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●法律はできたけれど 平成12年(2000年)は、日本における循環型社会元年と位置づけられ、循環型社会形成基本法を筆頭に、各種のリサイクル関連法案が次々と制定された。これらの制度的な基盤整備により21世紀の日本社会が新たな一歩を踏み出したかと期待された。だが実態はといえば、廃棄物の焼却処理への依存傾向は一段と強まり、ごみ発電を推進させる「新エネルギー法案(仮称)」が経済産業省から提案されるなど、悪しき「循環」が環境を悪化させ、財政負担を増大させていることが次第に明らかになってきている。 ここでは、我が国のゆがんだ「循環型社会」づくりの課題を明らかにし、「真の循環型社会」の形成にとって必要な基盤整備はどうあるべきか、またそのもとでの環境ビジネスの萌芽について述べてみたい。 ●日本は世界最大のダイオキシン排出国 日本のダイオキシン対策は1999年2月1日のテレビ朝日ニュースステーションの「所沢ダイオキシン報道」をきかっけに、大きく転換した。折しも、1999年5月に国連環境計画(UNEP)が先進15カ国のダイオキシン排出インベントリーを発表した。同報告書では、1998年時点の日本のダイオキシン類(PCDD/PCDF)の排出量が全世界の1/2を超えることを明らかにした。まさに日本が世界最大のダイオキシン排出国であることを国際的に伝えることになった。図1は、1995年時点の各国の排ガス由来のダイオキシン排出量を示している。 図1 国別ダイオキシン類排出量 注)1995年時点のPCDD/PCDFの大気中への年間流出量(g-TEQ/a) 既知の発生源からの総排出量は10,500g-TEQ/a。 ●世界に冠たる「焼却主義」の実態 ところで、循環型社会形成の目的は、言うまでもなく廃棄物の排出を減らし、その処理処分に伴う環境負荷を低減し、さらに資源を浪費せず循環型に利用することである。しかし、日本の一般廃棄物の排出量は年間およそ5000万トン(平成11年度実績)にもおよび、それを国内1864基の一般廃棄物焼却炉で焼却している。廃棄物の排出量は、アメリカに及ばないが先進国で第二位に位置している。一方、産業廃棄物の排出量は一般廃棄物のおよそ8倍の約4億トン(平成11年度実績)となっており、それら廃棄物を焼却するための施設は、大気汚染防止法の大気環境基準に基づく規制が適用される施設だけで平成13年度末時点で約2万施設(15000事業所)に上っている。まさに世界に冠たる焼却大国の面目躍如といったところである。また、焼却後に残る焼却灰やフィルターに付着する飛灰は日本中の内湾や山間地に埋め立て処分されており、その残余年数は一般廃棄物が10年余、産業廃棄物が2年余ときわめて逼迫していることが一層焼却に拍車をかけている。 ●本末転倒な「公共事業型」環境ビジネス 先に述べたように、所沢ダイオキシン報道以後、国民世論の盛り上がりを追い風に、1999年7月、第145回通常国会で参議院発議、議員提案法案の「ダイオキシン類対策特別措置法」が成立した。その結果、焼却炉の排ガスや排水規制強化、環境基準の設定、常時監視体制の強化などが法制化され、日本のダイオキシン対策が本格的にスタートした。しかし、その一方で、政府と大手プラントメーカー、その周辺の土木関連事業者は、ダイオキシン対策を隠れ蓑に、次々と大型廃棄物処理プラントや処分場建設を推進してきた。 具体的には、高温連続焼却すればダイオキシンの排出は「ほとんどなくなる」、化学処理や物理的な処理によって灰に含まれるダイオキシン類も無害化や飛散防止が可能であるといった技術依存の政策を中心に、熱分解ガス化溶融炉やプラズマ方式灰溶融炉などが着々と地方に導入されすでに60施設を超えている。 このように、わが国では依然として国庫補助と自治体の起債のもと、全国各地で新型炉、大型炉としてガス化溶融炉、直接溶融炉、RDF発電施設などが、あたかも静脈産業系環境ビジネスとして大きな市場を形成するに至っている。これら政官業あげての「焼却主義」の推進は環境政策だけでなく明らかに公共政策、財政政策面からも誤りである。明らかに日本の循環型社会づくりに向けた戦略は行政と事業者中心の、しかも「技術」偏重である。財政危機が叫ばれて久しいにもかかわらず、さらに国や自治体の借金を続けて施設を作り続けようとするものである。循環型社会づくりに必要なものは決して大規模焼却炉やごみ発電施設などのハードウエアではないはずである。 