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すべて「請求主義」
年金の種類と請求のポイント

青山貞一

東京年大学教授(公共政策論)
Jan. 2010
無断転載禁

 日本の年金は、その制度、実態ともに非常に複雑、怪奇だ。全体像を理解し請求し年金を受給するのは容易ではない。

 しかも、公的、私的を問わず年金はすべて<請求主義>、すなわち複雑で官僚主義の典型のような手続を経て、請求し、裁定されない限り65歳を過ぎても一円も年金を受け取ることはできない。

 長妻昭大臣らの決死の努力もあり、自民党政権時代に比べればはるかに改善されてきたとは言え、継ぎ足し継ぎ足しで出来た日本の年金制度の制度と実態を理解し、実務に対応するためにはそれなりの知識と忍耐、努力が必要だ(笑い)。

 事実、<請求主義>の根幹をなす年金請求の手続が結構、面倒なのだ。しかも、年齢が来てもボーと請求をしないと受給期限が切れ、もらえるものももらえなくなる。年金の受給権は、権利が発生した日から5年で時効になるからだ。

 たとえば、特別支給の老齢厚生年金を60歳から受給できる人が67歳まで請求しないで放置した場合どうなるか?

 最初の2年分の年金についての権利は、時効で消滅する。実務の専門家に聞くと、実際、特別支給の老齢厚生年金をもらい損ねたひとも多いという。もちろん、上記の場合でも時効になる前の最近5年分の年金は、これから請求しても受給することができる。

 世界に名だたる「日本の官僚機構」の上に成り立つ、この悪名高い年金制度、社会保険庁から日本年金機構に組織替えしたものの、まだまだ抱える課題は多い。

 40年近く永年ケナゲに働いてきた日本人が知らずしてもらい損ねることだけは避けたいものだ。

 本論考では、筆者が体験し、調査したことをもとに、できるだけ分かりやすく、年金の種類と請求手続き、請求に必要な必要書類について述べたい。

 参考にしていただければ幸甚である。


1.年金の種類

 日本の年金には大きく分け<公的年金>と<私的年金>がある。通称一階部分、二階部分が<公的年金>、三階部分が<私的年金>であり3種の年金制度がある。まずは以下にその概略を示す。

1−1 通称、1階部分(公的年金、国民年金、養老基礎年金)

 
日本国民に最低限の保障を行うのが国民年金だ。通称一階部分であり養老基礎年金、略して基礎年金という。保険料は定額である。

1階部分加入者 国民年金(基礎年金、受給時の正式呼称は「老齢基礎年金」)
第1号被保険者 第3号被保険者 第2号被保険者
個人事業主、無職者及びパート・アルバイト等厚生年金加入基準を満たさない給与所得者 第2号被保険者の被扶養配偶者 民間サラリーマン 公務員等

 この国民年金の支給額は、後述するように、65歳から受給する場合、年額792,100円(月当たり約66,000円)である。ただし、60歳から64歳の間から受給できる繰り上げ支給、また66歳以降から受給する繰り下げ支給の制度もある。

1−2 通称、2階部分(公的年金、養老厚生年金)

 現役時代の収入に比例した年金を支給するのが通称、2階部分の養老厚生年金共済年金(保険料は収入の一定割合)である。

2階部分 厚生年金(受給時の正式呼称は老齢厚生年金) 国家公務員共済 地方公務員共済 私立学校教職員共済

 この(養老)厚生年金は、(養老)基礎年金に上乗せされ支払われる。支払額は現役時代の収入に比例した年金が支給われる。

 この2階部分の厚生年金は、通常65歳から支払われるが、一定条件下で60歳から特別支給の老齢厚生年金を受給することができる。これについては4−1の後段に詳述しているので参照いただきたい。

 また厚生年金に加盟したひとが、後に私立学校教職員共済(通称、私学共済)に加盟した場合には、2階部分の厚生年金に加えて3階部分の職域年金部分が支払われる。

1−3 通称、3階部分(私的年金、企業年金)

 3つ目の年金に<私的年金>の通称、企業年金がある。
 これには企業年金(厚生年金基金、確定給付年金等)、確定拠出年金(企業型、個人型)、国民年金基金(国民年金に2階部分に当たる公的年金が存在しない為、本基金を「2階部分」に分類する場合がある)、それに共済年金の職域年金部分がある。
 この3階部分の企業年金も、完全に<請求主義>となっているため加入者(あるいは元加入者)自らが一定の手続きに沿って請求しないと、一円も企業年金を受給することはでない。 

 事実、私自身、この企業年金について知ったのは、会社を辞めて24年も経ってからで、当時の同僚から「請求していなければ、一度問い合わせた方がよい」と言われ、連絡し、62歳の時に企業年金(厚生年金基金)に電話連絡し、請求用紙を送ってもらい、数ヶ月後に私的年金をもらうことが出来た。

 ちなみに調べたら、私の場合、支給開始年齢及び期間は別とし、@1階部分の公的年金である国民年金、A2階部分の公的年金である厚生年金、B3階部分の私学共済年金、それに後述するC3階部分の企業年金(厚生年金基金)の4種を受給できることが分かった!!


