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「崖の上のポニョ」
埋め立て危機の行方

〜裁判長ら現地視察〜
横田一
日刊ゲンダイ
掲載月日:2008年10月24日


●「世界遺産級」と絶賛された景勝地

 宮崎駿監督の大ヒット映画「崖の上のポニョ」の舞台とされる瀬戸内海の「鞆(とも)の浦(うら)」(広島県福山市)が、埋め立ての危機に瀕している。

 「鞆の浦」は、山陽新幹線の福山駅からバスで30分の距離にある円形型の港湾。宮崎監督が現地に長期滞在したことや、ポニョに出てくる港町と景色が似ていることから、映画の舞台になったとされる。世界遺産選定に影響力を持つ「国際記念物遺跡会議」(イコモス)からも「世界遺産級」と絶賛された世界有数の景勝地だ。



 ところが、県と市は「町のメーン道路が狭く、渋滞緩和が必要」として、湾内2ヘクタールを埋め立て、港を突っ切る全長180メートルの橋の建設計画をブチ上げた。このため、住民が反発。差し止め請求の裁判が起こされ、16日、裁判長らによる現地視察が行われたのだ。

 「この視察では、架橋建設予定の海上にブイが浮かべられた。住民らはあらためて『港の景観を壊す』と怒りをあらわにしていました。この手の裁判で現地視察は異例。住民勝訴の可能性もあると思います」(現地を取材したジャーナリストの横田一氏)

 架橋計画の事業予算は55億円だが、対案で浮上した港の北西の山側を抜けるトンネル道路計画のコストは30億〜50億円。ところが、この案は2回審議しただけで、アッサリ見送られてしまった。地元の反対住民が言う。

 「埋め立てではないトンネル案だと、砂利を使わないため砂利業者がオイシクないからでしょう。架橋案には利権のニオイがします。地元選出の宮沢洋一衆院議員(自民党)は埋め立て推進派。架橋計画で交通アクセスが増えてトクする造船会社から献金を受けています。市がポニョの舞台になった町と積極的にPRしないのも、注目されて計画が頓挫するのを恐れているからです」

 NPO法人「鞆まちづくり工房」代表の松居秀子さん(57)もこう憤る。

 「行政側は“渋滞”というが、町内は信号がひとつもなく、通り抜けるのにたった5分。そもそも渋滞がないのです。国は観光庁設置で外国人客を増やそうとしているのに、世界遺産級の港を埋めるというのもおかしい。空を見上げたら、巨大な橋と車があるような町には断じてしたくありません」

 ポニョは守れるか。