|
|
那覇新都心地区(おもろまち地区)は、沖縄戦最大の激戦地であり、戦後は米軍により強制接収され、30年以上たって、ようやく返還された土地である。 返還後は新都心開発整備構想のもと、道路や公共施設建設のために、当時の地主たちは所有する土地の約半分を国と地方公共団体に譲渡することになった(所有土地の30%を無償、20%を有償で譲渡)。 ここ数年、那覇市をあげて問題となっているおもろまち1丁目1番地の土地も、そのような経緯で確保された市行政施設用地であり、那覇市役所の移転先として、おもろまち1丁目1番地1という住所が与えられた新都心整備事業の中心的存在であった。 しかし、先祖から受け継いだ大事な土地を公共のために仕方なく譲渡した地主や、市役所建設を信じていた市民との協議もなく、翁長雄志那覇市長は突然、一方的に市役所予定地の売却を決定した。 そして那覇市が「本市にふさわしい」として採用した事業は、当時の都市計画に違反する超高層マンション群・商業施設建設事業だった(32階建マンション2棟 合計640戸、商業ビルは18階建)。 那覇市行政はその無秩序な事業計画を実現するために地元住民の圧倒的な反対を押し切って用途地域を第二種住居地域から近隣商業地域に変更、建ぺい率も容積率も大幅に引き上げたのです(建ぺい率60%→80%、容積率200%→400%)。 おもろまちの地元住民は、この大規模開発が惹き起こす生活環境の変化として、交通渋滞や強風被害、圧迫感、日照不足、電波障害、環境汚染、プライバシー侵害など数多くの問題点を指摘してきた。 さらに地震によるビル倒壊や高層火災など災害の危険性について、超高層ビル群の直下に暮らすことになる住民として強い不安を訴えてきた。 また、この事業が実行されると、おもろまち地区が首里城から近いため、首里城から市街地や東シナ海を見渡す眺望、景観が損なわれてしまい、沖縄県の観光にも悪影響をもたらすのではないかと懸念する声も多くあがっている。 住民達は、地元の住環境と沖縄の貴重な景観を破壊する無秩序な事業計画を見直すよう求め、約1万2千人分の署名とともに市や県に陳情を繰り返し行ってきた。 市の担当者は土地売却前、「土地の所有権が移れば事業者主催の説明会に参加し、住民の要望が事業計画に反映されるよう、那覇市は仲介役としての責任を果たす」と、住民たちに約束したはずであったが、平成20年2月の土地譲渡契約後は手のひらを返し、「市は事業計画を説明する立場にない」として説明会への参加を拒否してきた。 市の担当者が参加しない事業説明会で事業者は、修正協議を行うどころか、市の指導で実施した環境影響調査の不備や説明の矛盾を住民から指摘されると、一方的に説明会を打ち切り、住民たちの度重なる説明会開催の要求を無視し続けている。 このような状況の中、住民団体は事業が周辺住環境と都市景観に配慮したものへ修正されることを求めて、平成20年6月、地域再生協議会の設置を要請した。協議会設置要請から約半年がたって平成20年12月にようやく協議会が設置されたが、それはまたしても住民の思いを裏切るものでった。 協議会での協議項目を雇用や経済効果、完成後のまちづくりに関する事項に限定し、「建築物の配置や構造に関することは除く」と記された協議会設置要綱を市が作成していたからである。 協議会が設置されることになった経緯を全く無視し、地元住民が不安を抱いている様々な問題について解決するための協議ができないような規則を那覇市が決定してしまったのだ。 協議項目や構成員に制限を加える那覇市の行為は、地域再生法にも違反するものであると考えられるが、それでも、あえて住民たちは、その設置要綱の規定の範囲内で「防災対策」、「住環境や景観の保全」等に関する協議を求めたが、それさえも「市長が協議になじまないと判断した」という理由で拒絶されました。 現在行われている協議会は、「沖縄全体の雇用状況」や「IT事業の可能性」等の抽象的な説明に終始し、3回目の会合が終了した現時点においても、委員に対して具体的な事業計画の内容は全く明かされていない。 