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以下は、2012年3月20日、東京都港区にある政策学校一新塾で代表理事、青山貞一が行った基調講演の一部である。今後、何回かに分けて基調講演の内容をお伝えしてゆきたい! ミニ講義をする青山貞一、東京港区に政策学校一新塾にて 2012.3.20 ●完全非公開の立法プロセスで制定した特別措置法で 大政翼賛的に自治体にがれき処理を押しつける愚 環境省は、東日本大震災後のがれき処理、とりわけ福島県内以外の災害廃棄物の処理を全国各地の基礎自治体に運び焼却、埋め立てするいわゆるがれきの広域処理について、基礎自治体、市民、住民の意向をまったく無視し、一方的に進めている。 根拠としているのは、平成23 年8 月に全党が賛成し議員立法で成立した「東日本大震災により生じた災害廃棄物の処理に関する特別措置法」だが、この法自体、環境省はその立法過程を明らかにせず、検討会も完全非公開、私たちの情報開示請求に対しても、議事録を作成すると公開しなければらない、だから議事録は作成しない、さらに議事内容を録音もしないと、およそ民主主義国家にあるまじき対応をしてきた。 また基礎自治体を一般廃棄物処理の主体と定めている廃棄物処理法、地方自治の主体を定めた地方自治法との関連でも、国が一方的に基礎自治体にがれきの収集、運搬、焼却処理、最終処分を押しつける現下の方法は、異常である。 基礎自治体や住民がこのような国のやり方を危惧し、反対するのは、当然ながらそれなりの理由がある。当然、災害廃棄物に付着する放射性物質の問題がある。仮にそれが低レベルであるとしても、放射性物質の未汚染地域にとっては、汚染物質を受け入れることになる。 下図は、私たちが測定したいわき市における空間放射線量の一部だが、豊間中学校にある災害廃棄物置き場のがれき近くで測定した放射線量は、前後の地域に比べ何倍も高い。 図 福島県いわき市内 空間放射線量測定値 単位:μSv/h 測定期日:2011年12月25日 午前 天候:晴れ いわき市薄磯海岸におかれた災害廃棄物からの放射線量を測定。 瓦礫から1mの場所で計測した値と、瓦礫の風上側で計測した 値は4倍以上違っていた 撮影:池田こみち Nikon CoolPix S10 2011.12.25 上記は福島県内での測定値であるが、周知のようにセシウム137等の放射性物質は、福島原発から100km、200km離れた風下地域を汚染しており、単純に福島県外だから問題ない、安全というわけには行かない。当然のこととして、焼却処理すれば後述するように、濃縮される。それらをどう処理するのか、焼却場、処分場から排出される灰や排水に含まれる濃縮された汚染を全国各地でどう処理するのかという問題もまったく分かっていないのである。 災害廃棄物には、放射性物質で汚染されているという単純な理由だけではない。災害廃棄物には、それ以外にアスベストはじめ有害な重金属類、プラスチックが混入されており、それを敢えて全国各地で焼却処理すれば、未汚染地域を汚染することになるからだ。 さもなくとも、日本の廃棄物処理は先進諸国の中にあって何でもかんでも燃やして埋める方式をとってきたことが国際的にも日本のゴミ処理は非難されている。 ゴミを燃やさなければ発生しない数多くの有害化学物質が非意図的に生成される。国は高度で高価なバグフィルターなどをつけているから問題ないというが、燃やすことにより粒子状物質とガス状物質の汚染物質が生成される。主にフィルターで除去できるのは粒子状物質であり、ガス状物質は素通りする割合が多いことが分かっている。 さらに、基礎自治体、住民の反対が強まると、環境省は広告代理店の博報堂に数10億円の巨費で新聞、テレビでがれき処理を引き受けない自治体や住民は非国民であるかの非科学的なコマーシャルを出すに及び基礎自治体と住民、さらに国民の顰蹙(ひんしゅく)を買っている。 