2.年金の種類とその図式化

 以上、1−1から1−3を図にすると以下のようになる。ただし、加入者は平成13年3月時点の数である。

 図より明らかなように、1−1(1階部分)の国民年金は対象者数が7000万人を超えているように、国民悉皆加入を原則としている。一方、1−2(2階部分)の厚生年金、共済年金などは4000万人弱である。さらに1−3(三階部分)の企業年金は2000から2500万人となっている。

 このように、ひとくちで年金と言っても、3種類すべてに加盟している人と、国民年金だけのひとなど、ひとによって加入する年金の種類と数は異なる。ただし、最も基礎となる1階部分の国民年金(養老基礎年金)は、原則的に一定年齢に達した日本国民全体が係わる年金である。


             年金の種類と相互関係図
   参考年金パーフェクトガイド2004、第1回 年金の仕組みを知ろう!〜年金の仕組みと特徴〜


年金の種類と加入者数

資料:社会保険庁「事業月報」(平成13年3月)、厚生年金基金連合会「厚生年金基金事業年報」
(注) 「国民年金基金」、「共済年金制度」の加入員数は、厚生労働省調べ、
適格退職年金の加入員数は、信託協会調べによる。

3.年金請求上のポイント
  1階部分(公的年金)、国民年金、養老基礎年金

 次にそれぞれの国民年金について、請求上のポイントを示す。

3−1 繰り上げ請求と繰り下げ請求

 日本年金機構(旧社会保険庁)の業務センターから、60歳・65歳到達の3ヶ月前にそれぞれ「年金のお知らせ」等の案内が郵送されてくるので、案内を読んで必要な手続きを行うことになる。

 本来65歳で受け取る国民年金老齢基礎年金を、60歳以降任意の時期に早めて受給する方法を繰り上げ請求という。

 繰り上げ請求した場合、請求時期により減額された年金額となる。減額率は、昭和16年4月1日以前に生まれた人と、その後に生まれた人により異なる。また、老齢厚生年金、遺族厚生年金を受給しているかどうかなどにより、そのメリット、デメリットも異なるので、一概に繰り上げ請求の善し悪しは判断できない。

 通常、65歳で受け取る年金を66歳以降に繰り下げ請求して受給すると、増額した年金額を生涯受け取ることができる。ただし、終身年金なので、結果的に生涯受給額が多かったかどうかは、その人の寿命による。詳しくは年金相談窓口でよく相談してから選択するのがよい。

 すでに60歳からの老齢厚生年金を受給しているときは、65歳の誕生月に送られてくる「国民年金・厚生年金保険老齢給付裁定請求書」のハガキで、「老歴基礎年金の繰り下げ請求を希望する」に○を付けること。

3−2 繰上げ支給額 と 繰下げ支給額(モデル)

 年金は原則として65歳からもらうことになるが、上述のように希望すれば60歳からもらう事が出来る。ただし、64歳以前からもらう場合は65歳の額から一定の率で減額され、また、66歳以後にもらう場合には、受給額が増額される。

受給
開始年齢
S16年4月1日
以前生まれの人
S16年4月2日
以後生まれの人
支給率
年額
支給率
年額
繰上げ支給
60歳
58%
459,400円
70%
554,500円
61歳
65%
514,900円
76%
602,000円
62歳
72%
570,300円
82%
649,500円
63歳
80%
633,700円
88%
697,000円
64歳
89%
705,000円
94%
744,600円
65歳
100%
792,100円
100%
792,100円
繰下げ支給
66歳
112%
887,200円
108.4%
858,600円
67歳
126%
998,000円
116.8%
925,200円
68歳
143%
1,132,700円
125.2%
991,700円
69歳
164%
1,299,000円
133.6%
1,058,200円
70歳
188%
1,489,100円
142%
1,124,800円
一階部分(国民年金)の繰り上げ支給額と繰り下げ支給額のモデル

