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NHKのBS1でフランスのテレビ局が制作した米国・ロシア・フランスにおける放射性廃棄物問題に関するドキュメント、「終わらない悪夢」を見た。ドキュメントの原題は以下の通りである。 原題:Waste: The Nuclear Nightmare 制作:Arte France/Bonne Pioche (フランス 2009年) ドキュメントの詳細紹介は別とし、ここでは原発大国、フランスのテレビ局(Arte France/Bonne Pioche)が問題提起そして告発した核廃棄物による環境汚染と人体被害についてその概要を述べてみたい! 原発を推進する上で、当初から最大のネックとなっていたのは原子炉から排出される放射性廃棄物、いわゆる核のゴミの処理と処分の方法である。 原発を建設し稼働させてきた世界各国はおよそ50年の間、使用済み放射性廃棄物をドラム缶に詰め海洋に投棄していた。しかし、1990年代初頭よりグリーンピースなど反核団体の運動が高まり、1993年以降、船上から洋上での海洋投棄は全面禁止となった。 世界中で行われていた海洋投棄。日本も例外ではない Source:Arte France/Bonne Pioche およそ50年の間、各国はドラム缶に詰めて海洋投棄されていた Source:Arte France/Bonne Pioche 海洋投棄に敢然と闘いを挑み海洋投棄を辞めさせてきたグリーンピース Source:Arte France/Bonne Pioche 海洋投棄が全面禁止された後、各国は核廃棄物をどう処理しているのか? 原発開発以前、核開発はもともと軍事技術として研究が進められてきた。そのためすべてが極秘裏に進められ、その実態は闇の中にあった。 フランス・テレビ局の取材班は、まず世界初のプルトニウム生産工場を訪ねた。 <米国>ワシントン州ハンフォードプルトニウム生産工場 最初は、米国ワシントン州にあるハンフォードのプルトニウム生産工場である。 長崎に落とされた原爆はこのハンフォードでつくられた Source:Arte France/Bonne Pioche 米国ワシントン州のコロンビア川沿いにある現在のハンフォード核施設 Source:Arte France/Bonne Pioche ハンフォード Source:Arte France/Bonne Pioche 取材班は米国エネルギー庁(Department of Energy)から取材を拒否される。 しかし、ワシントン州とオレゴン州の州境を流れるコロンビア川沿いにあるハンフォード核施設に近づくと、土壌からも、川の水からも、高濃度のウランやトリチウムが検出されることになる。 世界最初にプルトニウムを生産した原子炉(B炉)にボートで近づく Source:Arte France/Bonne Pioche かつて汚染水を封じ込めたコンクリートからは、今も漏洩があるという。 下はコロンビア川にかかる橋。私たち(青山、池田、大西)も、その昔、国際市民参加学会がオレゴン州のポートランドで開催されたとき、コロンビア川の中流からこの橋が見える下流までドライブしたことがある。 当時、まさか、コロンビア川がそれほど放射性物質で汚染されていたとは知らなかった(知らされていなかった)。 コロンビア川は今に至るまで汚染され続けている Source:Arte France/Bonne Pioche ハンフォードで永年働いてきた原子力技師でさえ、核廃棄物による放射線、放射能汚染については、20年間何も聞かされてこなかったという。 20年間聞かされてきたことは事実ではなかった Source:Arte France/Bonne Pioche ハンフォードには、膨大な量の放射性物質を含むタンクがある。当初は地上に作られ、その後、地下に埋められた。しかし、それらのタンクからは廃液が地下に漏れだし、地下水を汚染し、川、海を汚染することになる。 60個のタンクから廃液が漏洩し地下水を汚染していった Source:Arte France/Bonne Pioche ハンフォード施設からコロンビア川に放射性物質が漏洩し続けた Source:Arte France/Bonne Pioche フランスのテレビ局(Arte France/Bonne Pioche)の取材班は、フランスの非営利第三者の研究所(CRIIRAD)に河川水の分析を依頼し、コロンビア川で試料をサンプリングした。 フランスの非営利第三者の研究所(CRIIRAD)に川の水の分析を依頼 Source:Arte France/Bonne Pioche フランスにサンプルを持ち帰り放射性物質による汚染を分析したところ、コロンビア川の汚染実態が明らかになった。 