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日本はがれき処理でも
「焼却主義」の大愚
青山貞一 元東京都市大学教授
掲載月日:2012年2月19日、4月17日(拡充)
 独立系メディア E−wave Tokyo


はじめに〜日本の異常な焼却主義
  
 がれき広域処理で全国を回っていて分かったことは、私たちがこの20年近く問題にしてきた、世界に類例がないごみを燃やして埋める日本のごみ処理、すなわちゴミ焼却主義・埋立主義がいかに、日本の国土、大気、水を汚染しているかにある。

 世界の先進国や途上国であってもそれらの国々が、いかにゴミを出さない、そして燃やさない、さらに埋め立てない政策に向かっているなか、日本は国(環境省)主導で膨大な廃棄物を燃やして埋める政策が未だまかり通っている。




出典:環境総合研究所(東京都品川区)、グリーンピースジャパン

<参考>
・青山貞一、「廃棄物焼却主義」の実証的研究〜財政面からのアプローチ〜、武蔵工業大学環境情報学部紀要、http://www.yc.tcu.ac.jp/~kiyou/no5/P054-059.pdf


出典:一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成22年度)について
 2012/3/23 環境省大臣官房 廃棄物・リサイクル対策部 廃棄物対策課

 以下は東京都の一般廃棄物排出量の年推移である。これらの94%近くが21の清掃工場、40数炉で毎日燃やされている。年間の焼却量は現在、277万トンに及んでいる。

 とはいえ、過去20年、東京の23区清掃一部事務組合は、焼却設備をつくりすぎ、ごみの排出量は減少している。今回のがれき広域処理は、その隙間で焼却しようとしているのである。本来、ゴミが減っているなら焼却炉の新設や再建設は止めるべきである。


出典:出典:23区清掃一部事務組合 Webサイトより

 当然のこととして、ゴミを燃やして埋めれば、大気、水、土壌がさまざまな汚染物質、有害物質で汚染されることになる。

 にも係わらず、日本では巨額の税金を投入し、国と重厚長大企業が一体となって、鉄とコンクリートよろしく巨大な焼却炉、溶融炉、処分場を全国津々浦々に基礎自治体のほっぺたをカネでたたくようにして建設させてきた。こんな異常な国は世界広と言え、日本以外にない。

 この1年、3.11の被災地の現地を9回つぶさに見て歩き、調査してきた上で言えることは、国の上記の焼却主義・埋立主義という無策の弊害が顕著にでていることだ。

 このまま全国各地で災害廃棄物を焼却すれば、日本全体が放射性物質だけでなく、さまざまな汚染、非意図性有害物質で汚染されることになる。

 もとより、政府が決めた償却可能な災害瓦礫の圧倒的多くは一般廃棄物どころか所沢でかつで燃やしていた 建設廃材以上にプラスチック、金属などさまざまなものが付着している。宮城県北部の気仙沼などでは石油タンク流出に伴い海外では発ガン物質のトップになっているPAH(多環芳香族炭化水素)のもととなる油性分も付着している。

 また2月11日に明治大学リバティータワーで行われた広域処理シンポのトップバッターにたった永倉さん(築地市場のアスベスト問題を永年調査してきた魚河岸の方)らの調査では、被災地各地で解体された建設廃材瓦礫には、アスベストが含まれているものも多々あるという。これがが現実だ。
       
◆3.11とがれき(災害廃棄物)処理問題

 3.11の東日本大震災・津波とそれに続く福島原発事故は、私たち日本国民にとって、いまだかつてない多くの問題を突きつけてきた。

 とりわけ前代未聞の原発事故がもたらした放射性物質に汚染された災害廃棄物の国による広域処理推進の方針は、現在、日本の津々浦々の基礎自治体であらたな問題を引き起こしている。

