エントランスへはここをクリック   

小中陽太郎氏からの手紙
 

掲載月日:2009年1月31日
独立系メディア「今日のコラム」

 成人式の朝AFPによると、先月27日からのパレスチナ自治区ガザ地区の死者数は885人に達したといいます(朝日新聞1月12日朝刊)。2008年末以来強行されているイスラエルによる無差別虐殺について大きな衝撃を受けています。

 イスラエル側はハマスによるテロ攻撃を言い立てていますが、国連パレスチナ難民救済事業の運営する学校三カ所への砲撃により50人を超える罪なき子供たちが犠牲となったことに弁護の余地は全くありますまい。ガーゼの由来といわれるガザ(毎日新聞1月8日)は、いたいけない子供たちの血で染まりました。かってアウシュビッツほかで民族クレンジングの悲劇を体験した民族が今度はおなじ無法行為を行うとは歴史の教訓を履き違えています。

 この時期の攻撃は、アメリカの政権交代の空白を狙い、欧米の金融恐慌をよいことにしているなどの見方もありますが、自国の安全までも世界秩序の混乱に乗ずる侵略は卑劣極まりないといわざるを得ません。

 恥ずべきは、曲がりなりにも中東の和平と称して、イラク周辺に自衛隊を派遣した我が国が、政治的戦略に明け暮れ、不況に対策も打てず、アメリカの戦略に迎合して抗議の声も上げないことでしょう。

 かってアジア・アフリカ作家会議において作家活動にすこしでもかかわり、そのあとアジア・キリスト教協議会でエキュメニカル運動に携わった私としては、政治的、軍事的行動に対する非難の応酬を超えて、思想的、宗教上、大きな責任と無力感に置かれています。

 そのことを恥じつつもここにお手紙するのは、下の人々の勇気を覚えるからです。

 かってドレスデンであったマフムード・ダルウィーシュは生前「壁に描く」(四方田犬彦訳)でキリスト教とイスラム教の文化的同一性を教えてくれました。大江健三郎氏がよく伝えているサイードでわたしがショックを受けたのは、アラブ支配階級の責任放棄でした。このとき自国民衆の抵抗をおそれた周辺諸国の和平案にどれほどの説得力があるのでしょうか。そして脱走兵運動で会ったチョムスキーが、ユダヤ民族を超えて、力を振り絞って発言をつづけていることに励まされます。

 そして広河隆一君をはじめとし、アラブの民衆と連帯する仲間がいます。(朝日新聞1月8日、9日朝刊)。

 私たちはどうしたらいいのでしょう。

 アジア・アフリカ民衆と文学との交流、連帯を志した人々とも相談して、この問題を憂うる人たちに訴えます。

 政治的組織もいまはなく、持ち場たりしマスコミへの回路も減ったいま、わたしに、どのような手立てが残っているかさえ定かではありません。かっての同僚とも話し合って、すくなくともみなさまのそれぞれの範囲で、声をあげ、なにがしかの行動を、各自でしてみようと訴える手紙をおだししてみようと筆をとりました。

小中陽太郎、元アジアキリスト教協議会議長、元日本アジアアフリカ作家会議事務局長

 2009年1月11日