図2 日本のゴミ焼却のために毎年使われる国費 グリーンピースジャパン委託、環境総合研究所実施。詳細は以下のpdfファイルを参照のこと。 http://www.greenpeace.or.jp/library/01pops/report/200110/ot/011210.pdf ●法の精神から乖離した巨大公共事業化へ ダイオキシン法により平成14年12月1日から適用される新規排ガス規制に備えこの1-2年、導入計画がピークを迎えている。また、既存の焼却炉に対しては、ダイオキシン対策として、触媒装置の設置、バグフィルターの設置など多様な燃焼管理装置や排ガス処理装置、灰処理装置が付加されていった。グリーンピースジャパン委託環境総合研究所実施の調査によれば、こうした廃棄物焼却施設の建設に投じられる国の予算は年間8千億円を上回っていることが明らかになっている。いかにこの国が廃棄物処理という公共事業に巨額を投じてきたか、そして、「循環型社会形成」の名の下に、ごみの発生量の削減や再利用、再資源化の推進という本来予算と人材を投じて推進すべきことを疎んじて、わずか15年ほどの耐用年数の設備のために、ごみの排出を前提とする社会づくりに血道をあげてきたが問われなければならない。こうした政策は「環境基本法」や「循環型社会形成基本法」の理念や目的と大きく矛盾するものであるばかりでなく、国民的な合意も得られていない。ごみの焼却は、ダイオキシン類だけでなく、重金属類、窒素酸化物や温暖化を加速する二酸化炭素などさまざまな有害化学物質を環境中に排出する。また、焼却残さや灰に含まれる多様な有害物質も埋め立て処分や安易な利用(路盤材など)によって環境中に排出されていく。 ●真の循環型社会を目指す今後の方向性 一方、21世紀の先進世界各国のメインストリームは市民の参加と監視のもとでの廃棄物焼却からの脱却にあるだろう。また、本来の循環型社会を構築するための環境ビジネスの萌芽こそ注目すべきである。 ■ハリファックス市のゴミゼロ市民プロジェクト オーストラリアのキャンベラ市やニュージーランドの4割を超える自治体では、議会が2015年から2020年を目標にごみの排出をゼロにすることを宣言し着実な取り組みを進めている。カナダ東部のノバスコシア州ハリファックス市もそのひとつである。 ハリファクス市では、5年間でこれまでは埋め立てざるを得なかった廃棄物の量を50%削減することに成功した。当初、この目標を達成するために、日本から大型ガス化溶融炉を導入する計画が提案されたが、市民は議論の末にその選択肢を拒否し、あらゆる方策と知恵を導入し全面市民参加でごみの減量化と資源化を推進することに邁進した。ハリファクスでは、非効率で焼却と埋立しか眼中に無い行政事業を市民が環境に配慮し雇用機会を創出するリサイクルビジネスに変えるひとつのきっかけを与えている。まさに、ここではハードウェア依存の重厚長大ビジネスからソフトウエア重視の制度・仕組みの改善と構造改革を具体的に実践しつつあるのである。 ハリファクス市で導入されたものは、ハードソフトを問わず大部分が既存の技術であり設備である。生ゴミの堆肥化システム、飲料容器の完全デポジット制の導入、家庭からの有害廃棄物分別適正処理システムの導入、タイヤのデポジット制度化、古い家具などを修理しての再利用、などが組み合わされている。これらによって市民と行政が合意した目標を達成しただけでなく、新たに3000以上の雇用が生まれた。このプログラムは市民主導型で設計され運営されている。市民の意思は「埋め立ても焼却もなくしていく」ことで一致し、それを実現されるための知恵と仕掛けづくりに力を注いだことが「循環型社会」に一歩近づけた最大の要因である。
■ベルギー・ドイツの大型焼却炉排ガス監視(AMESA) 先に日本に一般廃棄物焼却炉が1864ヵ所あると述べたが、ドイツにも現在約60ヵ所の焼却炉がある。ドイツでは、焼却炉周辺の地価が下がるなど焼却炉建設はどこでも大きな社会問題,地域紛争の種になっている。したがって、連邦政府がいくら厳しい排ガス規制を行っても、住民は誰も事業者の分析値など信用しない。これはドイツだけでなくベルギー、オーストリアなどEU諸国でも同様である。 2001年9月韓国の慶州で開催された国際ダイオキシン会議(Dioxin 2001)にビジネスブースにドイツのシュトットガルトから出展した環境ベンチャー企業(ベッカー社)は、焼却炉のダイオキシン排ガスを連続サンプリングし、月単位の平均値を測定可能なシステムを研究開発した。