「泥縄」を繰り返す環境省 〜渋谷区温泉施設の死傷事故〜 青山貞一 掲載月日:2007年6月22日 |
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東京の副都心、渋谷区で起きた温泉関連の爆発事故で3人が亡くなった。心からご冥福をお祈りしたい。この施設は、東京都渋谷区松濤1にある女性専用の温泉施設「シエスパ」に付属する温泉くみ上げ施設である。 温泉を経営する会社、監理会社などの責任者が記者会見のなかで、メタンガスを検知する測定器や警報センサー装置の義務づけがなかったという談話を出している。 確かに施設管理者やメンテナンス業者の対応には課題があるだろう。とくに温泉法を所管する環境省がメタンガス等、引火・爆発性及び有毒性あるガスを測定することの義務づけをしていなかった、というのはきわめて重要な意味を持つものと思える。 温泉法 温泉法施行規則 温泉法施行細則例 そもそも東京など大都市や埋め立て地を深く掘削すれば、メタンガス、硫化水素などのガスが発生することはいわば「常識」だ。にもかかわらず、環境省は、温泉法で掘削工事以降の営業時、すなわち温泉施設の運用時におけるガス検知を、義務づけていなかったという。 私見だが、この種の死傷事故で最も問題なのは所管の官庁が、あらかじめガスのモニタリングや定期的なデータの届け出、さらに立ち入り検査の義務づけなどの法的な対応をあらかじめ行ってこなかったことでは無かろうか? そもそも住宅などが超密集する渋谷区の松濤地区で温泉施設を立地することを考えれば、当然のこととして、ガスのモニタリングだけでなく、法的な立地規制が必要である。にもかかわらず、東京、横浜などの超密集地を抱える大都市にはかなりの数の温泉施設があるという。 環境省は21日になって以下のような検討会を設置すると言い出したが、まさにこれは「泥縄」そのものである。 私の知る限り、環境省や旧厚生省は、いつも死人が出るまで放置し、死亡者がでるとやっと、重い腰を上げる、すなわち人柱が立たないとまったくまともな対応をしてこなかったのである。
環境省や旧厚生省が所管する届け出、許認可がかかわるで温泉や最終処分場、それにRDF(ゴミ燃料)などでは、私が知るだけでも以下のような痛ましい死傷事故が起きている。 ●福岡県筑紫野市の最終処分場における硫化水素ガス事故 最終処分場を設置、運用する会社の従業員3名が死亡 (平成11年) 詳細 ●秋田県泥湯温泉で硫化水素ガス事故 窪地の温泉の表面に有毒ガスである硫化水素ガスが充満 し利用客3名が死亡 (平成17年) 詳細 ●三重県のRDF発電所でメタンガス爆発、消防士2名が死亡 RDF(ゴミ固形化燃料)を使った自治体の焼却炉でサイロの なかにメタンガスが充満し爆発。駆けつけた消防士2名が 死亡。 (平成15年) 詳細 詳細2 上記の死傷事故は、あらかじめ十分予想される問題ばかりであり、当然のこととして所管官庁である環境省は、法、政省令、規則、指針等を整備あるいは改正しておくべきであった。 しかし、いずれも環境省(旧厚生省)の対応は「泥縄」であり、死人が出てから検討会を設置しているにすぎない。 ... まず福岡県の筑紫野市にある産業廃棄物の最終処分場で起きた硫化ガスによる死亡事故だが、私は、この死亡事故に関連し、筑紫野市、市議会、市民らが共同で設置した協議会の総会に呼ばれた。そんなこともあり、この事故が起こる背景、原因、経過などを子細に知る機会があった。また現場にも数度にわたりでかけた。 そもそもこの筑紫野市の産廃処分場は、安定型処分場である。安定型処分場から、なぜ高濃度の硫化水素がでるのか?これが問題であるが、その根本的な原因について、環境省はまともな原因究明及び説明責任を果たしてこなかった。 周知のように安定型処分場は、いわば「素堀」の処分場である。そんな処分場そのものが法的に許容されていることが問題だが、環境省の関係者はの当初の見解は、「安定型処分場には安定5品目しか持ち込めない。その五品目からは硫化水素が発生するわけがない」というものであった。まるで禅問答である。 これでわかるのは、環境省の担当者の多くは、およそ実態、現場を知らない「学生」さんである。 過去、問題がおきた安定型処分場では、産廃業者はその5品目以外を持ち込んでいるのである。もちろんこれは違法行為である。にもかかわらず、環境省(旧厚生省)はその実態を知らず、あるいはそれに目をつむり、死亡事故が起きるまで高濃度の硫化水素が発生するわけがないと言ってきたのである。 