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中大理工学部教授殺人事件、
留年
で生活苦の末の
逆恨みか!?
青山貞一 
24 May 2009
独立系メディア「今日のコラム」


 中央大学理工学部の高窪教授が殺害された事件で逮捕された山本容疑者は、高窪教授殺害を認めつつも依然として殺害の動機については押し黙っているという。

 しかし、逮捕の大きなきっかけとなった生前の2008年5月に高窪教授が学生らに「訪ねて来たら教えてほしい」と指示していたこと、さらに同2008年5月に山本容疑者について「問題のある人」と学生にもらしていたことから、教授と山本容疑者の間に何らかのトラブルがあったことが想定されている。

 逮捕後に山本容疑者が高窪教授の授業で単位が取れず留年したこと、一方、留年後、高窪ゼミに配属され卒業研究を仕上げ120単位を取得し卒業したことが分かっていた。

 山本容疑者へのその後の取り調べで、「大学を卒業後、就職した東証1部上場の大手食品メーカーを辞めてから人生が狂った」、また「自分の描いた将来像と違ってしまった」と卒業直後に就職した食品関係の上場企業を見習い段階で自主退職し、その後、母校に行き高窪教授に再就職の相談を持ちかけときに、冷遇されたと思いこむなど、高窪教授への逆恨みが募っていったことが推察される。

 一般的に言って、大学で学生が最終的に1単位少なく卒業条件を満たせなかった場合、当然、授業への出欠、リポート提出、期末試験などで100点満点中60点が取れない自分なりの理由があるわけであり、わずか1単位で留年になる不満や怒りが当人や父母にあったとしても、殺意に直接結びつくことはありえない。もちろん、1単位足りなくて留年した場合でも、卒業研究を終えていれば通常、翌年の前期に単位を取得すれば秋には卒業できるはずだ。

 一方、卒業研究は、通常、3年を終えたときに一定の単位数、たとえば100単位を取得していないと卒業研究に着手できないとしている大学が多い。もし、この段階で1単位足りなくて卒業研究に着手できないとすると、確実にもう1年留年せざるを得ないことになる。山本容疑者の場合、どちらのケースか分からないが、山本競技者は2度、高窪教授の授業で単位取得に失敗しているようなので、ひょっとしたら両方なのかも知れない。

 ちなみに私の大学では、3学年(事例研究研究室配属前提条件)になるためには70単位、4学年(卒業研究着手条件)には100単位が不可欠となっている。

 周知のように私学の場合、とくに理工系や医学系では年間の授業料が旧国立系大学や私学でも文系大学に比べはるかに高額となる。もし、1単位で留年した場合でも、場合によってはそれだけで100万円を超す授業料、実験実習料、諸会費が必要となる。

 中央大学理工学部の場合、1年留年すると約110万円が必要となるはずである。ちなみに初年度の学費は約160万円であるから、1年留年すると入学金を含め全体で675万円かかる。中央大学では理工学部が一番学費が高い。私の大学でも工学系の学費はほぼ同額である。

 ※中央大学の学部別学費等一覧

 ところで、山本容疑者は両親を約15年前に亡くし、兄と2人で住んでいたが、その兄は結婚し別の場所に住んでいるとされている。

 結果的に山本容疑者はひとりで自宅で生活していた訳だが、ひょっとすると留年のための110万円は非常に大きな経済的負担となっていた可能性は否定できない。もちろん、両親が亡くなった後の家計がどうなっていたのか、遺産がどうなっていたのかはかいもく分からないが、可能性は十分ある。そもそも15年前に両親がなくなっているとすれば、それなりの遺産があってもとっくに使い切っているかも知れない。

 新聞、テレビなどの今までの報道では、山本容疑者の境遇や生活苦についての記事はほとんどないが、逆恨みの根源はその辺にあったのではないかと推察できないことはない。

 この間、派遣、非正規労働などを問題にしてきた大マスコミだが、限界状態の生活苦が逆恨みとなった可能性がないだろうか?

