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信州痴痔戦・猿山狂騒戯画
混迷を極める知事候補選定

その1 菅谷昭:松本市長


青山貞一


2006年5月5日
10日、11日(拡充)


 この夏に迫った信州・長野県の知事選挙だが、地元では連日、連夜、県内各所で候補者選定の皮算用が行われている。

 県民そっちのけ、名指しされた当人すらそっちのけである。そこにあるのは、ただ反田中知事と言う「感情」か。

 これら一連の動きに共通しているのは、候補者とされる人物が何を考え、何を理念、哲学とし、何を政策、施策としているか、さらに批判する田中知事や田中県政と一体どこがどう違うのかがおかまいなしであることだ。

 あるのは、田中康夫知事に対する怨念にも似た感情。よくみれば、それは、まさに信州猿山における男達の「妬み」の構造と発露であるようだ。

 もうひとつの共通点は、他人任せ、様子見、日和見など、反田中の候補者案を提案するひとが、誰一人として主体的に考え動いていないことである。他の団体をそれぞれ相互に探り合い、様子見していることだ。

 そんな状況のなか、ある日突然、勝手に知事候補に祭り上げられたり、名前が出されたりする側はたまったものではない。迷惑千万であろう。

 もちろん、中には先のコラムに書いた中央官僚のように、迷惑どころかその気になってテレビカメラの前で、はずかしげもなくパフォーマンスをしているひともいる。これはこれでいかがなものか、である。

 ここでは、信州痴痔戦・猿山狂騒戯画と題し、混迷を極める長野県知事選候補の選定状況と動向を追ってみた。
 
 まず、以下の表にあるように、田中知事の生みの親でもある八十二銀行元会長の茅野氏や「輝く明日の長野県を考える会」代表の近藤光連合長野会長、さらに鷲沢長野市長らによって、勝手に知事候補に祭り上げられそうになり、5月9日怒りの記者会見を行った菅谷昭松本市長をとりあげる。


表 5月上旬時点での長野県内各団体が想定している知事候補者一覧
団体名 代表者 想定候補者案 主な活動地域
1 真の改革を進める長野県民の会 青木照夫 なし 北信
2 白バラ会 青木照夫 高木蘭子県議 北信
3 輝く明日の長野県を考える会 近藤光連合長野会長 菅谷昭松本市長 全県
4 信州ゆめフォーラム 若麻績享則 若林健太 全県
5 茅野實グループ   茅野實八十二元会長 菅谷昭松本市長 北信
6 けやきの会 湯本清弁護士 橋本要人元日銀松本支店長 東信
7 輪の会 石曽根清晃弁護士 橋本要人元日銀松本支店長 中信
8 空会 長尚元信大教授 橋本要人元日銀松本支店長 北信
9 長野県政を変える会 永田恒治弁護士 務台俊介総務省課長 中信
10 長野県政を変える会・大町支部 佐藤浩樹 務台俊介総務省課長 中信
11 明日の長野県を創り直す安曇野の会 等々力秀和 務台俊介総務省課長 中信
12 県民のための真剣な県政を目指す会 脇嶋光美 務台俊介総務省課長? 北信
13 明るい県政を進める会 桜井伝一郎 務台俊介総務省課長 南信
14 次の長野県知事研究会諏訪 浜康幸 前県議 務台氏ではない? 南信
15 新長野県政連絡協議会※ 永田恒治弁護士 務台俊介総務省課長 全県
 ※新長野県政連絡協議会はNO9〜14の連携組織。必ずしもまだ一枚岩とも言えない。

 上の表にあるように、現在、長野県では15もの団体が5人の候補案を勝手に推薦している。候補者の案として勝手にノミネートされている人物の筆頭は、菅谷昭松本市長である。

 鷲沢市長は、5月1日のメーデーで松本市長を長野県知事に、と擁立を公言した。が、当の松本市長は、8日、報道陣に対し「私の態度があいまいと取られているようだ。(擁立運動を公言した)鷲沢市長(長野市長)の発言は寝耳に水で、迷惑している」と露骨に、長野市長の言動を批判し、9日の定例会見でそれを明確にすると言明した。

 以下は、それを報ずる時事通信の速報。


「市民を裏切るわけにはいかない」
 長野知事選不出馬の意思強調−菅谷松本市長


 今夏の長野県知事選候補として取りざたされている菅谷昭松本市長は8日、擁立の動きを批判する市議団と会談後、報道陣の取材に応じ、「市民を裏切るわけにはいかない。あす(の定例記者会見で)ははっきりさせないといけないと思っている」などと述べ、出馬の意思がないことを改めて強調した。