 周知のように、3.11直後から国や東京電力は、「想定外」という言葉を乱発し「千年に一度の自然災害」を強調してきた。

 しかしながら、歴史をひもとけば誰でも分かるように、比較的甚大な津波ものだけをとっても、次のようなものがある。

  869年 貞観三陸津波
 1611年 慶長三陸津波
 1896年 明治三陸津波
 1933年 昭和三陸津波
 2011年 東日本大震災・津波

 このように我が国では、千年に一度ではなく、百年に一度は類似の大震災や津波が三陸及びその周辺地域で起きてきたと言える。
 
 国や東京電力がことさら千年に一度あるいは想定外を繰り返すのは、その後の国家賠償や民事の損害賠償の免責をねらうレトリックであることは容易に分かるというものだ。

 ところで筆者らは3.11の大震災以降、昨年末までに都合9回、被災地を現地調査してきた。また福島県にも6回、放射線測定ででかけた。


いわき市薄磯海岸の瓦礫の前で放射線量を計測する鷹取敦
撮影 青山貞一 2011.10.16 


小名浜港近くのアクアマリンパークでアスファルト瓦礫からの放射線量を測定する鷹取敦
撮影 青山貞一 2011.10.16

 そこで見たこととして、「3.11」が過去の震災・津波と明らかに異なるのは、災害廃棄物(以下単に瓦礫)の量と質のすさまじい多様さにある。

 福島県を中心に被災地の瓦礫にはコンクリート片、木材等の建材、プラスチック類、金属類、生ごみ(魚類、水産加工物等)、油類など、まさに現代経済社会を象徴そして反映する多種多様なものが含まれている。

 初期段階での環境省調査によれば、内訳は可燃ごみ(柱、壁、家具)23%、不燃ごみ(コンクリート等)66%、不燃ごみ(金属くず)2%、不燃ごみ(家電等)4%と報告され、本来その多くは家庭から出る一般廃棄物として処理されるものである。


いわき市薄磯海岸におかれた災害廃棄物からの放射線量を測定する
筆者(青山貞一)。瓦礫から1mの場所で計測した値と瓦礫の風上側で
計測した値を比較すると4倍以上、1m値が高かった!
撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10  2011.12.25



福島県いわき市内 空間放射線量測定値 単位:μSv/h
    測定期日:2011年12月25日 午前 天候:晴れ
出典:環境総合研究所、第5次福島県内空間放射線量現地調査結果(2011.12.25-27)

 だが現地を子細に調査すると、多くは産業廃棄物の様相を呈している。加えて問題解決を複雑かつ困難としているのは、福島原発事故により周辺に移流、拡散、飛散し沈降した大量の放射性物質が瓦礫、下水汚泥、浄水発生土、通常の焼却炉の焼却残渣(主灰、飛灰など)に高濃度に濃縮され含まれていることである。

 これら瓦礫の量は太平洋沿岸域で2011年8月30日現在、岩手508万t、宮城1,584万t、福島228万t、青森22万t、茨城50万t、千葉12万tと実に2,400万トン超に達しており、その後も増え続けている。平成21年度の日本の一廃の年間排出量が4,625万tなので瓦礫の総量はその半分に相当する。

 さらに、実際には上記に加え膨大な数の船舶、自動車などの廃棄物もある。また保管されていた農薬類、PCBを含む化学物質、重油・石油・ガソリンなどの燃料・油類が津波で流出し、海水と共に瓦礫に付着ししみ込んでいる。また古い建築物が破壊され、そこからアスベストが流出している可能性も高い。川や海の底質から高濃度の砒素が検出されているという調査報告もある。

◆日本は世界一のゴミ焼却大国

 もともと日本は人口で約2.5倍、面積で約25倍の米国よりも廃棄物の焼却量が多く、先進諸国のなかで飛び抜けた「焼却主義」をとってきた国である。こうした多種多様な汚染物質が渾然一体となった災害廃棄物を通常の一般廃棄物と同様に全国各地の基礎自治体で焼却処理そして処分することには極めて問題が多い。

 しかも、以下の論文で明らかなように、日本の異常な焼却主義は、..重工、..造船、...鋼管などの産業、企業の利権と密接に結びついていることが分かる。

◆青山貞一、「廃棄物焼却主義」の実証的研究〜財政面からのアプローチ〜、武蔵工業大学環境情報学部紀要、http://www.yc.tcu.ac.jp/~kiyou/no5/P054-059.pdf

 歴史を見れば明らかなように、先進諸国はゴミを燃やせばダイオキシン類などの有害物質が生ずるとして早くからゴミの焼却量を減らし、厳しい規制基準を制定してきた。しかし、日本はと言えば、1999年に起きたいわゆる所沢ダイオキシン大騒動に至るまで法規制をせず、ゴミ処理を優先しまさに野放図としてきた。



 いうまでもなく、瓦礫を焼却すれば、飛灰、焼却灰、煙、下水に、浸出水などに放射性物質が濃縮されて残る。


ゴミ焼却場周辺は放射性物質以外に非意図性生成物を含めさまざまな有害物質が拡散する 
出典:青山貞一(元東京都市大学教授)、がれき広域処理の本質的問題〜がれき広域処理の「必要性」「妥当性」「正当性」からの批判〜がれき広域処理シンポジウム(於 沖縄大学) 講演資料 2012年4月7日

◆がれき(災害廃棄物)の焼却・埋立は禍根を残す!

