2001年10月18日読売新聞夕刊エコロジー面

クロマツでダイオキシン測定

 全国一万人が採取に参加/ 焼却施設や地形との関係を解析
 環境学習にも一役買う 環境総合研究所

 身近にあるクロマツの針葉を使って、大気中のダイオキシン濃度を測定する市民の取り組みが全国で広がっている。国や自治体などの観測制度に限界があるため、それを補う試みだ。ダイオキシンの大半は焼却に伴って発生するが、市民一人ひとりが観測に携わることで、ゴミを出さない生活を心がけるきっかけにもなっている。(石黒 穣)


 東京都品川区にある環境シンクタンク、環境総合研究所(青山貞一所長)には、今年も仙台、福岡など全国各地の環境団体(NGO)や生協から、クロマツの針葉が届き始めた。各組織の人たちが、住宅の庭、公園、山などに生えているクロマツから一掴みずつ採取した。
 一地区ごとに、二、三十本の木から集められた針葉は、百グラム入りの袋詰めにして、同研究所が提携しているカナダの化学分析会社に送られ、ダイオキシン濃度を精密に測定する。針葉はダイオキシンを溶かしやすい樹脂を多く含むため、その濃度を調べれば、採取地区での大気中のダイオキシン濃度が判明する。

 同研究所は1999年にこの事業に着手。全国の濃度データを地図に記載し、焼却施設や地形、天候、風向との因果関係を解析してきた。昨年の観測では大気中のダイオキシン濃度が環境基準をわずかに超えた地点もいくつか見られた。副所長の池田こみちさんは「実際に高いダイオキシン濃度が現れた地域には警鐘を鳴らし、焼却炉問題を考える手がかりにしてもらっている。」と話す。
 三年目の今年は全国で一万人が北海道から九州まで百地区でクロマツの葉を集める。分析実費は一地区あたり14万円。これは各組織に負担してもらう。

 原理は、摂南大学薬学部の宮田秀明教授等の研究に基づいている。芽吹いて4ヶ月以上経たクロマツの針葉に蓄積したダイオキシン濃度は、大気の平均的な濃度をほぼ正確にあらわす。この原理を応用すると、針葉を採取した地域のダイオキシン濃度は、クロマツの針葉中の濃度から算出できる。
 大気中のダイオキシン濃度は天候や風向、発生源となる焼却場の稼動状況などに左右されるため、日ごとの差はもちろん、時刻によっても大きく変動する。一方、呼吸と光合成に伴って針葉に蓄積されるダイオキシン濃度を安定的に表示でき、数ヶ月分の平均値に呼応するという。

 これまでは、各地のNGOや生活クラブ生協などが中心となって、市民観測活動を続けてきたが、福岡県宗像市では今年から小学校にクロマツを植え、環境学習の一環として針葉採取が行われることになった。また、九州のいくつかの市町でも、行政の事業としてクロマツを使ったダイオキシン観測に乗り出す動きが出ている。
 九月に韓国慶州で開かれた国際ダイオキシン会議で、青山所長らはこの取り組みを発表、各国の参加者の高い関心を呼んだ。環境省も「ゴミを減らす生活を促すなど市民の意識喚起に役立っている」(環境管理局)と評価している。

ダイオキシン測定
 国や自治体では、ポンプで大気を吸い込んで、フィルターにダイオキシンを吸着させる装置で測定している。しかし、観測は原則として年4回、一日ずつ。クロマツ観測のように平均的な数値を反映する保証はないのが実情だ。
 国の環境基準では、大気中ダイオキシンの変換平均濃度を大気1立方メートル当り0.6ピコグラム(1ピコグラムは一兆分の1グラム)以下と定めている。1999年の一斉調査では、全国463地点でのダイオキシンの平均濃度は0.18ピコグラム。環境基準を超えた地点は全体の1.5%(7地点)だった。
写真:全国から届いたクロマツの針葉を調べる環境総合研究所の池田こみち副所長

注)記事中、国や自治体の大気中ダイオキシンの測定は「年4回、一週間ずつ」となっていますが、この部分は間違いですので、「年4回、一日ずつ」に訂正してあります。