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<解説>

地域防災計画としての

原子力防災計画について

青山貞一
東京都市大学名誉教授
北海道ニセコ町原子力防災計画策定専門委員会委員
掲載日:2014年3月29日
独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁

 ここでは、災害対策基本法を根拠法として策定されている地域防災計画、さらに3.11以降、原発から30km圏(UPZという)で策定が都道府県、市町村などに義務づけられた原子力防災計画について概説します。

 原子力防災計画に限らず地域防災計画は、行政の災害対応のための計画という側面が強いため、これを国民、都道府県民、市町村民の命と財産を守る上で、どう理解、行動に結びつけるかが最大の課題と言えます。

 すでに政府、原子力規制委員会は、原子力防災計画の策定は再稼働に際しての要件ではない、さらに原子力防災計画は自治体の長(首長)が責任をもって策定し、運用すべきものと明言しています。

 青山の理解では、地域防災計画は、従来から災害対策基本法のもと、法定計画として策定されており、過酷な水害、台風、地震、津波、火災などの大災害に自治体が対応する際の目的、方針、施策などを示すものです。

 その意味では、原発事故は上記の過酷な災害が自然災害的な側面が強いのに対し、仮に地震、津波などの自然災害が原因ではあっても、人災的側面があり、これを全面的に自治体(首長)の責任で策定、運用すべきということには違和感があることは否めません。

 その意味では、青山は正確には、原子力防災計画は地域防災の一環としての原子力災害に対応する上での必要条件ではあっても、けっして十分条件ではないこと、最終責任は国、電力事業者などにあるものと考えています。

 しかし、災害対策基本法を根拠法とする法定計画の一部である以上、自治体は策定しなければなりませんが、その場合、単に原子力防災計画など地域防災計画を、行政の災害対応のための計画(目的、方針、施策)という側面が強かったとしても、いかに国民、都道府県民、市町村民にとって理解でき、最終的に自分や家族などの生命や財産を守るための行動の規範となるようにすべきと考えます。

 原発再稼働を言明し、エネルギー基本計画のベースロードとして原発を位置づけた現在の日本政府、自民党政権であり、今後、順次、原発再稼働をしてゆく可能性が高い状況下にあっては、一方で理念はじめ脱原発、反原発行動をとったとしても、同時に起訴自治体が策定する計画に参加し、その本質を知り、万一に備えることが今の日本では不可欠であると思います。

 ただ、実際の計画立案と運用では、専門用語が頻繁に出てくることもあり、国民、都道府県民、市町村民以前に自治体職員がどこまでこれらを理解するか、できるかが問われます。さらに、私の専門からは、原子力規制委員会が、SPEEDI,WSPEEDI、さらには2012年秋のUPZ自治体に対する簡易シミュレーションモデルによる原発からの年間を通じた放射線量影響推計調査業務(原子力規制庁)の失態の関係もあり、待避、避難に際し、放射性物質の拡散シミュレーションを指針からすべて除外していることに大いに疑問を感じます。

 他方、私は私自身が専門委員となって全面情報公開、町民参加で策定してきた北海道ニセコ町の計画では、環境総合研究所の広域、詳細を含めた3次元流体シミュレーション結果をもとに、議論し、また計画の参考図面として添付するようにしています。

 なお、何度も言いますが、全国で140弱ある原子力防災計画を策定する自治体にあって全面情報公開、町民参加により委員会を設置し、10回近くの会合を設置し、さらに地形、気象をどう待避、避難で考慮すべきかについて3次元流体シミュレーションを活用してきた自治体は、ニセコ町だけです。もちろん、最終的には他の自治体との協同、町民の理解、自覚、行動が重要なことは言うまでもありません。


 最初に以下はWikipediaにある「地域防災計画」についての説明です。

<地域防災計画>とは

地域防災計画(ちいきぼうさいけいかく)は、災害対策基本法(第40条)に基づき、各地方自治体(都道府県や市町村)の長が、それぞれの防災会議に諮り、防災のために処理すべき業務などを具体的に定めた計画である。