その結果、コロンビア川の汚染実態が明らかに(左は取材班の女性記者) Source:Arte France/Bonne Pioche <旧ソ連>マヤーク核施設 米国とともに核開発、核実験の双へきは旧ソ連、現在のロシアである。 1946年に建造された旧ソ連のマヤークにある核施設も軍事用プルトニウムを生産していた。 「ウラルの核惨事」の著書で有名なメドベージェフ博士は、1957年に発生したこのマヤーク施設の放射性廃棄物貯蔵施設における爆発事故を後に亡命し1976年に告発した。 ソ連の核施設の爆発事故を最初に暴露したメドベージェフ Source:Arte France/Bonne Pioche だが、旧ソ連はもとより西側当局でさえもこの話を取り上げることはなかった。 当時は西側も東側も原子力の開発に全力を入れていたからであろう。そして旧ソ連の当局は、1986年のチェルノブイリ事故以前の最悪事故であるこのマヤーク施設における原子力事故を公表することはなかった。 マヤーク核施設の爆発事故。 Source:Arte France/Bonne Pioche すなわち、旧ソ連の核開発拠点となったチェリヤビンスクのマヤーク核施設では、1957年に核爆発事故が起きたものの上述の理由で一切公表されずその事実は地元住民にもすべて伏せられた。 旧ソ連のチェリヤビンスクのマヤーク核施設 この町は永年地図に載らず暗号名で呼ばれていた Source:Arte France/Bonne Pioche マヤーク核施設の爆発事故では、上空1000mまでさまざまな放射性物質が巻き上がり、施設周囲15000平方キロメートルが汚染されたという。 そして約200人が死亡、27万人が被曝した。にもかかわらずチェルノブイリ事故以前の最大核関連事故となったこのマヤーク核施設の爆発事故は一切公表されなかった。 マヤーク核施設で発生した各種の核廃棄物は近くにあるカラチャイ湖に捨てられた。その結果、カラチャイ湖が流れ込むテチャ川は、放射性物質で高度に汚染された。 このテチャ川の下流は、今も放射能レベルは高く人々の健康が脅かされている。さらに汚染された魚や牛乳を食べた地元住民は体内被曝(内部被曝)している例もあるという、ずさんな実態がフランスの取材班により明らかになる。 下の写真はフランスの非営利第三者研究所(CRIIRAD)の研究員がテチャ川の水をサンプリングしている様子である。この地域は空間放射線量も非常に高い。 フランスの非営利第三者研究所(CRIIRAD) の研究員がテチャ川の水をサンプリングする Source:Arte France/Bonne Pioche 取材班は、テチャ川岸にあるムリュスモゴ村にも足を踏み入れる。このムリュスモヴォ村には今も人々が住んでいる。 カラチャイ湖から流れ出る川の下流あるチェリヤビンスク近くのムリュスモヴォ村では、使用済み核廃棄物、廃液が近くの湖に廃棄され、それが河川を通じて下流に放射性物質が運ばれる。 しかし、その近くに居住している住民は、高濃度放射線と放射能の空気、土、水、野菜などのなかで永年生活しており、多くの人がガンなどで亡くなっているという。取材班はその実態を調査する。 ムリュスモヴォ村住民の健康診断を1950年代から50年間も続けてきた医療機関の調査では、被曝した放射線量と癌発生率や死亡率との間に相関関係があると女性の医者は公言している。 ムリュスモゴ村 Source:Arte France/Bonne Pioche 番組の中で研究者が携帯用放射線計測器でこの村の川沿いの空間放射線量をあちこち計るのだが、この地域の放射線量は、自然の放射線量(バックグランド)の50倍から70倍であると番組中で述べている。 ムリュスモゴ村にはかなりの住民が移転、避難せずに居住しているのだが、ある女性の疫学研究者がこの地域のひとびとはすぐには死なないものの、時間がたつにつれ次第にガンや白血病、甲状腺異常で亡くなって行くと断言する。 ところで自然の放射線量の50倍と言うとき、仮にそのレベルを0.03マイクロSv/hとすると、それを50倍すると、1.5マイクロSv/h、60倍すると1.8マイクロSv/hとなる。なんとこれは今の福島市の値に類する値である。 Source:Arte France/Bonne Pioche にも係わらず、この州の原子力環境安全局の女性副局長(下の写真参照)は、人々が通常生活するには支障のないレベルであると述べた。ただし、川の水は使わないようにと住民に指示しているとも取材班に話した。 