ドイツ、日本ともに、現状では年間わずか1回、事業者が測定し自治体に届け出ればよいことになっている。ベッカー社が開発したシステムを導入することにより、焼却炉の排ガス中ダイオキシン濃度が国の厳しい基準以内に本当に維持されているかを監視し、市民に常時公表することが可能となる。現在、ベルギー全土でこの監視システムが法律を根拠に導入されている。ちなみに、日本では焼却炉メーカーが自治体に最新鋭の焼却炉売込みで、著しく低い排ガス濃度をカタログに示しており、自治体はこの値を鵜呑みにして住民に説明し、議会の承認を得ている。しかし、実際に全国各地で稼動している焼却炉排ガスが基準を常時達成しているか、現状ではまったく検証されず住民の不安は払拭されない。
■高まる第三者機関による化学物質分析ニーズ ダイオキシン法の整備により、測定分析分野のビジネスも脚光を浴びている。有害化学物質とりわけダイオキシン分析業務については、国際認証ISO/IEC Guide 17025がある。先進諸国ではダイオキシン分析を業とするには、この国際認証の取得が不可欠な存在となっている。しかし、日本では150社ほどあるダイオキシン分析機関でこの認証を持っているのは、つい最近まで1、2社、現在でも10社に満たない。筆者らはダイオキシン分析ニーズに一早く対応するため、カナダ大使館の仲介のもとカナダ第2の規模と実績を持つ分析機関と技術業務提携を結び日本国内、とくに住民団体、民間企業、大学など、主に非行政分野の分析ニーズに対応し社会的要請に応え社会的な役割を果たしてきた。分析依頼者と分析機関の間にあって両者をつなぎ、評価解析を行うことが主たる役割である。 残念ながら、わが国では特定業種を保護するために、日本特有の計量証明事業などの資格制度、指名競争などの業務発注s制度、また官僚の裁量による非関税障壁的な通知が数多くつくられている。これは小泉首相による構造改革下でも例外ではない。測定分析業務分野でも市民ニーズに応え、循環型社会を支えるビジネスが育たなければならないだろう。 環境総合研究所とMaxxam社は技術、業務提携を結んでいる。 ●最後に 循環型社会の実現のためには、ごみをどんな技術・設備で焼却するかではなく、いかにごみの量を減らすことができるか、リサイクルを推進でるかかなど、まさに智恵と仕組みこそが大切であることを知らなければならない。拡大生産者責任や排出者責任の明確化、地域のごみの組成や特性に応じた地縁技術・代替技術の開発、市民参加による政策決定プロセスの導入などこそ、循環型社会に向けた基盤整備そのものである。循環型社会に向けて大切なことは、いかに「脱焼却炉・脱埋め立て」を実現するかでありそのための社会システムこそ構築すべきであり、決してさらなる焼却炉の建設や処分場の建設ではない。 古くなった焼却炉の建て替えや新規立地に国庫補助をするのではなく、地域で市民が責任をもって廃棄物問題を議論し、ごみゼロに向けた有効な仕組みを構築するため、またそれを支える本来の環境ビジネスへの支援にこそ資金を投入すべきである。廃棄物処理・処分に関わる施設はいわゆる迷惑施設として各地で紛争も激化し、コミュニティの破壊も生じている。廃棄物対策の軌道を修正することにより、社会を構成する各セクターの本来のパートナーシップが構築されるはずである。 <参考文献> 1.Dioxin and Furan Inventories, National and Regional Emission of PCDD/PCDF, UNEP, May 1999. 2.ダイオキシン対策等に伴う一般廃棄物焼却施設の建設費用 日本国内における全容と推移の把握調査報告書、2001年8月、グリーンピースジャパン 3. 廃棄物・焼却炉問題を考える、ポール・コネット講演録、2001.10.10,グリーンピースジャパン 4.ゴミ処理溶融技術、石川禎昭編著、日報 5.Dioxin Bulletin and Review No.13-2, No.15、1999年度および2000年松葉ダイオキシン分析研究報告、環境総合研究所 6..ダイオキシン類の排出量の目録(排出インベントリー)、平成13年12月、環境省 7.AMESA, becker messtechinik, Germany |
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