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 The Folly of a U.S. War of Retaliation Against Terrorism (English version)   青山 貞一 Teiichi Aoyama

2001.9.26 初出、坂本龍一+sustainability for peace 監修
幻冬舎「非戦」に収録
無断転載禁

米国のテロ報復戦争の愚

★はじめに

 
ニューヨーク市のワールドトレードセンター(WTC)事件を知ったのは、韓国の慶州で開催された国際学会に2001年9月9日から参加している最中だった。コンコルドホテルの自室でたまたまNHK-BS経由で全米ネットのABCを見ていたら、NYCのWTCビルからもくもくと煙がでていた。「なんだこれは」、と自問しているうちに、今度は別の航空機がもうひとつのビルに突入し、炎上した。

 学会が開かれたのは現代ホテルだが、そこには米国環境保護庁(EPA)の幹部職員はじめ欧米の大部分のダイオキシン研究者が集まっていた。会議場の入り口に掲揚されていた国旗はどれも半旗となった。カナダから来ていた友人の研究者を含め北米人の帰国が足止めとなりだした。11日以降帰国する15日まで韓国で見たABC,CNN,BBCそれにNHK-BSは、一日中、WTC事件一色となった。画面にはWTCビルの炎上、崩壊が何10回、いや何100と映し出された。




国際ダイオキシン会議の宿泊ホテル 会場で青山が撮影

 
わたくしと米国とのかかわりと言えば、仕事や研究でしょっちゅう訪問していること以外に、まず妻の親類が貧しい東北の地から大正後期にカリフォルニアに渡り例の強制収用を経てシカゴ、カリフォルニア、ハワイなどに散在して住んでいることがある。またNYCにもDCにも多数の友人がいるし、厚木米海軍基地にもダイオキシン問題で一緒に戦った友人もいる。その意味で9.11はけっして他人事ではない。にもかかわらず、これから起ころうとしている報復戦争が「21世紀の新たな戦争」であるとか、「正義の闘い」と言う、いわばテロ報復戦争を正当化する口実とは別に、きわめて重要な他の側面があることを考えなければならないと思っている。


坂本龍一氏撮影

 
★米国のアフガン報復戦争の行方

 
ブッシュ政権は、WTCやワシントンDCの国防総省(ペンタゴン)に航空機を突っ込ませ炎上、崩壊させた自爆テロにいち早く、「これは戦争である」と言明した。次に「テロ報復戦争」を宣言した。それをきっかけに、今後ブッシュ政権は自爆テロの背後にいると見なされるビンラディンをかくまうアルカイダやタリバンなどアフガン地域全体の制圧に乗り出す可能性が高い。この場合、どう見てもブッシュ政権が「ビンラディン」の首をとるだけで引き下がる可能性はない。ブッシュ自身が言明しているように、今回の報復戦争は長期戦となる。

 テロ報復戦争では、米国は当初戦闘機や巡航ミサイル(トマホーク)を使った空爆からはじまる可能性が高い。しかしブッシュ政権の報復戦争の戦術につきグル元パキスタン軍情報機関の長官は,9月24日の毎日新聞朝刊で次のように話している。

 「アフガンには壊すべき道路も橋も軍事施設もない。身を潜めた兵士に最新鋭のステルス爆撃機も通用しない。逆に米軍は(アフガン戦争で米国が供与した)対空ミサイルで撃墜され,市民を闇雲に殺傷するだけの結果になる」(「米はソ連の二の舞になる」毎日新聞2001.9.24朝刊)