計画の主な内容は次の通り。
地域の実情に即した計画
地域の災害に関する措置等についての計画
災害対策基本法では以下の事項を規定している。
防災上重要な施設の管理者の処理すべき事務又は業務の大綱

防災施設の新設又は改良、防災のための調査研究、教育及び訓練その他の災害予防、情報の収集及び伝達、災害に関する予報又は警報の発令及び伝達、避難、消火、水防、救難、救助、衛生その他の災害応急対策並びに災害復旧に関する事項

別の計画
前号について要する労務、施設、設備、物資、資金等の整備、備蓄、調達、配分、輸送、通信等に関する計画

構成
災害の種類ごとに、震災対策編や風水害対策編などで構成されている。それぞれの災害について、災害対策の時間的順序に沿って、災害予防、災害応急対策、災害復旧・復興について記述されている。地域防災計画は、行政の災害対応のための計画という側面が強い。



<原子力防災計画>
 
 原子力防災計画は、地域防災計画の一部、すなわち原子力防災編として策定されますが、上のWikipediaにおける解説の最後にあるように、これらの計画は、もとより都道府県、市町村など、行政の災害対応のための計画という側面が強く、国民、市町村民にとっては過酷な水害、台風、地震、津波などの災害との関連でも、従来からあまりなじみがないものとなっていると言えます。

 次に、地域防災計画の一環として策定されている原子力防災計画について、その法的位置、役割などについて、法との関連で解説します。 

 以前も話しましたが、原子力防災計画は、災害対策基本法を根拠法として策定される防災計画の一部であり法定計画です。

(災害対策基本法の目的)
第一条  この法律は、国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、防災に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し、責任の所在を明確にするとともに、防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基本を定めることにより、総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り、もつて社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とする。

(市町村防災会議)
第十六条  市町村に、当該市町村の地域に係る地域防災計画を作成し、及びその実施を推進するほか、市町村長の諮問に応じて当該市町村の地域に係る防災に関する重要事項を審議するため、市町村防災会議を置く。
2  前項に規定するもののほか、市町村は、協議により規約を定め、共同して市町村防災会議を設置することができる。
3  市町村は、前項の規定により市町村防災会議を共同して設置したときその他市町村防災会議を設置することが不適当又は困難であるときは、第一項の規定にかかわらず、市町村防災会議を設置しないことができる。
4  市町村は、前項の規定により市町村防災会議を設置しないこととしたとき(第二項の規定により市町村防災会議を共同して設置したときを除く。)は、速やかにその旨を都道府県知事に報告しなければならない。
5  都道府県知事は、前項の規定による報告を受けたときは、都道府県防災会議の意見を聴くものとし、必要があると認めるときは、当該市町村に対し、必要な助言又は勧告をすることができる。
6  市町村防災会議の組織及び所掌事務は、都道府県防災会議の組織及び所掌事務の例に準じて、当該市町村の条例(第二項の規定により設置された市町村防災会議にあつては、規約)で定める。


 防災計画は、防災会議の設置とともにとともに設置されるものとされています。すなわち、防災画は、中央防災会議のもと、中央計画(国)が、また都道府県防災会議のもとで都道府県防災計画が、さらに市町村防災会議のものに市町村計画がつくられます。ちなみに市町村計画については、第16条の市町村防災会議において地方防災計画を策定し、実施することとなっています。

