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2014年11月28日、以前から頼まれていたPM2.5の講演を東京の西国分寺でしてきた。 実は講演の2日前の夜、NHK総合のクローズアップ現代で、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の特集をしていた。講演では、冒頭でこのCOPDについて話した。 以下はその講演の冒頭部分である。ただし、当日は110枚のスライド(パワーポイント)を使っているが、以下では、41枚を使っている。 当初の演題は以下のように子供の健康を重視しているが、本論考では子供に限らず、大人など一般を対象としている。 COPDは日本語で慢性閉塞性肺疾患を意味する。COPDと言っても、分かるひとはまずいないだろう。 以下は呼吸で重要な疾病となっている肺気腫と気管支炎そして気管支喘息である。 参照:Wikipedia 気管支喘息、英語でアスマについては、かなり知られているが、肺気腫と気管支炎は、それほどでもない。 肺気腫は、気道だけでなく気管支の末梢にかけて、最終的には肺胞壁の破壊をもたらす恐ろしい呼吸器疾患である。 一方、気管支炎は、気道の狭窄や喘鳴など、気管支喘息に似た症状を呈する呼吸器疾患だが、気管支の炎症を指す。他方、気管支喘息は、肺気腫と気管支炎に比べると気管支の末梢、肺胞などよりは、気道の慢性的炎症であると言える。 ひとことでいえば、、肺気腫と気管支炎は、気道や気管支だけでなく、下の図にあるように気管支の末端で起こる炎症であり、肺胞組織の破壊に関わる重篤な呼吸器疾患であると言える。 現在、COPDは、世界における死因の第三位となっている。 一方、日本では死因の第九位である。世界、日本ともに死因の上位にいながら、あまり知られていない。 では、COPDの原因はといえば、それはPM2.5と呼ばれる微小粒子にある。 PM2.5は呼吸器疾患だけでなく、発がん性をもっていることもわかってきた。下はPM2.5大気汚染の発がん性を警告するWHO専門組織の警告である。 出典:共同通信 ところで、 大気汚染にはガス状物質、粒子状物質、それにエアロゾル粒子物質の3種類があるが、PM2.5は粒子状物質である。 参照:Wikipedia 参照:Wikipedia 下は気象庁による中国からのPM2.5の影響を示しているが、図より明らかなように、日本でも気象条件などにより影響がありえるが、それに比べると自動車排ガス、とりわけ喫煙による影響が大きいことを肝に銘ずる必要がある。 出典:日本気象協会 出典:NHK 気管支の末端、そして肺胞まで到達する微小粒子、PM2.5は、昨年あたりから中国から日本に飛んでくる大気汚染として俄に話題となっている。 しかし、PM2.5はけっして中国から飛んでくるものだけが問題ではない。身近なところにある大気汚染としての喫煙による煙やディーゼル自動車の排ガスなどにも含まれている。 粒子状物質の大気汚染は、燃焼が中心だが、それ以外に黄砂や土壌粒子、粉じん、大気中で化学変化によって出来る二次粒子などいくつかの原因と原因物質がある。 参照:Wikipedia 従来、粒子状物質は、SPM,浮遊粒子状物質といって、粒径が大きなものが中心だった。 しかし、東京大気汚染公害裁判のなかで、原告側がPM2.5による呼吸器疾患の被害を提起したことから、その後、日本でも欧米のようにSPMに比べて粒径が小さいPM2.5が大気汚染防止法に位置づけられ測定(モニタリング)されるようになった。 参照:東京大気汚染公害裁判原告団公式Web 以下は東京大気汚染公害裁判で判事の依頼に応じて青山が作成提出した原告位置と大気汚染分布図。汚染物質は二酸化窒素。左側の紫色の点が原告の主たる居住地である。これは平成6年時点のもの。 出典:青山貞一、環境総合研究所(東京都当時は品川区、現在は目黒区) PM2.5の粒径は2.5μm、一方SPMの粒径は10μmと大きい。 実際の粒径は下の図を見てもらえれば分かる。髪の毛が70μm程度、杉の花粉が40μm程度なのに対しSPMが10μm、PM2.5はわずか2.5μmと微小なのである。 出典:米国環境保護庁 したがって、ひとがこのPM2.5を吸い込むと、気管支の末端そして肺胞の奥まで到達し、炎症を起こすことになる。 出典:Wikipedia なお、以下はPM2.5の一般的な発生原因物質と発生メカニズムを現している。 出典:東京都環境科学研究所 PM2.5には、福島第一原発事故で周辺地域に移流、拡散、沈降しているセシウムなどの放射性物質についても粒径が小さなものについては上記が当てはまる。また各種の揮発性有害化合物(VOC, セミVOCなど)についても妥当する。 出典:東京都環境科学研究所 出典:東京都環境科学研究所 もちろん、従来のSPMでも気管支喘息はじめさまざまな呼吸器疾患をもたらすが、PM2.5の場合、気管支や肺胞の奥の奥まで入ることにより、より影響、被害を大きくするところに特徴があると言って良い。 