 もとより、廃棄物の焼却は、焼却しない場合と比べて非意図的な有害化学物質が多数生成される。この研究分野の国際的第一人者である宮田秀明大阪工大教授(元摂南大学薬学部教授)によれば、プラスチックを含む廃棄物を焼却すれば、「短時間で1種類の化合物から千種類もの非意図的物質が生成される」と述べている。


出典:プラスチック焼却の問題点、宮田秀明摂南大学薬学部教授
    (現在、大阪工業大学教授)


出典:プラスチック焼却の問題点、宮田秀明摂南大学薬学部教授
    (現在、大阪工業大学教授)

 同様のことをゴミ弁護会長の梶山正三弁護士(理学博士)も東京都日の出町広域最終処分場に関して東京地裁八王子支部で開かれた行政訴訟の公判で述べている。

 このようにさまざまな物質が付着、混ざった災害廃棄物を被災地から各地の市町村の焼却炉で安易に焼却処理することは、セシウム137などの放射性物質のみならずダイオキシン類などの有機塩素系化合物、多環芳香族炭化水素類(PAH)、水銀など重金属類、また、がん発生との因果関係が明確となっているアスベストなどを未汚染地しかも人口の超密集地域に広め新たな問題を作り出すことになりかねない。


出典:青山貞一(元東京都市大学教授)、がれき広域処理の本質的問題〜がれき広域処理の「必要性」「妥当性」「正当性」からの批判〜がれき広域処理シンポジウム(於 沖縄大学) 講演資料 2012年4月7日

◆まったく信憑性がないバグフィルター99.9%削減

 環境省の検討会では、バグフィルターが放射性物質の99.99%を除去するなど、まったく実証実験、それもさまざまな状況下での効果測定、測定デーもないまま述べている。しかし、過去、多くの焼却炉、溶融炉裁判で焼却炉メーカーなどの専門家、技術者の証人尋問、反対尋問を行ってきた梶山正三弁護士(理学博士)は、環境省の言い分は根拠がないと以下のように述べている。長文だが重要な事項なのでそのまま掲載する。

◆梶山正三:バグフィルターがもつ問題点  

 以下は、ゴミ弁連のメーリングリストにおける議論から梶山正三弁護士がバグフィルターがもつ問題点、留意点について書かれた部分を当人の承諾を得て掲載するものです。

 現在、政府ががれき広域処理において焼却処理する際に、バグフィルターにより放射性物質が99.99%除去されるなど、およそ根拠薄弱かつ第三者による実証試験データがないまま、基礎自治体、市民に言い放っています。

 梶山弁護士は、従来のダイオキシン類などの有害物質に加え放射性物質の除去についても言及されています。参考にしてください。


 バグフィルターについては、材質的には現在多数のものが実用化されています。 私は、バグフィルターの構造、機能、その限界については、多数の書面を書いていますが、そのほとんどか裁判所向けの文書です。

 比較的最近(といっても、2〜3年前です)書いたものとして、2つ添付します。

 なお、バグフィルターの機能に関しては、先月、東京地裁立川支部で 相手側技術者の証人尋問を担当しました。そこでの尋問内容も一部、下記に取り入れています。 構造、機能の概要については、添付ファイルに要点を述べています(準備書面16の15p以下等)。

 上記文書の説明に補足して要点を述べます。

1 バグフィルターの濾過効果は、「確率的」です。

 その意味は、粒径が大きいものとは濾過される確率が高まるが、全部濾過されることはない。その逆に粒径が小さいものでも、低い確率で除去されることになります。つまり、ある粒径を境に、それ以上は濾過されるが、それ以下は濾過されないというall or nothingの関係は成り立ちません。

2 バグフィルターの濾過効果は、日々変動します。

 バグフィルターはいわば「自らの目詰まりを利用して濾過効果を高める」という原理に基づいているので、未使用のバグフィルターほど濾過効果は低い(準備書面16の16ページのグラフ)。

 使用するにしたがって、粒径の小さいものでも、濾過される確率は高まりますが、それとともに圧力損失が高まり、破裂の危険が増すので、定期的に「払い落とし」(ジェット気流による吹き払い方式もあります)をするので、その直後には、圧力損失は減少し、同時に濾過効果も低くなります。