 具体的に上記の都道府県、広域市町村、市町村などが主体となる地方防災計画は、以下に示す法の第40条から42条に規定されています。

(市町村地域防災計画)
第四十二条  市町村防災会議(市町村防災会議を設置しない市町村にあつては、当該市町村の市町村長。以下この条において同じ。)は、防災基本計画に基づき、当該市町村の地域に係る市町村地域防災計画を作成し、及び毎年市町村地域防災計画に検討を加え、必要があると認めるときは、これを修正しなければならない。この場合において、当該市町村地域防災計画は、防災業務計画又は当該市町村を包括する都道府県の都道府県地域防災計画に抵触するものであつてはならない。
2  市町村地域防災計画は、おおむね次に掲げる事項について定めるものとする。
一  当該市町村の地域に係る防災に関し、当該市町村及び当該市町村の区域内の公共的団体その他防災上重要な施設の管理者(次項において「当該市町村等」という。)の処理すべき事務又は業務の大綱
二  当該市町村の地域に係る防災施設の新設又は改良、防災のための調査研究、教育及び訓練その他の災害予防、情報の収集及び伝達、災害に関する予報又は警報の発令及び伝達、避難、消火、水防、救難、救助、衛生その他の災害応急対策並びに災害復旧に関する事項別の計画
三  当該市町村の地域に係る災害に関する前号に掲げる措置に要する労務、施設、設備、物資、資金等の整備、備蓄、調達、配分、輸送、通信等に関する計画3  市町村防災会議は、市町村地域防災計画を定めるに当たつては、災害が発生した場合において当該市町村等が円滑に他の者の応援を受け、又は他の者を応援することができるよう配慮するものとする。
4  市町村防災会議は、第一項の規定により市町村地域防災計画を作成し、又は修正したときは、速やかにこれを都道府県知事に報告するとともに、その要旨を公表しなければならない。
5  都道府県知事は、前項の規定により市町村地域防災計画について報告を受けたときは、都道府県防災会議の意見を聴くものとし、必要があると認めるときは、当該市町村防災会議に対し、必要な助言又は勧告をすることができる。
6  第二十一条の規定は、市町村長が第一項の規定により市町村地域防災計画を作成し、又は修正する場合について準用する。


 実際には、都道府県と市町村の間に、広域市町村からなる防災会議(協議会)を設置します。すなわち地方計画にあっては、都道府県計画、公式市町村計画、市町村計画がつくられることになります。

 なお、災害対策基本法では、第四章以降にて以下のような、災害予防、災害応急対策、災害復旧、被災者の援護を図るための措置、財政金融措置、災害緊急事態を定めています。

 第四章 災害予防(第四十六条―第四十九条の三)
 第五章 災害応急対策
  第一節 通則(第五十条―第五十三条)
  第二節 警報の伝達等(第五十四条―第五十七条)
  第三節 事前措置及び避難(第五十八条―第六十一条の三)
  第四節 応急措置等(第六十二条―第八十六条の五)
  第五節 被災者の保護
   第一款 生活環境の整備(第八十六条の六・第八十六条の七)
   第二款 広域一時滞在(第八十六条の八―第八十六条の十三)
   第三款 被災者の運送(第八十六条の十四)
   第四款 安否情報の提供等(第八十六条の十五)
  第六節 物資等の供給及び運送(第八十六条の十六―第八十六条の十八)
 第六章 災害復旧(第八十七条―第九十条)
 第七章 被災者の援護を図るための措置(第九十条の二―第九十条の四)
 第八章 財政金融措置(第九十一条―第百四条)
 第九章 災害緊急事態(第百五条―第百九条の二)
 第十章 雑則(第百十条―第百十二条)
 第十一章 罰則(第百十三条―第百十七条)
 附則


 上記の災害対策は、主に甚大な台風、水害、地滑り、地震、津波、大火災などを対象とし、会議の設置、計画の策定、訓練の実施、災害緊急事態対応などが行われてきましたが、3.11以降、UPZ、すなわち原発から30km圏に原子力防災分野が含まれたことになります。

 すなわち、国、都道府県、市町村は、従来から甚大な台風、水害、地滑り、地震、津波、大火災などに対し、対応してきたわけであり、防災の日などには全国規模で防災訓練が行われいます。しかし、災害対策基本法、対策会議、防災計画の設置、策定の目的、内容が国民、市町村民に周知されていたとはいえず、水害、地滑り、地震、津波、大火災などに対しても、実際にそれらの災害が起きたとき、多くの被害が生じてきたことは周知の通りです。