行政当局者はそれでも居住するのに問題ないという Source:Arte France/Bonne Pioche 取材班がフランスに持ち帰った水、土壌、魚などのサンプルを分析した結果、セシウム137は、土壌から18万ベクレル/kg、魚から600ベクレル/kg、牛乳から24ベクレル/kg検出された。 またトリチウムによる高度の汚染もあった。さらに本来、土壌中に含まれることはないプルトニウム239と240も検出され、その値は2200ベクレル/kgと高かった。 現場でサンプリングした試料をフランスで第三者研究所(CRIIRAD)が分析 Source:Arte France/Bonne Pioche 高濃度のセシウム137が検出される Source:Arte France/Bonne Pioche 取材班は、この村を管轄する自治体の関係者や研究者にインタビューする。 その結果、分析結果は今までまったく住民に伝えられていないことが分かった。取材班はさまざまなサンプルを採取し、フランスに送り分析してもらうが、結果はやはり非常に高濃度であることが分かった。 <各国の放射性廃棄物は最終的にどこに行くのか> 周知のように、世界一の原子力推進国であるフランスでは、放射性廃棄物はどのように処分されているのか? また世界各国の原発から出る放射性廃棄物はどこで処理処分されているのか? 取材班はこの根元的な問題についても徹底的に取材する。 徹底取材により判明したことは、フランス国内の原発から排出された廃棄物だけでなく、日本や他のヨーロッパ諸国から排出された廃棄物さらに軍事用廃棄物まで、その圧倒的多くが英仏海峡に面したラ・アーグに集められていることだ。 ラ・アーグには世界最大の原子力企業アレヴァ社(Areva)が、核廃棄物の処理を営利事業として一手に引き受けていた。 フランス北部、ラ・アーグにあるアレバ社の再処理工場 Source:Arte France/Bonne Pioche アレヴァ社の広報担当者の説明によると、使用済み核燃料は特殊な再処理工程を経た後、1%がプルトニウムとして、95%がウランとして回収され再利用されるため、廃棄されるのは全体のわずか4%にすぎないという。 アレバ社の再処理工場内部。ここに使用済み燃料は5年貯蔵される Source:Arte France/Bonne Pioche そこで取材班は、回収されたウランが、どこで、どのように使われているかを知るため、追跡取材をすることになる。 回収ウランの行き先は、何とフランスから8千キロも離れたシベリアの奥深くにあるトムスク、そしてさらに先にある地図に載っていない秘密都市セヴェルスクであることが分かる。 フランスのアレバの工場にEU諸国を中心に日本など58カ所の原子力発電所から運ばれた使用済みの核燃料廃棄物は何とロシアに船と列車で運び込まれていたのだ。 取材班は、ここでもグリーンピースロシア支部の活動家を水先案内人として、徹底取材を続ける。 ひとたび運び込まれた使用済み核廃棄物は、一旦、アレバ社で「処理」された後、コンテナに入れられ船でロシアのサンクトペテルブルグまで運ばれ、さらに列車でフランスから8千キロ離れたシベリアの奥深くにあるトムスク、そしてさらに先にある地図に載っていない秘密都市セヴェルスクに運び込まれる。 ここでもグリーンピースが取材班の水先案内人となる Source:Arte France/Bonne Pioche さらにサンクトペテルブルグからトムスクへ Source:Arte France/Bonne Pioche この秘密都市セヴェルスクは外国人は立ち入りを禁じられているのだが、Googleマップで施設内を上空からのぞくことができる。 トムスクからトムスク7から地図に載っていない秘密都市セヴェルスクへ Source:Arte France/Bonne Pioche すると、たくさんのコンテナのような物体が無造作に放置されていた。使用済み核燃料95%再利用の実態はいかに? 何と駅近くの引き込み線に膨大な数が置き去りになっているのだ。これはグーグルマップの衛星画像からもよく見える。 グーグルマップで見る Source:Arte France/Bonne Pioche 駅近くの引き込み線に膨大な数の放射性廃棄物のコンテナが置き去りになっていた Source:Arte France/Bonne Pioche ●番組を見て感じたこと 福島第一原発事故が起きた現在、この番組の今日的な意味はきわめて大きいと思う。 というのも、この番組で素材とされた地域や施設は、すべてチェルノブイリ原発事故以前のものであるからだ。米国やロシアはじめ日本を含む原発設置稼働国は、福島第一原発事故の影響について、たえずチェルノブイリ原発事故と比較してきた。 しかし、このフランスのArte France/Bonne Piocheが問題提起していることは、チェルノブイリ事故以前に、これだけ重要かつ深刻な環境汚染、健康被害が米国、ロシア、フランスなど核保有国の足元にあり、情報が完全なまでに隠蔽されてきたからだ。 