3 いずれにしても、バグフィルターの濾過効果については、以下のことが言えます。

 第1に、気体状(気体分子)のものは濾過できない。

 第2に、2μmという比較的大きな粒子(バクテリアの平均粒径の2倍程度)でも、未使用のバグフィルターでは50%程度しか除去できない。

 逆に濾過効果は「確率的」ですから、そのようなバグフィルターでも、0.05μmという小さな粒子でも、その一部は濾過できる。

4 現実に使用されているバグフィルターがどの程度、有害物質の除去に効果を上げているかというのは、「理論的な視点」と「実証的データ」で議論する必要があります。

  前者の「理論的視点」とは、主として、バグフィルター入口温度における「当該物質のガス化割合」(蒸気圧)の問題です。

5 前者の「理論的視点」に関して、廃棄物焼却炉では、以下の点に特に留意すべきです。


・廃棄物焼却によって生ずるダイオキシン類に関しては、その15〜20%は除去できない(200℃におけるダイオキシン類のガス化割合)

・重金属については、その融点(MP)又は沸点(BP)以下でもガス化する(蒸気圧が観測される)ので、常にその一部はバグフィルターを通過して、環境中に排出される。

・注意すべきは、多くの論者は、バグフィルターにおける重金属の「ガス化割合」を当該温度における重金属の「単体」の蒸気圧で論じているが、このような想定は現実的ではない。

・廃棄物焼却炉中では、多くの重金属は、「単体」ではなく、塩素化合物、硫酸塩、炭酸塩、酸化物等になっています。注目すべきは、「塩素化によるMP及びBPの低下」現象です。

 塩化物の多い廃棄物(多くの廃棄物がこれに該当します)中では、主たる燃焼室で多くの重金属が塩素化合物になります。その結果MP及びBPの低下が生じ、ガス化割合が著しく高まるのです。つまり、バグフィルターで補足されず、大気環境中に多くの重金属が「ガス化」して放出されます。

・一例を挙げます。銅は、「1300℃」程度のガス化溶融炉でも「ほとんどガス化しない」と論ずる人が多いのですが、その論拠はMP1084℃、BP2567℃ということにあります。もちろん極微量であれば、1300℃でもガス化は否定できませんが、通常は「無視できる程度」とされます。ところが、塩化銅はMP498℃、BP993℃と劇的に低温になります。

  その結果として、1300℃では容易に全量ガス化してしまいます。仮にバグフィルターの入口温度を200度まで下げても、銅の単体の場合と比して、桁違いに大量の銅が環境中に放出されます。

 バグフィルターではなく、仮にサイクロンだけを使用していた場合には、「ほぼ全量が大気環境中に排出される」という結果になります。

6 セシウム、ヨウ素、ストロンチウムなどの、放射性同位元素については、その化学的性質は、安定型同位体と理論的には、ほとんど変わらないはずです。

 セシウム単体は、MP28℃、BP671℃と、常温では液体に近い。当然、単体の場合には、極めて蒸気圧が高く、200℃程度でも多量のセシウムがバグフィルターを通過するとみなければなりません。

 しかし、現実には、余ほどの還元的雰囲気でない限り、単体では存在せず、塩化セシウム等の塩類になっているはずです。この場合は(他のアルカリ金属元素の通有性ですが)銅などと異なり、MPとBPは上昇します。それぞれ645℃と1295℃です。いずれも、ガス化溶融炉ではほぼ全量ガス化しますが、バグフィルターの入口温度では相当の部分が固体化して、ガス化したままで放出されるのは一部にとどまります(その程度については、実証データが必要です)。

 ヨウ素は、MP114、BP184℃と、単体では極めてガス化しやすいのですが、廃棄物焼却炉中ではその多くはナトリウム塩、カリウム塩と推定されます。ヨウ化ナトリウムはMP660℃、BP1304℃と重金属の塩化物の場合と逆に高くなります。この場合、200℃でも一部はガス化してバグフィルターを通過します。その程度については実証データが必要です。

 ストロンチウムの場合は、いささか他の元素と異なる現象があります。ストロンチウム単体はMP777℃、BP1382℃です。塩化ストロンチウムについては、6水和物結晶体の存在が知られていて、6水和物のMPは61℃と極めて低温なのです。ところが無水物のMPは874℃、BPは1250℃です。つまり、無水物については、塩素化による低温揮発現象は顕著ではありません。

