だからといってじわじわ人体に影響を与える慢性毒性が否定されたことにはならないのである。 以下は、私があるブログで連絡している論考から「重要な急性毒性と慢性毒性の違い」について書いた部分である。参考にして欲しい。 ■重要な急性毒性と慢性毒性の違い 比較的最近の例でとして、中国製餃子農薬混入事件に象徴される食の安全問題がある。これは、賞味期限の虚偽と異なり、健康への実害がある。餃子だけでなく、農作物への日本で使われていない農薬、殺虫剤、除草剤の混入、さらには水銀などの魚介への蓄積問題もある。 総じて有害物質やウィルス、菌の食物混入問題である。毎日私たちの口に入るものだけに、看過出来ない問題だが、当然のこととして、冷静に考え、行動する必要がある。 中国餃子農薬混入については、敢えてここで詳細を述べる必要はないが、たとえば厚生労働省は以前、近海深海魚のキンメダイ、遠洋魚のメカジキに含まれる微量の水銀が、特に胎児に悪影響を及ぼす可能性があるとして、妊婦がこれらの魚を食べるのは週2回以下にするよう注意を呼びかけている。厚生省は日本人になじみの深い魚、約300種について摂食回数の目安を公表している。 中国製餃子への農薬混入は人為の可能性が高いが、厚生労働省発表の魚類の方は、環境汚染が魚類に蓄積したと見るべきであろう。もちろん、水質汚染のもとはといえば工場排水、農薬散布、ゴミの焼却などだから人為的なものではあるが。また、いわゆる食中毒の多くでは急性ないし亜急性の中毒症状が起こっている。さらに原因物質との関連で見ると、農薬、殺虫剤、除草剤、有害化学物質、重金属、それにウィルス、サルモネラ菌などがある。 ここでは食品の安全と安心問題をリスク論と毒性論から見てみたい。まず、人の生体影響には大別して二つのケースがある。第一は、食べてすぐ中毒症状がでたり、病気さらには死に至る場合である。 そしてもう一つは、すぐに生体への影響や被害は生じないものの、長期にわたり食べ続け、有害化学物質などの毒物を体内に摂取すると、ガンになりやすくなったり、免疫機能や生殖機能に影響を与える場合である。 毒性学の観点でこれを見ると、前者を「急性毒性」、後者を「慢性毒性」という。両者の中間を亜急性毒性などとも言っている。 有名な例として、たとえば長野県松本市や地下鉄のサリン事件は、深刻な急性毒性が問題となった事件である。最近では、千葉県の生協で買った中国製餃子を食べた子供が生死をさまよう被害を受けた。幸い一命は取りとめたが、これも急性毒性による生体影響に含まれる。 一方、筆者も調査にかかわった埼玉県所沢市のダイオキシン問題がある。ことの起こりは、ほうれん草やお茶の葉を栽培する農地の近くに数10もの産業廃棄物の焼却施設が林立していたことにある。 建設廃材に含まれる塩ビなどを焼却するため、ダイオキシンを含む煙が農地に流れ、それを吸いこんだ農作物の葉にダイオキシンが高度に蓄積したのである。 当時、国や自治体関係者は「直ちに影響があるわけではない」と躍起になって火消しと安全宣言に奔走したが、これは至極当然のことである。確かにダイオキシンは史上最強の毒性を持っているが、問題のほうれん草には人体に急性毒性をもたらすほどのダイオキシンは含まれていないからだ。したがって、すぐに死んだり病気にはならない。 では、所沢ダイオキシン騒動は行政や一部事業者が言うように問題ないのか? とんでもない、問題はある。それは慢性毒性による影響である。 いわゆる環境ホルモン毒性(正式には内分泌かく乱物質毒性)のように、食べ物に含まれる量が超微量であっても継続的に体内に摂取した場合に、たとえば男性の精子の量が減少するとか、免疫機能に異常をきたすといったことが起こる可能性があるからだ。 これこそ、まさにおそろしい慢性毒性の典型例である。慢性毒性では、ひとがすぐに死んだり、深刻な症状を呈さない。だからといって問題がないわけではないのである。私たちはそこをしっかりと認識、把握する必要がある。 出典:青山貞一@環境総合研究所 |