以下は青山研究室(東京都市大学)が過去、SPM測定計で行った粒子状物質測定結果の一例である。青山研究室では、青山が重篤な気管支喘息であることから、たえず空気清浄機をいれていたので、20〜30μg/m3であったが、SPMの場合でも、見て分かるように圧倒的に喫煙による影響が大きなことが分かる。 出典:青山貞一研究室 さらに、PM2.5では、圧倒的に喫煙や受動喫煙の影響が大きくなる。 喫煙にはそれ以外にもタール、ベンゾ(a)ピレンなどの発がん物質が多数含まれており、青山、池田らの研究では、ダイオキシン類も含まれていることが分かっている。下の写真は、非喫煙者と永年喫煙している人の肺組織(肺胞を含む)を比較したものである。 出典:禁煙指導センター 下は、国際ダイオキシン会議〔学会)での青山貞一、池田こみちらの喫煙に含まれるダイオキシン類(PCDD, PCDF, CO-PCB)のリスクアセスメント論文の冒頭部分。右は発表直前の東京新聞の記事である。 出典:青山貞一、池田こみちら、環境総合研究所 出典:青山貞一、池田こみちら、環境総合研究所 出典:青山貞一、池田こみちら、環境総合研究所 ちなみに、現在、東京ではNO2(二酸化窒素)、SPM(浮遊粒子状物質)は、ほぼ環境基準を達成しているが、PM2.5については、まったく達成できていない。自動車排ガスの影響も大きく、東京都では区部、多摩部ともに自動車排ガスの測定局では達成率がゼロとなっている。 出典:環境総合研究所(東京都目黒区) 以下は2013年度の東京都の一般大気測定局、自動車排ガス測定局のすべての局におけるPM2.5の日平均年間98%値を示している。ほとんどの測定局で基準を超えていることが分かる。 出典:環境総合研究所(東京都目黒区) 以下は2013年度の福岡県の一般大気測定局、自動車排ガス測定局のすべての局におけるPM2.5の日平均年間98%値を示している。すべての測定局で基準を超えていることが分かる。 出典:環境総合研究所(東京都目黒区) 以下は国が大気汚染防止法の中で定めている環境基準だが、PM2.5については、1年の平均値が15μg/m3、一日平均値が35μg/m3とSPMに比べるとかなり厳しい値となっていることが分かる。 taiki 国が大気汚染防止法の中で定めている環境基準 国が大気汚染防止法の中で定めている環境基準 PM2.5については、東京都内でほとんど環境基準が達成できない状態にある。上述のようにタバコの喫煙による影響は圧倒的なことであり、喫煙者だけでなく、非喫煙者による受動喫煙も深刻な影響をもたらすので、COPDとならないためには、禁煙がもっとも大切なこととなる。 なお、PM2.5によるCOPDを避けるためには、禁煙が一番重要ではあるが、高濃度が予想される日や時間帯には、以下のような対策も重要である。現在、PM2.5予報もあるのでそれを見て場合によっては外出を差し控えるなどの措置をとる必要もある。 下はPM2.5予報の例である。 出典:SprintARS開発チーム ◆PM2.5の発がん性 なお、先に以下の記事を紹介したが、PM2.5はじめ大気汚染物質のあるものは、発がんリスクをもっている。これは従来からディーゼル排ガスの粒子について指摘されてきたことだが、国際がん研究機関のIARCは、昨年、PM2.5などの大気汚染物質による発がんリスクを5段階の危険度のうち最高レベルに分類すると発表している。 出典:共同通信 喫煙による発がん、がん細胞増殖作用は以前から指摘されてきたが、PM2.5には、たとえば発がん性が欧米で指摘されている多環芳香族炭化水素(PAHs)やダイオキシン類なども粒子状物質として含まれている。 膨大な種類があるPAHsについては、日本では実質未規制であるが、欧米では以前から規制の対象となっている。以下はPAHの仲間である。 出典:青山貞一
下はタバコの煙に含まれる多環芳香族炭化水素(PAHs)のうち発がん性があるものと疑われているもの。 出典:青山貞一 ◆がんと早期発見10年生存確率について PM2.5に含まれる発がん物質は、呼吸器系だけでなく部位を問わずがんの原因物質となるが、肺がんなど呼吸器系のがんは、早期発見が難しく、仮に早期に発見されたとしても、その後10年間にわたり生きられる可能性は、かなり改善されたとはいえ、ステージにもよるが10〜20%と低い。 出典:癌研究会付属病院 ・全がん協 部位別 臨床病期別 5年相対生存率 日本で用いられているがんの進展度(ステージ)W 単位:% http://www.gunma-cc.jp/sarukihan/seizonritu/seizonritu2003c.html
生存率の推移 出典:独立行政法人 国立がん研究センター とくに家庭での喫煙に伴う受動喫煙は、周辺にいる子供、家族への影響が、また職場での喫煙も同じ部屋にいる人々への影響が大きい。禁煙についても日本は先進国の中でもっとも遅れている。 |