 なお、この地域防災計画については、それぞれの計画主体が策定を行わない場合などについて、第十章 罰則(第113条-第117条)において罰則があります。
 http://www.houko.com/00/01/S36/223.HTM#s11
たとえば、113条には以下の通り、

(罰則)
第113条 次の各号のいずれかに該当する者は、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
一 第71条第1項の規定による都道府県知事(同条第2項の規定により権限に属する事務の一部を行う市町村長を含む。)の従事命令、協力命令又は保管命令に従わなかつた者
二 第78条第1項の規定による指定行政機関の長又は指定地方行政機関の長(第27条第1項又は第28条の5第1項の規定により権限の委任を受けた職員を含む。)の保管命令に従わなかつた者



<実際の市長依存原子力防災計画(退避等措置計画)の目次例>

 ちなみに実際の地域防災計画の原子力防災編の目次例を以
下に示します。ただし、以下は原子力防災計画編のうち、
退避等措置計画(素案)となります。

◆ニセコ町地域防災計画(原子力防災計画編) 退避等措置計画


ニセコ町 原子力防災計画 避難・退避編の全体構成(素案)

概要

素案

委員会、パブコメなどをもとにした最終とりまとめ中の原案


目 次

第1章 総 則
第1節 計画の位置付け
第2節 計画の性格

第2章 退避等措置計画の基本的事項
第1節 退避等の目的及び基本的な考え方
1 退避等の目的
2 防護措置等の基本的な考え方
第2節 緊急事態区分及び判断基準
1 警戒事態
2 施設敷地緊急事態
3 全面緊急事態
4 具体的な基準
第3節 緊急事態における防護措置等
1 泊発電所の状態に応じた防護措置等
2 放射性物質が環境へ放出された場合の防護措置等
第4節 防護措置決定の流れ
第5節 防護対策区域の状況
第6節 防護措置の事前準備

第3章 緊急事態における配備体制
第1節 事故発生通報の流れ
1 緊急時(警戒事象発生以降)における通報連絡体制
2 通報連絡手段
第2節 各事態における応急活動の内容

第4章 広報及び指示伝達
第1節 伝達手段
第2節 伝達経路
第3節 伝達内容

第5章 屋内退避
第1節 屋内退避の指示基準
第2節 屋内退避の指示等
1 屋内退避の指示等
2 屋内退避に関する住民等への指示事項
3 屋内退避の解除がなされたときの措置
第3節 コンクリート屋内退避の指示等
1 コンクリート屋内退避の指示等
2 コンクリート屋内退避に関する住民等への指示事項
3 退避誘導責任者がとるべき措置
4 退避所責任者がとるべき措置
5 住民等の留意事項
6 コンクリート屋内退避の解除がなされたときの措置

第6章 避難等
第1節 避難等の指示基準
第2節 避難先等
1 避難等の準備
2 避難等の指示等
3 避難等に関する住民等への指示事項
4 避難誘導責任者のとるべき措置
5 避難場所責任者のとるべき措置
6 住民等の留意事項
7 避難等の解除がなされたときの措置
第3節 災害時要援護者等及び生徒等への対応
1 学校や幼児センターの生徒等
2 診療所の入院患者、社会福祉施設の入所者
3 在宅介護高齢者、障がい者
4 外国人
第4節 一時滞在者への対応

第7章 安定ヨウ素剤の服用

第8章 飲食物の摂取制限

第9章 救急医療体制

第10章 地域特性の考慮

別添1「緊急事態区分を判断するEALの枠組みについて」
別添2「OILと防護対策について」
表4−1 コンクリート屋内退避及び避難に関する資料
表4−2 退避所(避難場所)責任者及び避難誘導責任者