また焼却処理することで、飛灰や焼却灰に各種汚染が圧縮、高濃度に残る。この処理についても不明確である。さもなくても逼迫している自治体の最終処分場にそのまま廃棄すれば、強風でそれらが舞い上がり、周辺地域に飛散することは私たちが東京多摩部の焼却灰が処分されている日ノ出町にある広域処分場を対象としたシミュレーションと実測調査で明らかになっている。 津波被災地の現場を岩手県久慈市から宮城県、福島県、そして茨城県北茨城市まで30数自治体を9回に渡り現地視察してきた私たちが率直に感ずるのは、がれき処理、とりわけ国が焼却処理を基礎自治体に押しつけている木材などが、被災地の復旧、復興の足かせとなっている事実はほとんどない。 ●広告代理店に巨費を投入し、まともな意見や反対活動を 圧殺する国(環境省)のやり方 このがれきの広域処理問題で早期から国(主に環境省)、御用学者、マスメディアに対して警鐘を鳴らしてきた同僚の池田こみち氏(環境行政改革フォーラム副代表、環境総合研究所副所長)は、以下のように述べている。 災害瓦礫の受入を拒否するのは「NIMBY(Not In My Backyard)症候群」と切って捨てて良いのだろうか。平成23 年8 月に全党が賛成し議員立法で成立した「東日本大震災により生じた災害廃棄物の処理に関する特別措置法」の下、国は災害廃棄物の広域処理を形振りなりふり構わず推し進めようとしている。 平成24 年3 月2 日には「広域処理を推進する議員連盟」まで結成されている。マスメディアもその動きを後押し、今や広域処理を拒否すると「非国民」かつ「身勝手・我が儘」というレッテルを貼られ、白い目で見られ後ろ指を指される程である。 少なくともこの国が民主主義を標榜するのであれば、正当な合意形成の手続きもなく、科学的・経済的な妥当性についての説明もなく、また、今、広域処理が被災地にとって本当に必要な援助や支援なのか、についての説得力のある情報もないまま、強権的にあるいは一方的に押しつけられる政策を黙って受け入れることはできない。 何よりも、国が被災地住民とその他の地域の市民の間に対立構造をつくりだし、相互の不信感を増幅させていることは看過できない事態である。今、私たちは何故災害瓦礫の広域処理に反対なのか、勇気を持ってしっかりと声を出していかなければならないと感じる。 NIMBY は地域の環境や子どもたちの健康を守るための闘いの原点であるとともに、政策決定プロセスに関与するための出発点でもあり、決して非難されるべきものではないはずだ。 その池田氏は、2012年3月11日、明治大学リバティータワーで開催された「災害がれきの広域処理を考えるシンポジウム―法的問題・安全性を問う」で問題提起している。以下はその動画である。 ◆池田こみち:災害廃棄物広域処理の環境面からの妥当性について You Tube ◆池田こみち:災害廃棄物広域処理の環境面からの妥当性について 震災がれきの広域処理を考えるシンポ・パワーポイント ◆池田こみち:災害廃棄物広域処理の環境面からの妥当性について 震災がれきの広域処理を考えるシンポジウム・レジメ ◆池田こみち:広域処理は問題の山、「がれき、復興足かせ」疑問 東京新聞 ◆池田こみち:東日本被災地の廃棄物資源管理戦略 計画行政学会誌 34(4),2011 以下は、がれきの広域処理について疑問を感じた県民への徳島県の回答。自ら考え国の施策の杜撰さを指摘している徳島県の至極まっとうな回答である。
