|
今週の木曜日に公表された日弁連の会長声明をご紹介します。海渡雄一弁護士 昨晩のIOC総会での安倍首相の「汚染水は港湾内で完全にブロックされている。抜本解決のプログラムを私が決定し、着手している」という発言には、本当に驚きました。 湾内と外洋との間に隔てる障壁はありません。世界中の人々の前で、どのような根拠で、このような説明をされたのか、詳しく説明していただきたいものです。 安倍総理の述べている抜本的対策とは、遮水のための凍土壁の構築を指すと思われますが、この凍土壁は着工もされておらず、いまだ計画段階です。その間にも汚染された地下水は毎日数百トンが湾内に流れ込んでいます。コントロールなど、全くできていないのです。 さらに、計画されている遮水壁の外側に設置されたタンクから漏れた汚染水が地下に浸透しているというデータも公表されています。二年半前に築くべきであった遮水壁の構築が遅れたため、汚染水を完全にストップすることは遮水壁だけでは足りません。汚染水漏れを防ぐためには、膨大なタンクと配管全体を、より持続性のあるシステムに取り替えることが必要です。この事実をしっかりと認識する必要があると思います。 ◆福島第一原子力発電所の速やかな汚染水対策を求める会長声明 去る8月20日、福島第一原発敷地内に設置された汚染水保管タンクから約300トンの高濃度汚染水が漏出する新たな事故が発生していたこと(その後、23日には、汚染水の一部が排水溝を通じて外洋まで流出していたこと、27日には、汚染水漏れが遅くとも本年7月頃から起きていた兆候があったこと)が明らかになった。このような状況を受け、8月28日、原子力規制委員会は、本件汚染水漏れに対する国際原子力事象評価尺度(INES)をレベル3(「重大な異常事象」)に引き上げることを決定した。また、8月21日には、東京電力は、2011年5月以降、海洋に流出したセシウム137は20兆ベクレル、ストロンチウムは10兆ベクレルに上ると公表し、事故後今日まで地下水を通じて汚染水が海洋に流出し続けていたことも明らかになった。さらにその後も、別の保管タンク底部から最大で毎時1、800mSvの放射線量が計測される(8月31日)など、連日のように次々と新たな事実が発覚しており、事態は極めて深刻である。 汚染水発生の主たる原因の一つは、地下水が建屋内に流れ込み、放射性物質と接触し、日々約300から400トンの新たな汚染水が発生し続けているためであり、このような事態を招いた主要な要因は、地下遮水壁の構築がなされず、地下水が施設内に流入しているところにある。地下水の流れは、事故以前から判明しており、福島第一原発事故後に、政府は、一度は、地下遮蔽壁の構築を検討することを東京電力に指示し検討させ、東京電力は、2011年6月13日付けで計画案を政府に提出し、地下水の遮水について万全の対策を講じることや原子炉建屋等の周りに遮水壁を構築するなどとする具体的な図面や計画案まで示していた。 ところが、東京電力は、対策費用が1、000億円レベルとなる可能性もあり、その場合、市場から債務超過に一歩近付いた、あるいはその方向に進んでいるとの厳しい評価を受ける可能性が大きいなどとして、これを回避するために、2011年6月17日に中長期的対策として検討する方針を発表して、対策を先送りし、今日まで必要な対策を怠った。 これに対し、当連合会は、2011年6月23日、政府及び東京電力に対し、工事費用負担の問題にとらわれることなく、手遅れとならないうちに地下水と海洋汚染のこれ以上の拡大を防止するため、地下バウンダリ(原子炉建屋及びタービン建屋の周りに壁を構築遮水するもの)の設置を含めた抜本的対策を速やかに計画・施行することを求める会長声明を発表した。 2011年6月の時点で、速やかに遮水壁を構築するための措置が講じられていれば、今日の事態は避けられたのであり、それから2年以上もの間、政府と東京電力が海洋汚染防止のための抜本的な措置を何ら講じなかったことは誠に遺憾である。 さらに、これまで東京電力だけに汚染水対策を委ねた結果、その管理のずさんさにより、汚染水保管タンクから高濃度汚染水が漏洩するという新たな事故を原因とする地下水の汚染が発生しており、現在となっては、原子炉建屋の周囲にのみ遮水壁を構築しても、タンクなどは遮水壁の外側に位置するため、もはや汚染された地下水の海洋への流出に対する抜本的対策にはなり得ない状況にある。 政府はようやく東京電力任せの方針を転換し、8月26日に本年度予算の予備費から汚染水対策費用を拠出する方針を表明し、27日に経済産業省も2014年度予算の概算要求に、初めて汚染水対策費用を盛り込み、さらに、28日には安倍首相が政府が責任を持って取り組んでいくことを明言した。これを受けて、9月3日には原子力災害対策本部の会議において、汚染水問題について、対策の基本方針が決められた。国の予備費230億円を含めて合計470億円を投入し、原子炉建屋への地下水流入を防ぐために建屋周辺の土を凍らせる遮水壁を設置し、汚染水の放射性物質除去装置を増設することを柱とするものとなっている。 遮水壁について、設置の計画を前倒しにしたことは、事態の緊急性からも当然の措置であるが、このような措置は事故直後に実施されるべきであった。そして、前述したとおり、汚染水保管タンクや配管から高濃度汚染水が漏洩するという新たな地下水の汚染が発生しており、タンクや配管そのものを、より堅牢なものに更新しなければ、汚染水の海洋への流出を完全には止められない状況となっている。しかし、タンクや配管の更新予算は政府の対策には含まれておらず、相変わらず、東京電力任せの対応が続いており、新たな汚染が拡大する危惧はぬぐえない。国際社会もレベル3への引き上げによって、今回の事態に重大な懸念を示しており、今後の対応次第では、我が国の国際的信用を大きく失墜しかねない極めて深刻かつ重大な事態であることを、政府は深く認識するべきである。 よって、当連合会は政府に対し、可及的速やかに本件事故の収束のために、組織、人材、予算等あらゆる資源を投入して更なる抜本的な対策を講じ、国際社会と国民の不安を一刻も早く取り除くよう強く求めるものである。 2013年(平成25年)9月5日 日本弁護士連合会 会長 山岸 憲司 |