エントランスへはここをクリック   

洞爺湖サミット(4)

原発や重厚長大技術の売り込みの場

青山貞一
掲載月日:2008年7月10日
無断転載禁



●やはりG8は茶番だった!

 この論考シリーズの冒頭で、私は「死に体」(=レームダック)化している残り任期わずか4ヶ月のブッシュ大統領と、国民支持率最悪の福田首相がすることは、重要課題の先送りであると述べたが、まさにその通りの結果となった。


 
日本の新聞、テレビなど大マスコミは、当初、ドイツのG8より一歩前進など福田首相をヨイショしていた。しかし、9日午後、新興国などを含めた通称MEMが開催されるに及び、一体、大山鳴動したG8や主要排出国会議(MEM)の合意内容がいかに抽象的でおよそ一歩前進などではなく、玉虫色のものであるかが明確になるに及び批判的論調が強くなった。

 ※MEM:主要排出国会議

 以下は、実質的に政府の代弁者(=広報機関)と化している読売新聞の総括記事である。

 MEM首脳宣言は、「世界全体で温室効果ガスの排出を半減させるとの長期目標を共有し、(国連で)採択を求める」とした8日のG8(主要8か国)合意を踏まえ、「世界全体の長期目標を採択することが望ましい」と記し、先進国だけでなく、新興国も前向きに取り組む姿勢を示した。MEM参加国が「世界全体での長期目標の共有を支持する」とも明記した。

表1 G8宣言とMEM宣言

出典:東京新聞

 だが泰然鳴動した洞爺湖サミットでにおけるG8レベルの合意そのものが、世界で二酸化炭素の半分近くを排出しているG8諸国をして、気候変動枠組み条約の全締約国と共有し、採択することを求める」など、排出者責任などどこ吹く風、まるで他人事のような抽象的な合意にとどまったこと、さらに、9日の新興国を含めたいわゆるMEMでは、結局、世界全体の長期目標のビジョン共有を支持する」など、いつまでに何十%二酸化炭素を削減するかなど、すべての数値目標を削除し、一層抽象的で玉虫色の度合いが強い物となった。

 この時期に及び到底、一歩前進どころか二歩後退でしかない、合意で終わった洞爺湖サミットは、全世界の国民にとって、先進富裕国の茶番劇に写ったに違いない。結局、福田首相の理念のなさ、調整能力のなさなど無能力さが、よりハッキリしてきたことになる。


●結局、MEMは原発の売り込みの場...

 洞爺湖サミットは、温暖化の影響、被害に苦しむアフリカ、アジア、南米、太平洋などの国々とって大山鳴動しネズミ一匹も出てこなかった茶番であっても、G8諸国、とりわけ米国、日本にとってシナリオ通り、原発やEnd of Pipe型の巨大環境技術を中国、インドはじめ新興国などに売り込む官製売り込みの場になったようだ。

 そもそも、米国は京都会議から2001年に離脱し、日本は京都会議の宿題(マイナス6%)をまったく果たさず、京都メカニズムなどつじつま合わせ政策に終始してきた国であり、いわば落第生である。

 その京都会議の落第生でレームダック化しているブッシュ大統領がG8に参加する大きな動機は「原子力発電所の建設促進」、とりわけGEやウエスティングハウスなど斜陽産業となっている原発関連企業の手先として、各国に二酸化炭素を排出しないエネルギー源として売り込むことだった。

 共和党の次期大統領候補であるマケイン氏は、自分が大統領になったら西側諸国で前代未聞の原発事故であるスリーマイルズ島事故以来、建設が停止されてきた原発を米国内だけで50基以上建設すると息巻いている。

 周知のようにブッシュ大統領が、温暖化対策で色気をもつのは、エネルギー産業、原発産業などの利害がからむ場合だけと言ってよい。そこには超大国としてのリーダーシップやCO2の超大量排出国としての責任などみじんたりとも感じられないのである。

 以下はサミットでブッシュ大統領がインドのシン首相との間で原子力発電所建設協定(2国間協定)を締結するという記事。

米との原子力協定締結へ 左派押し切り、インド
共同通信 
更新2008年07月07日 13:23米国東部時間

 インド政府は7日、米国との民生用原子力技術協力に向けた2国間協定について、閣外協力する左派連合の反対を押し切り、締結に向けた手続きを強行することを決めた。主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)出席のため日本へ向かう機中でシン首相がインド人記者団に述べた。

 インド政府は、増大する国内の電力需要などを勘案し、原子力発電所の増設が不可欠と判断、米国との原子力分野での協力に向け大きく踏み出した。しかし、対米接近を嫌う左派連合が閣外協力を打ち切るのは必至。政府は議会の過半数を失うことになり、インド政局は不安定化する見通し。

 シン首相は「サミットでブッシュ米大統領と協定について協議する予定だ」と述べ、ブッシュ政権下での締結方針を強調した。(共同)

洞爺湖サミット】米印首脳、原子力協力など協議
産経ニュース 
2008.7.9 09:56

 会談に臨むブッシュ米大統領(右)とインドのシン首相=9日午前、北海道洞爺湖町のザ・ウィンザーホテル洞爺(ロイター) 主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)に出席中のブッシュ米大統領は9日、サミット拡大会合に出席のシン・インド首相と会場内で会談した。両首脳は米印間の協定調印後、難航を重ねてきた核の平和利用協力の推進を確認する一方、両国の立場が大きく異なる温室効果ガスの排出抑制など環境問題では、「米印がともに取り組む」(ブッシュ大統領)との姿勢を確認するにとどまったもようだ。