アフガニスタンの地形 出典:米国テキサス大学オースチン校
電子図書館収録地図より青山作成

 
ではブッシュ政権が地上軍をアフガンに投入した場合どうなるのか。これに対しグル氏は 「米国が地上軍を投入すれば、タリバンはすぐに駆逐され、アフガニスタンのカブールに米国の傀儡政権が樹立されるだろう。しかし、本当の戦争はそれからだ。タリバンはゲリラ戦で通信、軍事施設を破壊し、新政権の統治は点だけで面にはならず、内戦状態が終息することはない」と断言している。さらにグル氏は、「その後、戦争が泥沼化し市民の犠牲者が増えれば、国際社会で反米感情が一層高まり、新たな対米テロも誘発することになる」と警告している。百戦錬磨のグル氏の推察は欧米の机上の軍事評論家とは明らかに違うと思えた。 

   

巡航ミサイル・トマホーク 米国国防総省資料
★ブッシュ政権のもうひとつのアフガン戦略(石油権益)

 
米国の中東戦略の「目玉」はいつの時代も石油利権にあると言われている。 過去の中東戦争、とくに湾岸戦争はその一大事例だ。湾岸戦争はあたかも米国のブッシュ政権(現大統領の父親)を軸とした多国籍軍によるクウェートに武力侵攻した「無法者」で「ならず者」国家イラクへの報復戦争,正義の闘いとされてきた。だが、この「正義の闘い」も間違いなく米国系メジャー(石油資本)の権益確保にあることも推察できる。

 1991年の湾岸戦争は言うまでもなく,現ブッシュ大統領の父が大統領だったときに起こした戦争である。ブッシュ親子がテキサス出身であり米国系石油資本との関係があることは世界的によく知られている。現ブッシュ大統領がCOP6の地球温暖化政策で,非常に後ろ向きな対応しか示さないのも石油資本との関連があるからだ,という認識が米国だけでなく欧州、日本のNGOにも根強くある。

 ところでビンラディンが米国を敵視する最大の理由は何か。 サウジの大富豪の息子として生まれたビンラディンが反米色を濃くしたのは、祖国サウディアラビアに湾岸戦争終結後も米軍基地を残したことにあると言われている。米軍のサウジ残留は,イラク軍監視を名目としているが、今後中東で紛争が起こったときに湾岸諸国、湾岸地域の欧米の石油権益保護の軍事的拠点を用意することを眼目としていることは間違いがないところだ。

 
タリバンなどアフガン情勢に詳しい静岡県立大学の宮田律助教授がNHKの生番組ではからずも次のことを話された。話しを総合すると次のようになる。

 長年にわたるソ連とアフガン戦争の終結後、米国は旧ソ連を構成するアフガン北部の地域で採掘される大規模油田からの原油をアフガン北部そしてパキスタンを経由しインド洋の港湾に輸送する一大プロジェクトを進めてきた。冷戦時,反ソでアフガン側に大規模武器を援助したのは米国だ。しかしアフガンが旧ソ連に勝利した後,米国は過激イスラム原理主義者のあつまりであるタリバンがアフガン国土の90%を支配するとは思っていなかった。そのタリバンは反米色を強くもち、米国によるサウジ駐留以降、残留に反発するサウジ最大のゼネコン会社社長の息子ビンラディンとの連携を深めていった。この経緯のなかで米国の旧ソ連地域からインド洋への原油輸送プロジェクトが思うように行かなくなってきた。今後ともアフガン、パキスタンなどがタリバンとビンラディンの影響力下にあるとするとインド洋側への米国系メジャーの原油搬出が永遠に困難となる。

 クウェートへのイラク軍侵攻のときもそうだった。米国,とくに父親のブッシュ政権が当該地域への軍事侵攻にこだわる理由のひとつは、報復的軍事侵攻以外に,アフガン北部地域にある旧ソ連の.....スタンと名がつくイスラム系旧ソ連の共和国が高品質の油井をたくさんもっていることにあると考えられる。実際、世界の資源エネルギー地図を見れば分かる。旧ソ連関連共和国では、バクーなどカスピ海沿岸地域の油田が有名だ。だが、サマルカンド、タシケントの近くにも多数の井マーク、つまり油井のマークがある。サマルカンドの南部はアフガンに接している。