●がれき処理が復旧、復興の足かせとはなっていない 国の不作為を棚に上げ基礎自治体を責めるのはお門違いだ! 国は早くがれき対策をしないと復興ができないと言っているが、一部地域を除き、何らがれき処理が現場で復興の足かせとはなっていないはずだ。 私たちは以下の市町村の現場を最低2回現地視察した。 昨年、12月時点でがれき処理が遅れていたのは、山田町、気仙沼市、南三陸町、女川町、石巻市くらいであり、他はある一角にがれきが分別されていた。宮城県北部は地形が複雑でもともと平地が限られているという問題はあるが。 もっぱら、福島県は自力で処理、仙台市も自力での処理を申し出ており、岩泉町などは後述するように町長自身が考えを持っている。このこと考えると、環境省の言い分は、まるでテレビ局の映像がひどい部分だけをクローズアップし、ことさら世論を煽っているようにさえ思える。 以下は北から南へ青山、池田、鷹取が9回にわたり現地調査した基礎自治体、政令指定都市である。
しかも、環境省は反対あるいは危惧する基礎自治体のほっぺたをカネでたたくようなえげつない方法をとろうとしている。まず基礎自治体がすべきは、現場を自分の目で見ることだ! 私が日本計画行政学会に書いた論文でも書いたように、各種法令の立法措置、補助金、交付金に手間取り、さらに一番大きなのは、市町村参加のグランドデザインがほとんど行われていないのを棚に上げ、がれき処理のせいにしている。まるでマジメント能力がない。 ※青山貞一、東日本大震災後の持続可能社会構築の諸要件 日本計画行政学会、計画行政学会誌 34(4),2011 ※池田こみち:東日本被災地の廃棄物資源管理戦略 日本計画行政学会、計画行政学会誌 34(4),2011 もとより災害がれきには放射性物質だけでなく、アスベスト、重金属類、プラスチックが混入されており、それを敢えて全国各地で焼却処理すれば、未汚染地域を汚染することになる。 しかも、東京、横浜はじめ世界に類例のない人口密度の地域で連日連夜、3−5年も災害廃棄物を焼却すれば、間違いなく排出される各種汚染物質の総量はかなりのものとなる。 日本は厚生省、その後、環境省による明らかな政策ミスで、ゴミを燃やし埋める政策を永年やってきた。その結果、日本中にダイオキシンが蔓延した。ダイオキシン類対策特別措置法ができたのは1999年、それも所沢ダイオキシン大騒動が起き、日本中がパニックとなってからのことである。それでも欧米諸国に近い規制状態となるまでに10年を要している。 多くの日本人はあまり知らないはずだが、日本は面積で40倍近く、人口で4倍近くの米国よりゴミの焼却量が多い。大型化、広域化で焼却炉の数を減らしたとはいえ、まだ1400基もの焼却炉、溶融炉がある。そこで燃やしているゴミの半分は何と残飯など有機物である。当然のこととして、残飯などは水分を多く含んでいるので、助燃として油を使う。これほど馬鹿な話はない。小学生でも分かることを永年やってきた。 今の日本では、そのため国民は燃えるゴミ、燃えないゴミという2分別しかないが、世界の先進国ではいかにしてゴミを燃やさなくて済むかが廃棄物資源化政策や物作りの上流でいかにゴミをださないかに力を入れている。 世界経済フォーラム(WEF、ダボス会議)でいつも日本が環境政策で下位に低迷しているのは、間違いなく何でも技術とカネ、それも重厚長大メーカー利権でその場しのぎのエンド・オブ・パイプをしてきたからだ。しかし、御用学者と環境省による焼却村の人々は、一向に諸外国から何もまなばず、利権と汚染に満ちた「焼却主義」を未だに強行しているのである。 ◆青山貞一、「廃棄物焼却主義」の実証的研究〜財政面からのアプローチ〜、武蔵工業大学環境情報学部紀要、 ところで、環境省が新聞テレビの広告に数10億円を払ってまでも基礎自治体そして全国の市町村民がいやがることを一方的にしかも政策立案プロセスや立法プロセスを非開示のまま、立法措置して強行突破しようとすること自体、独裁官僚国家そのものである。 私たちは昨年9回、東北被災地をつぶさに現地視察してきたが、池田が東京新聞にも書いたように、決して復旧・復興が進まないのは災害廃棄物のせいではない。 何でもカネをちらつかせれば最後は基礎自治体は自分たちの言うことを聞くという、上から目線に反発しているのだ。それが分からない永田町や霞ヶ関は、当事者能力がないのだから早く地方主権、地方分権をすべきだ。 つづく |