 会談後、ブッシュ大統領はインドとの原子力協力について「どれほど重要なことか」と記者団に述べ、対印支援に前向きな姿勢を表明した。また、シン首相は、両国が原子力分野のほか、宇宙航空技術、軍事、教育などの分野で協力を深めていることを評価し、米印が「肩を並べての協力」を進める必要性を指摘した。

 米印の原子力協力については、国際原子力機関(IAEA)が今月28日にウィーンで開く理事会で、インドへの査察協定の処理に移る。協力協定をめぐっては、米国内でも地域の核開発競争をさらに刺激する可能性を挙げて、調印後も慎重論が根強かった。

 温室効果ガスの排出抑制では、米国がインド、中国の枠組み参加を不可欠と主張する最右翼であるのに対し、中印は先進国側に依然、主要な削減義務があるとする立場をとっていた。


●重厚長大型環境技術の売り込みの場にも...

 他方、日本はどうか?

 京都会議の開催国で米国同様、京都議定書の宿題をまったく果たしていない日本の福田首相もG8やMEMの場を電力、鉄鋼、セメント業界が有するエネルギー効率技術の売り込みの場に使ったのである。

 いうまでもなく、電力、鉄鋼などの基幹産業は依然として経団連の中枢を占めている。太陽光発電などの自然エネルギーの活用を含め日本のCO2削減が進まない大きな原因は、それらの業界がこぞって既得権益にこだわっているからである。

 日本政府がこの間、国際的な場で執拗にこだわってきた「セクター別排出量積み立て方式」は大口CO2排出事業者である日本の電力、鉄鋼などの意向を強く受けてのことである。福田首相は、G8やMEMの場を各国首脳にそれらを喧伝する格好の場としたのである。

 すでに述べたように、これらの戦略、戦術は経団連と旧通産省、現在の経済産業省の合作によってつくられたと言ってよい。霞ヶ関の官僚社会主義と重厚長大企業の合作である。日本が北欧諸国やカリフォルニア州のように太陽光発電、風力発電など自然エネルギーが促進されない大きな原因は、これら霞ヶ関の官僚社会主義と重厚長大企業の合作の結果であると言っても過言ではないだろう!

 そもそも、極端な少子化を迎える日本がいつまでも、これら重厚長大産業やそれを支援する経済産業省に蹂躙され、ゆがんだ国家モデルしか描けなくなっている現実に我々はもっと着目すべきだ。

 それは旧建設省、現在の国土交通省が「現代の関東軍」として、組織保身のために不要不急の道路を延々と造り続け、世界一の土木系公共事業国家としていること相通ずるものがある。それは霞ヶ関の官僚社会主義による亡国である。

 結局、小泉、安倍、福田に共通しているのは、一方で民間主導、民営化をいいながら他方で、霞ヶ関の省庁組織、その外郭団体組織を温存させたことにある。

 洞爺湖サミットで私たちが見たものは、レームダック化している日米の首脳に共通しているのことは、斜陽産業の利害、利権を温暖化対策技術と称し、各国に官製営業を展開しているサモシイ姿であった。

 以下は上記を裏付ける産経新聞2008年7月9日号の日本産業界首脳の談話記事である。

【洞爺湖サミット】
産業界の意向は反映 削減カギは「セクター別」と「原子力」

産経ニュース 2008.7.9 19:59

 北海道洞爺湖サミットが9日閉幕し、主議題の温室効果ガス削減では長期目標の進展が得られた。産業界は「首相のリーダーシップに敬意を表したい」(日本経団連・御手洗冨士夫会長)とし、中でも産業界が提唱してきた産業・分野別に削減を進めるセクター別アプローチを「とりわけ有益な手法」と位置づけられたことを歓迎している。

 セクター別アプローチの扱いについては、日本化学工業協会の米倉弘昌会長(住友化学社長)は「化学業界でも支持され、各社のもつ環境・省エネ技術の海外移転を進める」と高く評価。また、日本鉄鋼連盟の宗岡正二会長(新日本製鉄社長)も「具体的な対応策の議論が着実に進展した」と成果を強調した。

 電力や鉄鋼、セメントなどの業界団体は、米国、中国、インドなど7カ国で組織するアジア太平洋パートナーシップを中心にセクター別で削減を進める。各国の設備に最新技術を導入することで、鉄鋼で約1・3億トン、電力で約1・2億トン削減できるとし、中長期の目標達成に有効とみる。

 また、「原子力を含む技術の採用および利用を促進する」と記された原子力発電の活用も、温暖化対策のカギを握る。電事連の調べでは国内の原子力発電所の稼働率が1%向上すれば、年300万トンのCO2削減が可能となる。米国や韓国などの原発稼働率は9割を超えるが、日本は過去10年の平均稼働率が73%に留まり、改善の余地も多い。

 電気事業連合会の森詳介会長(関西電力社長)は「日本の培った安全技術やノウハウを提供し、原子力の平和利用に貢献する」と述べ、三菱重工も「社会の要請に技術で応え、貢献していきたい」としている。温暖化防止に向けた日本の取り組みが、世界の潮流となることが期待される。


 つづく