市は超高層ビル群の被害から地元住民の生活を守るための議論を全面的に排除するだけでなく、市長がこの事業の大義名分としている「雇用創出」や「経済効果」についても具体的な資料を全く提示しない。 単なる「アリバイ作り」の会合が、市民の大切な税金を浪費して繰り返されている。 実質的な説明や議論を行わず、ただ回数だけを重ねて「実績をつくる」というやり方は、この2年間、市や事業者が行ってきた地元住民に対する説明会と全く同じものだ。 ●「市有地の安売り」‥‥‥48億円を市民に取り戻すため裁判中 住民団体は、今回の土地売却が「市有地の安売り」だと指摘し、翁長那覇市長に48億円の損害賠償を求める住民訴訟を提起している。 那覇市行政はその土地が第二種住居地域であった時点の不動産鑑定をもとに売却価格を設定したが、譲渡先に選定された業者(大和ハウス、オリックス不動産、大京)の要求に合わせて、土地の用途地域を近隣商業地域に変更し、建ぺい率も容積率も大幅に引き上げた。 そのため結果的に、市場価格を大きく下回る価格での市有地売却となった。 市長は、“商業地”に変更され、価値が大幅に上昇した市有地を、以前の“住宅地”の価格で売却してしまったのである。 この市有地処分における那覇市の損害額は、近接する日本銀行那覇支店用地の取引価格を参考に、約48億円と推定している(日銀179万円/坪に対し本件土地106万円/坪)。財政難を理由に市有地売却を決定したはずなのに、正当な対価を業者に求めようとしない行政の態度は不可解でならない。 ●「かんぽの宿」問題とおもろまち問題 那覇市の元市役所予定地の土地取引は、全国的に大きな問題となっている「かんぽの宿」問題とも密接に関係している。 おもろまちの元市役所予定地は、冒頭にも述べたとおり、公共公益施設用地として使用することを約束して、市が地主たちから譲り受けた土地であるから、本来、民間への売却は法的に不可能な行為であった。 しかし、平成18年5月の「公有地の拡大の推進に関する法律」の改定で、先買い制度に基づき取得された土地でも一定の条件を満たせば処分できることになり、翁長那覇市長は突然、市役所予定地の売却を表明した。 この法改定にはオリックス宮内会長が議長を務めた規制改革・民間開放推進会議が大きく関わったといわれている。 そして、土地売却処分を担当する市職員は同年7月、先進事例として兵庫県の2つの事業を視察したが、その事業グループには、2か月後のおもろまち事業募集に共同企業体として応募し、選定されることになるオリックス不動産とその関連企業(大京)が含まれていた。 しかも視察事例の一つである神戸市御影工業高校跡地事業については、安易に用途地域の変更がなされ、売却先決定後に初めて住民説明会が行われるといった、おもろまちと酷似した住民無視の事業計画が進められ、神戸市は那覇市の視察当時には地元住民から「市有地を32億円安売りした」として住民監査請求され、現在も住民訴訟中であることが明らかになった。 当時、視察について全く情報を持たなかったおもろまち住民が、神戸市住民の後を追うように「市有地の安売り」を主張し住民訴訟を起こしたことは単なる偶然として片づけられるものではない。 市長は、一坪あたり約106万円の元市役所予定地の売却価格を正当化するために「元郵政メルパルク用地(県立博物館・美術館向い)が一坪あたり120万円弱で取引された」と市議会で述べたが、最近になって、それもまた、日本郵政とオリックス関連企業との土地取引だと判明した。 しかも、その土地は旧郵政省が1999年当時、一坪あたり約230万円で購入した土地であることも分かったのだ。 この10年間、那覇新都心地区の地価は毎年上昇し続けていたにも関わらず、郵政はその土地を取得したときのほぼ半額でオリックス子会社に売却したことになるす。 翁長市長の発言は、元市役所予定地の土地取引に対する疑念をさらに深める結果となっている。 |