7 放射性元素の廃棄物焼却炉における挙動については、多くの理論的仮説(推定)は可能ですが、結論としては実証データが不可欠です。

 
いずれにしても、「バグフィルター神話」(バグフィルターで100%除去できる」は成り立ち得ません。問題は、「どれだけのものが環境中に排出されるのか」という程度問題です。私が担当している裁判では、その点に関しても興味あるデータが得られています。添付の準備書面23にその一部を記述しています(14p以下)。

・焼成系はバグフィルターを二重に装備し、乾燥系はバグフィルターを1つ装備しているが、水銀は1日当たり40グラムを大気環境中に放出している。

・粉じんについては、焼成系はバグフィルターを二重に装備しているが、バグフィルターを2つとも通過する(濾過されない)粉じん量は1日当たり20グラム、年間7.3キログラムに達する。

・窒素酸化物(これ自体はガス状ですが、バグフィルター入口前で消石灰と活性炭噴霧で固体粒子にしているはず)は、バグフィルターを二重に通過させても、焼成系、乾燥系の合計で142kg/日、年に300日稼働として、年間42トンの窒素酸化物を大気中に放出しています。

・これらの実証データは、事業者による「いいとこどり」のデータに基づいているので、「過少評価」の可能性が高いのですが、それでも、バグフィルターによる有害物質除去機能は、とても欠陥の多いものだと言うことは言えます。

8 バグフィルターのメンテナンス、破裂等の事故発生の蓋然性、バグの交換のための差圧測定等、他にも興味ある問題はありますが、長くなるので捨象します。ただ、バグの使用については、通過速度が100cm/min程度が最適とされています。

 これを超えると濾過効果は落ちてくると見ていいでしょう。

9 電気集塵機(EP)については、EPがダイオキシン類の「デノボ合成装置である」という事実が多くのデータで実証されているので、廃棄物焼却炉では、現在ほとんど使用されていません。 希に、「化石」としてみることはあります。

 長くなって失礼しました。とりあえず、終わりにします。

 バグフィルターの機能についてメールしましたが、大切なことを忘れていました。

 ご存じの方も多いと思いますが、補足します。
1 重金属類に対するバグフィルターの濾過機能については、既存の多数の廃棄物焼却炉(バグフィルター付き)が稼働しているので、そこで 実証データが得られるのでないかというご意見があるかも知れません。

2 ところが、ご存じのように、廃棄物焼却炉については、排ガス中の重金属については、排出規制が一切ありません。そのため、ルーティンワークとしては、 重金属の測定データはないのです。重金属類の排出を一切規制しないという異常事態は、多くの識者には理解不能と思いますが、それが現実です。

3 水銀については、その周知の有害性の故に(その意味ではヒ素、カドミウム、鉛等も同様ですが)、事業者としても若干は気が咎めることろもところもあるのでしょう。規制はないが「自主規制」と称して、測定するところも少しずつですが増えています。

4 東京都などでは、年に1回程度「排ガス中の重金属濃度」を公表していますが、これは、データ(及び測定方法)を見れば分かるように、「排ガス中の粉じんに含まれる重金属濃度」であって、「気化してバグフィルターを通過した重金属濃度」ではないのです。似て非なるもので、これでは重金属排出の実態は分かりません。

5 重金属の塩素化による気化とその排出量はおそらく予想外に多いと思います。重金属の塩素化による気化とそれを利用した除去技術はセメント業界では古来から周知の技術で エコセメント製造施設でも同様です。先月の裁判所における事業者側技術者もその点は明確に認めていました。単体よりもはるかに気化しやすくなるという点に特に留意する必要があります。

 今日は。梶山です。煙突からの水蒸気量(厳密には、目で見えるのは「湯気」であって水蒸気ではありません)(未燃の炭化水素の可能性や塩化水素の水和蒸気の可能性もあります)は、水分含有量と排ガス温度、それに外気温で決まります。

 ですから、寒い日は水蒸気(湯気)は多くなります。バグフィルター自体は、水蒸気を捕捉する能力はないので、バグフィルター使用の有無と水蒸気は直接の関係はありません。EPに比べて低温の排ガスになるので、一般に目に見える水蒸気量(湯気)は増えます。

 ただし、バグフィルターを使用した場合は、水蒸気が「湯気」になるのを防ぐため、及びその後の触媒分解反応をさせるため、排ガスの再加熱装置を付けて湯気の発生を防ぐのが通常です。