 ※ 昭和16年4月2日以後生まれの人の支給率は月単位で計算されます。
※ 年額は加入可能月数をすべて納めた場合です。

3−3 1階部分、国民年金の申請に必要な書類

 @戸籍謄本 
 A年金手帳 
 B貯金通帳
 C認め印

 Dその他個々の状況によって、年金証書やカラ期間を証明するものなど

3−4 1階部分、国民年金(老齢基礎年金)を繰上げて
     受給する際の
注意点

・一生減額された年金を受けることになります。65歳になっても年金額は引き上げられません。
年金の支払いは手続きをした月の翌月分からになります。
昭和16年4月1日以前生まれの人で、繰上げ受給後に厚生年金や共済組合に加入することになった場合は、支給が停止されます。(支給が再開されても老齢基礎年金額は引き上げられません。)
繰上げ請求後は、障害基礎年金を請求できません。
昭和16年4月1日以前生まれの人で、老齢厚生年金を受けている場合、老齢基礎年金は支給が停止されます。(両方もらう事は65歳まで出来ません)
寡婦年金は受給出来なくなります。
配偶者が死亡して、遺族厚生年金・遺族共済年金を受給するようになっても、65歳まで併給調整により一方の年金しか受給できません。また65歳以降は併給できますが、老齢基礎年金は減額されたままの年金額です。


4. 2階部分(公的年金) 養老厚生年金の請求のポイント

4−1 はじめに

 年金は、年金を受ける資格ができたとき自動的に支給が始まるのではありません。自分で年金を受けるための手続き(裁定請求)を行う必要がある。

 この手続きは受けようとする年金の種類によって異なりますが、ここでは最も件数が多い老齢厚生年金の裁定請求の手続きについて、説明をしている。

 老齢厚生年金は、厚生年金保険の被保険者期間がある人が、65歳となり老齢基礎年金を受けられるようになったとき、老齢基礎年金(国民年金)に上乗せする形で支給される。

 ただし、昭和16年(女子は昭和21年)4月1日以前に生まれ、厚生年金保険の被保険者期間が1年以上あり、老齢基礎年金の受給資格期間を満たしている人には、60歳から65歳に達するまでの間、定額部分と報酬比例部分を合わせた額の特別支給の老齢厚生年金が支給される。

 
なお、昭和16年(女子は昭和21年)4月2日〜昭和24年(女子は昭和29年)4月1日の間に生まれた人は、最新情報の「昭和16年4月2日以後に生まれた人の老齢基礎年金と老齢厚生年金の仕組みについて」をご覧下いただきたい。結果として一定条件を満たせば、60歳から65歳に達するまでの間、定額部分と報酬比例部分を合わせた額の特別支給の老齢厚生年金が支給される。この計算はかなり複雑なので、年金機構の担当者、社会保険労務士あるいは銀行・信金の専門家に相談することをお勧めしたい。


4−2  2階部分、老齢厚生年金請求時の提出書類一覧

 厚生年金請求時には以下の書類が必要となる。


老齢給付裁定請求書
届出様式-PDF(A4/6枚)
最寄りの社会保険事務所、社会保険事務局の事務所または年金相談センターの窓口の備え付け用紙または印刷した届出様式を使用してください。記入例はこちらをクリック(pdf: 4873kb)



年金手帳または
厚生年金保険被保険者証
提出できないときは、その理由書が必要です



戸籍の抄本(本人分)
戸籍の抄本にかえて市区町村長の証明書でもよい



戸籍の抄本
(配偶者および子供分)
配偶者および18歳到達年度の末日までの間にある子の生年月日および請求者との身分関係をあきらかにできるもの



住民票
配偶者および18歳到達年度の末日までの間にある子が、請求者によって生計を維持されていたことを確認できる書類



診断書およびレントゲンフィルム 1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子があるとき。診断書は社会保険事務所、社会保険事務局の事務所または年金相談センター備え付けの用紙を使用してください



年金証書または恩給証書の写 他の公的年金制度から老齢(退職)年金または恩給を受ける権利をもっている人(配偶者を含む)



年金加入期間確認通知書
(共済用)
共済組合に加入したことがある人は、その共済組合から交付されたもの



その他必要な書類 社会保険事務所、社会保険事務局の事務所または年金相談センターでお尋ねください


 国民年金に任意加入しなかった期間のある人は、それぞれ次の書類が必要。

  • 配偶者が国民年金以外の公的年金制度の被保険者または組合員であった期間のある人は、配偶者が組合員または被保険者であったことを証する書類

  • 配偶者が国民年金以外の公的年金制度または恩給法等による老齢(退職)年金を受けることができた期間のある人は、配偶者が年金を受けることができたことを証する書類の写