 なお、第10章の 地域特性の考慮の内容は以下の通りです。

第 10 章 地域特性の考慮
 
 この退避等措置計画には、原子力災害時における屋内退避や避難について、全国すべてに共通する事項に関し基本的な考え方や対応・対策を記述している。

 この計画を実践的で実効性あるものにするためには、本計画に記述した共通の基本事項を踏まえつつ、地域のおかれた環境など特有な状況を考慮し、より具体的な内容を反映させる必要があることから、この計画を策定するにあたって調査検討してきた、次の項目の視点を含めた内容を整理して活用することとし、更に継続した検討を行いながら計画の充実を目指していくこととする。

1 住民等の生命と身体を守るため、被ばくゼロを目標として目指すこと。

2 地域の地理的・地形的な特徴、気象、交通・道路事情、住民の住居分布・居住形態、村落・コミュニティの生活実態などの特徴及び実情を反映させること。

3 災害時の対応は、通信回線の故障、情報が適宜に入らない、悪天候により避難が困難な場合なども想定し、町独自に事故の状況を判断し、住民等が安全に屋内退避や避難ができる体制を整えること。

4 次の項目について事前に準備するなど、災害時の対応に万全を期すこと。

(1)災害時の情報の収集と通信手段の確保、周辺町村等との連絡体制の確立を図り、情報を基にした環境モニタリング実施と住民に対する迅速な情報提供活動。

(2)災害時の対策本部の配置計画、気象や道路状況の判断基準、避難方向や避難路の選択、交通手段、避難状況の把握方法等の確立。

(3)日常的な住民のコミュニケーション活性化による地域活動の促進。

(4)原子力災害、放射線の危険性、被ばく回避方法などについて、理解を深めるための学習会・講演会・研修会などの実施及び住民向け冊子の発行。

(5)住民参加による地域ぐるみの避難訓練の実施。

(6)災害時要援護者等(傷病者、入院患者、高齢者、障がい者、外国人、乳幼児、妊産婦)、児童生徒、病院、介護施設など、援助を必要とする住民に対する特別の配慮。

(7)住民の要望、宿泊や観光など一時滞在施設の意見などの反映。

5  町独自の避難等の判断は、町長の決断によることから、町職員向けマニュアルと共に町長向けマニュアルを別途作成し、1年に1回以上の学習会などを通じて、退避等措置計画の内容を理解し、実践できるように徹底すること。

6  町独自の避難等の判断基準の詳細は別途定めること。

7  この章の内容については、必要に応じて本編計画とともに見直すとともに、新たな知見や最新の情報を反映できるよう継続的に改善に努める。
 

 なお、計画書はあくまで行政の行動指針的なものとして策定されるため、別途、町民向けのカラー版のしおり、ハンドブック的なものをつくり、全戸配布します。と同時に、今まで何度となく行ってきた防災訓練を原子力防災との関連で町が町民、企業者、農民などを対象に行います。

 またしおり、ハンドブックには、待避、避難時の町民の行動記録用紙が添付されています。これにより、後日、内外部被曝量の積算などが推計され、核種疾病との関係での因果関係や賠償に役立てられることになります。

 さらに、以下は素案になかった用語解説。現在最終原案作成の中につけた案です。

<用語の説明>

安定ヨウ素剤
放射性ではないヨウ素をヨウ化カリウムの形で製剤したもの。原子力発電所等の事故で環境中に放出された放射性ヨウ素が呼吸や飲食により体内に吸収されると、甲状腺に濃集し、甲状腺組織内で一定期間放射線を放出し続ける。その結果甲状腺障害が起こり、甲状腺がんや甲状腺機能低下症を引起こす。これらの障害を防ぐために、放射性ヨウ素を取込む前に甲状腺をヨウ素で飽和しておくのが安定ヨウ素剤服用の目的である。安定ヨウ素剤は放射性ヨウ素の摂取による内部被ばくの低減に関してのみ効果があり、体内に放射性ヨウ素を取り込んだ後、服用しても効果はない。