この番組では、単に映像と音声で住民、専門家、研究者、行政担当者、原子力関連技術者へのインタビューを行うにとどまらず、随所で大気、水、土壌、底質、牛乳などをサンプリングし、第三者研究機関に分析を依頼し、その結果を番組の中で逐次報告している。 私たち環境総合研究所は、過去、湾岸戦争の環境影響しかり、所沢ダイオキシン汚染しかり、絶えず報道機関とタイアップし、調査報道のあるべき姿を示してきたという自負がある。 このフランスの番組は、視聴者の知りたいこと、知らすべきことに正面から答えており、それによれば核燃料廃棄物の処理施設周辺地域においては、大気、水、土などが50年ー70年経った今でも深刻な状態にあり、およそまともに人が居住する場となっていないことを調査報道を通じて静かに伝えていると思う。 これこそ最も大切なことであり、きわめて秀逸な調査報道ドキュメント番組であるといえる。 さらに本番組では調査報道に際し、政府側、事業者側の言い分も取材しつつ、肝心な放射線汚染、放射能汚染の現実、実態については、フランスにある非営利の第三者研究所(CRIIRAD)に試料採取と測定分析を依頼し、それを番組づくりの中心に据えている。 もとより情報を隠蔽し情報操作による世論誘導を繰り返してきた国家とその関連機関、研究所ではなく、第三者研究所による調査、分析を番組づくりの根底に据えたことは重要だ。これは福島原発事故の影響地域との関連についても同じだ。番組をつぶさに見ると、今の日本政府や福島県、福島市などの対応が情報公開や汚染対策に関連し、当時の米国やソ連とさして変わらないかがよく分かる。 もうひとつ番組づくりの上で見逃せないものがある。それは、施設や場所の水先案内人に国際環境NGO、グリーンピースの人々を使っていたことである。実際、要所でグリーンピースの活動家が画面に出てくる。おそらく、グリーンピースの手助けがなければ到底この調査報道そのものができなかったと思えるほどだ。 それにつけても日本のグリーンピースをクジラ肉事件で地裁、高裁と二度も重罪としている日本、それにせっかくオランダから放射能、放射線測定器を満載し、日本の調査を行いにきたグリーンピースを領海外に2ヶ月近く押しとどめ、結局、海洋調査をさせなかった日本政府には怒りがこみ上げてくる。またそれをまともに報道してこなかった日本の大マスコミも同罪である。 最後に世界一の原発大国フランスは、当時も今もほとんど安全性や環境保全にまともに対応しているとは言えず、まさに原子力関連ビジネスの営業が第一であることが分かる。これはたとえば、福島第一原発事故以降、日本にフランスのアレバ社の女性CEOとサルコジ大統領が日本政府の足元を見て、大々的に営業をしていたことからもよく分かる。 日本がその昔、使用済み核燃料の再処理で処理を依頼してもらっていたのは英国のセラフィールド工場以外にもうひとつある。その依頼先がフランスのアレバ社であり、場所は英仏海峡のフランス側にあるラ・アーグだ。 番組ではこのアレバ社の核燃料再処理工場から出る放射性物質の実態について、国際環境団体グリーンピースの専門家が徹底的に徹底して放射線と放射能モニタリング、それも水や土ばかりでなく換気塔の上にタコをあげ、大気に含まれる放射性物質も子細に調べていた。 これが途方もなく高い濃度であること、また海に放出されている排水中の放射性物質濃度が非常に高濃度であることに驚かされた。こんないい加減な会社に巨額のカネを払い福島原発で汚染水の処理をしていると思うとゾットする。 以上、私見を述べてきたが、フランステレビ局(Arte France/Bonne Pioche)によるWaste: The Nuclear Nightmare(邦題、終わらない悪夢)は、福島原発問題に被害者、そして憂慮する日本国民にとってぜひごらん頂きたいドキュメントであり、独立系メディア E-wave Tokyoとして自信を持って推薦出来る番組である。 終わらない悪夢 ●特集:秀逸なフランス・テレビドキュメント「終わらない悪夢」 ◆池田こみち:フランスのテレビ番組、「終わらない悪夢」(前編テキスト) http://eritokyo.jp/independent/aoyama-fnp123..html ◆鷹取 敦 :フランスのテレビ番組、「終わらない悪夢」(後編テキスト) http://eritokyo.jp/independent/aoyama-fnp124..html ◆青山貞一:フランスのテレビ番組、「終わらない悪夢」を見て http://eritokyo.jp/independent/aoyama-fnp121..html |