 市長与党で市議会最大会派「新風21」が同日、「擁立の動きは、松本市の現状を理解しない無責任で迷惑な行為。即刻中止を求める」などと、一部市民団体などの動きを批判する意見を文書にまとめ、菅谷市長に手渡した。

 これを受け、菅谷市長は「私としては正式な要請がないので(出馬問題に関しての発言は)せんえつだと言ってきたが、それで私の態度があいまいと取られているようだ。(擁立運動を公言した)鷲沢市長(長野市長)の発言は寝耳に水で、迷惑している」などと語った。

06/05/08 時事通信

 一方、松本市長に迷惑だと言われた長野市長は、以下のメルマガにあるように急遽弁明をはじめた。


2006.5.8
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かじとり通信 (長野市長 鷲澤 正一)
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 メーデーでの挨拶について

 5月1日、労働者の祭典「長野県中央メーデー」に出席させていただきました。主催者で「連合長野」会長の近藤実行委員長の挨拶、副知事の来賓挨拶のあと、私も市長として挨拶させていただき、その中で今夏の長野県知事選について、述べさせていただきました。反響が大きく、喋った私がびっくりしているのですが、どうも新聞報道等のとらえ方が私の意図とは違うと感じましたので、補足させていただきます。

 メーデーでの挨拶の要旨

(1)県知事選における連合会長の近藤氏の努力を高く評価してい ます。昨年秋頃から、いち早く行動を起こされ、諸団体・グルー プの取りまとめに動かれていることに心から感謝しています。

(2)候補を一本化しようという動きは、民主主義の社会では好ましくないと感じています。ただ、現知事のあまりにかけ離れた行動に対し、候補を乱立しないで一本化したい、それは多くの県民 の願いと感じており、特に市町村長にとっては、円滑なコミュニ ケーションのとれない現県政がこれ以上続いたら・・・どうしよ うもない、本当に困った状況にあるからです。一本化も、今回だ けは許していただきたいと思っております。

(3)今噂になっている方々は、皆さん素晴らしい人達です。どなたが知事になられても立派に職責を果たしていただけると思います。ただそれぞれの背景があって、一本化は難しい面があります。

(4)近藤会長が世話人をやっておられる「輝く明日の長野県を考る会」が昨年からいろいろな議論をされて、二つの原則、一つは長野県に軸足のある人、二つ目は多少は行政経験のある人ということで、菅谷松本市長に白羽の矢が立ちました。「この人なら」ということで、多くの方々が説得に動いております。私もその一人で、お願いに参りました。でも今のところ残念ながら、良いお返事をいただけない。もう一度、松本市民が自ら、そして近藤会長にも説得に動いていただきたいと思っています。

(5)もし、どうしても出馬していただけない場合、あまり考えたくないのですが、近藤会長にもう一度ご苦労いただいて、統一候補を作り出す努力をしていただきたいと思います。

(6)候補を一本化することはかなり難しい選択です。候補を絞れば、多分「密室の談合」という言葉が飛び出すでしょう。そのことに打ち勝たねばなりません。なるべくオープンな議論をしましょう。

 以上が、私の挨拶の要旨です。

 私自身は、この挨拶についてのメディアの反応の大きさにびっくりしています。基本的には菅谷市長へのラブコールといわれる部分が大きく取り上げられ、後半部分が反映されていないという思いがあります。そのため、菅谷市長に無用なご迷惑をかけてしまったこと、一部の新聞の間違った記事内容で、腰原大町市長(長野県市長会長)にも迷惑をかけてしまったこと・・・おわびの電話をいれさせていただく仕儀になってしまいました。

 私とすれば、密室の談合と言われないためにも、「考える会」の過去の経緯・議論の中から、最良の方を選び出したのだということを、明らかにしたほうが・・・しかも「考える会」のメンバーではない長野市長が(若干の相談を受けていた立場で、外からその議論を知った立場です)申し上げた方が議論も進むのではないかと考え、「考える会」の一部の関係者(近藤会長ではありません)には事前に電話でお話しした上で、喋ったものです。

 話の内容も、ほとんどの方(特にメディアは)が知っていることを述べさせていただいただけで、目新しいことはないはずと思っていました。若干浅慮であったかも知れません。ご迷惑をかけた方々、前述の2名の方以外にも、「考える会」の方々にはご迷惑をおかけしたこと、おわび申し上げます。