 アフガン問題と石油問題については、23日夜,日本のテレビで松波衆議院議員(保守党)も言及していた。彼は数少ないアフガニスタンに詳しい日本人である。
 ブッシュ政権がしつようにアフガン侵攻にこだわる理由は,もちろんWTCテロ襲撃事件などテロへの報復にあることは言をまたない。しかし,この機に乗じて石油利権を確保する、それも先に書いたカブールに米国傀儡政権を樹立しつつその権益を確保する可能性もけっして否定できな
い。
アフガン北部石油・天然ガスパイプライン地図
出典:米国テキサス大学オースチン校
電子図書館収録地図より青山作成
「非戦」収録
★石油会社社長ブッシュ大統領の家とオサマ家は因縁があった?
 
9月25日の朝日新聞夕刊に、わたくしの推察を裏付ける興味深い記事がでた。世界が喪に服している最中信じられない内容記事である。

 それは
「ビンラディン家・ブッシュ家に因縁と言うタイトルだ。両家はもともと石油ビジネスでつながっていたというのだ。これはもう驚きというかブラックジョーク以外のなにものでもない。内容の詳細は新聞記事を読んでいただくとして、現在のブッシュ大統領が設立した石油会社(アルブスト・エネルギー社)にビンラディンのオサマ家の長兄が出資していたというのだ(当初、米英紙が報道)。

世界の軍事支出(アフガン戦争前)

 こうなるとますます今回のアフガンへのブッシュ政権のテロ報復戦争は、アフガン背後地域にある油田,石油の権益保護、利権獲得と無縁ではなさそうだ。

 もしアフガンのカブールにブッシュ政権の傀儡政権ができ,旧ソ連の...スタンと名がつくイスラム系の共和国からアフガン北部同盟を経由しパキスタンの原油輸送ルートができれば、石油会社社長、ブッシュ大統領は、一挙両得となるだろう。WTC事件は間違いなく痛ましい事件であり,亡くなられた方々にはご冥福をお祈りする。しかし、このような「事実」に接するに及んで、それでも世界市民がテロ報復戦争を支持などできるものだろうか? 大いに疑問を感ぜざるをえない。

世界の軍事支出(アフガン戦争後、2002年)
英国国際戦略研究所

 一方、旧ソ連、現CISのプーチン大統領は、アフガン戦争以降ずっと手を焼いてきたチェチェン共和国のゲリラに対し、欧米諸国の援助のもとで、堂々彼らをイスラム過激派、テロ呼ばわりした上で、今後報復戦争をしかけようと欧米諸国に根回しをはじめた。もしそうなればチェチェンはひとたまりもなく駆逐されるだろう。

 こうみてくると、米、旧ソ連超大国のテロ報復戦争の影に隠れた真の戦略が見えてくる。イスラム過激派そして大規模テロ根絶の名の下に、自分たちの権益や立場を強固にし、経済的にも利権を分配すると言う、おぞましい過去の帝国主義の歴史を21世紀に繰り返すことだ。ブッシュ政権や軍事評論家は、21世紀の新たな戦争などと言っている。だが、現実は相も変わらず米国やCIS両超大国の軍事政治的さらに経済的な世界支配が展開されていると我々は認識すべきかも知れない。


■青山貞一 Teiichi Aoyama
1946年愛知県生まれ。アジア経済研、ローマクラブ国際事務局、フジテレビ系シンクタンクなどを経て、1986年環境総合研究所を設立代表。多くの自主研究を手がけ「湾岸戦争の地球環境への影響」(戦争と環境)ではクウェート、ドバイに現地調査を敢行。NPO環境行政改革フォーラム代表幹事、東工大、早大等の講師を歴任。著書に「台所からの地球環境」など多数。

9.11の背景に関連する重要情報
ビンラディン家・ブッシュ家に因縁
フランス公共テレビ局の関連番組


注)幻冬舎刊「非戦」に収録された本稿の印税(相当分)は、出版社を通じ「国境なき医師団」に全額寄付しています。