 産廃焼却炉ですから、それはやってないのでしょう。「バイパス」の件ですが、これがないと、立ち上げ、立ち下げ時にバグフィルターが破裂する危険があるので、あるのが普通ですが、県によっては指導要綱などで禁止しています。その点県に確認してください。

 なお、「禁止」は、バイパスを常時使用するのを防ぐ趣旨ですが、禁止すると逆に、立ち上げ・立ち下げ時には、バイパスもなく、しかも、バグフィルターも使用できないという最悪の状況を迎えることになります。つまり、この場合は、排ガスを煙突以外の場所から排出するか、場合によっては、冷却塔も通さずに煙突に直結する別のバイパス設置の危険もあるのです。

 濛々たる白煙の「排ガス分析」が必要と思います。咽喉の「イガイガ」は塩化水素が排出されている疑いがあります。

 バグフィルターとEP(電気集塵機)があれば99.99%の放射性物質が除去できるなどというのは、現場、実務を知らない官僚や御用学者の先に結論ありきの言い分であることが分かるであろう。

◆焼却と埋立は環境負荷、環境汚染を拡大する

 またライフサイクルアセスメント(LCA)を用いた残飯はじめ下水汚泥など有機廃棄物の処理方法毎の環境負荷比較でも、焼却処理が最も環境負荷が高いという東京都市大学大学院環境情報学研究科湯龍龍氏(現在博士課程)の研究論文がある。

 さらに温室効果ガスに関して、日本政府は京都会議(COP3)以降、廃棄物焼却由来の二酸化炭素を総負荷量から除外しているが、焼却した場合は、しない場合に比べ二酸化炭素の排出がかなり増えること、また有機物を堆肥化した場合に発生するメタンガス量を考慮したとしても、廃棄物の焼却による温室効果ガス量が多くなるという東京都市大学大学環境情報学部環境情報学科の佐藤直樹氏の卒業研究論文もある。

 このように、国がさしたる根拠もなく、放射能レベルが低いことのみを理由に瓦礫を広域処理しても問題ないと結論づけたことは、熱力学第二法則、エントロピー理論など、物理学の原理からしても過ちであると言える。また放射性物質が最終的に海に流れ込めば、食物連鎖、生物濃縮により魚介類が高度の汚染されることを知らねばならない。

◆青山貞一: 福島原発事故で、本当に怖いのは魚介汚染 You Tube

◆まったく不透明な立法過程と憲法違反の官僚立法

 にもかかわらず環境省は2011年5月以降、非公開の「災害廃棄物安全評価検討会」を重ね、途中からは議事録も公開せず、さらに最新の情報開示では環境省は議事録もつくっていないと情報開示請求をしている鷹取敦氏に通知している。その上で、さしたる根拠なく広域処理を正当化してきたことはきわめて遺憾であり、およそ民主主義国家にあるまじき行為であると思える。

◆環境省「災害廃棄物安全評価検討会」委員名簿
井口 哲夫
 名古屋大学大学院工学研究科教授
大垣 眞一郎(座長)
 独立行政法人 国立環境研究所理事長
大迫 政浩     
 独立行政法人 国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センター長
大塚 直
 早稲田大学大学院法務研究科教授
酒井 伸一
  京都大学環境科学センター長
杉浦 紳之
 独立行政法人 放射線医学総合研究所緊急被ばく医療研究センター長
新美 育文
  明治大学法学部専任教授
森澤 眞輔
  京都大学名誉教
出典:環境省公式Web

 これについては、環境総合研究所の鷹取敦調査部長による一連の論考を見て欲しい。科学的根拠がない、あるいは乏しいことを無理矢理強行しようとするから国の検討会を非公開にし、議事録を出さず、あげくの果ては録音をせず、議事録をつくっていないなどと鷹取氏の正規の開示請求に「堂々」と回答してきているのである。

 まさに設置、委員選任などまったく正当性がない検討会が、非公開できわめて重要な事項を審理し、その結果を細野大臣らが国民や基礎自治体に押しつけるという、民主主義国家であるまじき対応、態度である。

◆鷹取敦:議事録作成をやめた「災害廃棄物安全評価検討会」
◆鷹取敦:環境省への議事録開示請求の経過報告(2012/02/17現在)
◆青山貞一:立法府が本来の機能を取り戻すために You Tube

 しかも、根拠となるがれき特措法は、見かけは「議員立法」となっているが、その実態は強権的な官僚立法である。梶山正三弁護士(理学博士)は、同法は一般廃棄物処理に関する地方自治を侵害する憲法違反法ではないかと危惧されている(以下参照のこと)。

