環境省の 環境税導入に関する 欠陥アンケート調査 青山貞一 武蔵工業大学環境情報学部教授 2006年8月2日 |
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2006年8月1日、午後1時30分から5時まで、武蔵工業大学世田谷キャンパスで定例の教育実践研究会が開催された。今回で11回目となる。 この研究会は、工学部、環境情報学部の専任教員が一堂に会し、専門教育を視野にいれた基礎共通教育の実践と今後の展望について何人かが問題を提起し、それをもとに参加者全員で議論するものである。 今回の主なプログラムは以下の通りである。 「ゆとり教育世代への教養教育としての物理学」 工学部教育研究センター物理部門 飯島 正徳 「環境情報学部における社会調査に関する実践的教育」 環境情報学部環境情報学科 大塚 善樹 「工学リテラシー教育導入の必要性」 工学部機械システム工学科 田中康寛 「都市基盤工学科における導入教育の実践」 工学部都市基盤工学科 皆川 勝 ところで問題となった環境省の「トンデモ」アンケートは、大塚助教授の問題提起のなかで示された。大塚助教授は、パワーポイントを使いご自身の社会調査教育について紹介されたが、その一項目にいわゆるアンケート調査に関するものがあった。 具体的には、2005年7月から11月の時期に内閣府と環境省がそれぞれ行った我が国への環境税の導入についてのいわゆるアンケート調査に関するものである。 ※ 専門的にはこの種の調査は、質問紙調査、英語では Questionnair と言い、アンケート調査とは言わないが、 ここでは便宜上、アンケート調査としておく。 まず最初にアンケート調査結果を見て欲しい。
2005年7月のほぼ同時期に国が実施した環境税に関するアンケート調査であるが、結果はまったく逆(正反対)となっている。すなわち内閣府の調査では賛成が約2割である。それに対し、環境省の調査では賛成が約8割となっているのである。 なぜ、このようなとんでもない、正反対の結果がでたのであろうか? 今回の大塚助教授の問題提起は、まさにそこにあった。 いわゆるアンケート調査の信頼性は、母集団の設定と標本のサンプリングにあるが、これを知らずに間違った方法を用いたり、意図的にそれらを使わなかった場合、さらにはいわゆる誘導質問を行った場合、同一の質問でありながら正反対の結果となりうる。 以下は、この種のアンケート調査の原則である。 @サンプリング方法: この種の調査では、母集団の集団特性及びその社会的属性によ って特性が異なることから、無作為抽出法が用いられる。無作為 抽出法には、完全無作為抽出法; 層別抽出法; 二段 抽出法; 層 化二段無作為抽出法.などがあるが、 よく用いられるのは層化2段 無作為抽出法である。.....本ブログの最後に解説明記 A母集団: アンケート調査の母集団は、この種の国の調査では、全国20歳 以上の者(たとえば有権者)などとする。母集団としてよく想定され るのは、選挙人名簿である。 B標本数: 標本数は、統計学に依拠し、母集団の規模によるが、この種の国 の調査では最低3000人〜5000人規模が必要となる。これら母 集団と票本数との間には統計学上の関係(標本誤差、標準偏差) がなりたつ。 C設問設定: アンケート調査の設問(質問)は、いわゆる誘導質問(尋問)となら ないよう十分に注意を払うこと。 上記の原則に沿って、内閣府と環境省のアンケート方法をチェックしてみると次のようになる。 @サンプリング方法: 内閣府:層化2段無作為抽出法 環境省:インターネットアンケート A母集団: 内閣府:全国20歳以上の者(有権者) 環境省:全国20歳以上の者 B標本数: 内閣府:3000人、有効回収数(1626人、54.2%) 環境省:1442人 C設問設定: 内閣府:総じて客観的である(別紙1参照)。 環境省:著しく誘導尋問(質問)となっている(別紙2参照)。 上記から明らかなように、内閣府のアンケート調査は、きわめて原則に忠実であるのに対して、環境省のアンケート調査は、原則をすべて無視している。とくにサンプリング法及び設問設定は完全に間違っている。そもそもインターネットのWeb調査では、関心を持つ特定の者が集中して回答する可能性がある。ある政策のサポーターが集中して回答する可能性があり、統計上全く意味がない。 想定されるのは環境省の環境税導入アンケートは、はじめから結論ありきで、所定の結論に結果を誘導するための意図的な調査である。そう言われても弁解の余地がない。 重要な政策でこのようないわばインチキな調査の結果を公衆の面前で発表しているとすれば、環境省の他の調査結果についても、きわめて信頼性に疑義が生ずる。 さらに、このようないわば欠陥アンケート調査(実際は調査とは言えず一方的な環境省のプロパガンダ)が、環境省から民間のシンクタンク(みずほ情報総研)に特命随意契約で委託されていることである。 周知のように特命随意契約は他にない技術、ノウハウ、著作権などの知的所有権などを有している場合にのみ、可能となるものだが、本調査では、アンケート調査のイロハもわからないシンクタンクに環境省が特命随意契約で業務を発注していることになる。 環境省の特命随意契約問題については、環境省随意契約 を参照のこと。
もし、委託先に最低限アンケート調査の知識があるものがいれば、環境省が上記の調査方法を依頼してきた場合でも断るべきである。 また上記のようなアンケート調査を税金を使って環境省が常時行っているとすれば、税金の不正、不当支出となる。もし公共団体(地方自治体)であれば、地方自治法の住民監査請求さらには住民訴訟(第一号あるいは第四号)の行政訴訟の対象となるだろう。 環境省が環境税の導入を政策としていることが調査の背景にあったとしても、このような方法により意図的に国民を欺くことは断じて許されれない。また環境省の他のあらゆる政策研究、調査などを第三者が全面点検する必要があると思う。 これは、国会議員が質問主意書及び国会質問を通じて追求すべき内容である。
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