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8月22日の霞沢第2号砂防ダム建設現場見学会前日に「水と緑の会」と「渓流ネット」の合同で国交省松本砂防事務所にその概要を聞きに行った(副所長、調査課長等4人が出席)。 その概要を次に簡単に記す。今回のダム現場は、長野県松本市(旧安曇村)の上高地手前沢渡駐車場近くに流れ出る霞沢に建設されようとしているものです。 ダムサイトは梓川合流地点からおおよそ1.7km上流の狭窄部入り口の少し(数百m)手前に計画されている。高さ13.5m、幅26.618m、スリット幅4m、土砂調節量8万立米くらい。またダムの型は横断面が山形台形で、スリットの右岸側は三脚岩岸をそのまま使い、スリット左岸側にダム本体を設置する。ダム表面は擬似岩工法。 建設の目的は、100年に1度の雨が降った場合に霞沢からの20万立米の土砂が梓川本流を塞き止める危険性があり、そうなった場合ダム化して沢渡地区(現在の駐車場や民家、国道158号線などのあるところ)が水没するのでこれを予防するためという。 この20万立米という数字は、流域面積に流出係数を掛けただけのものであるということだ。なお建設にあたり環境調査を実施してその道の専門家に意見を聞いているとのことだった。(この内容は改めて公開してもらう予定) また日程は、今年度中にダムサイトまでの工事用道路とダムサイト右岸岩盤へのロックボルト打設を予定しているとのこと。予算規模は調査費用抜きで、道路3億、ダム本体4億が計上されている。 写真1 梓川本流端下の帯工 なお今後、私たちの行動として、ダム建設根拠、環境対策などの問題と代替案、建設中止への要望を早急に提出していく予定である。事務所側も「こちらが提起する内容に合理性があれば見直す場合もある」というなニュアンスのことを言っていた。 見学会は梓川合流点から始めた。合流点の梓川本流に架かる橋下の帯工(落差工)はここ30年くらい見ているが河床の変化は殆どない。 ここの河床が上がるとすれば、ここより数百メートル下流にある奈川渡ダムのバックウオーターへの流れ込みから土砂のせり上がりが起こっており、その延長で上がってくることは十分考えられる。しかし毎年流れ込みでの浚渫が行なわれており、この橋まではさほど影響がないのが現状である。 写真2は左から霞沢が合流する所だが、本流右岸に見える盛土とこの盛土の右奥(写真では見えない)は何故か土地利用が行なわれている(事務所、食堂など3軒ある)。本来、川の合流点は川幅が広いはずだがここでは人工的に狭められている。 写真2 霞沢梓川合流点と河川敷への盛土 仮に大雨で霞沢からの大きな土石流や大流量が流れ出せば、この盛土部分は直角に近い角度で水衝部となり本流の水や土砂は妨げられる。河川工学的には合流角度が鋭角になる方が望ましいから、この盛土部分を撤去することが望ましいはずである。もちろん住居、事務所などの建設は許されてはならない。 写真3は霞沢の土石流がつくった堆積地であるが、そこに駐車場などの土地利用が進められている。 写真3 霞沢出口にある土地利用 ここの土地利用に関して砂防事務所側に聞いた所、事務所としては「情報は伝えるが利用の規制まではしない」という回答だった。そこで霞沢は土石流危険渓流なのか聞いた所「分らない調べてみる」との返事だった。 土石流危険渓流でもない所によくも砂防ダムを造くるものである(既に10〜30m級が3基ある)。土砂災害防止法ができた後におかしな土地利用が進めば監視せざるを得ないだろう。 沢に入ってしばらく進むと3基の砂防ダムを眼下に見るが、川沿の山腹に造られた工事用道路の崩れとその対策工事は大変なものである。(写真4、5)元々崩れやすい急斜面に道路をつくるためその対策に金がかかる。しかし補修しても冬の雪崩や梅雨が明けるころはいたるところが崩れ始めメンテとのイタチごっことなる。 写真4 崩れ防止のネット群 写真5 道路に押し出す土砂 3基目の砂防ダムの上流側は、写真6のようにダム堆砂域で土砂調節のための川原となるが、右側の山腹工事(写真8、9)のために土砂を盛って川の流れを固定してある。もう何年もこの様になっているが、ダムの土砂調節域は流れを固定するようなことをするとその機能がなくなる。 砂防ダムの本来の大きな目的はこのことにあるのだが、おかしなことである。また写真6の川の流れのように、堆砂域は本来の渓流とは大きく異なり、落ち込みや渕ができない。また土砂の移動が多く水生昆虫も生息しにくくなっている。 写真6 3基目ダムの上流側土砂調節域 ここの場合、ダム建設予定地の直ぐ手前までこの様な3基目砂防ダムの堆砂域となっており、後半で説明する狭窄部(魚にとっては壁になる自然条件がある)と、ダム建設部手前から狭窄部間の5〜600mの渓流環境が、岩魚の再生産されうる限られた範囲となっている。 したがって非常に短いイワナの生息環境の中にダムが造られると、ここのイワナにとっては致命的になる可能性が高い。写真7、狭窄部の中のイワナは流速が早いので尾が大きく発達しているが、餌が少ないため痩せている。狭窄部の中は日が当たりにくく、餌となる虫が育ちにくく落ちにくいため、彼らをここまで育てた環境は狭窄部手前のダム建設予定地周辺となっている。 写真7 狭窄部の中のイワナ この谷は元々崩れやすい地質で崩れている所も非常に多い。写真8、9は3基目砂防ダムの直ぐ上側にある山腹工(森林管理署)であるが、この工事は過去に2回工事後に崩れている。なぜこうなるかというと、山腹斜面の崩れは、たとえ木が生えていたとしても時間が来ると必ずといってよいほど崩れ落ちる。 写真8 山腹工の2回目崩れ 写真9 山腹工の3回目の修復 この崩れは、下にある基盤まで達して(崩れ落ちやすい部分が落ちるまで)やっと止まるものである。ここまで達していない途中段階で止めようとするとかなり難しくこの様になってしまう。落ちる部分がなくなり、表土の移動が止まった段階で自然に緑化が進んでくる。 ただしこの間隔は100年前後が必要であり、土砂の移動という別なスールと組み合わせて考える視点が必要である。ここの谷の場合いたるところにこの様な自然緑化の跡を見ることができる。 山腹工事をしなければならない条件は、崩壊した土砂が何らかの害を出す可能性がある場合だけであり、この谷の場合はこれと同規模あるいはそれ以上の崩れがかなりの箇所あるのだが、もしこの山腹工事現場の土砂量が問題になるとすれば、他の崩れから出る土砂をどのように考えたらよいのか説明が欲しくなる。 日本の場合、山からの土砂供給不足で中・下流域の河床低下や海岸線の侵食などの問題が生じている現状から見れば、もっと積極的に土砂を供給しなければならないはず。林野行政も森林整備という大事な目的に加え、山腹工や治山ダムという莫大な費用を掛けている部門のあり方に対し、源頭部と海岸までを視野に入れた見方が必要であろう。そうでないと、山でお金を使いその尻拭いで他省庁が川や海岸でお金を使うという悪循環を繰り返すことになる、お金を払う国民はたまったものではない。 後編では霞沢の最も美しい場所でもある狭窄部の姿や機能を報告します。 <その2>につづく |