エントランスへはここをクリック   


ナトリウム漏れの構図と酷似

読売新聞

October 2010
独立系メディア「今日のコラム」


 日本原子力研究開発機構の高速増殖炉「もんじゅ」(敦賀市白木)の原子炉容器内で「炉内中継装置」【クリップ】が落下したトラブルの原因は「設計上のミス」だった可能性が高いことが分かった。同機構は1日、国に提出した中間報告書で、装置をつり上げる機器の部品に事故防止策が施されていなかったことを認めた。もんじゅを長期停止に陥らせた1995年のナトリウム漏れ事故の原因となった構図と酷似しており、来夏以降にずれ込む出力40%試験運転までに安全確認の徹底が求められる。(藤戸健志)

 「設計ミスなのか、施工ミスなのか、今は何とも……」。

 敦賀市役所で1日会見した同機構敦賀本部の森将臣・広報課長は落下原因について明言を避けた。しかし、中間報告書にはこう記述されている。「直接原因は開閉ロッドに回転防止の措置が施されていなかった…」。

 装置をつり上げる「つかみ部」は、2本のツメの間に側面が扁平(へんぺい)型の「開閉ロッド」(幅90ミリ、厚さ63ミリ)という棒を押し込んで外側にツメを開き、装置上部の縁にひっかけてつり上げる構造になっている。

 事故後の調査で、開閉ロッドを固定するU字金具のネジが緩んでいたことが判明。ロッドが約90度反転したため、押し込んでもツメの開きが足りず落ちたとみられている。

 機構によると、もんじゅには「つかみ部」を持つ機器は他に14基。いずれもロッドの側面は円形状など反転しない構造で、反転防止措置のないロッドはトラブルのあった1基だけだった。

 「メーカーや原子力機構が設計図をきちんと確認していれば回転を防ぐなど適切な処置がとれたはず。事故が起きないと分からない欠陥がほかにも潜んでいると考えざるを得ない」。

 反原発の市民団体「ストップ・ザ・もんじゅ」は、95年12月のナトリウム漏れ事故で配管に取り付けられたナトリウム温度計を入れるさや管の設計ミスと同じく、初歩的な問題が再び露見したと指摘している。

 今回のトラブルで、8月下旬に開始予定だった1、2次主冷却系の設備点検は約1か月停滞。5月以降の再開予定だった40%出力の試験運転は7月以降にずれ込んだ。落ちた装置は4日から引き上げ、原子炉容器内の器具に損傷がないか確認する作業に入るが、調査結果によって試験運転の開始がさらに遅れる可能性もある。

 また、県は、運転再開了承の交換条件として北陸新幹線の延伸を要求、経済産業省や文部科学省のトップと地域振興策などで意見を交わす「3者協議」の開催を求めていくことも表明しており、政治的要因で試験運転が遅れる懸念もある。

 もんじゅは5月に、14年5か月ぶりに試験運転を再開したばかり。高速炉の実用化に必要なデータや技術の取得などの使命を果たすのは、これからだ。

 「原子炉容器内でのトラブルを重く受け止めている」という原子力機構に対して、経産省原子力安全・保安院の森下泰・地域原子力安全統括管理官は「例えメーカーの設計ミスでも最終的な責任は事業者にある。もっと緊張感を持って取り組むべきだ」と指摘した。

 今回のトラブルは、国や県、市に対する通報が約1時間30分遅れるというミスも重なった。もんじゅが再び長期停止することがないよう、原子力機構には同じ失敗を繰り返さない確実な取り組みが求められる。

 【クリップ】炉内中継装置 炉内で新燃料と使用済み燃料を受け渡す、もんじゅ特有の機器(長さ12メートル、重さ3・3トン)。もんじゅは、水や空気に触れると激しく反応するナトリウムを冷却材に使うので、軽水炉のように原子炉容器のふたを開けて燃料交換することはできない。そのため同装置を使う。

(2010年10月4日 読売新聞)