  • 本人が国民年金以外の公的年金制度または恩給法等による遺族年金等をうけることができた期間のある人は、本人が当該年金等を受けることができたことを証する書類の写

  • その他、海外在住の期間等があったときは、このことを証する書類


※請求書の記入例(pdf: 4873kb)


※提出先

 厚生年金の支払い開始は現在原則65歳となっているが、特例で生年月日によりま60歳からの請求が可能となります(前述)。

 私(私立大学専任教員)が現在加入している私学共済も、この2階部分と3階部分に含まれる。したがって60歳を迎える専任教員には、大学の総務課から請求手続きの書類が渡される。ただし、この私学共済への請求は、実際の年金の支払いは65歳からとなる。私の大学では私学共済では教員が60歳になったときに、先行して手続をすすめるとのことだ。

 もちろん、大学着任以前に企業はじめ国家公務員共済、地方公務員共済などに加入していた方も多いと思う。それについては、65歳前に別途、請求要請がくる。また60歳を過ぎた時点で国民年金の繰り上げ支給請求は可能であり、一定条件を満たせば特例として60歳から厚生年金の支給も可能となる。これについても専門家に相談することをお勧めする。

 以下は送られてくる国民年金・厚生年金保険年金証書(見本)



5. 3階部分:企業年金

5−1 はじめに


 この3階部分は、忘れられがちだ。私自身も忘れていた。私的年金は企業が基金としていたものを60歳以降、やはり請求に基づき支払われる。たとえば、NECに10年勤務していたとか、20年前まで日立製作所に勤務していた方で60歳過ぎてから企業年金の通知(資料)が未着の人は、以下に連絡して見ること。ご自身の名前と勤務先の企業名で加盟先の企業年金名が分かることが多い。

 請求書関連資料が1週間程度でご自宅に送られてくる。請求書に必要事項を記入し手送り返すと、数回に分け支払われる額が通知される。

 これは1階、2階とまったく別に3階分として支払われる。調べたところ請求していない方々が多いようなので、ぜひ以下に問い合わせして見ること。

5−2 企業年金(厚生年金基金)の請求方法について

 連絡先 TEL:0570-02-2666 電話口に出てきたひとに@お名前、A生年月日、B基礎年金番号、C勤務していた会社名を伝える。勤務先が複数あった場合は、それらすべてを伝える。

 ちなみに私の場合、今から約30年前に勤務していたフジテレビの関連会社、妻は35年前まで勤務していました日立製作所の企業年金について数週間前に上記に問い合わせたところ請求書が送られてきた。これに必要事項を記入し、必要書類を集めて請求すれば、指定の銀行に支払われる。

 考えてみるに、会社を退職するとき総務なり経理の人に本件について連絡を受けた覚えはない。おそらくもらっている資料、手帳、証書などにその旨が書かれてあるのだろうが、見たこともない。

 私はフジテレビ関連会社に4年間勤めただけだが、企業年金を3年間分もらうことになり、一時金としてミニボーナスをもらった。もし友人が教えてくれなければまったく請求などしようもなかった。繰り返すが、これは国民年金、厚生年金、共済年金とは別の年金なので、60歳を過ぎた方で企業年金を払っていた覚えのある方は TEL:0570-02-2666に電話して欲しい(ダメもとでも)。


6.その他

 実は、上記のいずれの請求においても、「雇用保険被保険者証」(いわゆる失業保険です)が必要となる。

 調べたら私たちの書証は、大学の総務課が保管していました。したがって、各種年金を請求する際は、書証のコピーをもらい貼付すること。

 私学共済の場合は大学が請求手続をとってくれるので書証の貼付は不要ですが、国民年金、私学共済以外の通常の厚生年金、企業年金を請求する場合には、総務課にその旨を伝え、保険者証あるいはそのコピーをもらうこと。

 またいずれの年金を請求する場合も、「年金加入期間確認通知書」が必要となる。これは日本年金機構に所定の所定の用紙で請求すれば、1週間ほどで通知書が届く。以下は私のもの。プラシバシーに係わる部分は墨で塗ってある。


 
 なお、銀行や信用金庫で上記の各手続を無料で代行してくれるサービスがある。ただし、その場合、通常、年金の振り込まれ先が当該銀行や信金となる。それらの金融機関では、社会保険士などの資格者が一括して手続を進めてくれる。