 というのも、山本容疑者がこの1月に犯行に及ぶ直前は、ホームセンターにアルバイトで勤務していたことが分かっているが、月収は5−6万円と報じられている。自宅はあったとしても、食費、光熱費はじめ固定資産税、住民税などが必要となれば、蓄えがない限り、月々5−6万円の収入ではどうみてもやりくりは無理であろう。

 当初の就職、再就職、その後の転職などに関連し、高窪教授と山本容疑者との間にどんなやりとりがあったのか、現状では推察のしようがない。見習いとは言えおそらく当時の大卒の初任給は20万円前後あったとしても、手取りでは16〜17万円となるだろう。

 また、留年後勤務した会社が食品会社というのも少し気になる。中央大学の理工学部、それも電気電子情報通信学工学科を卒業したこととの関連だ。同学部の偏差値は中央大学(64〜57)のなかでは一番低く57程度だが、それでも他の私学の工学部と比べれば十分高いはずだ。

 私が併任講師をしていた中央大学理工学部の土木工学科は、当時、卒業生は国家公務員上級の土木職にかなりの数入っていて、東京工大工学部より多い年もあったくらいである。

 ※中央大学学部別の偏差値一覧

 再就職先は確か電気系のはずだか、就職指導上のトラブルがなかったかどうかも気になるところだ。なぜ、山本容疑者が見習い、研修段階で食品会社を辞めたのか?

 山本容疑者がその後、就職、退職(解雇)を繰り返している。犯行に及んだアルバイトより前の段階でも、手取り収入が10万円程度となったことは想像に難くない。

 あまり他人と話さない、真面目な性格であったとすると、友人も多くなく、借金が出来る友人がいなかったとか、サラ金、消費者ローンなどに手を出すこともなかったのではないか。もし、手を出していれば出していれば多重債務に陥っている可能性は否定できない。

 察するに留年で110万円の負担がのしかかり、その後、就職した食品関係の上場企業では試用期間中に自主退職したことなどを考えと、自分の生活苦を高窪教授に責任転嫁する何かがあったのではないかと思える。

 具体的には、高窪教授と山本容疑者との間での議論、やりとりで高窪教授が話した「ひとこと」が逆恨みの原因となってしまったことは十分考えられる。何気なく話した、叱責した言葉が学生をひどく傷つけた可能性である。

 もちろん、仮にそうだとしても、だからといってそれが山本容疑者が認めている40カ所に及ぶ殺傷をした激しい怨恨に通ずるとは思えないが。

中大教授殺害:「食品大手辞め人生狂った」 再就職相談か
毎日jp 2009.5.24

東京都文京区の中央大学で1月、理工学部教授、高窪統(はじめ)さん(45)が殺害された事件で、殺人容疑で逮捕された卒業生のアルバイト店員、山本竜太容疑者(28)が警視庁富坂署捜査本部の調べに対し「大学を卒業後、就職した東証1部上場の大手食品メーカーを辞めてから人生が狂った」という内容の供述をしていることが分かった。捜査幹部が明らかにした。

 高窪さんが08年5月ごろ、山本容疑者について「問題のある人」と学生に話していたことも判明。山本容疑者は「先生に不満があった」とも供述していることから、捜査本部は再就職などの相談を持ちかけたものの、高窪さんに冷遇されたとの思い込みが逆恨みの原因になったとの見方を強めている。

 山本容疑者は大卒後の04年4月、東証1部上場の大手食品メーカーに就職したが、試用期間中の5月中旬に自己都合で退職した。その後勤務した電子機器製造販売会社など2社も数カ月で辞め、07年9月からはアルバイトを掛け持ちしていた。

 山本容疑者は調べに「自分の描いた将来像と違ってしまった」と境遇への不満を話しているが、動機を聞かれると押し黙るという。

 山本容疑者は08年6月、就職活動用に大学から卒業証明書などの書類を取得。前月には高窪さんが「訪ねてきたら教えてほしい」と山本容疑者の名前を挙げて学生らに伝えていた。山本容疑者は「08年6月以降、何度か大学に行った」と供述しており、捜査本部は、この時期から高窪さんへの接触を図っていたとみて調べている。

 捜査幹部によると、山本容疑者が事件前に記したノートが自宅から押収された。「マイナス思考ばかりでは駄目だ。前向きに頑張っていこう」という趣旨の記述があったほか、人とのコミュニケーションがうまく取れないことに悩み「性格を変えていかないと」と自分に言い聞かせるような言葉もつづられていたという。

【佐々木洋、古関俊樹、神澤龍二】