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真夏の上信越を行く@
島々谷川の砂防ダム現地視察

青山貞一・池田こみち
環境行政改革フォーラム

18 August 2009 無断転載禁
初出:独立系メディア「今日のコラム」


 2009年8月15日(土)の午前10時から15時30分まで、長野県松本市安曇の島々谷川が梓川に合流する地点(島々)からわさび沢に予定されている第6砂防ダム建設用トンネル出口を視察した。

 現地視察では、地元の田口康夫氏(渓流保護ネットワーク・砂防ダムを考える会代表)、同会員の巽氏にご案内いただいた。ここに感謝の意を表したい。

 以下はその速報である。           

 私たちは、拠点となる群馬県北軽井沢の環境総合研究所保養所を朝7時半に出発し、佐久ICから信越自動車道に乗り、長野ICから分岐して長野道の松本方向へ向かった。

 松本ICで高速を降り、国道158号を上高地方面に向かうと約20分ほどで島々谷川が梓川に合流する地点、島々の集落に到着する。



 およそ2時間半の道のりである。

 お盆の週末に重なり、付近の道路は上高地に向かう車でやや混んでいた。私たちはそこで一旦下車し、昭和20年の洪水の状況がどのようなものだったか、説明を受けた。


島々谷川が梓川に合流する地点



 当時、島々谷川右岸の堤防はなく、上流からの濁流は一帯の家屋をなぎ倒し大きな被害をもたらしたという。

 その後、堤防が整備され、新たに川岸には建物が建設されている。

 しかし、この地点は島々谷川が直角に梓川に流入する地点であり、上流で豪雨があった場合には、すぐに決壊して被害をもたらす可能性が高いことから、河川流域しかも合流地点周辺の土地利用は防災の観点からできるだけ建物などハードな構造物の建築を避けるなど、必要な規制がかけられるべきである。

 砂防ダムが多重に整備されていることにより周辺住民は河川が「安全になった」と誤解しがちだが、今回の視察を通じて、砂防ダムの整備により河川は新たなリスクを多重に内包することになってしまった現実をしっかりと見ておきたい。

 そこから、再び車に乗り込み、島々谷川右岸の狭い道路を上っていく。この山道は砂防ダム工事の車両が入るために整備されたものだが、上高地から下るトレッキングコースとしても利用されている。

 途中、道路にバーがあり、そこから先は通行止めとなっているが、イワナ釣りのシーズンでもあり、何台か釣り人の車がすでにバーを手で持ち上げてさらに上流に向かっているようだった。



 私たちはそこで車を置き、往復5時間のトレッキングの装備を調え砂防ダム建設のために整備された道路を歩き始めた。

 久しぶりの晴天に恵まれて空は真っ青に晴れ渡り、白い夏雲が美しい日だ。都会では30度を超える猛暑でも、さすがに標高1000mで樹木が生い茂る山道は涼しい川風が吹き抜けて快適なトレッキング日和だった。

 島々谷川には現時点ですでに5基の砂防ダムが建設されている。

 そのために川沿いに道路が整備されており、その工事で出た土砂を河川に所々盛り土しているため、河川幅が狭隘化し、豪雨の際にはそこで流れの勢いが増して蛇行する対岸の川岸を激しくえぐり取ることになる。それにより樹木がなぎ倒され、さらに土砂が流出するという悪循環を繰り返す。



 また、道路工事により山の斜面を流れ下る沢水の流れが変わり、所々に扇状に土砂が堆積している箇所も見られた。


扇状に土砂が堆積している箇所

 季節ごとにすばらしい自然の景観を作り出す渓流に次々と砂防ダムを建設することにより景観が破壊されるだけでなく、河川の流れを変え、次々と複合的な影響を流域全体に及ぼしている様子が見て取れた。

砂防ダム 竣工年 高さ(m) 堤長(m) 貯砂量(m3)
第1号ダム 1946年着工 15.7 34 2111
第3号ダム 1962年着工 31 114.5 24834
第4号ダム 1972年10月 16 62 137000
第5号ダム 1987年10月 14 42.5 34000
第6号ダム 計画中 42
出典:渓流ネット

 案内してくださった田口康夫さんは、砂防ダムの弊害を次のようにまとめている。

●砂防ダムの弊害

1.海岸浸食

 砂防ダムや貯水ダムがなかった明治初期に比べ、海岸線の後退は著しく、ひどいところでは1.5kmにも及んでいるという。海岸線の維持は川からの土砂が供給されることで維持されてきたが、砂防ダムや貯水ダムの建設により、土砂が海岸に到達しなくなり、その結果、海岸の土砂は波や海流に削り取られる一方となっている。

 ダムにより土砂の供給と海岸浸食のバランスが大きく崩れた。さらなる砂浜の浸食を防ごうと、膨大なテトラポットを海岸線に設置する工事が全国で進んでいる。まさに川を壊し、海岸を破壊するという二重の影響をもたらしていることに他ならない。

2.磯焼け

 森林から栄養分に富んだ土砂が川によって運ばれ海に到達することで海草や海の生物が豊かに生息できる環境が整えられるが、砂防ダムなどにより土砂の供給がストップしてしまうと、海岸への栄養供給路は絶たれ、海草など海岸の生態系を死滅させる、いわゆる磯焼けがあちこちの海岸で見られるようになっている。

3.骨材の不足

 ダムや砂防ダムによる貯砂機能によって、下流への土砂供給が止まり、中下流での骨材利用ができなくなっている。そのため、新たに山を削ったり、海底を掘り返したり、田畑を土砂供給源とするような事態が生じている。

 本来、川が豊富な土砂を運ぶことにより、自然が骨材を豊富に供給していたにもかかわらず、それを止めたことにより、自然破壊の連鎖が続くことになる。

4.河床低下

 砂防ダムの建設により上流からの土砂供給が止まり河床が低下し、護岸や橋桁などの基礎部が洗掘りされ災害につながるケースが多くなっている。

 こうした現場では、護岸の補強や橋の架け替えなどでさらなる土木工事が必要となり莫大な公共事業費が必要となる。

 また、河床低下は魚類の遡上の妨げになったり、産卵場所、稚魚の育成場所を奪うため、河川の生態系にも大きな影響を及ぼすことになる。魚道の整備では対応し切れていないのが実態である。

5.貯水ダムの堆砂

 貯水ダムに当初見込みより早く土砂が堆積しダム機能が低下している。そのため、土砂の流入を遅らせようと次々に上流に砂防ダムを建設することになるが、それは、財政面、土砂管理面だけでなく、広く河川・森林・海浜環境の面で様々な課題を引き起こすこととなっている。

 砂防ダムを造り続けてもいずれ満砂することは明らかであり、それよりも、ダム建設に頼らない総合的な治水対策の一環としての間伐、混交林への林相転換などの森林整備が不可欠な時代となっている。

(以上、「砂防ダム問題と渓流環境」より抜粋引用)


つづく