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2009年10月7日付けの毎日新聞によると、民主党により凍結されていた最先端研究開発支援プロジェクトの研究費の配布方法が決定した。 まず、原案の2700億円を2000億円に減額する。そして、中心研究者として選ばれた30名に配布予定であった平均90億円を平均30億円に減額し、残りの予算を多数の若手研究者に配布するという。この対応には、はっきり言って失望した。
今回の一番の問題点は、30名の中心研究者を選ぶ過程が拙速であったことである。ライフサイエンスやエネルギー問題など様々な分野にまたがる研究課題の選考を一つのワーキングチームが専門家の審議なしに1ヶ月あまりで拙速に決めてしまったことが問題であったのである。
選考過程において耳を疑うような事実も判明し始めた。「採択された研究者の妻が選考を担当する委員の一人であった。」とロハスメディカルで報じられた(1)。 内閣府のインターネットのサイトに「中心研究者・研究課題選定時における利害関係者の排除について」という資料が公表されている。 そもそも、このようなルールが公表されていなくても、研究申請者の親密な関係者が選考に加われば、正当な評価が出来るはずがない。これは、モラルが低下しているというよりも、すでに何がモラルかさえもわからなくなっているのではないだろうか。
私はプロジェクトを遂行するには、ビジョン、情熱、戦略、良心の4つが不可欠と考えている。この中で、ビジョンと情熱と戦略はどれが欠けてもプロジェクトは、成就しない。 ところが、良心が欠けると、プロジェクトはどんどんと間違えた方向に進むのである。良心が欠けた例としてヒトラーの第三帝国、戦時中の日本の軍事政治が挙げられる。 今回の審査する側の人間と親密な関係にある研究者が採択されたという事実は、モラルの問題を越えて良心の欠落の可能性さえあり危機的なものを感じる。特に、科学において良心がなければ、捏造や他人のデータの横領など科学の根底を揺るがす問題が起こり得る。 今回の大型研究費は、日本で初めての試みである。このような重要なプロジェクトで選考過程が拙速なだけではなく、良心の欠落の可能性が疑われる事実はあまりにも寂しい。このような重要なプロジェクトだからこそ選考過程を徹底的に検証し、違反が有ればしかるべきペナルティーを科さなければ、日本のアカデミアは崩壊の道をたどるであろう。
90億円の支給額を30億円に減額するとは、あまりに乱暴である。私が今回申請した研究はおよそ90億円を必要としていた。もし30億円に減額するといわれたら、このプロジェクトはできないと答えるであろう。 減額された60億円を別途調達して、当初の申請どおりの研究が行なえる研究者はまずいないであろう。 どうしても30億円しか支給できないといわれたら、私なら、30億円でできるプロジェクトを新規に考える。ただし、90億円のプロジェクトと30億円のプロジェクトは、明らかに別物になる。
減額ありきが今回の方針ならば、まずは減額のみを公表すべきであった。総額が2000億円あれば、もともと目標としていたライフサイエンスを中心とする我が国の科学力の底上げは十分できるはずだ。
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