 ただ一つ申し上げたいことは、「密室の談合」と言われないよう出来るだけオープンにして、候補者の一本化に、もう一段の努力をお願いしたいということです。

 一生懸命に言い訳、弁解に終始する長野市長だが、なぜ長野市長が松本市長にラブコールを送ったか、それにはいくつか訳が想定される。

 鷲沢長野市長の田中知事嫌いは、信州・長野県では知らない者はいないほど。

 2年間の6月1日、長野市で開かれた県議会議員主催の政策条例研修会で私と長野市長はパネル討議で隣り合わせとなった。長野市長は、この条例案の中身以前に、誰がこの条例案を出すかが問題だと切り出した。

 ちなみに私はこのときは特別職、非常勤で長野県環境保全研究所長、産業廃棄物条例制定アドバイザーとして県を代表しパネリストとして参加した。

※1 長野県政策条例研修会開催要領
※2 長野県議会主催政策条例研修会 

 こともあろうか、鷲澤市長は、条例案の中身などどうでもよく、田中康夫知事が出すことが問題であると全議員を前にして公言したのである。これには反田中が大勢を占めた県議会議員もびっくり、会場をを一瞬シーンとさせるほどであった。

 長野市長は、「脱ダム宣言」に始まりことごとく田中康夫知事の理念、政策はじめ言動を批判し、メディアで公言してきた。

 しかし、実態はどうかと言えば次のような状況にある。

  たとえば、長野県が全国に先駆け談合防止の制度改革をしたときも、長野市は従来からの悪名高き指名競争入札を続行している。

 全国で最初に累積債務を削減し始め、年度内プライマリーバランスを達成しだした長野県だが、オリンピックの中心的開催地である長野市は、はこもの、土木系公共事業依存を続行している。

 田中知事が財政の縮小均衡を旨としているのに対し、鷲沢市長は依然として拡大均衡路線を歩んでいる。

 地方から日本を本格、本質的に改革する、それも県議会、市長会、町村長会、地元メディアからの集中砲火的なバッシングとシカトのなかで改革を断行する田中知事にとって、おひざもとの長野市長の言動はまさに180度ベクトルが異なるものであった。

 当然、県民や市民はこの辺を注意深く見ているはずだ。

 そんなか、もともと信州大学医学部助教授で医者だった菅谷昭氏は、田中知事によって長野県庁によばれ2002年衛生部長に就任する。

 菅谷氏はチェルノブイリ原発事故による後遺症にくるしむベラルーシュに裸足の医者として出向く。チェルノブイリ原発事故の際現地で医療活動をした過去があり、NHKプロジェクトXでも紹介された信念、ミッションのひと。ボランティア精神旺盛の医者でもある。

 一方、阪神淡路大震災の災害現場でバイクを乗り周りながら、支援のボランティア活動をしてきたのが田中康夫知事。そのめがねにかない、菅谷氏は長野県衛生部長就任した。

 2004年3月14日、松本市長選挙に市民団体から市長候補として担ぎ出された。考えたあげく、菅谷氏は出馬。ハコモノ行政で有名な前職の有賀正氏、元市議会議長の田口敏子を破り松本市長に当選する。

 そんな菅谷市長だが、結構、自分が思っていることははっきり言う。

 あるとき地元マスコミの口車とはいわないが、誘導尋問的インタビューに乗せられと言うか、ひっかかり、田中知事について、性格に至るまで皮肉たっぷりで批判し。その記事が地元紙に大きく掲載された。

 .........

 反田中の急先鋒、鷲沢長野市長とすれば、かつての田中知事の懐刀でもある菅谷昭松本市長を候補に担ぎ出せば、田中知事に対する格好の面当てとなると考えるのは、やぶさかではない。

 だが、菅谷市長にしてみれば、知事の了承はあったとしても数年で県庁の衛生部長という要職(ちなみに現在の副知事の前職は衛生部長)に月ながら松本市長に転出したこと。自分を推薦し、自分に投票した市民に対し任期半分で、反田中派の意向にそって市政をほっぽり出すことは出来ない、という氏なりの考えがあったに相違ない。

 以下は、5月9日の菅谷昭松本市長の第三回部長会議あいさつのうち、知事選について触れた部分である。

 
2006年5月9日の第三回部長会議での菅谷昭松本市長あいさつ
(知事選以外の部分は略)