屋内退避
原子力災害時に、一般公衆が放射線被ばく及び放射性物質の吸入を低減するため家屋内に退避することをいう。屋内退避は、通常の生活行動に近いこと、その後の対応指示も含めて広報連絡が容易である等の利点がある。建屋の有する遮へい効果は木造よりもコンクリート造りが高い。有効な防護対策のためには屋内の気密性等が重要である。

オフサイトセンター (緊急事態応急対策拠点施設)
オヤフサイトセンターは、原子力災害発生時に避難住民等に対する支援など様々な応急対策の実施や支援に関係する国、都道府県、市町村などの関係機関などが一堂に会して情報を共有し、指揮の調整を図る拠点となる施設。現在全国で 22 ヵ所が指定されている。泊原子力発電所では、施設から 2 qの場所にあるため移設することになり、現在、約 10 q離れた共和町役場の近くに建設中である。

確定的影響
大量の放射線を受けた結果現れる、目に見えやすい人体への影響。受けた放射線の量が多いほど症状が重くなるような障害。症状の現れ方には個人差があるが、ほぼ同じ程度の線量の放射線を浴びた人には、同じような症状が現れる。確定的影響には、急性の骨髄障害(白血病)、胎児発生の障害(精神遅延、小頭症)、白内障などが含まれる。

確率的影響
低い線量の放射線を受けた結果現れる人体への影響で、受けた放射線の量に比例して障害発症の確率が増えると仮定されている。確定的影響のように、直ちに影響が出るわけでなく、個人差もある。白血病は約 5 年、乳がんは約 10 年後などに症状が現れるため、晩発生障害といわれている。がんなどの発症はほかの原因と区別し、被ばくと障害の因果関係を証明することが難しいため、放射線の影響はしばしば否定される。

外部被ばく
身体の外側から放射線(アルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線)を受けることをいう。 放射線を発生するものは、天然または人工の放射性核種、放射線発生装置(医療用のX線、各種加速器)などがある。原発事故の場合は、空気中に浮遊する放射性微粒子や地上に降下・沈着した放射性物質から被ばくする。

緊急被ばく医療
原子力災害や放射線事故により被ばくした者あるいは汚染を伴う傷病者に対する医療活動のこと。避難した住民、発災事業所従業員などを対象に、放射線被ばくや放射性物質による汚染について医療処置を行う。発災事業所内での救護施設、近傍の医療機関、住民の避難所に設けられた救護所などで行われる初期被ばく医療と、地域の基幹的な病院で行われるより専門的な二次被ばく医療、さらに専門的な三次被ばく医療の三段階で構築され、必要に応じて柔軟に使い分ける。 被ばく医療を行う医療機関は、地方自治体または国にあらかじめ指定される。通常の医療に加え、被災者の放射線学的サーベイ、放射性物質による汚染の除去、被ばく線量の推定などを行う必要がある。

警戒事態(警戒事象)
後志管内で震度 6 弱以上の地震が発生した場合。 原子力施設で事故が発生し、その時点では公衆への放射線による影響やおそれが緊急なものではないが、原子力施設における異常事象の発生又はそのおそれがある段階。情報収集や緊急時モニタリングの準備、災害時要援護者等の避難等の防護措置の準備を開始する必要がある。

原子力災害
原子力災害特別措置法では、原子力緊急事態により国民の生命、身体及び財産に生じる被害。

原子力緊急事態
原子力事業者の原子炉の運転等により放射性物質又は放射線が異常な水準で当該原子力事業者の原子力事業所外へ放出された事態。

原子力災害対策指針
原子力災害対策特別措置法に基づき、原子力事業者、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長、地方公共団体、指定公共機関及び指定地方公共機関その他の者が原子力災害対策を円滑に実施するために定めるもので、国民の生命及び身体の安全を確保することが最も重要であるという観点から、緊急事態における原子力施設周辺の住民等に対する放射線の影響を最小限に抑える防護措置を確実なものとすることを目的としている。
この目的を達成するため、原子力事業者、国、地方公共団体等が原子力災害対策に係る計画を策定する際や当該対策を実施する際等において、科学的、客観的判断を支援するために、以下の基本的な考え方を踏まえ、専門的・技術的事項等について定めるものである。
・住民の視点に立った防災計画を策定すること。
・災害が長期にわたる場合も考慮して、継続的に情報を提供する体系を構築すること。
・最新の国際的知見を積極的に取り入れる等、計画の立案に使用する判断基準等が常に最適なものになるよう見直しを行うこと。