◆青山貞一:がれき特措法は「議員立法」の顔をした強権的な官僚立法


◆梶山正三: 「がれき特措法」は憲法違反

 ガレキ特措法は、おっしやるとおり、「議員立法」の顔をした官僚立法だと思いますが、 私は憲法違反の立法だと思います。

 特に、地方自治法との関連で言えば、「除染のための調査」「除染計画」「除染の実施」「除染土壌の保管」などについては、第1号法定受託事務として、最終的な国の強権的介入を可能にしています。さらに、「除染の基準」「調査区域の指定」「措置命令」「調査方法」なども、全て国(環境省令)がイニシアチブを取り、かつ、令状等もなしに、強制的な立入調査権限を与えています。

 これは、今までの環境法令にはなかったことで、国の職員に限り(地方自治体の職員には与えられていません)その立入を妨害してはならないことを規定し(27条6項)、それに従わない者に対する罰則まで規定しています(62条)。

 総じて、国家権力の無謬性を大前提として、地方自治体を国の支配下に置き、したがわない者は処罰し、従わない自治体に対しては、直接的な国の介入を可能にしている点で「恐るべき立法」と言えます。

 無能で実務能力のない環境省が、これほど大きな権限をいつのまにか手中にしているのは、正に「亡国のきざし顕著」と言えます。

 一方で、同法の施行規則の一部改定について、環境省はパブコメを募集し、一部の市民団体が、それに異を唱えていましたが、問題の大本は、特措法それ自体にあり、さらには、同法施行令、施行規則の全部が環境省の強大な権限を裏付けています。

 この法律が生きている限り、地方自治体は、気まぐれで、やる気のない、格好付けだけの環境省の思惑にしたがって、右往左往することでしょう。

◆世界は日本をどう見ているか?

 最後に、毎年冬、スイスで開催されている通称ダボス会議、世界経済会議で今から10年前、米国のエール大とコロンビア大が世界各国の「環境保全力ランキング」を公表した。

 日本は何と62位であった。エンド・オブ・パイプあるいはバック・エンド・シンキングと呼ばれるように、日本は本質的な問題解決をせず、巨額の税金と巨大な装置(技術依存)で事後処理的に焼却に依存し対応してきたこと、すなわち何でもかんでも燃やして埋めるの愚をしてきたことが、現在の国の苦境に繋がっていることを厳しく反省しなければならない。

 さらに環境省の検討会を非公開にし、議事録を公開しないことで分かるように、そこにいる委員はおよそ科学者や研究者に値しないだろう。

 ひとことでいえば、この検討会はどうみても非科学的なことを国民や住民に押しつける、いわば政治家がすることをしているのである。こんな環境省に原子力規制庁を設置しても到底国民の理解など得られるはずもない。


出典:青山貞一、世界の「環境保全持続力」ランキング、AISブログ

◆環境省は環境汚染省である!
 
 環境省の前身、環境庁(当時、総理府)は、もともと人材不足で各省庁からの出向が幹部を占め、いわば他省庁の植民地であった。しかし、人材不足、力量不足は今まででも変わっていない。

 その環境省やつくばの研究所(国立環境研究所)は、3.11以前は、法的にだけでなく研究や実務面でも無関係だった環境省が、誰が見ても経済産業省の暴走をとめられるはずもない。これはまるで自民党から民主党に政権が移っても政治主導も利権構造も変わらなかったことと酷似している。

 結局、新設される環境省の原子力規制庁は、人材の多くを経済産業省、その独立行政法人はじめ「原子力村」に依存せざるを得ず、巨額をかけても肝心なときに何一つ役に立たないSPEEDIと同じ運命をたどるだけだ。元も黙阿弥である!

 せめてトップを米国の原子力規制委員会(NRC)のヤッコ氏のように民間からの政治任用とすればと思うが、それも期待薄である。

 いずれにせよ、上述のように原理的に間違ったこと、すなわち世界に類例のない廃棄物をもやし埋め立てる危険きわまりない「焼却主義」をとり続ける環境省に将来はないだろう!

