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●国が自治体意向に無関係に立地を決められ「がれき・除染特措法」? 東京電力福島第1原発事故に伴う栃木県内で発生し保管されている焼却灰や汚泥などの「指定廃棄物」の最終処分場に栃木県矢板市にある国有林が候補地にされたことが大きな問題となっている。この焼却灰や汚泥は、8000Bq/kg超と汚染レベルが高いのが大きな特徴である! 問題のひとつは言うまでもなく、この種の最終処分場の候補地にされた地元が「何でうちの近くに」ということだが、もうひとの問題は、白羽の矢が立った矢板市長にとっては、環境省と栃木県が何ら事前手続や相談なく、いわば寝耳に水的に国や栃木県から候補地であることを知らされたからだ。 栃木県における矢板市の位置 出典:マピオン 私や友人の弁護士で理学博士の梶山正三氏は、以前から昨年8月にどさくさ紛れに議員立法で制定され、その後施行されたがれき・除染特措法は、この種の放射能に汚染された土壌、土砂、焼却灰などを処分する最終処分場の立地を国が基礎自治体に何ら事前相談手続なしに、一方的に立地させることができる、いわば憲法違反とも言える悪法である。 ◆梶山正三:震災がれき・放射能汚染の新たな立法と問題点東海村シンポ You Tube http://www.youtube.com/watch?v=hI4sa5jhrvk&feature=g-all-u ◆梶山正三:震災がれき・放射能汚染対処への新たな立法と問題点 レジメ http://eritokyo.jp/independent/20120801garekikouikigiinkaikan/2012-08-01-aoyamateiichi.pdf 梶山さんのレジメは4頁以降にあります。 その最初の具体例が栃木県矢板市となったわけだ。下の新聞記事を見ても、矢板市長は拒否したとあるように、これですんなり矢板市長が分かりましたなどと言うことはありえず、今後、住民運動も起こるだろう。 なんと言っても、この処分場の場合、8000Bq/kgどころか10万Bq/kgまでの高濃度の放射能に汚染された焼却灰や汚泥などが処分されるからである。10万までといっても、その値の保証などない。 現在日本各地で紛争の種となっている「がれき広域処理」の場合には、焼却灰が8000Bq/kg以下となっているが、矢板に白羽の矢が立った処分場の場合には、上述のように10万Bq/kgまでの高濃度な焼却灰も廃棄されることになっている。
●矢板市の候補地はどんなところか? ところで、肝心な場所だが、栃木県矢板市は、西に日光市、東に那須塩原市に挟まれた地域で、その真ん中を東北自動車道(国土幹線自動車道)が南北に走っている。 処分場予定地は、下の産経新聞が作成した地図の●印、すなわち矢板市塩田大石久保の国有林野とされている。 栃木県矢板市で候補地とされた候補地の位置 出典:産経新聞 この記事を見たとき、青山貞一と池田こみちは、この5月(2012年5月)、福島県内空間放射線量測定調査の帰る途中、矢板市の候補地近くを走ったことを思い出した。 具体的には、下のグーグルアースの地図にあるように、私たちは福島県の会津若松市から那須塩原市を経由し、北関東自動車道、関越自動車道経由で東京に帰る途中、那須塩原の温泉街がある谷間から道を間違い矢板市の山林のなかを走り、矢板インターチェンジに出た。その後、北関東自動車道、関越自動車道経由で東京に帰ることとなった。 私たちは常時、車で走りながら放射線量を測定し、さらにその測定場所をGPSで緯度、経度の詳細を記録するシステムを開発し利用している。下の地図で赤いマークは、放射線量を測定した地点であり、それぞれの地点の測定数値が記録されるようになっている。 2012年5月の福島県会津若松市から栃木県矢板市までの 放射線測定地点プロット図 出典:青山貞一、池田こみち、環境総合研究所 上のグーグルアースを見ると福島県の会津若松市から南会津町を経由し、日光市に少し入ったあと、那須塩原に入り、その後、矢板市の山林を走り、矢板ICから東北自動車道に入っていることが記録されている。 なんと東北自動車道に入る直前、上の地図の一番下で一カ所ポツンと放射線量を測定した地点の西4−5kmの地点が、今回の候補地であることが分かった。 下の二つの地図は左の地図が地形図、右の地図が通常のマップだが、高速道路に乗る前の最後に測定し場所が矢板市という文字の右上にある場所である。一方、候補地は、右の図の塩田ダム近くであることも分かった。
●栃木県内で発生している焼却灰の濃度 下の表は、栃木県内の基礎自治体で発生している焼却灰の濃度(Bq/kg)である。飛灰はやはり那須塩原市のものが一番高く、48,600Bq/kgに及んでいる。ただし、以下は平成23年6月27日〜7月29日(測定試料採取日)のものであり、それより前、それより後の値は分からない。 表 栃木県内市町等の一般廃棄物焼却施設における焼却灰中の 放射性セシウム濃度の測定結果について 平成23年6月27日〜7月29日(測定試料採取日)