コンクリート屋内退避
原子力施設等で災害が発生した場合、周辺住民にコンクリート建屋内に退避してもらうこと。 コンクリート建物は、木造家屋よりも放射線の遮へい効果が大きく、一般的に気密性も高いので、内部被ばく、外部被ばくの防護効果が高いと考えられている。このため屋内退避では被ばくの低減があまり期待できないと判断された場合は、指定されたコンクリート建屋への退避が行われる。

施設敷地緊急事態
(原災法第 10 条に基づく特定事象)
原子力施設において公衆に放射線による影響をもたらす可能性のある事象が生じたため、原子力施設周辺において緊急時に備えた避難等の主な防護措置の準備を開始する必要がある段階。緊急時モニタリングの実施等により事態の進展を把握するため情報収集の強化と、主にPAZ内において、基本的に全ての住民等を対象とした避難等の予防的防護措置を準備し、また、災害時要援護者等を対象とした避難を実施しなければならない。

シーベルト (記号は Sv)
人体が放射線を受けた時、その影響の程度を測るものさしとして使われる単位。放射線の種類によって人体が受ける影響が異なるため、それを考慮して決められる被ばく量を表わす。等価線量も参照。 日本人が自然界から受ける放射線量は、年間一人当たり平均1.5mSv 程度(世界平均 2.4mSv)。
単 位 は 、 1Sv( シ ー ベ ル ト ) =
1,000mSv( ミ リ シ ー ベ ル ト ) =
1,000,000μSv(マイクロシーベルト)、1mSv=1,000μSv

実効線量
人体が放射線を受けた時の影響は、臓器や組織によって感受性が異なるため、それを考慮し、臓器ごと組織ごとの影響(シーベルトにある計数をかけた値)をすべて足し合わせ、全身が被ばくしたとして求めた、被ばくの影響を表す量。

除染
身体や物体の表面に付着した放射性物質を除去するあるいは付着した量を低下させることを除染という。除染対象物によりエリアの除染、機器の除染、衣料の除染、皮膚の除染などに分けられる。 物の除染には浸漬、洗浄、研磨などが行われ、除染剤には合成洗剤、有機溶剤などが用いられる。また、身体の皮膚の汚染には、中性洗剤、オレンジオイルなどが用いられる。

スクリーニング
原子力施設周辺の地域住民等が、原子力災害の際に放射能汚染の検査や、これに伴う医学的検査を必要とする事態が生じた場合は、救護所において、国の緊急被ばく医療派遣チームの協力を得て、身体表面に放射性物質が付着しているもののふるい分けを実施すること。スクリーニングは、初期被ばく医療の段階で行い、スクリーニングを実施した結果、放射能汚染等の応急除染が必要と認められる者に対しては、救護所要員による応急の除染が行われる。残存汚染があるもの、また医療処置が特に必要と認めるものについては、二次被ばく医療施設に転送される。

全面緊急事態
(原災法第 15 条に基づく原子力緊急事態宣言)
原子力施設において公衆に放射線による影響をもたらす可能性が高い事象が生じたため、確定的影響を回避し、確率的影響のリスクを低減する観点から、迅速な防護措置を実施する必要がある段階。PAZ内において、基本的に全ての住民等を対象に避難や安定ヨウ素剤の服用等の予防的防護措置を講じなければならない。また、事態の規模、時間的な推移に応じて、UPZ内においても、PAZ内と同様に避難等の予防的防護措置を講じる必要がある。