筑紫野市で3人が死亡する事故が起きたあと、環境省(旧厚生省)はやっとのことで、今回同様、検討会を設置したのである。 .... ふたつめの泥湯温泉事故が発生した当時、私は非常勤、特別職で長野県の環境保全研究所長をしていたが、即刻、長野県内の一定規模以上の安定型処分場と温泉の一斉点検を命じた。 この死亡事故は、今回の渋谷区の温泉事故と原因ガスはことなる、すなわちメタンガスではなく、福岡県筑紫野市の場合同様、硫化水素なのだが、多くの教訓を残している。 すなわち、露天風呂などオープンエアタイプの温泉の場合、部屋などで密閉されていないので、万一、硫化水素などの有害ガスが発生しても大気中にガスが拡散し、死傷者がでるほどの高濃度には成らないと考えられてきた。しかし、秋田県の泥湯温泉の場合、窪地の底に温泉があったために、空気の重さに近い硫化水素はその窪地に滞留し、結果的に事故となったのである。 これは応用物理、流体力学を少しでも知るものなら、当たり前のことだが、温泉法を所管する環境省は死亡事故が起きるまで、通り一遍の対応しかしてこなかった。 ※ ちなみに渋谷の温泉で問題となったメタンガスは空気より軽く、特定の濃度でしか引火しないため、室内の換気を良くし、たえず外部へ放散させるなどしていれば引火する危険性は少ない。しかし、室内などの密閉空間にガスが滞留した場合、無味無臭のため、ガスに気付くのが遅れ、事故につながる危険性もある。 ..... さらにRDFだが、日本で最初にRDFが導入された静岡県御殿場市のRDF工場では、RDFの保管中に火災事故が起きている。 RDFそのものは、生ゴミなどの有機物、プラスチック、紙などを締め固め成形し固形燃料としたものである。したがって、それを密閉したサイロなどに保管すれば、当然のこととして、メタンガスが発酵する。 にもかかわらず、RDFを燃料とした発電所でRDFをサイロなどに保管する上での各種構造基準、またメタンガスなどガスの濃度検知について環境省(旧厚生省)は、まともな対応をせず、したがって当該事項についての立ち入り検査もしてこなかったと言える。 この種のRDF発電所は、福岡県大牟田市、広島県福山市などで住民の反対を押し切り、国などの補助金、特別交付金などによる建設されてきた。たまたま私はRDF発電所がもたらすさまざまな問題、リスクについて、大牟田、福山、宇都宮などの立地予定地の住民に頼まれ、その危険性について講演してきた。 本事件ではその後、裁判が起き三重県の管理責任等が問われているが、多くの課題を残しRDF発電所の建設を見切り発車させた国にも多くの責任があると思える。 ... ところで、 上記の3つの事故には共通点がある。 それは所管する行政庁、すなわち環境省(旧厚生省)の関係者に現場実務のセンス、経験がほとんどないことである。 環境省は、もともと環境庁として出発したが、予算規模は限られほそぼそと環境行政をしてきた。それがある時から、廃棄物行政などいわゆる事業官庁となり、その結果、年間数100から数1000億円の規模の予算を背負うことになる。 ここでの最大の問題は、もともと国民の安全、安心を確実のものとするための監視やチェックを主目的としてきた環境行政が、事業官庁を兼ねることとなったことだ。そこでは、事業実施とチェックの両面を担わされることになる。同一の官庁がブレーキとアクセルの両方を担当することになっていることであろう。 環境庁、環境省の職員の多くは現場実務に乏しく、かつレンジャーとして国立公園などに配置される自然保護系職員以外、現場への配属もほとんどない。自治体に出向しても、部課長級となりほとんど現場に行かない。 さらに、人事異動が激しく、霞ヶ関の役所で机上で書面審査をすることはあっても、積極的に現場に足を運ぶことは少ない(ほとんどない)とよい。 .... 今回の事故で民間企業の責任を問うのは簡単だが、いわばすべきこと、予見できることをしてこなかった、環境省など霞ヶ関の責任を問わなければ、何にもならない。 本来、規制緩和してはいけない社会的規制までもがどんどん緩和される昨今だが、ことこの種の事故は、事後規制、すなわち死人がでてからでは取り返しがつかないことを肝に銘ずるべきだ。これは建築確認における耐震偽装問題にも通ずるものである。 泥縄を繰り返す環境省に原因究明、改善措置、制度改正などを期待するのは難しいが、この際、徹底的にやってもらしかない。また事業者、自治体は国の言うことに従っていれば、と言う安易な考えを捨て、安全、安心については自己責任で二重、三重と対応の輪をjひろげなければならないだろう。 |