ブリュッセルの
最高裁判所訪問記


池田 こみち 環境総合研究所

2002年4月27日
左から増田弁護士、池田、小野寺弁護士、奥様

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 幸運なことに、ブリュッセルについた2002年4月27日(土)は、年に1回の最高裁判所の一般公開日、それとは知らず立ち寄ってみたら裁判所に家族ずれが次々はいっていくのでつられて中に入ってみると、中は大賑わい。黒い法衣を着た弁護士たちが、訪問者を小グループに分けて裁判所の中を案内している。

 聞いてみると、年に1回の公開日で、ベルギーの司法制度や裁判所の建物などを細かく説明し案内してくれる特別の日だとのことだった。重厚かつ荘厳な趣のある建物を入ると吹き抜けの広広したホールがあり、両脇には二人がけのテーブルがいくつも並び、弁護士が二人一組で問題領域ごとに市民からの法律相談を受け付けている。これは、この日だけのイベントかと思ったら、なんと、毎朝同じように、貧しい市民を対象に相談を受け付けているという。それを聞いてまたびっくり。

 ベルギー全体の人口は約1,100万人、首都ブリュッセルの人口はおよそ100万人と日本の政令指定都市なみの規模である。そこにある裁判所はひとつだけ、最高裁判所というが、日本で言う地裁・高裁も同じビル内にいっしょになっている。家庭裁判所も同じ建物内にあるという。

 裁判官の人数は日本同様少ないとのことだが、弁護士の数はブリュッセル市だけで4,500人もいるそうだ。ちなみに、仙台市内の弁護士は200人、東京都内の弁護士は6,500人だそうだ。裁判官が少ないこともあり、訴訟を起こすと結審までに最低でも1年はかかるとか。


ブリュッセルのベルギー最高裁判所の内部


 私たち一行を案内してくれたのは、若い弁護士さん、大半がフランス語とオランダ語、ドイツ語の案内だが、やっとのことで英語で案内してくれる弁護士さんを探し出してもらった。私たちと一緒にイギリスからの家族連れが英語案内による見学グループをつくった。最高裁判所の法廷、刑法犯罪用の法廷、弁護士会の部屋などひとつひとつの部屋を案内してくれる。下級審の裁判は一般的に日本と同じように3人の裁判官で審理が行われるが、刑法犯罪の場合にはアメリカのような陪審員制度も取り入れられている。刑法犯罪用の法廷には、証拠を示すためのスクリーンがあらかじめ用意されており、重々しく伝統的な法廷の中に現代的なシステムが取り入れられているのが印象的だった。日本では、法廷に最新鋭のビデオプロジェクターをもちこみ、裁判官が一段高い裁判官席から降りて画面を見たというのが大々的に新聞記事になったくらいだ。(2001年秋に仙台地裁で青山さんが証人となったときのこと。以下の新聞記事参照)



2001年10月25日 東京新聞
 

 一段と風格のある最高裁判所法廷は、赤いビロードの背もたれの高い椅子がぐるっとロの字に並べられた机に整然と配置されている。中央には一段と立派な椅子があり、裁判長の席であることが一目瞭然だ。裁判官になるための試験は年に1回、大変な難関で受かる人が少ないという。最高裁判所では、下級審のような事実認定は行われず、憲法への違法性を中心に審理されるとのこと。憲法に抵触すると判断された場合には、高裁や地裁に差し戻され、長い場合には7年くらいかかるものもあるとのことだった。

 日本では、裁判官と弁護士、検事などが同じ建物のなかに共存しているというのはなかなか珍しい光景だと思うが、ここでは、司法関係者がみなひとつの建物に入っている。弁護士会の部屋では、代々の会長の写真が壁に掛かってた。週に1回の会議では、弁護士会としての意見や要望が裁判所や司法省に提出される。現在、最高裁判所の長官は女性裁判官とか。弁護士老若男女大勢いるが、だれも弁護士として平等であることを表すため、法廷に立つときはみんな同じ黒の法衣をまとっている。なかなかきりっとした雰囲気をかもし出しており、弁護士自身の自覚を高め、依頼者に信頼と安心感を与える上でも有効なようだ。

 この建物の中には、最近になって環境問題の訴訟を専門に扱う法廷もできたそうだ。廃棄物焼却施設の立地や環境影響をめぐる裁判も結構あるとのことだった。

 およそ1時間あまりで見学ツアーは終了した。案内してくれた若い弁護士さんはほこらしげに、「ベルギーの司法は権力ではなく、正義を守るためのサービスとしてそれぞれが働いている」といっていました。その姿勢は日本でも見習ってほしいものです。開かれた裁判所、市民から信頼され頼れる存在、そんな裁判所の姿は日本の裁判の現場を少しだけ経験している私にとってとても新鮮に感じられ、うらやましくも思った。

 裁判官や弁護士が地域ではひとりの住民としてNGO活動をしている例も多いという。黒塗りのおかかえ高級車で裁判所に乗り付け、人を寄せ付けないどこかの国の裁判官とは大違いだ。