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「事業仕分け」終了
改革かショーか問われる今後


横田一

Dec. 2009
独立系メディア「今日のコラム」

 11月11日に始まった行政刷新会議の「事業仕分け」が27日、第1部と第2部にわたった全日程を終えた。12月1日には最終的な報告書が提出されたが、最も注目すべきは、財務省主導であったことだろう。

 第1WG(ワーキンググループ)では、財務官僚が民間の仕分け人にメモを差し出し、それを見た仕分け人が質問する場面があった。「事業の必要性を説明する役人と仕分け人の議論を聞きながら財務官僚は、さらに突っ込むと予算削減に導きやすくなるポイントをメモに走り書きして、息のかかった仕分け人に手渡していた。黒子として議論をリードしていたのは確実で、事業仕分けは財務省の “代行機関” だったといえるでしょう」(政界関係者)。

 内閣府行政刷新会議事務局が作成、仕分け人や傍聴者に配布されていたA4判資料「行政刷新会議ワーキングチーム『事業仕分け』」を見ても、財務省主導は一目瞭然だ。そこには、各事業の内容を紹介する文書(概要説明書と補足資料)だけでなく、事業に対する疑問点が列挙されている「論点等説明シート(予算担当部局用)」も添付されていた。たとえば、「国土・景観形成事業推進調整費」については、「当該調整費は、年度途中に各事業に対して機動的な予算措置を講ずるものであるが、(中略)真に必要なものかどうかの検証が曖昧との指摘」などとあった。

 要するに、財務省があらかじめ議論の“土俵”を設定し、その中で仕分け人が役人に疑問点をぶつけていくという流れになっていたのだ。しかも仕分けの最中でも、メモの手渡しによって議論の誘導をしていた。基本的には「財務官僚の手の平で仕分け人が踊っていた」と見て間違いないのだ。

 もちろん財務省主導であっても、税金の無駄に大ナタが振るわれ、国民生活に必要な事業に回っていけば、問題はないだろう。 しかし、事業仕分けで削減された予算総額は約一兆八〇〇〇億円にとどまった。仕分けが始まる前、仙谷由人行政刷新担当大臣は「九五兆円の来年度予算を三兆円削減する」と宣言したが、目標を四割も下回った。その上、来年度予算全体から見れば、仕分けによる予算削減額は全体のたった二%にすぎないのだ。

 「マスコミは『事業仕分けは国民的関心を集めている』とか、『六〇%を超える内閣支持率を支えている』と伝えていますが、実態は、小泉純一郎元首相が得意とした劇場型政治、政治ショーにすぎません。事業仕分けという局地戦での “善戦” を実況中継し、民主党が大戦果をあげているような印象を国民に与えている。戦争中の大本営発表と大差ありません」(永田町ウォッチャー)。

 実際、ダムや道路や防衛予算など “大物事業” の見直しでは、民主党は苦戦し、官僚主導になりつつある。たとえば、新政権発足直後に一気に注目を浴びた八ッ場ダムをはじめとするダム事業については一一月二〇日、再検証するための「有識者会議」のメンバーが公表されたが、先週号でまさのあつこ氏が指摘したように、ダム推進派が大半を占めた。脱ダムを提言した「淀川水系流域委員会」の元委員長・今本博健京都大学名誉教授(河川工学)も、首を傾げていた。

「本来ならダム推進派と脱ダム派の両陣営から三〜四名ずつ出て、河川整備のあり方を公開で徹底的に議論し、『淀川水系流域委員会』のように委員が会議の意見をまとめることが重要ですが、実際は、国交省がまとめるのではないか。それだと国交省の意見がやや玉虫色になるだけで、何のための会議かわからない」(今本氏)

 新政権にとって「改革の一丁目一番地」のようなダム事業見直しが官僚主導となり、先行きが怪しくなってきたのは確実だ。しかし“仕分けフィーバー” にかき消され、主戦場での前原誠司国交相の後退ぶりはほとんど紹介されていない。「廃止」「見直し」となった事業仕分けの結果が連日、新聞やテレビで紹介される一方で、本丸であるはずのダムや道路事業見直しが一向に進まないということだ。

出典:12月4日号の「週刊金曜日」記事など