◆原子力規制庁、独立果たせず?経産省と「同居」
 読売新聞 2012年2月7日

 環境省は、4月に同省の外局として発足する原子力規制庁について、経済産業省別館で業務を始める方針を固めた。原子力安全・保安院の看板を掛け替える。原子力行政を推進する経産省から移転し、規制官庁として、新たな場所での船出を印象づける狙いだったが、入居先選びが間に合わなかった。転居は早くても夏頃になりそうだ。

 原子力行政を推進する経産省と、規制する保安院が経産省内に同居し、互いに人事交流もあることが、東京電力福島第一原発事故を招いた一因と批判された。規制庁の大部分は、経産省から移転してくる保安院が占めることになるだけに、環境省は国民に独立性をアピールするためにも、新たな入居先を探した。

 その条件は、首相官邸に近く、十分な耐震性を備え、低層階に入居できること。さらに、規制庁の定員は約500人で、事故調査を担う原子力安全調査委員会も新設されるため、最低でも6000平方メートルの広さが必要になるという。これに合う有力な民間ビル候補が近くの汐留地区でいったん浮上したが、最終的にはまとまらなかった。

<引用・参考文献>
1)青山貞一、「廃棄物焼却主義」の実証的研究〜財政面からのアプローチ〜、武蔵工業大学環境情報学部紀要、http://www.yc.tcu.ac.jp/~kiyou/no5/P054-059.pdf
2)Teiichi.Aoyama, Komichi. Ikeda and Atsushi. Takatori, For the lessons to be learned from the Past Disasters - Based on the Study Tours to the Sanriku Area affected by the Great East Japan  Earthquakes of 3.11-, Japan and Korea,
International at Tokyo City University Yokohama Campas, Jan. 2012
3)青山貞一、池田こみち、鷹取敦、福島放射線現地調査報告、2011年6月
4)青山貞一、池田こみち、鷹取敦、宮城県・福島県北部被災地・放射線現地調査、
 環境総合研究所自主調査報告書、2011年9月
5)青山貞一、池田こみち、三陸海岸 津波被災地 現地調査報告@〜O、環境総合
 研究所自主調査報告書、2011年8月
6)環境省公表資料、沿岸市町村の災害廃棄物処理の進捗状況、2011年8月30日
7)環境省、2011年3月4日、一般廃棄物の排出及び処理状況等について
8)青山貞一、池田こみち、原理的に間違っている国の汚染瓦礫処理と私たちの提案、独立系メディア、E-wave Tokyo、 2011年11月11日
9)池田こみち(環境総合研究所)、東日本被災地の廃棄物資源管理戦略、日本計画行政学会誌、34巻4号、2011年11月
10)池田こみち(環境総合研究所)、広域処理は問題の山、「がれき、復興足かせ」疑問、東京新聞こちら特報部、2012年2月15日
11)青山貞一:不透明な瓦礫処理と環境・利権問題、独立系メディア、E-wave Tokyo
12)宮田秀明(摂南大学薬学部教授、現大阪工業大学教授)、プラスチック焼却の問題点、小平環境会議における講演資料、2004年2月
13)梶山正三(ゴミ弁連会長、弁護士、理学博士):東京都日の出町広域最終処分場に関する東京地裁八王子支部で開かれた行政訴訟の公判審理、東京地裁八王子支部民事一部、2003年10月22日
14)梶山正三:バグフィルターがもつ問題点 独立系メディア、E-wave Tokyo 
15)湯龍龍、伊坪徳宏(武蔵工業大学大学院、現東京都市大学環境情報学研究科)、食品廃棄物のリサイクルによる環境影響削減効果
16)佐藤直樹(東京都市大学環境情報学部環境環境学科)、廃棄物問題と温室効果ガスの関連性〜一般廃棄物を例に〜、2012年2月
17)鷹取敦(環境総合研究所)、議事録作成をやめた「災害廃棄物安全評価検討会」、独立系メディア、E-wave Tokyo、2012年2月17日
18)鷹取敦、環境省への議事録開示請求の経過報告(2012/02/17現在)、独立系メディア、E-wave Tokyo、2012年2月17日
19)梶山正三: 「がれき特措法」は憲法違反 独立系メディア、E-wave Tokyo
20)青山貞一:がれき特措法は「議員立法」の顔をした強権的な官僚立法
独立系メディア、E-wave Tokyo
21)青山貞一、洞爺湖サミット(7)、持続可能な社会経済モデルの模索、独立系メディア、E-wave Tokyo、2008年7月11日
22)青山貞一、世界的に見た日本の環境持続力は30位!?
23)池田こみち(環境総合研究所)、日本の環境保全力は世界の62位、東京都市大学環境情報学部青山研究室公式Web
ttp://aoyamateiichi.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/30-3d94.html
24)原子力規制庁、独立果たせず?経産省と「同居」、読売新聞 2012年2月7日