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がれき広域処理混乱のワケ
元凶は秘密主義環境省
自治体と住民蚊帳の外

東京新聞こちら特報部(テキスト版)

掲載月日:2012年4月5日
 独立系メディア E−wave Tokyo


がれき広域処理混乱のワケ

 震災がれきの広域処理をめぐる混乱の元凶は、他ならぬ環境省にあるのではないか。同省の方針にお墨付きを与えてきた有識者会議は非公開で開催され、結果的に蚊帳の外に置かれた自治体や住民の不安をあおった。住民運動の矢面に立った経験が乏しく、机上の基準づくりに精を出してきた”実力”があらわになっている。(佐藤圭)

 「第一回から第四回会議は議事録を取っていたので公開している。それ以降は議事録ではなく、議事要旨を公開している。次回以降は会議自体をオープンでやりたい」

 三月十四日の参院予算委員会。細野豪志環境相は、有識者会議「災害廃棄物安全評価検討会」の議事内容について「隠すようなものではない」と大見えを切った。

 検討会は昨年五月十五日、福島県内の震災がれきの処理方針を検討する目的で発足した。三月十二日までに計十二回開催されているが、すべて非公開。環境省のホームページ(HP)には、発言者名を伏せた箇条書きの「議事要旨」と、配布資料の一部のみを掲載してきた。

大臣の答弁時情報公開なし

 実は、細野氏が答弁した十四日の時点で、議事録は公開されていなかった。同省廃棄物・リサイクル対策部によれば、HP掲載は二十一日以降。現在は、第一〜四回会議の議事録が最初からそこにあったように並んでいる。

 ということは、細野氏の答弁は”虚偽”だったのか。同省の担当者は「公開とは、情報公開法に基づく開示請求に対しては開示しているという意味だ」と説明するが、何とも苦しい。細野氏に質問した社民党党首の福島瑞穂参院議員は「だれでも見ることができなければ公開とは言わない。後からこっそりとHPに掲載し、大臣の答弁とつじつまを合わせたのだろう」と憤る。

 「四回分の議事録を見る限り、公開して不都合なことはない。会議と議事録を非公開にする方がデメリットは大きい。自治体も住民も情報が得られず、広域処理が混乱する原因になっている」
 こう指摘するのは、非政府組織(NGO)「環境行政改革フォーラム」(東京)の鷹取敦事務局長だ。

 鷹取氏は昨年七月十九日、第一〜四回会議の議事録を開示請求した。開示決定の延期を経て、ようやく議事録を入手したのは六十日後の九月二十七日。続いて第五、六回会議の議事録を開示請求したが、同省からは「第五回以降は議事録を作成していない」と連絡が入った。なぜか。同省は、福島氏からの質問主意書で次のように答えた。

 「第一〜四回会議の議事録は速記録を基に作成した。速記録は議事要旨を作成するために外注したが、結果的に速記録を参考としなくても議事要旨の作成は可能。速記録の作成には費用を要したことから、第五回以降は速記録と議事要旨の作成をやめた」

 第五回会議が開かれたのは昨年八月十日。鷹取氏が議事録を開示請求した直後だ。

 鷹取氏は「開示請求があったから議事録の作成をやめたと思われても仕方がない。第五回会議から広域処理が議題になったことも一因ではないのか」といぶかる。

 環境省が費用の問題を持ち出してきたことにはあきれ顔だ。速記録の外注費は一回当たり五万五千円〜八万円。その一方で、広域処理と除染の広報活動に二〇一一年度は九億円、一二年度は三十億円もの巨費を投じようとしている。「広域処理を進めたいのであれば、広告に大金をはたくよりも、検討会の議事内容を広く知らせる方がはるかに効果がある。お金の使い方を間違っている」

 鷹取氏は、同省が存在を認めた第五以降の録音データなどの開示を請求しているが第七回会議までは不開示。録音データがあれば議事録の作成は可能だが、第八回以降は録音すらしていないという。

 「隠すことがないなら第五回会議以降の議事録と録音データをすぐに公開してほしい」と注文した上で、検討会のやり直しを求める。

 「検討会はオープンにすべきだが、重要な問題は終わっている。広域処理が滞っている今のうちに、自治体の参加も得て、一から議論し直すべきだ。住民にも発言する機会をつくらなければならない。公開と参加こそが合意形成の早道だ」

 鷹取氏の提言が受け入れられれば、現場に即した処理方法が見つかるだろうが、たぶん難しい。そもそも、環境省にがれき処理のような難題を解決する能力があるのだろうか。

 「規制官庁だった旧環境庁時代から、事業者寄りの旧厚生省や旧通産省の言いなりだった」と話すのは、「闘う住民とともにゴミ問題の解決を目指す弁護士連絡会」会長を務める梶山正三弁護士。「ごみ行政は〇一年の中央省庁再編で厚生省から移ってきたが、厚労省の担当者が横滑りして看板が替わっただけだった。事業官庁としての歴史が浅く、住民への対応がへたくそだ。情報公開の何たるかも知らない」と批判する。

「環境基準が汚染を招く」

 環境省の代表的な仕事が行政基準づくりだが、梶山氏に言わせれば「行政基準は諸悪の根源。合法的に環境を破壊、汚染するための規定だ。実例はいくらでも挙げることができる」。

 焼却炉の排ガス規制では、基準が設けられているのは窒素酸化物、ダイオキシン類など五項目にすぎず、有害物質の99%はおとがめなし。しかも年一回、四時間だけ測ればいい。梶山氏は「焼却炉が不安定な時に測ったものは報告する必要がない。基準を超えれば測り直し、低い値を採用できる。環境省はデータの改ざんを指示しているも同然」と責める。

 ごみの最終処分場についても「二重の遮水シートや、漏水を検知するアラームがあるので安全と言っているが、処分場も焼却施設も情報公開していないから信用できない。少なくとも住民が半分以上を占める運営協議会をつくり、施設を中断、廃止する決定権を与えなければ、行政と住民が不毛な対立を続けるだけだ」と断言する。

 広域処理については「全国的なごみ紛争に発展しかねない」と危惧する。

 「首長レベルまでは同意を得られたとしても、健康被害を受ける蓋然性のある住民は納得しない。ごみや放射能への関心を高まる中、紛争の広がりは大きくなる。ごみ処理は、自治事務として自治体に独自の権限が与えられている大切な仕事。国が自治体に協力を要請すること自体が間違っている。中央官庁の権限を振りかざして脅すのは地方自治を踏みにじるものだ。自治体は住民とともに、地域自決でやればいい」