【スコットランドで独立の賛否問う住民投票の実施へ
準備着々 〜投票日は 2014 年 9 月18日】
英・スコットランド政府は住民投票が「明確な法的根拠を持つ」ことで合意
出典:(財)自治体国際化協会ロンドン事務所
マンスリートピック(2013 年 3月)
デービッド・キャメロン英国首相とスコットランドのアクレックス・サモンド首席大臣1)は 2012 年 10 月15 日、スコットランドの独立の是非を問う住民投票の実施に向けて両政府が協力することで合意する合意書に署名した。
「エジンバラ合意(Edinburgh Agreement)」と呼ばれるこの合意書は、スコットランドの首都エジンバラの中心部に位置するスコットランド政府庁舎である「セント・アンドリューズ・ハウス」で行われた署名式で署名され、これにより、スコットランド独立を巡る住民投票の実施に向けた道筋がつけられた。
「エジンバラ合意」において、英国とスコットランドの両政府は、「1998 年スコットランド法(Scotland Act 1998)」の第 30章2)の規定に従って、スコットランド独立の賛否を問う住民投票の実施に必要な立法措置を行う権限を英国国会からスコットランド議会へ移譲することを目的とした「枢密院令(Order in Council)」3)をスコットランド議会と英国国会に提出することに合意した。これによって、スコットランド独立を巡る住民投票を、その実施方法の決定を含めてスコットランド政府が行うことが確定的になった。
両政府はさらに、住民投票が「明確な法的根拠を持つ」ことで合意した。このことは、両政府に対し、住民投票の結果を最大限に尊重することが求められることを意味する。両政府はまた、住民投票の実施日は
2014 年末までとし、投票用紙に掲げる質問の数は一つのみとすることで合意した。スコットランド政府は、この合意の締結を伝えるプレスリリースで、「スコットランド政府と英国政府は、公平性、透明性、適切性といった点において最高の水準を満たす住民投票をスコットランド政府が実施することを可能にするべく協力する」と述べた。
上で述べた「枢密院令」は、2012 年 12 月〜2013 年 1 月にスコットランド議会と英国国会で承認された。さらに
2013 年 2 月、枢密院の承認を受けた。これを受け、スコットランド政府は 2013
年 3月、住民投票の実施を目的とした 2つの法案をスコットランド議会に提出した。
この2 つの法案の名前は、「スコットランド独立住民投票法案(Scottish Independence Referendum Bill)」及び「スコットランド独立住民投票(選挙権)法案(Scottish Independence Referendum (Franchise) Bill)」である。これら 2 法案は、住民投票の投票日、選挙権、投票用紙に掲げる質問の文言、スコットランド独立賛成または反対派によるキャンペーン運動の費用の上限額、キャンペーン運動に関するその他のルールなどについて規定している。
選挙権年齢は 16 歳に引き下げ、質問は一つのみに限定〜議会で審議中のスコットランド政府案
スコットランドの独立の是非を問う住民投票の実施についてこれまでの経緯を振り返ると、まず2012 年 1 月、スコットランド政府は、「あなたのスコットランド、あなたの住民投票(Your Scotland, Your Referendum)」と題する協議文書を発表し、住民投票に関して専門家や一般の人々などから意見を募った。
続いてスコットランド政府は 2012 年 10 月 22 日、この意見集約作業で寄せられた回答を分析した報告書を発表した。回答の分析作業は、政府から独立の立場にある民間のコンサルタント会社が手掛けた。この意見集約作業に対しては、個人や団体から何千件もの回答が寄せられ、回答の件数は、スコットランド政府がこれまでに実施した全ての意見集約作業のうちで
3 番目に多かった。
報告書によると、意見集約作業では、
◎住民投票で投票用紙に掲げる質問の文言、
◎住民投票の実施時期、
◎16、17 歳の若者への投票権の付与、
◎スコットランド独立の賛成派または反対派によるキャンペーン運動の費用の上限額――
についてスコットランド政府が協議文書で示した案に対し、幅広い支持が得られていることが分かった。
また、回答者の大半は、住民投票の投票用紙に掲げる質問の数を一つのみに限るとの案に賛成であった。一方、投票日を土曜日にするとの案については、賛成意見と反対意見の割合がほぼ同程度であった。
16、17 歳の若者に投票権を付与するとの案は、前述の 2 法案のうち、「スコットランド独立住民投票(選挙権)法案」に盛り込まれている。英国の選挙権年齢は
18 歳以上であるが、同法案は、この住民投票に限り、これを 16 歳に引き下げることを提案している。「スコットランド独立住民投票法案」と同様、同法案も、現在スコットランド議会で審議中である。
続いて 2013 年 2月、スコットランド政府は、「スコットランドの未来: 住民投票から独立、そして成文憲法の制定へ(Scotland’s Future: from the referendum to independence and a written constitution)」と題する文書を発表した。これは、住民投票でスコットランドの独立が可決された場合、実際にどのような手順を経て独立を実現するかについて、スコットランド政府の計画を明らかにした文書である。
同文書では、下記の点に関するスコットランド政府の計画が掲げられている。
・住民投票でスコットランドの独立が可決された場合に 2014〜2016 年に実行される秩序ある協調的な独立へのプロセス。
・独立国スコットランドの実現に向けた法制面及び行政機構に関する枠組みの整備。スコットランドが正式に独立を果たすのは
2016 年 3 月で、その直後にスコットランド議会選挙の選挙戦が開始する計画。
・スコットランド国民党以外の政党及びスコットランド住民の代表者が参加して行われるスコットランドの独立に関する取り決め4)の内容の決定作業。
・スコットランド独自の成文憲法の制定。憲法の起草は、スコットランドの政府及び自治体と市民社会の幅広い利益を代表する人々が参加する「憲法制定会議(constitutional
convention)」
<参照・引用文献> 1)スコットランドでは、2007 年以降現在まで、スコットランドの英国からの離脱と独立を訴える「スコットランド国民党(Scottish
National Party、SNP)」が政権を握っており、サモンド首席大臣は同党の党首である。
2)「1998 年スコットランド法」は、スコットランド議会とスコットランド政府の設置を規定した英国法である。同法の第
30章では、「枢密院令」の制定によって、英国国会が権限を留保する分野において特定の事項に限り立法措置を行う
権限を英国国会からスコットランド議会へ移管することができると規定されている。
3)「枢密院令」とは、議会で制定される法律(Act of Parliament)に含まれる授権規定によって制定される第二立法(secondary
legislation)の一つである。「枢密院」とは、君主の顧問官の集合体として始まった古い歴史を持つ政府の機関である。枢密院のメンバーの大半は、全ての閣僚を含む古参議員または元議員であり、君主に対する君主の特権(royal
prerogative)の行使に関する助言などを役割とする。枢密院は、定例会議で「枢密院令」を承認す
4)スコットランドの独立が住民投票で可決された場合、英国政府とスコットランド政府の間で決定されるスコットランド独立に関する取り決めを意味し、英国とスコットランド間の税収の配分方法等がその内容に含まれることになる。
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