なお、以下は、栃木県内の下水汚泥とその焼却灰などの放射性物質濃度データである。 下水汚泥等の放射性物質の調査結果栃木県県土整備部都市整備課 http://www.pref.tochigi.lg.jp/kinkyu/h09/documents/pastodeiconc.pdf ●候補地の現状での空間放射線量は? ところで、放射線量については、那須塩原の温泉街がある谷間は、前回(2011年12月)に測定したときも、まだら(斑)状に3〜4μSv/hと非常に高い地点が飛び地状にあり、びっくりしたのだ。しかし、那須塩原から矢板市の平坦部に出ると0.1μSv/h、さらに東北自動車道の矢板インター近くらも0.1μSv/h前後と低かった。 一方、2012年5月の現地調査では、那須塩原から間違え矢板市北部の県道56号線周辺は0.2〜0.4μSv/hと那須塩原に比べると一桁低く、矢板インター近くでは前回同様、0.1μSv/h前後と低かった。 そして上記の地図の最下段にある測定地点の放射線量も0.14μSv/hであった。これから類推するに、最終処分場の候補地地(国有林内)は、矢板インターがある地点よりは山側であるとしてもおそらくせいぜい0.2μSv/h行くかどうかと推察される。 つまり、距離的には那須塩原市同様、福島県に近いが、矢板の候補地当たりの放射線量は0.1〜0.2μSv/hであると思われる。 なお、以下の2011年12月に実施した 第5次福島県放射線現地調査結果<栃木県那須塩原〜足利>における栃木県内各所の放射線量測定値である。2012年5月も同様の調査を実施している。 ↑走行方向 福島県南会津町〜那須塩原〜矢板 単位:μSv/h 測定期日:2011年12月27日 午後 天候:雪→曇り 出典:青山貞一、池田こみち、環境総合研究所 ●処分場周辺で想定される放射線量の推定 以下は、もし、高濃度の飛灰そして焼却灰などが処分場に持ち込まれた場合、処分場内及びその周辺でどの程度の放射線量となる可能性があるかについての定量的な解説である。 ただし、焼却灰そのものの測定データが手元にないので、以下では土壌に含まれる放射性物質(主にセシウム類)をもとにしている。 私達の過去の分析では、8000Bq/kgは、おおむね1μSv/hに相当する。おそらく焼却灰でもそれに類する値となるはずだ。この場合、1μSv/hを測定する土壌と測定機器との距離は約1mとしている。 この値は、何百という土壌汚染データをもとに環境総合研究所が相関分析行った結果から得たものであり、昨年、青山、鷹取、池田が連名で学会に発表している論文の一部となっている。 放射能と放射線量の間の関係は、単純な相関分析によるものだが、これにより得られた一次回帰直線で外挿すると、10万Bq/kgの場合、12.5μSv/hとなる。 上記を単純に年間積算線量に換算すると、8000Bq/kgの場合、8.76mSv、10万Bq/kgの場合109.5mSvとなり、これ自身大きな値となる。 国がこれをどう扱うかといういと、現場の作業員が焼却灰などから約1mの近傍で作業する時間を、一日あたりわずか(逆算すると1、2時間)としており、それにより年間積算線量は1mSv(自然線量を除く)程度になるとすることになる。 最終処分場に処分される焼却灰からの距離が約1mでそのそばに作業員が滞在する時間が一日、1、2時間が妥当がどうかは不明だが、逆算するとそういうことなる。 福島市の子どもの外部被曝問題などでも同じだが、国が積算線量を推計する際、曝露時間をきわめて少なくとっているところに大きな問題があるが、上記でも同じ事が指摘できる。がれき広域処理における管理型処分場に持ち込める上限を8000Bq/kgとしたのは、以上の前提条件からだとすると、国はまったく現場作業員のリスクを軽視しているとしかいいようもないのである。 とはいえ、今回の場合、最終処分場にはたとえば、10万Bq/kgの焼却灰を処分できるとしている。その場合には、12.5μSv/hとなる。上記の思考経路で現場作業員が焼却灰近くに滞在可能な時間は1日10分前後となる。 仮に12.5μSv/h(10万Bq/kg)が露天に放置された場合、距離減衰があったとしても、私たちが福島県のいわき市で行った現地調査からすると、風下で一時間当たりの空間放射線量が1〜3μSv/hさらにそれよりも高くなる可能性は十分あり得る。 以下の調査では、がれき直近(1m)と風上及び風下10m〜数100mとの放射線量の比較をしているが、風上では1/5程度となったが、風下では1/2〜1/5と放射線量が高くなる地域もあった。 がれきの風上、風下における放射線量の減衰について 出典」青山貞一 矢板市の処分場候補地近くの現状での放射線量は、もともと0.1〜0.2μSv/hのはずなので、これが1〜3μSv/hと一桁高くなるのは、仮に周辺の集落がない場合でも大きな問題となるのではないか。 以下は朝日新聞の記事より http://www.asahi.com/national/update/0903/TKY201209030151.html 「環境省によると、県内の国有林の中から地形などを考慮して候補を絞り込み、現地調査などを経て1カ所を選んだ。候補地はなだらかな山の斜面にあり、十分な広さや地下水位が深いとみられる点など好条件がそろう。約300メートル離れた場所に民家が1軒あるが、候補地とは山頂を隔てた反対側の斜面にあり、放射能の影響はないと判断した」 この記事はあたかも環境省の広報のように、一方的に環境省の言い分だけを掲載している。これは今回に限らず、いつもだ。まだここ10年の新聞記事は、懸念を表明する識者の意見がまったく併記されていないのも問題である。 論考の冒頭に述べたように、2011年8月に全国会議員が同意し承認したがれき・除染特措法は、議員立法の形態をとっているが、その実、とんでもない官僚独裁法である。 環境省は何ら事前に何ら情報を示すことなく、また相談することなく、突然、横光克彦副大臣が栃木県に出向き、さらに矢板市に出向き、その旨を伝えたとのことだ。 先進国、民主主義国で地方自治を100%無視したこのようなことがあっていいわけがないだろう。それを可能としたのは言うまでもなく、がきれ・除染特措法だが、このような国家権力の乱用を可能とした特措法を全国会議員が容認していたというのだから、どうしようもない。 |