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●聴取は検察の意地とメンツと自己防衛 東京地検特捜部がきょう(23日)、民主党の小沢一郎幹事長に任意の事情聴取を行なう。聴取は4時間程度の見通しで、資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる収支報告書の虚偽記載について説明を求めるというが、フザケタ話だ。ハッキリ言って、小沢聴取は検察の暴走以外の何ものでもない。 政治資金収支報告書の虚偽記載や記載漏れで、政治団体の代表まで事情聴取されるなんて、聞いたことがないし、まして、小沢は政権与党の現職幹事長だ。エラけりゃ悪さをしていいわけではないが、過去の事例と比べてみれば、検察の狂気が浮かび上がってくるのである。 鳩山首相の資金管理団体をめぐる偽装献金事件では、鳩山本人の事情聴取を見送り、上申書で済ませているし、西松建設の違法献金事件で秘書が略式起訴された二階俊博・前経産相も、特捜部には呼ばれていない。 小沢が「本来ならば、この種の問題は形式犯だから(報告書の)修正で済む」と訴えているのも当然なのだ。それなのに、小沢は昨年3月に西松事件で、いきなり公設秘書が逮捕され、代表辞任に追い込まれた。今回は衆院議員となった元秘書の石川知裕の身柄まで持っていかれてしまった。 ジャーナリストの上杉隆氏は「現職の国会議員が、しかも秘書時代の政治資金規正法の不記載で逮捕されるなんて異常です」と言う。誰が見たってそうだ、それなのに検察はイケイケドンドン。ついに本丸・小沢聴取に至ったのである。 検察は黙秘権を小沢に伝えた上で「被疑者(容疑者)調書を作成する」などと脅している。ハナから容疑者扱いだ。 「水谷建設が裏金を渡したとする04年10月と05年4月に小沢氏は野党に所属していました。野党では職務権限は発生しません。だいたい、水谷建設は下請け業者です。元請けから仕事を受注するので民間業者同士の取引となる。公務員の職務権限は及ばないのです」(司法関係者) 4億円の原資について小沢サイドは「個人資産」と説明し、1998年に約3億円、2001年に6000万円を本人や家族の口座から下ろしたとする。だとすると所得税法違反にもならない。裏金の証拠でもない限り、どう見ても小沢聴取は異様なのだ。 それでも、検察が突っ走るのは何なのか。 「特捜部は、小沢氏が今月の3連休中に囲碁名人と対局したニュースに激高したと言います。多忙を理由に事情聴取を拒んできたのに『ナンダ!』と、捜査方針を転換し、強制捜査に乗り出したとの報道もありました。特捜部のメンツが潰されたとの理由だけで、強引な捜査に打って出ているとしたら、身勝手な権力の行使です」(法大教授・五十嵐仁氏=政治学) 意地とメンツが理由のひとつ。さらには政治的ダメージを狙っている側面もあるだろう。政界の最大の実力者にケンカを売った以上、ここでひるめば、逆に検察が潰される。人事への介入や取調べの全面可視化など、あらゆる報復が待っている。だから行けるところまで行く。捜査が及ばなければ政治的に潰す。そんな思惑が見え隠れするのだ。
となると、今後の展開はどうなるのか。検察がこの調子だと暗澹(あんたん)たる気持ちになってくる。日本の検察には捜査権と公訴権の両方がある。その権力は絶大で、ニューヨーク・タイムズ紙のマーティン・ファクラー東京支局長も「欧米とはまったく異なる」と報じたほどだ。 そうして組織が暴走している。しかも、その動機が意地とメンツ、組織防衛なのだから、小沢だって、安心できない。 実は、石川知裕議員の政治生命は風前の灯(ともしび)になりつつある。国会前に強引に逮捕した以上、検察は意地でも起訴するだろう。それが在宅だろうが何だろうが、起訴され、有罪が確定すると、石川は国会議員を辞めなくてはならない。政治資金規正法の場合、公民権停止になるからだ。そうなると、選挙権も被選挙権も失う。国会議員は失職する。 もちろん、裁判で徹底抗戦する選択肢もあるが、何十年も国会議員を続けている代議士ならいざ知らず、若い石川では有権者に忘れ去られてしまうのがオチだ。石川が自殺を懸念されるほど悩みぬいているのも、こうした事情があるからなのだ。こうなると、親分・小沢の政治的立場もつらい。 考えられる今後の展開は、 @石川、大久保らは起訴され、小沢はセーフ の3つで、@の場合、小沢は「幹事長を辞めないだろう」(政治評論家・有馬晴海氏)とみられるが、それでも、求心力は低下する。石川の裁判が長引けば、その間、小沢への捜査はくすぶるし、野党は追及を続ける。党の支持率が下落し、参院選に黄信号がともれば、それこそ、去年の二の舞だ。大久保逮捕の2カ月後に代表辞任に追い込まれたように、参院選を前に幹事長辞任のケースも出てこよう。
AやBになれば目も当てられない事態になる。 鳩山が辞めても、民主党は300人を超える衆院議員がいる。民主党政権は安泰と思ったら、大甘だ。自民党の衆院議員は、民主党議員が勝手連的に小沢応援団をつくっていることをシメシメと見ている。 「鳩山首相は検察批判をにおわし、原口総務相は検察ベッタリのメディアを批判。党内の議員も法務省の情報リークをチェックしようと動いている。でも、危機管理上、これはヘタクソ。小沢さんがコケれば、党もろとも大打撃を受けることになる」(自民党議員) もともと、小沢がいなければ、子供の集団みたいな民主党だ。大将がコケれば、政権そのものもカダつき、日本の政治は大混乱に陥る可能性がある。 そうなったら、政権交代がまったく無意味になってしまうだけでなく、政治的には検察が勝利し、当局が幅を利かす息苦しい世の中になる。 もちろん、本当に小沢が悪さをしていれば話は別だが、検察の強引捜査で、国民が選んだ政権が潰されるのはひどい話だ。大メディアは政治家が検察の捜査に苦言を呈すると、すぐに「捜査妨害だ」「指揮権発動だ」と騒ぐが、この論調こそが国を危うくするのである。 (日刊ゲンダイ 2010/01/23掲載) |