日本の国民皆保険制度、 米国のオバマケアと その行方 青山貞一 東京都市大学名誉教授(公共政策論) 掲載月日:2013年11月12日 独立系メディア E−wave Tokyo 無断転載禁 |
先進諸国の中で日本が誇れることといえば、「皆保険制度」である。 下のグラフは、2004年と少々古いデータですが、OECDによる「OECD諸国の医療費(公的、私的)ランキング」で国民一人当たりの公的、私的な医療費負担額を示したものです。 OECD諸国の医療費(公的、私的)ランキング 小豆色部分が公的医療費、薄紫色部分が私的医療費負担を指す 出典:OECD 2004年 グラフ中、小豆色部分(下の部分)が公的医療費、薄紫色部分(上の部分)が私的医療費負担を指します。図より明らかなように、日本は主要先進国の中にあって、医療費負担額が米国の1/3以下、OECD平均より低く、イタリア、フランス、フィンランドとほぼ同じレベルとなっています。 いうまでもなく、グラフの一番左にある米国は、私的負担が世界中で最も多く、公的負担を遙かに上回っています。このような国は米国をおいて他にはありません。もとより米国では医療費そのものがバカ高いのです。 一人当たり医療費負担額で第三位にいるスイスも個人負担が比較的多い国ですが、それでも米国には遙かに及びません。米国は絶対額でスイスの2倍ほど私的負担があります。 とはいえ、日本の国民皆保険制度も国の負担分があり、今後、ますます高齢化社会、少子化社会を迎えるにつれ、年金同様その負担分の維持が容易でなくなることは言うまでもありません。 しかし、日本の国民皆保険制度は冒頭に述べたように、下のグラフを見る限り、先進諸国の中で日本が誇れることに違いはなく、OECD諸国にあっても非常にリーズナブルなものとなっているといえます。 日本に問題があるとすれば、どんどん進む格差社会化と2000万人に近づく非正規雇用者の増大により、それらの人々にとっては、私的負担がそれでも負担となることです。というのも、多くの場合、非正規雇用では、健康保険は国民健康保険などで全額私的に負担せざるを得なく、それが生活に大きくのしかかっている現実があるからです。 また医療とは別に日本では医薬、薬価の問題が深刻になっています。今後、TPPなどにより医薬品の知的財産権の期限が延長となると、ジェネリック医薬品に制限がでます。そうなると、年間を通じて薬を使用する人々の負担が増大することになります。 次に私が経験した実例を紹介したいと思います。 退院時に支払った診療費に対する慈恵医科大学付属病院から発行された領収書 2010年11月30日慈恵医科大学付属病院発行 2010年11月10日、首の骨(第二頸椎)を自宅で折り、慈恵医科大学病院の脳神経外科に緊急入院しました。その際、20日間入院し、大手術などにかかった医療費は、国民皆保険制度それに高額医療還付制度がなければ差額ベッド代を含め250〜300万のはずでした。しかし、それらの制度があることにより最終的に私が個人的に負担した額は差額ベッド代を別にすれば、25万円程度となりました。 以下のX線写真は、手術後に撮影したものです。第一頸椎と第二頸椎の間に腰から移植した骨を挟み、6本のチタン合金で固定しています。私が重度なぜんそく患者であったため、最初に徹底したぜんそく発作対応に集中し、その後、手術を行うなど、慈恵医大の脳神経外科だけでなく、麻酔科や気管支ぜんそく、生活習慣病などを含め内科もかかわる大変なものとなりました。 CT画像に見る青山貞一の第二頸骨骨折(2010年11月11日撮影)。 出典:慈恵医大付属病院脳神経外科 手術後の青山貞一の頸椎レントゲン写真(2010/12/13) 出典:東京慈恵会医科大学付属病院脳神経外科 出典:慈恵医大付属病院脳神経外科 今の日本の医療費には保険診療(医療、原則3割個人負担)、非保険医療、高額医療があり、手術を含め検査、治療、投薬、手術は保険対象診療(医療)となっています。 私の場合、第二頸椎骨折治療の中心的な医療行為となる手術及び輸血は総額で保険対象で退院時、総額347,700円を、麻酔は2,700円を自己負担額として病院に支払いました。しかし、これらの大部分は高額医療行為であるので還付の対象となりました。退院後、高額医療還付を手続きをとったので、一旦病院に支払った費用その大部分が還付されました。 上記の手術関連費以外としては入院関連費用があります。 退院時に支払った額としては、入院料等が40,149円、入院料等(包括)が187,638円でした。これらは手術、輸血、麻酔以外の日常的な検査(血圧、血糖値、体温、血中酸素飽和度、血液、尿、心電図など)、投薬・点滴(気管支拡張、ブドウ糖、ステロイド剤、抗生剤)などが含まれています。 結果として、1日2万6千円、18日入院したことによる差額ベッド代が一番高額であり、合計468,000円となりましたが、それ以外は、上記の手術関連日が高額医療還付により大部分還付されたこともあり、最終的にかかった医療費は、25万円程度となったのです。 これについては、以下に詳細を書いていますので、ご関心がおありの方はご覧ください。 ◆青山貞一:椎骨折手術Informed Consent全記録・G関連する費用 http://eritokyo.jp/independent/aoyama-col12817c.htm 冒頭に述べたように、もし、日本の皆保険制度、高額医療費還付制度などがなければ、差額ベッド代を含め300万円近くの費用がかかったことを考えると、国民皆保険制度は多くの問題を抱えながらも、すばらしい制度であると思えます。 入院中、友人の大学教授が私を見舞いに来たとき、「青山さん、もし、皆保険制度がない米国で、さらに民間保険に加入していないと2000−3000万円はかかりますよ」とマジな顔で話されました。 事実、彼は国際学会で行った香港で盲腸炎になり、手術をしたところ術後、一日当たりの入院費が膨大で早めに病院を抜け出し帰国した話をしてくれました。彼の例は米国ではありませんが、彼によれば日本を含め、どの国でも病院側では、一日当たりの入院費(=ホテル代)で帳尻を合わすことが多いので、病院側の要請でいつまでも病院、とくに個室にいると高額になってしまうとアドバイスをくれました(笑い)。 以下は保険がない場合の医療費の例です。確かに、香港は高額です。
さらに香港の医療費については、以下も参考になります。 ※香港の医療制度 現在、問題となっているTPP交渉の裏で、米国は日本の国民皆保険制度を批判し、今後、日本に混合診療、自由診療を迫ってくることが考えられます。 閑話休題 この10月、債務不履行(デフォルト)になりかけた米国は、ぎりぎりのところで、共和党と民主党が歩み寄り実質先延ばしとしました。その際、共和党が最後の最後まで批判し続けたのが、オバマ大統領による国民皆保険制度(通称、オバマケア)です。 オバマケアは、米国の民主党が日本に類する国民皆保険を米国で制度化しようとするものです。 最新の田中宇氏の論考、「飢餓が広がる米国」によれば、「米国で福祉が縮小し、中産階級が貧困層に転落して、大多数の米国民の生活苦がひどくなるのは、共和党のせいにされることが多い。だが実際のところ、民主党のオバマ政権も、福祉の混乱や経済の疲弊に拍車をかけることをやって いる。」と述べています。 繰り返す債務不履行問題における共和党の激烈なオバマの国民皆保険制度化への批判がおかしいと同時に、実はオバマケアが「無保険者を減らし、 国民階保険を実現する」と銘打って開始されたにもかかわらず、結果的に無保険者を増やす方向となっている事実は看過できません。 これについては後編で書きます。 |