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●冤罪を生み出す構造の第一は警察捜査にある! 最高裁第三小法廷は、2008年6月27日、捜査メモも「開示対象」とし検察に提示促す判断を示した。 周知のように日本各地で、警察、検察の見込み捜査、誤認逮捕によるいわゆる冤罪事件が大きな社会問題となっている。 その大きな原因、理由は、「密室」のなかで行われている警察や検察の強引、横暴な供述の強要、拷問紛いの取り調べにあるとされる。さらに警察や検察が思い描く立件シナリオに固執するあまり、執拗に容疑者に自白を強要することにある。 最近では富山や鹿児島の冤罪事件はあまりにも有名だが、今年春に発刊された「冤罪file」という雑誌には、元検察官で現在弁護士が実名で[これが検察のオトシの手口だ!!」と、赤裸々、子細に検察の現場の実態を述べている。 たとえば、1)冤罪を生み出す構造的問題、2)警察調書に沿ってしまう検事調書、3)密室の空間では「検事は見方」だと思ってしまうなど、いずれも、なるほどなるほどと首肯できる内容である。 ●科学捜査に値しない分析 今回の最高裁判断は、被告が警察に違法に身柄を拘束され、強制的に尿を提出させられたことが発端となっている。 このような警察による血液、尿などに含まれる化学物質分析でも、科学捜査研究所、科学警察研究所などが、分析後、残りの試料(サンプル)を廃棄したり、全量を消費したとして、第三者による分析を不可能となるなど、およそこの世界の常識では考えられないことをしていることも分かっている。 たとえば、仙台の北陵クリニック事件では、病院で看護師だった守大助さんが点滴液に筋弛緩剤を混入させ、患者を殺害したとして、この春、最高裁は無期懲役刑を言い渡した。この事件では、宮城県警は、患者の血液、尿、それに点滴液を大阪府の科学捜査研究所に分析依頼しているが、被告側弁護士の再三の要求にもかかわらず、血液、尿、それに点滴液は全量消費したとしている。 私は長野県環境保全研究所(公立研究機関)で、血液、尿はじめさまざまなサンプルの分析に責任者として係わってきた。また現在でも株式会社環境総合研究所の所長として、日々、化学物質分析の精度管理、精度保証に係わっている。 それらの経験からすると、現在、科学捜査の名の下に行われている警察系研究所の分析方法は、入り口から出口まで再現性、第三者性があるとは言えない。あるときは、警察が思い描くシナリオにそって科学がねじ曲げられている可能性すら感じられる。 本来、化学分析は、分析技術者が子細にメモをとりながら、検量線はじめさまざまな経過についての重要な情報(証拠)を残し、他の分析者が同じことをしても、同じ結果が出せる方法を情報として記録、保管している。 これが世界の常識なのに、なぜ、警察分野だけがメモもなく、経過記録がないのか不可思議である。 いずれにせよ、研究所を含め、警察は多くのメモを残しているはずだが、そのようなメモは、個人的なメモであるとして開示してこなかった。酷い場合は、保存期間が過ぎたとして関連情報を廃棄(焼却)処分している。 ●公判前整理手続の課題と決定打としての可視化 警察、検察の捜査に対し、以前から全捜査情報の開示、取り調べの可視化、すなわち密室での取り調べにビデオカメラなどですべて映像、音声で録画し、裁判所や被告側に情報開示することの重要性が弁護士や識者から指摘されてきた。 諸外国ではすでに捜査の可視化が実現されており、それが冤罪を防ぐ決め手となっている。しかし、こと我が国では可視化は進んでおらず、見込み捜査、誤認起訴などが後を絶たない。 刑事事件訴訟法の改正で「公判前整理手続き」が導入されたが、司法の現場でこれをつぶさにみると、1)警察、検察が被告弁護人に提供する捜査情報は限定されており、2)警察、検察にとって不都合捜査情報が提供されないこととが多い、3)提供される捜査情報は被告側弁護士に限定されマスメディアや支援団体、研究者にさえ開示されない、など本質的問題がある。 今回の最高裁判断は、捜査メモも「開示対象」として検察に提示を促す判断を示したものであり、捜査の可視化の一助となることは間違いない。しかし、メモ以前に公務中の捜査関連情報そのものが部分的にしか、公判においてさえ開示されていないこと、民事訴訟に言う文書提出命令に類する要求に対しても、警察、検察側が不存在、廃棄などを理由に開示していない現実がある。 これを契機にさらなる可視化、情報開示を警察、検察に促す最高裁判断そして刑事事件訴訟法などの法改正が不可欠である。 可視化に応ぜず、警察や検察がいくら起訴後の有罪率を誇っても、意味がないことを知るべきだ!
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