等価線量
人体の組織や臓器に対する放射線影響が放射線の種類やエネルギーによって異なるため、組織や臓器が受けた吸収線量を補正したものである。単位は、シーベルト(Sv)。

内部被ばく
身体内に取込んだ放射性物質からの放射線により臓器や組織が被ばくすること。放射性物質を体内に取込む経路には、放射性物質を含む空気の吸入摂取、水、食物など経口摂取、皮膚表面からの経皮吸収がある。体内に取込まれた放射性物質は種類により、長期にとどまるものと短期に排出されるものがある。例えば、甲状腺にはヨウ素が、骨にはストロンチウムが蓄積されるなど。

ベクレル (記号は Bq)
放射能の量を表す単位のこと。1 ベクレルは、1 秒間に 1 個の原子核が壊れ、放射線を放出している放射性物質の放射能の強さ、または量を表す。

放射性物質
放射線を出す能力を放射能といい、放射能をもっている原子(放射性核種という)を含む物質を一般的に放射性物質という。また、個々の核種を限定しない場合は、放射性核種のことを総称して放射性物質ということもある。放射性物質、放射線及び放射能の関係は、「電灯」が放射性物質に、電灯から出る「光線」が放射線に、そして電灯の「光を出す能力」と「その強さ(ワット数)」が放射能にあたる。

放射線
ウランなど、原子核が不安定で壊れやすい元素から放出される高速の粒子(アルファ粒子、ベータ粒子など)や高いエネルギーを持った電磁波(ガンマ線)、加速器などで人工的に作り出された X 線、電子線、中性子線、陽子線、重粒子線などのこと。

モニタリング
本計画では、原子力施設内や周辺地域における放射線の線量あるいは放射性物質の濃度を測定・監視すること。平常時から行う平常時環境放射線モニタリングと、原子力災害時に行う緊急時環境放射線モニタリングがある。

予測線量
放射性物質又は放射線の放出量予測、気象情報予測等をもとに、何の防護対策も講じない場合に、その地点に留まっている住民が受けると予測される線量の推定値のこと。

EAL (Emergency Action Level:緊急時活動レベル)
原子力発電所において事故が発生した場合、緊急事態の深刻さを観測ないし推測し、どの緊急事態区分に属するかを判断するために用いられる段階(レベル)。観測可能な基準と施設の状態について事前に定められている。

OIL (Operational Intervention Level:運用上の介入レベル)
防護措置導入の判断に用いられる観測値などより求めた段階(レベル)。
OIL は、事故の態様、放出放射性核種の別、気象条件、被ばくの経路(外部、吸入、摂取)等を仮定して、包括的判断基準(個々の防護措置の実施によって予想される線量あるいは既に受けてしまった線量によって表わされる判断基準)に相当する計測可能な値として導き出される。OIL としては、空間線量率、表面汚染密度、空気中放射性物質濃度など様々な値が用いられる。

PAZ (Precautionary Action Zone:予防的防護措置を準備する区域)
福島第一原子力発電所事故を踏まえ、「防災対策を重点的に実施する区域」として新たに設置された区域。急速に進展する事故を考慮し、人体への重篤な確定的影響等を回避するため、緊急事態区分に基づき、直ちに避難を実施するなど、放射性物質の環境への放出前の予防的防護措置(避難等)を準備する区域をいう。「原子力施設から概ね 5km」の範囲をめやすとしている。

UPZ (Urgent Protective Action Planning Zone:緊急防護措置を準備する区域)
福島第一原子力発電所事故を踏まえ、「防災対策を重点的に実施する区域」として新たに設置された区域。国際基準等に従って、確率的影響を実行可能な限り回避するため、環境モニタリング等の結果を踏まえた運用上の介入レベル(OIL)、緊急時活動レベル(EAL)等に基づき、避難、屋内退避、安定ヨウ素剤の予防服用等を準備する区域をいう。「原子力施設から概ね 30km」の範囲をめやすとしている。