知事選について

ア 知事選への気持ちは更々無い。いつも申し上げているのは、知事選では政策を出して県民が判断をして知事を決めるべきで、人気投票ではない。    

イ 私は、批判をされており、「市長の顔が見えない」、「リーダーシップをもっと取るべきだ」、「色んな会議にもっと出てくれ」と言われているにも関わらず、知事選に何故名が出てくるのかが理解できない。

ウ いつも思っているのは、私は黒子であり、黒子は顔を出してはいけない。そう言う形で私は当選し、市民がそれを支えてくれている。

エ 私は、2年前の選挙で市民の方々から押されて、当選をしたが、この時支えてくれた市民の皆さんを裏切ることは出来ないというのが私の立場だ。

オ 私が信頼している部課長会の皆さんが、一緒になって良い街を造ろうじゃないかと言ってくれ、こんな嬉しかった事はなかった。市長をやって良かったと思っている。

カ 人間は謙虚さと仕事に対してのプライド矜持が私の哲学であり、皆さんと一緒に来年の100周年に向けてやっていきたいので宜しくお願いしたい。

 


 以下は5月9日の定例記者会見を報じた信濃毎日の記事。


「知事選立候補の意思ない」 松本市長が完全否定
信濃毎日新聞 2006.5.10

 松本市の菅谷昭市長は9日の定例記者会見で、「8月の知事選に立候補する意思は一切ない」と述べ、出馬の可能性を完全否定した。立候補を求める声に対し、これまでも可能性を否定していたが、「市民や県民に誤解を与えてはならない」として、あらためて会見で態度を示した。

 1日に長野市の鷲沢正一市長が菅谷市長に立候補を要請したと公表したことについて、「正式な要請はなかった」と説明。「知らないところで話が進んでいる」と不快感を示した。

 その上で「重要課題が山積する市政に全力で取り組むのが私の使命」と強調。市職員の意思として、部課長の代表から市長職を続けるよう申し入れがあったといい「非常に励まされた」と語った。

 また、田中知事と県議会の対立で一番困っているのは県民だと指摘。「県議会の方が出馬して政策論争をし、県民に判断してもらうことが大事だ」と注文した。

 望ましい知事像については、「考え方が違っても、人間として分かり合えればうまくやっていけるだろう」とし「謙虚さと矜恃(きょうじ)を持つこと」を挙げた。


 これを受け、興味深いコメントが出た。エプソン相談役の安川氏と田中知事のコメントである。以下に紹介しよう。 


菅谷昭松本市長の県知事選不出馬会見を受けてのコメント

安川英昭県経営者協会長(セイコーエプソン相談役)は「一番有力だった候補。とても困惑している。どうしたらいいのか、今後のことはまだ考えられない」と話した。「中日新聞」5月10日付

菅谷氏が知事選への出馬を否定したことについて、田中知事は「あそこまで(菅谷氏が追い込まれて)悩まれたのはお気の毒。『田中はいらん』と言う方は、自ら責任を持って名乗りを上げるべきだ」と話した。「讀賣新聞」5月10日付


 ところで、ここで話は終わらないのが、信州痴痔戦・猿山狂騒戯画の戯画たる所以だ。

 長野県議会議員の北山早苗氏は、自分のブログで次のように述べてる。

北山早苗ブログ〜 さわやか早苗日記392 〜

 昨日の夕方のTVニュースでは、鷲沢長野市長が、菅谷松本市長を知事候補にと出馬要請したことに絡み、萩原県議会議長が「菅谷さんに是非出て欲しい」とインタービューに答えていた。

 萩原議長については、知事候補になった菅谷さんが辞めたあとの松本市長に納まりたいという話も聞く。

 鷲沢長野市長や萩原県議会議長は、人に押し付けるのではなく、自ら知事選に立候補表明すれば良いのではないだろうか?

 政治家としての覚悟をもって、脱ダムに反対している鷲沢市長と、知事告発をした萩原議長であるなら、市民、あるいは県民に対して、自ら知事に立候補する責任があるのではないだろうか?

 田中知事が立候補表明しないことを卑怯だなどと、ののしっている場合ではないはずだ。

 真意のほどは?だが、今の信州・長野なら無いとは言えない話ではある。
 
 いやはや、松本市長だけをとっても、思惑渦巻く狂騒戯画である(苦笑)。
 
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